筋電義手とは|仕組み・値段・デメリットと、令和3年度に変わった制度

筋電義手は、腕の筋肉が出すごく微弱な電気(表面筋電位)を読み取って動く電動義手です。国立障害者リハビリテーションセンターによると、小児筋電義手は一式150万円程度になります。令和3年度からは電動式が補装具費支給制度の基準内で扱われるようになり、支給が認められた場合の自己負担は原則1割です。さらに障害児については、2024年4月に所得制限が撤廃されました。
この記事では、義手4種類の違い、筋電義手の仕組みと値段、公的制度の使い方、正直なデメリット、そしてAIや3Dプリンタで何が変わりつつあるのかまでを整理します。
義手は4種類ある
「義手」とひとことで言いますが、国立障害者リハビリテーションセンターの分類では4種類に分かれます。筋電義手の話をする前に、ここを押さえておくと全体像がつかみやすくなります。
| 種類 | 動力 | 目的 | 見た目 |
|---|---|---|---|
| 装飾用義手 | なし | 外観を整える | 手の形 |
| 能動義手 | 自分の体(肩の動き) | 物をつかむ・離す | フックまたは手の形 |
| 作業用義手 | なし(手先具を交換) | 特定の作業に特化 | 作業に合わせた形 |
| 電動義手 (筋電義手を含む) | バッテリー+モーター | 機能の再現 | 手の形 |
装飾用義手 見た目を整えるための義手
装飾用義手は、外観を整えることを目的とした義手です。手の形をしていて、動く機能はありません。
「動かないなら意味がないのでは」と思われるかもしれませんが、そうではありません。軽くて、手入れが簡単で、駆動部や電子部品がないぶん電動義手より故障のリスクが小さいという大きな利点があります。物を押さえる、支える、バランスをとるといった使い方もできます。
人前に出る仕事をしている方、冠婚葬祭の場面、写真に写るとき。「機能」ではなく「その場にいることの負担を減らす」ための道具として選ばれます。実際、義手を使っている方のなかで、装飾用義手の利用者はけっして少数派ではありません。
能動義手 自分の体の動きで操作する
能動義手は、肩の動きを利用して手先を動かすしくみです。反対側の肩にかけたハーネスとケーブルがつながっていて、肩を動かすとケーブルが引かれ、手先具が開くという構造になっています。
電気を使わないので、バッテリー切れも故障も少なく、水濡れにも比較的強い。価格も筋電義手よりずっと抑えられます。
そして後で詳しく触れますが、筋電義手を使いこなすための練習台として、能動義手が重要な役割を果たします。 国立障害者リハビリテーションセンターは「能動義手による練習をすることが、筋電電動義手の操作を習得する近道」としています。
作業用義手 目的を絞り込んだ義手
作業用義手は、手の先端が特徴的な形をしているものが多く、作業のしやすさを優先した義手です。フック状のもの、輪になっているもの、工具を取り付けられるものなど、用途に合わせて手先具を交換します。
子どもの場合は、マット運動や鉄棒など運動時に装着することが多いとされます。「日常生活すべてに使う万能の手」ではなく、「この場面のための道具」という割り切りが、かえって使いやすさにつながる例です。
電動義手 バッテリーを積んだ義手
電動義手は、バッテリー等の電源を搭載した義手です。筋電義手は、この電動義手に属します。
つまり「筋電義手」は義手全体の一分類であって、義手のゴールでも最上位でもありません。その人の生活と目的に合うかどうかで選ぶものです。ここを誤解したまま「とにかく筋電義手を」と希望すると、うまくいかないことがあります。
筋電義手の仕組み 筋肉の電気でモーターを動かす
筋電義手がどう動いているのか、順を追って見ていきます。
動作の原理
筋肉を動かそうとすると、脳から神経を通じて命令が届き、筋肉が収縮するときに微弱な電気が発生します。 この電気は皮膚の表面まで届いていて、そこで検出することができます。これを表面筋電位といいます。
「動かそう」と思う → 断端に残った筋肉が収縮する → 皮膚の表面に微弱な電位が発生 → ソケット内側の電極が検出 → コントローラーが信号を判定 → 電動ハンドのモーターが動く(開く/閉じる)
ポイントは、筋肉を動かすことが、そのままスイッチになっているということです。レバーやボタンを押すのではなく、「力を入れる」という行為そのものが操作になります。
部品の構成
国立障害者リハビリテーションセンターが2023年に紹介している一般的な小児筋電義手は、ドイツのオットーボック社の部品で構成されています。
| 部品 | 役割 |
|---|---|
| 電動ハンド | 手に相当する部分。モーターで開閉する |
| リストユニット | 手首に相当する部分 |
| 電極 | 皮膚表面の微弱な電位を読み取る |
| コントローラー | 信号を処理してモーターに指示を出す |
| バッテリー | 電源 |
| ソケット | 断端と義手をつなぐ部分。一人ひとり型をとって製作する |
| グローブ | 外観を整えるカバー |
気になる充電方法ですが、携帯電話と同じです。 家庭用コンセントにつないだ専用充電器の先端を電源スイッチにつなぐことで充電されます。特別な設備は必要ありません。
できる動きは「開く」「閉じる」の2つ
最も普及している小児筋電義手ができるのは、手を「開く」「閉じる」という2つの動作です。
「2つしかできないのか」と思われがちですが、国立障害者リハビリテーションセンターは「単純な動きのほうが、子どもにとって学習しやすいというメリットがある」としています。機能が多ければよいわけではない、という点は押さえておきたいところです。
小児用は4サイズ。成長に合わせて替えていく
小児用の電動ハンドには4つのサイズがあります。一番小さなハンドは1〜2歳から使い始め、成長に応じてサイズを大きくしていきます。小学校の高学年になるとサイズが合わなくなるため、成人用の電動ハンドへ移行します。
筋電義手の値段と、使える公的制度
ここが最も知りたい方が多い部分だと思います。そして、ここ数年で制度が大きく変わったところでもあります。
価格は一式150万円程度
国立障害者リハビリテーションセンターが2023年に公表した解説によれば、小児筋電義手一式の価格は150万円程度です。成人用や多機能なモデルでは、さらに高額になります。なお価格は製品や構成によって異なり、時期によっても変動しますので、あくまで目安としてお考えください。
しかも、一度つくれば一生使えるものではありません。 断端とソケットの適合は体の変化で崩れますし、電子機器なので故障もします。とくに小児は身体が著しく成長する時期なので、短期間で不適合を起こしやすく、頻繁な修理や作り替えが必要になります。
つまり、150万円は「1回払えば終わり」の金額ではないということです。だからこそ、制度の利用が欠かせません。
令和3年度に、扱いが大きく変わった
ここは古い情報が残っているサイトが多いので、注意してください。
令和3年度より、障害者総合支援法の「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」の殻構造義手の型式に「電動式」が追加されました。
これまで筋電義手をはじめとする電動義手は特例補装具の扱いでしたが、これにより基準内の補装具として扱われることになりました。
「特例補装具」とは、告示で定められた種目には当てはまるものの、名称・型式・基本構造などの基準には当てはまらないもののことです。特例として扱われるぶん、支給までのハードルが高く、自治体によって判断にばらつきが出やすいという問題がありました。
それが令和3年度から、正規の基準内の補装具になったということです。「筋電義手は特例補装具です」と書いてある記事を見かけたら、それは令和3年度より前の情報です。
自己負担は原則1割、上限額は所得区分で決まる
補装具費支給制度で支給が認められた場合、利用者の負担額は原則1割です。ただし世帯の所得区分に応じて、月額の負担上限が決まっています。
| 区分 | 世帯の状況 | 負担上限月額 |
|---|---|---|
| 生活保護 | 生活保護世帯 | 0円 |
| 低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 一般 | 市町村民税課税世帯 | 37,200円 |
ただし、ここは「150万円がどんな場合でも37,200円になる」という意味ではありません。 補装具費は厚生労働大臣が定める基準額をもとに算定されます。基準額の範囲内で支給決定された場合に、上の上限額までの負担で済むということです。
障害児は、2024年4月に所得制限が撤廃された
ここも、古い情報が残っている部分です。
【従前】 障害児本人またはその保護者等の世帯員のいずれかが一定所得以上(市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上)の場合は支給対象外となり、全額自己負担
【令和6年4月1日以降】 一定所得以上の場合も含め、すべての障害児について補装具費の支給対象となり、利用者負担は原則1割
こども家庭庁の資料では、この変更を「年収約1,200万円以上の障害児の世帯を支給対象とする」と説明しています(父母子1人のケース)。
ただし、これは「申請すれば必ず筋電義手が支給される」という意味ではありません。 変わったのは所得を理由に対象外とされなくなったという点です。個々の補装具については、これまでどおり必要性の判定と支給決定の手続きが必要になります。
一方、18歳以上の障害者については、所得制限が残っています。 本人または配偶者のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合、支給対象外となります。
「所得制限があるから無理」と言われた経験があっても、お子さんの場合は2024年4月から状況が変わっています。 実際の支給要件や負担額は、お住まいの市町村にご確認ください。
申請の流れは、成人と子どもで異なる
ここも意外と知られていない部分です。手続きのルートが2つあります。
| 身体障害者(18歳以上) | 身体障害児 | |
|---|---|---|
| 義肢の新規購入 | 身体障害者更生相談所に来所して判定(巡回相談等を含む) | 医師が作成した補装具費支給意見書により市町村が決定 |
| 意見書を書く医師 | — | 指定自立支援医療機関または保健所の医師 |
| 更生相談所の関与 | 判定を行う | 構造・機能等で技術的助言が必要な場合に助言 |
| 意見書の省略 | 身体障害者手帳で必要性が判断できる場合は省略可 | 同左 |
つまり、お子さんの場合は原則として更生相談所に出向く必要がなく、医師の意見書を添えて市町村に申請する形になります。厚生労働省の資料でも、この2つのルートが明確に分けられています。
なお成人の義肢の新規申請について、厚生労働省は「更生相談所は、新規申請者に係る判定を行うときは、できる限り切断その他の医療措置を行った医師と緊密な連絡を取り判定に慎重を期すること」としています。
いずれの場合も、流れの起点はお住まいの市町村への申請です。
下肢装具などを含めた補装具制度全体の手順は、こちらで整理しています。
労災の場合は、また別のルート
仕事中の事故などによる上肢切断では、一定の要件を満たす場合、労災保険の社会復帰促進等事業による義肢等補装具費支給の対象となります。じつは日本で筋電義手が最初に法制度に組み込まれたのは、この労災でした。
| 年度 | 内容 |
|---|---|
| 昭和54年度 | 労災保険法で、両側上肢切断者に63万円以下の筋電義手の適応が認められる |
| 平成25年度 | 33年後、片側上肢切断者にも対象が拡大 |
| 令和3年度 | 障害者総合支援法で、特例補装具から基準内の補装具へ |
両側から片側への拡大に33年かかっているという事実は、この分野がどれだけゆっくり動いてきたかを表しています。
片側切断で労災の支給を受けるには、次の要件を満たす必要があります(平成25年5月16日 基発0516第2号)。
指定医療機関で装着訓練・試用装着期間の指導・医師の適合判定を受けたうえで、支給の承認を受けることになります。症状固定前に相談しておくことが重要で、国立障害者リハビリテーションセンターも「労災保険の適用となる新規切断者で練習を希望する方は、症状固定をする前にご相談ください」と案内しています。
筋電義手のデメリットと限界
筋電義手は、見た目だけの義手と比較すると、実用性が大きく向上するため、メリットばかりだと思われがちです。筋電義手は万能ではありません。
① 装着すれば使えるわけではない
筋電義手は、着用した瞬間に自由にすいすい手作業ができるというわけではなく、重さと慣れが最大の壁です。国立障害者リハビリテーションセンターは、はっきりこう書いています。
筋電電動義手は装着すればすぐに自分の手のように使えるものではありません。義手を動かすこととは別に、義手を装着する習慣づけ、一日中義手を装着して義手の重さに耐えられる身体づくりが必要です。
筋肉の動かし方を学習するには、一定期間の訓練が必要です。そして訓練は「義手を動かす練習」だけではありません。一日中つけていられる体をつくるところから始まります。精密に動く機械パーツが入っていて重いだけでなく、切断端から先でその重さと動きを制御するためには、近位・体幹も含めて耐久性が必要になります。
同センターは入院訓練を勧めており、さらに能動義手を練習用として製作し、手先の位置感覚や物をつかむ感覚を養うことを推奨しています。遠回りに見えて、これが近道だということです。
② 人の手のような動きは、まだできない
同センターの義肢装具士は、技術の限界についてこう述べています。「人の手の関節はたくさんあり、巧緻な動きをすることができます。しかし現代の義手の技術では、まだ人の手のような複雑な動きまでは再現できていません」。
メディアで取り上げられる筋電義手は、どうしても最先端のものになります。実際に支給されるものとのあいだには差があると考えておいたほうが、落差でがっかりせずに済みます。
③ そのほかの実務的なデメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 重い | モーターとバッテリーを積むため、装飾用義手や能動義手より重くなります |
| 水濡れに制限がある | 多くの製品は入浴や水仕事に使えません。防水性能は機種により異なるため、取扱説明書での確認が必要です |
| 充電が必要 | バッテリー切れは機能停止を意味します |
| 故障する | 電子部品のため修理が必要になります |
| 汗や皮膚の状態に左右される | 電極は皮膚に接して信号を読みます。発汗や皮膚トラブルで検出が不安定になることがあります |
| 作り替えの頻度 | とくに小児は成長でソケットが合わなくなり、短期間での作り替えが必要です |
こうしたデメリットがあるからこそ、装飾用義手や能動義手と使い分けるという考え方が出てきます。「場面によって持ち替える」のは、けっして妥協ではありません。
いま、何が進化しているのか
ここからが、この分野のおもしろいところです。2022年に、日本の制度に載る形で2つの大きな進展がありました。
① パターン認識で、より直感的な操作を目指す
従来型の筋電義手では、主に2つの電極で筋電信号を取得し、ハンドの開閉を制御します。手首の回旋など複数の機能を組み合わせる場合には、筋電信号の強さや速さ、同時収縮、外部スイッチなどで機能を切り替える方式がとられてきました。
この方式には難しさがありました。力の入れ方で動作を切り替えるため、使いこなすのに訓練を要したのです。筋電位がうまく測れない人も少なくありませんでした。
オットーボックが開発した制御システム「Myo Plus(マイオプラス)」は、ここに別のアプローチを持ち込みました。前腕に装着した8つの筋電位センサーから得たパターンを、AI技術を用いたパターン認識で判定します。
「手を握ろうとしたときの筋電位のパターン」と「義手が握る動き」をひも付けて記憶させる。この方式なら、力の入れ方を覚えるのではなく、いつもどおり動かそうとするだけでよいことになります。従来方式に比べ、複数の操作をより自然な筋収縮パターンと結びつけられる可能性があります。
日経クロステックの記者が実際に体験した記事では、パターンの登録は3分ほどで完了し、その後すぐに手の開閉と手首の回転を実行できたと報告されています。
これは取材時の体験例であって、一般的な習得期間を示したものではありません。
パターン登録が短時間でできることと、筋電義手を日常生活で使いこなせることは別の話です。義手そのものの装着訓練や、日常生活動作の練習が不要になるわけではありません。 国立障害者リハビリテーションセンターも、装着の習慣づけ、重量への適応、操作訓練が必要だとしています。
そのうえで重要なのは、このシステムの部品が2022年4月に厚生労働省の認定を受け、補装具等完成用部品に登録されたことです。認定を受けた部品は公的な支給制度を利用できます。研究段階の話ではなく、制度に載った話だということです。
② 5本の指が別々に動く
オットーボックの「bebionic」は5指駆動が可能な筋電義手で、マイオプラスと組み合わせて使えます。
日本でも開発が進んでいます。電気通信大学は2022年4月、5指独立駆動型の「サイボーグ義手」の開発と実用化に成功し、厚生労働省の補装具等完成用部品として認定されたと発表しました。
ここで注目したいのが、同大学のニュースリリースにあるこの一文です。
これまで電動義手で完成用部品に登録されているものは国外製大手3社のものと2018年に当研究グループが開発したもののみであり、国産義手としては2例目となります。
同大学は背景として、「これまでに国内で公費支給されてきた筋電義手は、海外の製品が主であり」、輸入品であるためにコスト高であるとともに、機能的にも制限が大きく、自由に機能追加などの開発を行うことが困難だった、と説明しています。国産化には、価格と改良の自由度という2つの意味があります。
このシステムの特徴は「個性適応学習機能」です。利用者の筋電パターンと義手の手指運動パターンを後天的に対応づけることで、より直感的に動かせるようにするという考え方です。
実用化の裏づけもあります。3名の被験者と3か所の病院・義肢装具会社の協力を得て3か月間のフィールドテストを行い、主治医の診察として「日常生活において有効に機能し被験者の生活向上に寄与する」との評価を得たうえで、組み立てマニュアルとプロトタイプを厚生労働省に提出し、認定登録に至ったとされています。
なお日経クロステックの取材記事では、この研究グループが筋電位の「周波数分布」の個人差に着目していることが紹介されています。同記事によれば、安静・握る・開く・手首の掌屈・背屈・回内・回外・三指つまみの計8種類の動作に対して85%の識別率を得たとされ、研究者は「動作の種類を4、5つに限定すれば識別率が上がり、実用化に十分なレベルに達する」と述べています。
この数値は同記事で紹介されたもので、大学の公式リリースには記載がありません。
③ 3Dプリンタが部品をつくる時代に
義手づくりに3Dプリンタが入ってきています。前述の電気通信大学の筋電義手についても、日経クロステックの記事では関節以外の外装部品を3DプリンタでABS樹脂によって造形していると紹介されています(同大学の研究でもABS樹脂の3D造形部品の使用が報告されています)。
義手・義足は「一人ひとり形が違うものを、その都度つくる」世界です。金型を起こして量産する製造業とは、そもそも相性が悪い。3Dプリンタは、まさにこの「一点もの」の製作に向いた技術です。
試作の速さ、形状の自由度、軽量化、そしてコスト。これらが同時に改善される可能性があります。
ここは整理して読む必要があります。3Dプリンタで造形された部品そのものが認定を受けたわけではありません。 電気通信大学では、筋電義手の部品製作に3Dプリンタを活用する研究が進んでいます。一方で、同大学が開発した5指筋電義手システムは、2022年に補装具等完成用部品として認定されました。3Dプリンタによる製作技術と、公的制度に載る義手システムの開発が、並行して進んでいるというのが現在地です。
④ 「第3の手」という発想
電気通信大学の研究者は、こう語っています。
「特別な訓練を必要とせず、だれでも簡単に使いこなせるようになれば、義手としてだけではなく、『第3の手』のような、身体拡張への用途拡大も期待できる」
失われた機能を補うための道具から、人間の能力そのものを拡張する道具へ。 義肢の技術が、障害の有無に関係なく使われる未来を見据えた発言です。
この分野が「進化が大きい」と言われるのは、こうした射程の広がりがあるからです。
試してみることはできるのか
150万円の買い物を、使ったことのないまま決めるのは不安だと思います。試用の仕組みがあります。
国立障害者リハビリテーションセンターの試用評価サービス
同センターの義肢装具技術研究部では、筋電電動義手を希望する方に対し、能動義手訓練と並行して試用評価サービスを行っています。
「筋電電動義手がどのようなものか一度試してみたい方、詳しく知りたいという方」が対象です。なお試用評価に使われるのはオットーボック社のMYOBOCKで、ミケランジェロハンドやi-limbハンドは対象外とされています。
支援者向けの研修会もある
小児筋電義手については、2つの研修会が開催されています。
| 研修会 | 対象 | 開始年度/受講者数 |
|---|---|---|
| 小児筋電義手基礎研修会 | 市町村の職員をはじめ幅広い受講生 | 平成30年度〜/230名 |
| 小児筋電義手専門職養成研修会 | 医師、作業療法士、義肢装具士、エンジニア等 | 令和3年度〜/31名 |
ここに挙げた人数は、国リハニュース第372号が公表された2023年春時点のものです。基礎研修230名、専門職養成研修31名、計261名が受講しており、全国の都道府県から集まっているとされています。研修は現在も継続して開催されていますので、最新の開催予定は同センターのサイトでご確認ください。
リハビリ・介護の現場で知っておきたいこと
最後に、支援する側として押さえておきたい点を整理します。
とくに先天性の上肢形成不全のお子さんの場合、大人の外傷性切断とは訓練の性質が大きく異なります。 両手で作業した経験がないため、「取り戻す」のではなく「初めて覚える」訓練になるからです。
この小児の装用訓練は、じつはまだ制度で対応できていない部分で、厚生労働省が「補装具装用訓練等支援事業」として財政支援を行っている段階です。制度の整備が追いついていない領域だということも、知っておいて損はありません。
よくある質問
小児筋電義手一式で150万円程度です。障害者総合支援法の補装具費支給制度で基準内の支給決定を受けた場合、自己負担は原則1割となり、負担上限月額は市町村民税課税世帯で37,200円、非課税世帯および生活保護世帯は0円です。障害児については2024年4月に所得制限が撤廃され、所得を理由に支給対象外となることはなくなりました(ただし個々の補装具については、従来どおり必要性の判定と支給決定が必要です)。18歳以上の方は、本人または配偶者の市町村民税所得割額による所得制限が残っています。仕事中の事故による切断では、一定の要件を満たす場合に労災保険の対象となります。実際の負担額はお住まいの市町村にご確認ください。
今は違います。 令和3年度より、障害者総合支援法の「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」の殻構造義手の型式に「電動式」が追加されました。これにより、それまで特例補装具の扱いだった筋電義手などの電動義手は、基準内の補装具として扱われることになりました。ネット上には令和3年度より前の情報が残っているページも多いので、ご注意ください。
筋肉が収縮するときに発生する微弱な電気(表面筋電位)を利用します。この電気は皮膚の表面で検出でき、ソケット内側に組み込まれた電極が読み取ります。読み取った信号をコントローラーが処理し、電動ハンドのモーターを動かして「開く」「閉じる」を行います。筋肉を動かすことが、そのままスイッチになっていると考えるとわかりやすいです。なお、この筋肉の動かし方を習得するには一定期間の訓練が必要です。
最大のデメリットは訓練が必要なことです。国立障害者リハビリテーションセンターも「装着すればすぐに自分の手のように使えるものではありません」としており、義手を動かす練習とは別に、一日中装着して重さに耐えられる身体づくりが必要だと説明しています。そのほか、重い、水濡れに制限がある、充電が必要、故障する、汗や皮膚の状態で検出が不安定になるといった点があります(防水性能は機種により異なります)。小児では成長によりソケットが短期間で合わなくなり、頻繁な作り替えが必要です。また現在の技術では、人の手のような複雑で巧緻な動きまでは再現できていません。
あります。装飾用義手は外観を整えることを目的とした義手で、軽く、手入れが比較的簡単で、駆動部や電子部品がないぶん電動義手より故障のリスクが小さいという利点があります。物を押さえる、支える、バランスをとるといった使い方もできます。人前に出る場面、冠婚葬祭、写真に写るときなど、「機能」ではなく「その場にいることの負担を減らす」ための道具として選ばれます。筋電義手と装飾用義手を場面で使い分けている方も少なくありません。
実用化に向けた段階に入っています。電気通信大学が開発した5指独立駆動型の筋電義手は、2022年4月に厚生労働省の補装具等完成用部品の認定を得ています。この義手については、日経クロステックの記事で関節以外の外装部品を3DプリンタでABS樹脂により造形していると紹介されており、同大学の研究でもABS樹脂の3D造形部品の使用が報告されています。ただし、3Dプリンタで造形された部品そのものが認定を受けたわけではありません。 3Dプリンタを活用する製作技術の研究と、公的制度に載る義手システムの開発が、並行して進んでいる段階です。義手・義足は一人ひとり形が違う「一点もの」なので、金型を起こす量産とは相性が悪く、3Dプリンタはこの分野と技術的な相性がよいとされています。試作の速さ、形状の自由度、軽量化、コストの面で今後さらに広がる可能性があります。
国立障害者リハビリテーションセンター研究所の義肢装具技術研究部が、筋電義手試用評価サービスを行っています。能動義手訓練と並行して、ソケットの採型・適合作業や、試用評価用の筋電電動義手の貸与を受けられます。「一度試してみたい」「詳しく知りたい」という方が対象です。なお試用評価に使用されるのはオットーボック社のMYOBOCKで、ミケランジェロハンドやi-limbハンドは対象外とされています。
小児用の電動ハンドには4つのサイズがあり、一番小さなハンドは1〜2歳から使います。その後、成長に応じてサイズを大きくしていき、小学校の高学年になるとサイズが合わなくなるため成人用へ移行します。なお、先天性上肢形成不全のお子さんの場合は両手で作業した経験がないため、大人の外傷性切断とは異なる特別な訓練が必要になります。この小児の装用訓練は現在まだ制度で対応できておらず、厚生労働省が「補装具装用訓練等支援事業」として財政支援を行っている段階です。
まとめ
筋電義手は、断端に残った筋肉の微弱な電気を読み取って動く電動義手です。ただし義手の4種類のうちのひとつであって、すべての人にとっての最適解ではありません。装飾用義手には装飾用義手の、能動義手には能動義手の役割があります。
制度の面では、ここ数年で2つの転換点がありました。令和3年度、特例扱いだったものが正規の基準内に入った。 そして2024年4月、障害児の所得制限が撤廃された。 どちらも支給が受けやすくなる方向の変更です。古い情報のまま「筋電義手は特例補装具なので難しい」「所得制限で対象外」と説明されている場面を見かけたら、この2点を確認してみてください。
技術の面では、パターン認識の導入によって「操作を覚える」部分の負担が軽くなりつつあります。 ただし、義手を装着する習慣づけや日常生活動作の練習まで不要になるわけではありません。訓練が消えるのではなく、訓練の中身が変わっていくと捉えるのが実態に近いはずです。
そして3Dプリンタが部品をつくり、国産の5指独立駆動型が制度に載り、研究者は「第3の手」を語っている。義肢装具の世界は、いま変化の速い分野のひとつだと言っていいと思います。
筋電義手の適合や調整を行っているのは義肢装具士です。この職種がどのような働き方をしているのか、年収や「つらい」と言われる理由については、こちらで整理しています。

なお、この記事は一般的な情報の整理です。個別の支給可否や負担額は、お住まいの市町村または労働基準監督署にご確認ください。
参考資料
2024年・2025年・2026年
介護保険・介護報酬改定の情報
令和8年度(2026年)障害福祉サービス等報酬改定の概要と変更点まとめ
2026年(令和8年)介護報酬改定の全体像についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
介護報酬改定2026年(令和8年度)まとめ|いつから・変更点・対象サービスをわかりやすく解説
令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)
介護保険区分支給限度基準額一覧(要支援・要介護)
New! 令和8年(2026年)介護報酬改定
- 令和8年度介護報酬改定 介護職員の給与を最大月1.9万円賃上げの内容
- 令和8年度版「介護職員等処遇改善加算」算定要件・配分ルール・計算方法
- 国保中央会運用「LIFE」2026年5月11日〜7月31日に移行作業しないと加算の継続算定できない
- 介護情報基盤とは?事業所がやるべき準備と期限・助成金・電子証明書【2026年】
New!令和8年(2026年)介護報酬改定介護報酬改定後の介護保険サービスごとの介護報酬・単位数
介護保険の居宅サービス介護給付費単位数(対象:要介護)
- 居宅介護支援費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問介護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問看護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問リハビリテーション費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 通所介護費(デイサービス) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 通所リハビリテーション費(デイケア) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 短期入所生活介護費(ショートステイ) 2026年6月からからの介護報酬・単位数一覧
- 居宅療養管理指導費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 福祉用具貸与費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
地域密着型サービスの単位数改定内容
- 地域密着型通所介護費(小規模デイサービス) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 認知症対応型共同生活介護費(認知症グループホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 小規模多機能型居宅介護費(認知症グループホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
介護予防サービス(対象・要支援)
- 介護予防支援費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防訪問看護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防居宅療養管理指導費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防短期入所生活介護費(要支援のショートステイ) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防訪問リハビリテーション費 2024年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防通所リハビリテーション費 2024年6月からの介護報酬・単位数一覧
介護予防・日常生活支援総合事業費(要支援・事業対象者)の改定内容
施設サービス等介護給付費単位数の改定内容
- 介護福祉施設サービス費(特別養護老人ホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護保健施設サービス費(介護老人保健施設:老健) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護医療院費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 特定施設入居者生活介護費(介護付き有料老人ホームなど) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
2026年(令和8年度)・2024年 介護報酬改定で特徴的な加算・制度
- 介護事業所の「人員基準欠如減算」とは?介護給付費原則3割減算の内容・届出・猶予期間
- 介護施設の協力医療機関とは?【2027年4月に義務化】
- 協力医療機関連携加算とは?単位数・算定要件・厚労省Q&A
- 高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件・対象・単位・厚労省Q&A
- 居宅介護支援の「特定事業所加算」算定要件
- 生産性向上推進体制加算の算定要件
- 見守り機器等のテクノロジーとは?生産性向上推進体制加算
- 【2026年版】科学的介護情報システム「LIFE」とは データ提出・利用方法を解説!
- 科学的介護情報システム(LIFE)2024年-2026年厚生労働省Q&Aまとめ
- 個別機能訓練加算(Ⅰ)サービス種別ごとの単位数・算定要件【2024/2025年】
- 認知症チームケア推進加算の算定要件 必要資格や研修を解説!
- 2024年(令和6年)6月からの「介護職員処遇改善加算」
- 2024年~ 居宅ケアマネのオンラインモニタリングの条件・要件
- 認知症介護基礎研修 eラーニングの内容・2024年義務化の対象者などを解説!
- 2025年から経営情報報告義務「介護事業財務情報データベースシステム」とは?
利用者負担軽減の仕組みの改定
補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。
令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し
令和7年8月1日施行 多床室の室料負担
令和8年8月1日施行 食費基準費用額の1,445円→1,545円、低所得者の食費負担限度額の段階別変更



