体位変換で血圧が変動するのはなぜ|起立性低血圧と長期臥床、離床の進め方

体位変換で血圧が変動するのはなぜ|起立性低血圧と長期臥床、離床の進め方
広告

寝ている人を起こしたら、ふらついた。ベッドから立ち上がった直後に、目の前が暗くなった。臨床でも介護現場でも、日常的に起きることです。この記事では、体位変換でなぜ血圧が変動するのかという生理学的なしくみから、起立性低血圧の診断基準、長期臥床でなぜ起こりやすくなるのか、そして実際にどう離床を進め、どの時点で中止するかまで整理します。

この記事の要点
  • 立位になると500〜800mLの血液が下半身に移動し、静脈還流量が減って血圧が下がります
  • 健常であれば圧受容器反射が数秒で働き、血圧は戻ります。この反射が鈍ると起立性低血圧になります
  • 起立性低血圧の基準は起立後3分以内に収縮期20mmHg以上、または拡張期10mmHg以上の低下
  • 立位でなくても下がります。8,862人の研究では座位1分後から低下し、5分後まで下がり続けていました
  • もともとの臥位血圧が高い人ほど、下がり幅が大きいという関係があります。「血圧が高いから大丈夫」は逆です
  • 安静臥床が続くと2週間で血漿量が8〜12%減少します。動かさないこと自体がリスクになります

なぜ体位を変えると血圧が変わるのか

臥位と立位での血液分布の違い。立位では500〜800mLの血液が下半身に移動する

血圧が変動する理由は、突き詰めると重力と、それに対する体の反応の2つです。順番に見ていきます。

立つと、血液が下半身に移動する

臥位では、心臓と頭部と下肢がほぼ同じ高さにあります。血液は全身にほぼ均等に分布している状態です。

ところが立位になると、心臓より下にある血管には重力による静水圧が加わります。静脈は動脈と比べて壁が薄く伸展しやすいため、この圧によって拡張し、血液をため込みます。その結果、約500〜800mLの血液が下半身、とくに下肢と腹部の静脈に移動します。

心臓に戻ってくる血液量(静脈還流量)が減れば、1回拍出量が減ります。1回拍出量が減れば、心拍出量が減ります。心拍出量が減れば、血圧が下がります。

血圧が下がるまでの流れ

起立 → 重力で下半身の静脈が拡張 → 血液が下半身にたまる(500〜800mL) → 静脈還流量が減る → 1回拍出量が減る → 心拍出量が減る → 血圧が下がる

ここまでは、誰の体でも起きます。健康な若者でも起きています。問題は、この後に体がどう立て直すかです。

圧受容器反射が、数秒で血圧を戻す

起立により血圧が低下し、圧受容器反射によって回復するまでの流れ

血圧の低下は、脳への血流低下に直結します。生体にとっては危険な状態なので、これを防ぐしくみが備わっています。圧受容器反射(体位血圧反射、動脈圧受容器反射)です。

頸動脈洞と大動脈弓の圧受容器から延髄を経て交感神経へ至る反射経路

頸動脈洞大動脈弓には、血管壁の伸展を感知する圧受容器があります。血圧が下がって血管壁の伸展が減ると、そこからの求心性インパルスが減少し、その情報が舌咽神経と迷走神経を通じて延髄の心血管中枢に届きます。

延髄は、これを受けて交感神経を活性化させ、副交感神経を抑制します。結果として次のことが起こります。

  • 心拍数が上がる(洞房結節への交感神経刺激)
  • 心収縮力が上がる
  • 末梢血管が収縮する(とくに下肢と内臓の血管)
  • 静脈が収縮し、ためこんだ血液を心臓に押し戻す

この反応は数秒以内に始まります。だから、健康な人が立ち上がったとき、血圧は「一度下がって、すぐ戻る」という動き方をします。自覚症状が出ないのは、下がっている時間が短いからです。

これに加えて、下肢の筋ポンプも重要です。立位で下腿三頭筋などが収縮すると静脈が圧迫され、静脈弁の働きによって血液が心臓方向へ押し戻されます。「立ったまま動かずにいると気分が悪くなる」のは、この筋ポンプが働かないためです。

血圧の調節機構については、こちらでさらに詳しく解説しています。

広告

姿勢によって、血圧はどう違うのか

安定した状態で比べると、姿勢による血圧の傾向は次のようになります。

姿勢収縮期血圧拡張期血圧心拍数
臥位高い低い少ない
座位中間中間中間
立位低い高い多い
姿勢による収縮期血圧と拡張期血圧の変化の傾向

収縮期血圧と拡張期血圧で、逆の順番になるところが大事です。理由は次のとおりです。

収縮期血圧は、臥位が高く立位が低い

収縮期血圧は、おおまかに言えば心臓が1回にどれだけ血液を送り出せたかを反映します。立位では下半身に血液がたまって静脈還流量が減るため、1回拍出量が減り、収縮期血圧はやや低くなります。

逆に臥位では、静脈還流量が多く1回拍出量が保たれるので、収縮期血圧はやや高くなります。

拡張期血圧は、立位が高く臥位が低い

拡張期血圧は、末梢血管の抵抗を強く反映します。立位では圧受容器反射によって末梢血管が収縮しているため、拡張期血圧はやや高くなります。

臥位では、そもそも血管を収縮させる必要が少なく、また副交感神経が優位になりやすいため血管は弛緩傾向にあります。その結果、拡張期血圧は低くなります。

バイタル記録で押さえておくこと

姿勢が違えば値が変わります。ということは、昨日は座位、今日は臥位で測った値を並べて比べても、変化があったのかどうか判断できません。日々の経過を追うバイタルチェックでは、同じ姿勢・同じ腕・同じ時間帯で測ることが基本になります。姿勢を変えて測った場合は、記録に姿勢を書き添えてください。

腹臥位でも収縮期血圧は下がる

意外に知られていないのが腹臥位です。呼吸ケアや褥瘡予防、リハビリテーションで腹臥位をとる場面がありますが、腹臥位でも収縮期血圧は低下します

健常成人54名(平均年齢22.0±2.7歳)を対象に、背臥位・腹臥位・立位の血圧を比較した研究があります。結果は次のとおりでした。

  • 腹臥位は、背臥位や立位に比べて収縮期血圧が有意に低下した
  • 腹臥位は、背臥位に比べて脈拍数が有意に増加した
  • 立位は、背臥位や腹臥位に比べて拡張期血圧が有意に上昇し、脈拍数も増加した

研究者は、背臥位から腹臥位への変換は、立位への変換に比べて拡張期血圧や脈拍の変動が少ない一方で、収縮期血圧が低下する可能性があると結論づけています。腹部が圧迫されて静脈還流が妨げられることや、胸郭の動きが制限されることが関係していると考えられます。

これは健常な若年者での結果です。高齢者や循環動態が不安定な方で腹臥位をとる場合は、より慎重な観察が必要だということになります。「寝ているだけだから安全」ではありません。

臥位・座位それぞれの種類と特徴は、こちらで図解しています。

広告

起立性低血圧とは

圧受容器反射がうまく働かず、血圧が下がったまま戻らない状態が起立性低血圧です。

診断基準

起立性低血圧の定義

臥位から立位への体位変換により、起立後3分以内

  • 収縮期血圧が20mmHg以上低下する、または
  • 拡張期血圧が10mmHg以上低下する

この「20/10」という数字を覚えておけば、現場で判断できます。

検査として行う起立試験では、5分以上安静臥床した後に起立し、上記の低下のほか、収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下した場合や、低血圧による自覚症状を認めた場合も診断の根拠とされます。

症状 めまい・ふらつきだけではない

典型的なのは、立ち上がった直後の立ちくらみ、めまい、ふらつき、目の前が暗くなる、失神です。脳血流の低下による症状なので、座る・横になると軽快するのが特徴です。

ただし現場で難しいのは、高齢者や認知症のある方は「めまいがする」と言わないことが多いという点です。次のような訴えや様子も、起立性低血圧のサインである可能性があります。

見えかた実際に起きている可能性
「気持ちが悪い」「なんとなく変」脳血流低下による非特異的な不快感
「疲れた」「もう座りたい」と急に言う立位を維持できなくなっている
肩や首のあたりを触る、だるそうにするいわゆるcoat hanger痛(後頸部・肩の筋虚血による痛み)
返事が遅くなる、ぼんやりする脳血流低下による認知機能の一時的低下
立位で急に膝折れする失神の前段階
顔色が悪い、冷汗、あくび自律神経反応

「立ち上がってすぐ」というタイミングが最大の手がかりです。訴えの内容がはっきりしなくても、体位変換の直後に様子が変わったなら、まず血圧を測ってください。

転倒だけの問題ではない

起立性低血圧が問題になるのは、転倒・骨折の原因になるからだけではありません。複数の大規模疫学研究で、起立性低血圧が脳梗塞の発症や死亡率の上昇と関連することが報告されています。

つまり、体位変換で血圧が大きく下がるという所見は、その場の安全の問題であると同時に、循環調節機能の状態を示すサインでもあります。「ふらついたけど座ったら治ったから大丈夫」で終わらせず、記録して共有する価値があります。

広告

高齢者と高血圧の人ほど、大きく下がる

ここが、現場でいちばん誤解されているところかもしれません。

健診受診者8,862人(男性5,325人、女性3,537人)を対象に、仰臥位から座位への体位変換に伴う血圧変化を調べた研究があります。安静仰臥位で血圧を測定し、座位に変えて1分後に再測定したものです。

座位でも下がる。しかも5分後まで下がり続ける

まず押さえたいのは、立位でなくても血圧は下がるという点です。この研究では、血圧は体位変換1分後から低下し、5分後まで低下していました

「端座位にしただけだから」「ギャッジアップしただけだから」と油断できないということです。そして、変換直後だけ測って問題なければ終わり、という確認のしかたでは足りないことも意味します。

年齢が高いほど、臥位血圧が高いほど、下がり幅が大きい

この研究では、1分後の血圧変化量と、年齢および臥位血圧との間に負の相関が認められました。

要因男性女性
年齢との相関r=−0.201r=−0.180
臥位血圧との相関r=−0.397r=−0.361

いずれもp<0.001です。注目してほしいのは、年齢よりも、もともとの臥位血圧との相関のほうが強いことです。

さらに、収縮期血圧が10mmHg以上低下した群では、そうでない群に比べて高血圧を有する人の割合が多いという結果も示されています(男性は40歳以上、女性は40〜69歳)。

現場での意味 ここが逆転しやすい

「臥位で160mmHgもあるから、起こしても大丈夫だろう」と考えがちです。しかしこの研究が示すのは逆で、臥位血圧が高い人ほど、体位変換での低下幅が大きくなりやすいということです。

加齢や高血圧によって自律神経系の調節障害が生じていることが、その機序として考えられています。高齢で高血圧の方こそ、離床時にていねいに確認すべき対象だと読み替えてください。

なお、この研究の対象は健診受診者であり、比較的健康な集団です。入院中の患者や施設入所者では、より大きな変動が起きうると考えるのが妥当です。

広告

長期臥床で、なぜ起こりやすくなるのか

「長期臥床の患者を急に起こしてはいけない」というのは、看護でも介護でも最初に教わることです。では、体の中で何が起きているのでしょうか。

① 循環血漿量そのものが減る

臥位では、下半身にたまっていた血液が中心部(胸腔内)に移動します。体はこれを「血液が多すぎる」と判断し、利尿を促して水分を排出します。その結果、循環血漿量そのものが減少していきます。

安静臥床の期間血漿量の減少
2週間8〜12%
2〜4週間15〜20%

もともとの血液量が減っている状態で起き上がるわけですから、下半身に血液がたまったときに心臓へ戻る血液がいっそう足りなくなります。

② 圧受容器反射の感受性が下がる

血圧を立て直すしくみそのものが鈍ります。長期臥床では、血圧低下に対する交感神経活動の応答が障害され、下肢の血管収縮が不十分になります。反射が働かなければ、下がった血圧は下がったままです。

この反射は、日常的に姿勢を変えることで維持されています。使わなければ鈍る、という点では筋力と同じです。

③ 下肢の筋ポンプが働かなくなる

下腿の筋力が低下すれば、静脈を圧迫して血液を押し戻す力も落ちます。廃用による筋萎縮は、循環調節の面でも不利に働くということです。

④ 心機能そのものも低下する

長期臥床では心筋量の減少や1回拍出量の低下も生じます。循環血液量の低下、血管運動調節機能の障害、心機能の低下。この3つが重なって、起立性低血圧やめまい、失神が起こりやすくなります。

だから「安静」が治療にならない場面がある

ふらつくから寝かせておく、という対応は、短期的には安全に見えます。しかし臥床を続けるほど血漿量は減り、反射は鈍り、筋ポンプは落ちます。次に起こしたときには、もっとふらつくようになっているということです。

起立性低血圧への根本的な対応は、安全な範囲で、繰り返し起こすことです。段階を踏んで負荷をかけ続けることでしか、循環調節機能は戻りません。

広告

起立性低血圧を起こしやすい要因

「この人はふらつきやすい」と気づいたときに、背景に何があるかを整理しておくと対応が変わります。

薬剤 いちばん見落とされる要因

薬剤起立性低血圧を起こすしくみ
降圧薬全般血圧そのものを下げる
利尿薬循環血漿量を減らす
SGLT2阻害薬
(ジャディアンス、フォシーガなど)
浸透圧利尿により体液量が減る。糖尿病だけでなく心不全・慢性腎臓病にも処方される
α1遮断薬(前立腺肥大症の薬を含む)末梢血管の収縮を妨げる
硝酸薬静脈を拡張させ、還流量を減らす
抗精神病薬α遮断作用による血管拡張
抗パーキンソン病薬ドパミン作用による血管拡張
三環系抗うつ薬α遮断作用、自律神経への影響

とくに前立腺肥大症でα1遮断薬を服用している男性は、降圧薬を飲んでいなくても起立性低血圧を起こします。「血圧の薬は飲んでいません」で終わらせず、お薬手帳を確認してください。

近年とくに増えているのがSGLT2阻害薬です。尿中に糖を排出させる薬ですが、浸透圧利尿によって体液量が減り、脱水傾向になります。もともと糖尿病の薬でしたが、現在は心不全や慢性腎臓病にも適応が広がっており、糖尿病のない方にも処方されています

「利尿薬」というカテゴリで認識されていないため、お薬手帳を見ても見落とされやすい薬です。高齢者の起立性低血圧の背景として、実際によく遭遇します。開始直後や、夏場・発熱時など脱水が重なる時期はとくに注意してください。

また、薬が変わった直後・増量された直後は要注意です。今まで問題なく離床できていた方が急にふらつくようになったときは、処方変更がなかったかを必ず確認します。

疾患

  • 糖尿病性自律神経障害(罹病期間の長い糖尿病)
  • パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症(自律神経障害を伴う神経変性疾患)
  • 脊髄損傷(とくに高位)
  • 脱水、貧血、消化管出血
  • 心不全、大動脈弁狭窄症、不整脈
  • 副腎不全、甲状腺機能低下症

状況 いつ起こりやすいか

場面理由
食後(とくに2時間以内)消化管に血液が集まり、血圧が下がる(食後低血圧)
入浴後温熱による血管拡張と発汗による脱水
排尿・排便の後いきみ(バルサルバ)と迷走神経反射
起床直後夜間の不感蒸泄と利尿で脱水気味、血圧も低い
飲酒後アルコールによる血管拡張と利尿
発熱時・感染時脱水と血管拡張
暑い環境皮膚血管の拡張と発汗
長時間立ったまま筋ポンプが働かず下肢に血液がたまる

入浴後の脱衣所と、食後のトイレ誘導。この2つは条件が重なりやすく、実際に転倒が多い場面です。デイサービスでも施設でも、時間帯で見直す価値があります。

広告

臨床・介護場面での実践 どう離床を進めるか

ここからが本題です。理屈がわかっても、実際の手順に落とし込めなければ意味がありません。

段階的に上げる

長期臥床の方をいきなり端座位や立位にしてはいけません。ギャッジアップから始めて、段階的に角度と時間を上げていきます。

段階姿勢確認すること
1ヘッドアップ30度血圧、脈拍、表情。問題なければ数分保持
2ヘッドアップ45〜60度同上。ここで下がる人はここで止める
3端座位(足底を床につける)血圧、脈拍、症状、座位保持能力。最も変化が出やすい段階
4立位(支持あり)血圧、脈拍、膝折れの有無、ふらつき
5足踏み筋ポンプが働くので、立位保持より楽なことが多い
6歩行距離と休憩のとり方を決めておく
段階的離床の6ステップ。ヘッドアップ30度から歩行まで

1日ですべてを進める必要はありません。臥床期間が長いほど、段階もゆっくりにします。目安として、数週間の臥床があった方なら、同じ段階を数日続けてから次に進むくらいで構いません。

血圧はいつ測るか

変換直後の1回だけでは足りません。先ほどの研究で見たとおり、血圧は1分後から5分後まで下がり続けることがあるからです。

  • 変換前(臥位で安静にした状態)
  • 変換直後
  • 1分後
  • 3分後(起立性低血圧の判定はここまで)
  • 不安があれば5分後まで

毎回これをやるのは現実的ではありません。初回の離床時、臥床期間が長かったとき、処方が変わったとき、前回ふらつきがあったときに限定して、きちんと測ります。

血圧計を待っている間に症状が出ることもあります。数値より先に、表情・顔色・返答の速さを見てください。

中止して、元に戻す基準

あらかじめ決めておかないと、現場で判断できません。一般的な目安は次のとおりです。実際の基準は必ず所属機関の取り決めや医師の指示に従ってください。

項目中止・中断の目安
収縮期血圧変換前より20mmHg以上低下、または90mmHg未満
脈拍安静時より30%以上増加、または120回/分を超える
自覚症状めまい、ふらつき、気分不快、悪心、冷汗、胸痛、動悸
他覚所見顔面蒼白、返答の遅れ、意識レベルの低下、膝折れ
呼吸呼吸困難、SpO₂が90%未満

中止といっても、いきなり完全に寝かせる必要はありません。ひとつ前の段階に戻して様子を見るのが基本です。端座位でふらついたなら、ヘッドアップ60度に戻す。そこで落ち着くなら、その日はそこまでにします。

起こす前にできること

方法ねらい
足関節の底背屈運動を10〜20回筋ポンプを先に働かせて静脈還流を増やす
臀部や大腿の等尺性収縮同上
弾性ストッキング・腹帯
足を下ろす前に装着する
下肢・腹部への血液貯留を物理的に防ぐ。臥床したまま、または下肢を挙上した状態で履かせる
水分摂取循環血漿量を増やす。脱水があれば必須
食直後・入浴直後を避ける血管拡張が重なる時間帯をずらす
声をかけてから動かす心構えができ、急な変換を避けられる

足関節の運動は、実施のハードルが低いわりに効果があります。 ベッド上で「足首を上下に動かしてください」と声をかけてから起こす。これだけでも違います。自分で動かせない方なら、他動的に動かしてから起こします。

弾性ストッキングは「足を下ろす前」に履かせる

意外と間違えやすいのが装着のタイミングです。端座位になってから、あるいは車椅子に移乗してから履かせようとする場面をよく見かけます。

しかし、足を下ろした時点で、すでに下肢に血液がたまり始めています。その状態から履かせても、たまった血液を押し戻す効果は薄くなります。

正しくは臥床したまま、または下肢を挙上した状態で装着します。血液が下肢に貯留していない状態で圧をかけておくことで、起き上がったあとの貯留そのものを防げます。朝の離床前に、臥位のまま履かせておくのが基本です。腹帯も同じ考え方です。

ふらついたときの対処

症状が出たら、まず座らせるか寝かせる。これが最優先です。立たせたまま様子を見てはいけません。

  • その場で座らせる、または臥位にする
  • 下肢を挙上する(静脈還流を増やす)
  • 衣類の締めつけを緩める
  • 意識・呼吸・脈拍を確認する
  • 血圧を測る
  • 回復しない、意識障害がある、けがをした場合は応援と受診

本人が「ふらつきそう」と前兆を感じ取れる場合は、次のような対処を教えておくと役立ちます。いずれも下半身にたまった血液を心臓に戻すための動作です。

  • 両足を交差させて、太ももに力を入れる
  • しゃがむ、前かがみになる
  • その場で足踏みする
  • 両手を組んで、左右に引っ張り合う

急な血圧低下(ショック)への対応は、こちらで整理しています。

広告

めまい・ふらつきを、起立性低血圧と決めつけない

体位変換でふらついたからといって、すべてが起立性低血圧とは限りません。見分けるポイントを整理します。

起きるタイミングめまいの性質その他の特徴
起立性低血圧起き上がった直後目の前が暗くなる、フワッとする(非回転性)座る・寝ると軽快。血圧が下がっている
良性発作性頭位めまい症(BPPV)寝返り、起き上がり、上を見たときなど頭の位置を変えたときグルグル回る(回転性)数十秒でおさまる。眼振がある。血圧は変わらない
脳血管障害突然。姿勢と無関係のこともさまざま構音障害、麻痺、複視、しびれ、強い頭痛を伴う
貧血・脱水姿勢に関係なく持続ふらつき、だるさ労作時の息切れ、動悸、顔色不良
低血糖食事が遅れたとき、血糖降下薬使用中ふらつき、脱力冷汗、手指振戦、意識障害
すぐに受診・報告が必要なサイン
  • ろれつが回らない、言葉が出ない
  • 片側の手足に力が入らない、しびれる
  • ものが二重に見える
  • 今までに経験したことのない強い頭痛
  • 座らせても、寝かせても症状が改善しない
  • 意識がはっきりしない
  • 胸痛、強い動悸を伴う

「座らせたら治る」かどうかが、ひとつの分かれ目です。改善しないなら、起立性低血圧以外を考えてください。

バイタルサインの基準値と異常時の対応は、こちらにまとめています。

広告

記録の書き方 伝わる記録と、伝わらない記録

「ふらつきあり」とだけ書かれた記録は、読んだ人が何も判断できません。次の要素があると、他職種が使える情報になります。

要素記録例
どの段階で「端座位に移行した際」
どのくらいの時間で「約30秒後」
数値「臥位138/78、端座位1分後108/70」
症状「めまいの訴えあり、顔色不良」
対応「臥位に戻し、下肢挙上。3分後に122/74まで回復」
背景「朝食直後。昨日より降圧薬が増量」

とくに数値の前後比較タイミングが入っていると、医師への報告がそのまま成立します。「20mmHg以上下がっている」という事実は、処方の見直しを検討する材料になります。

広告

よくある質問

Q
血圧はどの姿勢で測るのが正しいのですか。
A

基準は座位で、上腕での測定です。ただし臥床している方では臥位で測ることも一般的で、それ自体が誤りではありません。大切なのは、日々の経過を比べるときに同じ条件で測ることと、姿勢を記録に残すことです。姿勢が違えば値が変わるので、条件をそろえない限り「上がった・下がった」の判断ができません。

Q
血圧が下がっているのに、本人は何ともないと言います。離床を進めてよいですか。
A

症状がなくても、数値が基準を超えて下がっているなら慎重に進めてください。とくに高齢者では自覚症状が乏しいことがあり、症状が出たときにはすでに膝折れや失神が起きていることもあります。また、症状がない起立性低血圧でも転倒や脳血管障害のリスクとの関連が報告されています。段階を戻す、時間を短くする、頻度を増やすといった調整をしたうえで、医師に報告しておくのが安全です。

Q
ふらつくので離床を控えていますが、それでよいでしょうか。
A

控え続けると悪化します。臥床が続くほど循環血漿量は減り、圧受容器反射は鈍り、下肢の筋ポンプも落ちるためです。次に起こしたときには、さらにふらつきやすくなっています。 正しい対応は「起こさないこと」ではなく、段階を細かくして、安全な範囲で繰り返し起こすことです。ヘッドアップ30度で数分から始めても構いません。負荷をかけ続けることでしか循環調節機能は戻りません。

Q
臥位で血圧が高い人なら、起こしても大丈夫ですか。
A

むしろ逆です。 8,862人を対象とした研究では、体位変換1分後の血圧変化量と臥位血圧との間に負の相関が認められています(男性r=−0.397、女性r=−0.361)。つまり、もともとの臥位血圧が高い人ほど、体位変換での低下幅が大きくなりやすいということです。加齢や高血圧による自律神経系の調節障害が背景にあると考えられています。「高いから安心」ではなく、高齢で高血圧の方こそ確認が必要です。

Q
体位変換の直後に測って問題なければ、それで確認は十分ですか。
A

不十分なことがあります。前述の研究では、血圧は体位変換1分後から低下し、5分後まで低下していました。直後だけの測定では見逃す可能性があります。起立性低血圧の判定は起立後3分以内とされていますので、少なくとも変換前・1分後・3分後の3点で確認するのが確実です。毎回は難しいので、初回離床時、長期臥床後、処方変更後、前回ふらつきがあったときに限定して実施してください。

Q
腹臥位は循環に影響しないと思っていました。
A

影響します。健常成人54名を対象とした研究では、腹臥位は背臥位や立位に比べて収縮期血圧が有意に低下し、背臥位に比べて脈拍数が有意に増加しました。腹部の圧迫による静脈還流の減少や、胸郭の動きの制限が関係すると考えられます。これは健常な若年者での結果ですので、高齢者や循環動態が不安定な方ではより慎重な観察が必要です。

Q
降圧薬を飲んでいない人は、起立性低血圧の心配はいりませんか。
A

いいえ。前立腺肥大症に使われるα1遮断薬は血圧の薬ではありませんが、末梢血管の収縮を妨げるため起立性低血圧を起こします。またSGLT2阻害薬は浸透圧利尿によって体液量を減らすため、脱水傾向から起立性低血圧の原因になります。糖尿病だけでなく心不全や慢性腎臓病にも処方されるようになり、「利尿薬」として認識されていないぶん見落とされやすい薬です。ほかにも抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬、硝酸薬などが原因になります。「血圧の薬は飲んでいません」で終わらせず、お薬手帳の確認をおすすめします。とくに処方が変わった直後・増量された直後は要注意です。

Q
弾性ストッキングは、いつ履かせればよいですか。
A

足を下ろす前、臥床したまま、または下肢を挙上した状態で装着します。 端座位になってから、あるいは車椅子に移乗してから履かせる場面をよく見かけますが、足を下ろした時点ですでに下肢へ血液がたまり始めているため、その状態から履かせても効果が薄れます。血液が貯留していない状態で圧をかけておくことで、起き上がったあとの貯留そのものを防ぐという理屈です。朝の離床前に臥位のまま履かせておくのが基本になります。腹帯も同じ考え方です。

まとめ

体位変換で血圧が変動するのは、重力によって血液が下半身に移動し、静脈還流量が減るからです。健常であれば圧受容器反射が数秒で働いて血圧を戻しますが、この反射が鈍っていると下がったままになります。これが起立性低血圧です。

現場で押さえておきたいのは、次の4点だと思います。

現場で押さえる4点
  • 立位でなくても下がる。座位でも1分後から5分後まで下がり続けることがあります
  • 臥位血圧が高い人ほど下がる。「血圧が高いから大丈夫」は逆です
  • 高齢者は「めまい」と言わない。立ち上がった直後の様子の変化が手がかりです
  • 寝かせ続けると悪化する。段階を細かくして、繰り返し起こすことが対応です

そして、薬剤の確認を忘れないことです。長く問題なく離床できていた方が急にふらつくようになったときは、体の変化よりも先に処方の変更を疑うほうが当たることが多いと感じます。

なお、この記事は一般的な知識の整理です。実際の離床の可否や中止基準は、対象者の状態によって変わります。所属機関の取り決めと医師の指示に従って実施してください。

参考文献

  • 新啓一郎ほか:体位変換に伴う血圧変化に対する加齢および血圧の影響.人間ドック,2013,28(4):608-615.
  • 曽田武史ほか:若年健常成人における姿勢変化による血圧レベルの変動.理学療法科学,2008,23(4):515-519.
  • 江口正信(編著):新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術.サイオ出版,2015.
  • 日本循環器学会ほか:失神の診断・治療ガイドライン.

2024年・2025年・2026年
介護保険・介護報酬改定の情報

令和8年度(2026年)障害福祉サービス等報酬改定の概要と変更点まとめ

2026年(令和8年)介護報酬改定の全体像についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

介護報酬改定2026年(令和8年度)まとめ|いつから・変更点・対象サービスをわかりやすく解説

令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)

介護保険区分支給限度基準額一覧(要支援・要介護)

New! 令和8年(2026年)介護報酬改定

New!令和8年(2026年)介護報酬改定介護報酬改定後の介護保険サービスごとの介護報酬・単位数

 介護保険の居宅サービス介護給付費単位数(対象:要介護)

地域密着型サービスの単位数改定内容

介護予防サービス(対象・要支援)

介護予防・日常生活支援総合事業費(要支援・事業対象者)の改定内容

施設サービス等介護給付費単位数の改定内容

      2026年(令和8年度)・2024年 介護報酬改定で特徴的な加算・制度

      利用者負担軽減の仕組みの改定

      補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。

      令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し

      令和7年8月1日施行 多床室の室料負担
      令和8年8月1日施行 食費基準費用額の1,445円→1,545円、低所得者の食費負担限度額の段階別変更

       

      この記事が気に入ったら
      フォローしよう
      最新情報をお届けします
      あなたへのおすすめ