歯科技工士が足りない|入れ歯難民はなぜ起きる?不足の実態と介護現場への影響

「入れ歯をつくることになりました」と歯科の先生から聞いてから、実際にできあがってくるまで、前より時間がかかるようになっていませんか?私の周りでは、入れ歯をつくるという話が出てから2か月たってもできてこないということが結構多くあります。「○○さんの入れ歯、まだできてこないの~??」と、介護の現場でそう感じている方は多いのではないでしょうか。
その実感は、気のせいではありません。入れ歯や差し歯をつくる歯科技工士が、全国的に足りなくなっています。
この記事では、歯科技工士という仕事の中身から、不足の実態を示す数字、なぜ若い人がならないのか、3Dプリンタで仕事はなくなるのか、そして介護現場で起きている「入れ歯難民」の問題までを整理します。
「入れ歯がなかなか来ない」は、気のせいではない
施設でも在宅でも、こういう場面があります。
食事量が落ちてきた方がいて、よく見ると入れ歯が合っていない。訪問歯科につないで、先生が「つくり直しましょう」と判断してくれる。そこまでは順調です。
ところが、そこからが長い。型をとって、何度か調整に来ていただいて、実際に新しい入れ歯が入るまでに、思っていたより時間がかかる。
その間、ご本人は合わない入れ歯のまま食べ続けるか、外したまま過ごすことになります。体重が落ちる。食事形態を下げる。ご家族から「まだですか」と聞かれる。
千葉県歯科医師会の元会長は、読売新聞の取材に対して「かつてに比べて入れ歯の製作期間が延びている。今後は更に時間がかかるようになる可能性もある」と述べています。(参考:なり手不足と高齢化、歯科技工士不足で今後「入れ歯難民」の発生も|読売新聞)
現場の実感は、専門家の危機感と一致しているということです。
では、なぜ時間がかかるようになったのか。入れ歯をつくっている人が、減っているからです。
歯科技工士とは 入れ歯や差し歯をつくる国家資格
歯科技工士は、歯科技工士法にもとづく国家資格です。歯科医師の指示書(歯科技工指示書)にしたがって、入れ歯(義歯)、差し歯、かぶせもの(クラウン)、詰め物(インレー)、矯正装置、マウスピースなどをつくります。
どんな仕事なのか
歯科医師が患者さんの口の中の型をとり、その模型と指示書が歯科技工所に届きます。歯科技工士はそこから、1本ずつ、その人の口にしか合わないものを手でつくっていきます。
入れ歯であれば、人工歯を並べる位置、歯ぐきの形、かみ合わせの高さ。少しでもずれれば、痛くて入れられない、外れる、うまくかめないという結果になります。求められる精度は、数十マイクロメートル単位と言われます。髪の毛の太さよりずっと細かい世界です。
しかも、つくるものは人の体の中に入り、毎日使われ、そのまま食事をする道具です。工業製品のように同じものを量産するのではなく、一人ひとり違う形を、その都度つくる。職人の仕事だと言われるゆえんです。
患者と会わない国家資格
ここが、この職業を理解するうえで決定的なポイントです。
歯科技工士は、患者さんの口の中を直接触ることが認められていません。
歯科医院で「入れ歯をつくりましょう」と言われても、患者さんが歯科技工士に会うことはまずありません。名前を聞くこともないでしょう。
看護師、理学療法士、介護福祉士。医療や介護の仕事の多くは、目の前の人と向き合います。相手の反応が返ってくるし、「ありがとう」と言われることもある。歯科技工士には、それがありません。完全な裏方です。
後で述べますが、この「見えなさ」が、なり手不足の根っこにつながっています。
どこで働いているのか
| 勤務先 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 歯科技工所 | 23,521人 | 約74% |
| 病院・診療所 | 7,723人 | 約24% |
| 歯科技工士学校または養成所 | 266人 | 約0.8% |
| 事業所・その他 | 223人 | 約0.7% |
| 合計 | 31,733人 | 100% |
4人に3人が歯科技工所で働いています。歯科医院から仕事を受注する、独立した事業所です。数人規模のところも少なくありません。
つまり、歯科技工士の多くは歯科医院の中にはいません。皆さんが関わっている訪問歯科の先生の、その後ろにいる人たちだと考えてください。
数字で見る歯科技工士不足
「不足している」という話は以前からありましたが、直近の国のデータを並べると、状況はかなり深刻です。
24年間で15%減った
| 年 | 歯科技工士数 |
|---|---|
| 2000年 | 37,244人 |
| 2024年 | 31,733人 |
| 増減 | 5,511人減(約15%減) |
この間、高齢者人口は大きく増えています。
入れ歯を必要とする人が増えているのに、つくる人は減っている。
需要と供給が逆方向に動いています。
減り始めたのは、実はここ数年
ただし、この24年間ずっと同じペースで減ってきたわけではありません。2年ごとの推移を見ると、意外なことがわかります。
| 年(各年末) | 歯科技工士 | 歯科技工所 |
|---|---|---|
| 平成26年(2014) | 34,495人 | 20,166か所 |
| 平成28年(2016) | 34,640人 | 20,906か所 |
| 平成30年(2018) | 34,468人 | 21,004か所 |
| 令和2年(2020) | 34,826人 | 20,879か所 |
| 令和4年(2022) | 32,942人 | 20,841か所 |
| 令和6年(2024) | 31,733人 | 20,278か所 |
令和2年(34,826人)までは、ほぼ横ばいだったのです。減少が始まったのはそこからで、2020年から2024年のわずか4年間で3,093人(8.9%)が減りました。
つまりこれは、長年かけてじわじわ減ってきた話ではありません。ここ数年で急に落ち始めた問題です。
「最近、入れ歯が来るのが遅くなった」という現場の実感と、時期がぴたりと重なります。
歯科技工所そのものも減っています。令和4年の20,841か所から563か所(2.7%)減って20,278か所になりました。後継者がいないまま廃業した技工所が、この数字に含まれています。
現役の56%が50歳以上
減っているだけではありません。残っている人も高齢化しています。
| 年 | 50歳代以上の割合 |
|---|---|
| 2004年 | 26% |
| 2024年 | 56% |
20年で26%から56%へ。2人に1人以上が50代以上という構成です。
もう少し細かく、年齢階級別の内訳を見てみます。歯科衛生士を隣に並べました。
| 年齢 | 歯科技工士 | 参考:歯科衛生士 |
|---|---|---|
| 25歳未満 | 4.7%(1,498人) | 11.6% |
| 25〜29歳 | 5.7%(1,799人) | 13.4% |
| 30〜34歳 | 5.7%(1,800人) | 9.6% |
| 35〜39歳 | 7.8%(2,477人) | 11.2% |
| 40〜44歳 | 8.9%(2,810人) | 12.1% |
| 45〜49歳 | 11.3%(3,590人) | 12.7% |
| 50〜54歳 | 12.3%(3,896人) | 12.5% |
| 55〜59歳 | 11.4%(3,603人) | 8.4% |
| 60〜64歳 | 13.0%(4,133人) | 5.2% |
| 65歳以上 | 19.3%(6,127人) | 3.2% |
注目してほしいのは、歯科技工士でいちばん多い年齢層が「65歳以上」(19.3%)だということです。
5人に1人が65歳以上。すでに一般的な定年年齢を超えた人たちが、最大のボリュームゾーンになっています。
隣に並べた歯科衛生士と比べると、差は歴然です。歯科衛生士の最多層は「25〜29歳」(13.4%)で、65歳以上は3.2%しかいません。
同じ歯科の国家資格なのに、人口ピラミッドがきれいに逆さまになっています。
そして、34歳以下は合わせて16.1%(5,097人)しかいません。 3万人を超える職種で、30代前半までの若手が5千人という状態です。
これが意味するのは、今後10年から15年のあいだに、この半分以上が引退していくということです。千葉県柏市の歯科技工所の社長は、読売新聞の取材に「後継者のいない歯科技工所で、合併や廃業といった話が増えている」と話しています。
そして、養成校の定員は半分しか埋まっていない
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい数字です。
2026年に厚生労働省が「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」に示した資料で、12の医療関係職種の養成校の定員充足率が並べられました。
| 職種 | 定員充足率 |
|---|---|
| 診療放射線技師 | 103.2% |
| 看護師 | 89.6% |
| 理学療法士 | 87.8% |
| 救急救命士 | 82.6% |
| 義肢装具士 | 80.6% |
| 歯科衛生士 | 79.1% |
| 臨床検査技師 | 76.1% |
| 言語聴覚士 | 72.9% |
| 視能訓練士 | 68.5% |
| 作業療法士 | 66.5% |
| 臨床工学技士 | 57.0% |
| 歯科技工士 | 53.5% |
12職種のなかで、いちばん低い。 入学定員の総数は1,489人ですが、実際に入ってくるのはその半分程度です。
現役の56%が50歳以上。最多層は65歳以上。
養成校に入ってくるのは定員の53.5%。
出ていく人の数に対して、入ってくる人がまるで足りていません。しかも養成校自体が、学生が集まらなければ経営として成り立たなくなります。学校が閉じれば、その地域では二度と養成できません。
地域によって、状況がまったく違う
歯科技工士の養成校は、全国で専修学校36校、大学等9校しかありません。つまり、養成校が一校もない県があるということです。
千葉県がその例です。県内の歯科技工士は923人(2024年末)。実数では全国9位ですが、人口10万人あたりでは14.8人で全国ワースト2位。千葉県歯科技工士会は、県内に養成校がないため志望者が県外に流出しやすい構造があると指摘しています。
厚生労働省の資料によれば、歯科技工士の養成課程(私立専修学校)の県内就職率は71%です。養成校がある県には人が残り、ない県には来ない。この構造がそのまま地域差になっています。
お住まいの地域で「入れ歯がなかなか来ない」と感じているなら、それは全国平均の話ではなく、その地域固有の事情かもしれません。
なぜ、若い人が歯科技工士にならないのか
ものづくりが好きな人にとっては、かなり魅力的な仕事のはずです。それでも人が集まらない。理由は複数あります。
① そもそも知られていない
これが最大の理由だと思います。
中学生や高校生が職業を知るきっかけは、たいてい「見たことがある」か「会ったことがある」です。医師も看護師も、病院に行けば会えます。介護職も、テレビでも学校の授業でも出てきます。
歯科技工士は、歯科医院に通っていても一度も会いません。 自分の入れ歯や差し歯を誰かが手でつくっていることすら、多くの人は意識していないでしょう。
知らない職業は、選ばれません。裏方であることが、そのまま志望者の少なさにつながっているという構造です。
② 「7対3告示」が守られていないという指摘
賃金の話です。ここには制度上の背景があります。
1988年(昭和63年)、当時の厚生省は次のような大臣告示を出しました。
歯冠修復及び欠損補綴料には、製作技工に要する費用及び製作管理に要する費用が含まれ、その割合は、製作技工に要する費用がおおむね100分の70、製作管理に要する費用がおおむね100分の30である。
ざっくり言えば、入れ歯などの保険点数のうち、7割は実際につくる側(歯科技工)に配分されるべきという考え方が示されたものです。
ところが、この告示は実態として守られていないという指摘が長く続いています。 歯科技工士の団体や保険医団体からは、実際の取引価格が技工所の希望価格の6〜7割程度にとどまっているという調査結果も示されてきました。背景として挙げられているのが、技工所どうしの価格競争と、歯科医院側からの値下げ要請です。
つまり、個々の歯科技工士が努力しても、単価の構造そのものが変わらない限り収入が上がりにくい。これが低賃金と長時間労働の背景にあると言われています。千葉県歯科医師会の元会長も、技工料の公定価格の低さが低賃金につながっているとして、国に引き上げを求めています。
③ 「医療に関わっている実感」を持ちにくい
先ほどの「患者の口腔内を直接触ることが認められていない」という点です。
千葉県歯科医師会の元会長は、この業務範囲の狭さを問題視し、「患者と直接触れあう機会が少なく、医療に関わっているという実感を持ちにくい状況にあるのではないか」と指摘しています。
自分のつくったものを使う人の顔を見ることも、その人が食べられるようになったところを見ることもない。やりがいの手ざわりが得にくい構造です。同氏は国に対し、公定価格の引き上げと同時に、臨床に関わる業務の幅を広げて歯科技工士が医療人としてのやりがいを持てるようにしてほしいと訴えています。
④ 養成校が減り、通える場所がない
学生が集まらなければ、学校は経営として続きません。学校が閉じれば、その地域から志望する道そのものがなくなります。そして県内就職率71%という数字が示すとおり、養成校がないことは、その地域の歯科技工士がいなくなることに直結します。
減る→学校が減る→さらに減る、という循環に入っているのが現状です。
介護現場で起きていること 「入れ歯難民」
ここからが、介護に関わる人にとって本題です。
製作期間が延びるということの意味
入れ歯ができるまでの期間が1か月延びる。それだけ聞くと、待てばいい話に聞こえるかもしれません。
しかし高齢者にとって、「かめない1か月」は、取り返しのつかない1か月になり得ます。
| 起きること | その先 |
|---|---|
| かめないので食事量が落ちる | 低栄養、体重減少 |
| やわらかいものに偏る | たんぱく質不足、咀嚼機能のさらなる低下 |
| 食事形態を下げる | 一度下げると戻しにくい |
| 食べることが楽しくなくなる | 意欲低下、活動量の減少 |
| 人前で食べたがらなくなる | 会食の機会を避ける、閉じこもり |
| 口を動かさなくなる | 口腔機能の低下、誤嚥リスクの上昇 |
オーラルフレイルという言葉が介護の現場でも定着してきました。口の機能が少し落ちることが、食事、栄養、全身の状態、社会参加へと連鎖していくという考え方です。
入れ歯が合わない期間が長引くことは、この連鎖の入口に人を置きっぱなしにするということです。80代・90代の方にとって、数か月の空白が元に戻らないことは珍しくありません。
「入れ歯難民」という言葉
歯科技工士の不足が進めば、入れ歯をつくりたくてもつくれない、あるいは待たされ続ける人が出てくる。 これを指して「入れ歯難民」という言葉が使われるようになりました。
まだ全国どこでもそうなっているわけではありません。ただ、現役の56%が50歳以上で、入ってくる人が定員の半分という状況を考えると、今のペースなら現実になるという見通しには根拠があります。
ケアマネジャー・介護職にできること
歯科技工士を増やすことはできませんが、「待つ期間」を前提に動くことはできます。
なお、入れ歯の洗浄や装着の介助は介護職員が行える範囲です。何が医行為に当たらないかは、こちらで整理しています。
3Dプリンタで、歯科技工士の仕事はなくなるのか
「歯科技工士 なくなる」「歯科技工士 オワコン」といった言葉が検索されています。デジタル化の話は、この職業の将来を考えるうえで避けて通れません。
実際に何が変わったか
| 従来 | デジタル化後 |
|---|---|
| 印象材で型をとり、石こう模型をつくる | 口腔内スキャナで直接読み取る(光学印象) |
| ワックスで形を手で盛る | CADソフトで画面上に設計する |
| 鋳造する、手で削る | ミリングマシンで削り出す、3Dプリンタで造形する |
| 模型を宅配便で運ぶ | データを送信する |
読売新聞が取材した千葉県柏市の歯科技工所でも、石こう模型をドリルで削る技工士の隣で、別の技工士が歯の3Dモデルを表示したパソコンを操作してかぶせものを設計していました。手の作業とデジタルが同じ部屋に並んでいるのが、いまの現場です。
それでも人の手が残る部分
デジタル化で効率が上がったのは事実です。ただ、置き換わったのは「工程」であって「判断」ではありません。
そして何より、いま起きているのは「仕事がなくなる」ではなく「つくる人がいない」という事態です。 需要は増え続け、供給が追いつかない。この構図のなかで「AIに奪われる職業」という話をするのは、現実とずれています。
手の技術だけで完結する時代ではなくなりました。CADソフトを扱える、スキャンデータを読める、機械を管理できる。従来の職人技に、デジタルの技術が上乗せされたと考えるのが実態に近いでしょう。
言い換えれば、これから入る人にとっては参入しやすくなった面もあります。 ものづくりとパソコンの両方に興味がある人には、むしろ向いている仕事になりました。
制度は動き始めている
放置されてきた問題ですが、ここ数年で制度側にも動きがあります。
歯科技工士連携加算(令和6年度診療報酬改定で新設)
歯科医師と歯科技工士が対面またはオンラインで連携して製作にあたった場合を評価する加算です。印象採得・咬合採得・仮床試適のそれぞれの場面に設定されています。
| 区分 | 点数 | 内容 |
|---|---|---|
| 歯科技工士連携加算1 | 50点 | 歯科医師と歯科技工士が対面で色調採得・口腔内の確認等を行う |
| 歯科技工士連携加算2 | 70点 | 情報通信機器を用いて同様の連携を行う |
注目したいのは、この加算が歯科技工士が患者さんのいる場面に関わることを、はじめて診療報酬で評価したという点です。「患者に会えない」という構造に、制度の側から小さな風穴が開いたことになります。
歯科技工所ベースアップ支援料(令和8年度改定)
2026年度の診療報酬改定では、歯科技工所を対象としたベースアップ支援が設けられました。賃金の問題に、報酬の側から直接手を入れようという動きです。
業務範囲と「歯科技工の場所」の見直し
厚生労働省が2026年から開催している「医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会」の資料には、次の一文があります。
歯科衛生士・歯科技工士の業務範囲や、歯科技工の場所の在り方については、現在進めているそれぞれの業務のあり方等に関する検討会において具体的に検討を進める。
「業務範囲」は、患者さんにどこまで関われるかの話です。「歯科技工の場所」は、どこで作業してよいか(在宅勤務やサテライトを認めるか)の話です。どちらも、なり手不足の原因として指摘されてきた部分に直接関わります。
同じ検討会では、医療職全体について「18歳人口の減少が急激に進む中でも必要な医療関係職種を安定的に養成・確保していく」ことが課題として掲げられ、養成校のサテライト化や遠隔授業の活用、処遇改善の必要性が繰り返し議論されています。歯科技工士だけの問題ではなく、医療職全体の担い手不足のなかで、最も数字が悪い職種として扱われているのが現在の位置づけです。
介護の側から見た、この仕事の価値
最後に、制度の話から離れます。
合わない入れ歯を使っていた方に、きちんと合う入れ歯が入ったとき。何が起きるか、現場の方はご存じだと思います。
食べられるものが増えます。 食事量が戻り、体重が戻る。表情が変わります。 口元を気にして手で隠していた方が、笑うようになる。しゃべりやすくなります。 発音が明瞭になって、会話が増える。外に出るようになります。 人と食事をすることを避けなくなる。
リハビリでも薬でもなく、1つの器具が入るだけで、その人の生活がまるごと変わることがある。介護の仕事をしていると、そういう場面に何度か出会います。
それをつくっているのが歯科技工士です。患者さんに会うこともなく、名前を知られることもなく、模型と指示書だけを頼りに、その人の口にしか合わないものを手でつくっている。
柏市の歯科技工所の社長は、読売新聞の取材にこう話しています。「食べ物をしっかりかむことは内臓の負担を減らすうえで重要。健康維持には技工士の技術が不可欠だ」と。24歳の技工士は「様々な器具をきれいに作ることがやりがい」と語っています。
もしこの記事を読んでいる方のなかに、進路を考えている若い方や、そのご家族がいらっしゃったら。ものづくりが好きで、細かい作業が苦にならない人にとって、これほど直接人の役に立つ仕事はそう多くありません。 人が足りていないということは、裏を返せば、これから入る人にとって仕事が尽きないということでもあります。
よくある質問
総義歯(総入れ歯)の場合、型どり、かみ合わせ、仮合わせ、完成と複数回の通院が必要で、一般的には1〜2か月程度かかります。ただし地域や歯科技工所の混み具合によって差があり、歯科技工士不足の影響で以前より延びているという指摘があります。訪問歯科の場合はさらに時間がかかることもあります。「だいたいこのくらい」と最初に歯科の先生に確認しておくと、ご家族への説明がしやすくなります。
どちらも国家資格ですが、仕事の内容はまったく別です。歯科衛生士は患者さんの口の中に直接関わり、歯石除去や歯科保健指導、歯科診療の補助を行います。歯科技工士は入れ歯や差し歯などをつくる仕事で、患者さんの口の中を直接触ることは認められていません。人数も大きく違い、歯科衛生士が約15万人であるのに対し、歯科技工士は約3万2千人です。年齢構成も対照的で、歯科衛生士の最多層は25〜29歳ですが、歯科技工士の最多層は65歳以上です。
なくなる方向には向かっていません。いま起きているのは「仕事がなくなる」ではなく「つくる人が足りない」という事態です。 高齢化で入れ歯を必要とする人は増える一方、歯科技工士は2020年からの4年間だけで8.9%減り、現役の56%が50歳以上、最も多い年齢層は65歳以上です。3DプリンタやCAD/CAMの普及で工程は変わりましたが、かみ合わせの設計、色合わせ、総義歯の製作、最終的な調整といった判断の部分は人の手に残っています。求められる技術が「手作業のみ」から「手作業+デジタル」に変わった、と理解するのが実態に近いでしょう。
制度上の背景として、1988年の大臣告示(いわゆる「7対3告示」)があります。入れ歯などの保険点数のうち、製作技工に要する費用がおおむね70%、製作管理に要する費用がおおむね30%とされたものです。ところがこの配分が実態として守られていないという指摘が長く続いており、歯科技工士の団体などからは、取引価格が技工所の希望価格の6〜7割程度にとどまっているという調査結果も示されています。背景には技工所どうしの価格競争と、歯科医院側からの値下げ要請があるとされます。個人の努力では変えにくい、単価の構造の問題だということです。
令和6年度の診療報酬改定で新設された加算で、歯科医師と歯科技工士が連携して製作にあたった場合を評価するものです。印象採得・咬合採得・仮床試適のそれぞれの場面に設定され、対面で行う場合が加算1(50点)、情報通信機器を用いる場合が加算2(70点)です。施設基準として、歯科技工士の配置または他の歯科技工所との連携が確保されていることなどが求められます。歯科技工士が患者さんのいる場面に関わることを、はじめて診療報酬で評価したという点に意味があります。
ご本人が「合わない」と言わないことのほうが多いので、様子から拾う必要があります。食事量が減った、やわらかいものばかり選ぶ、時間がかかるようになった、食べ残しが増えた、入れ歯を外している時間が長い、頬や舌をよくかむ、口内炎ができやすい、発音が変わった、人前で食べたがらない——こうした変化が手がかりになります。製作に1〜2か月かかることを考えると、「しばらく様子を見よう」が、そのまま遅れになります。 気づいた時点で歯科につないでください。
歯科技工士養成校(専修学校・短大・大学)で所定の課程を修了し、歯科技工士国家試験に合格する必要があります。修業年限は2年以上で、2年制の専修学校が中心です。ただし養成校は全国で専修学校36校、大学等9校しかなく、養成校のない県もあります。通える範囲に学校があるかどうかが、実際には大きなハードルになっています。社会人からの入学を受け入れている学校もありますので、まずはお住まいの地域の養成校を調べてみてください。
まとめ
介護の現場で「入れ歯がなかなかできてこない」と感じているとしたら、その背景にはこういう数字があります。
入れ歯が1か月遅れることは、高齢者にとって「噛む力が落ちる」ことに直結します。低栄養、体重減少、食事形態の低下、意欲の低下。オーラルフレイルの連鎖を引き起こすことになります。
私たちに歯科技工士を増やすことはできません。ただ、気づいたらすぐつなぐこと、待つ期間を前提に食事を組み立てること、今ある入れ歯を大事に扱うことはできます。この3つだけでも、待ち時間が延びていく時代には効いてきます。
そして、もう一つ。この仕事を知っている人を、一人でも増やすこと。
知られていないことが、なり手不足の一番の原因だからです。合わない入れ歯で食が細っていた方が、新しい入れ歯でまた食べられるようになる。あの瞬間をつくっているのが誰なのかを、もう少し多くの人が知っていていいはずだと思います。
参考資料
2024年・2025年・2026年
介護保険・介護報酬改定の情報
令和8年度(2026年)障害福祉サービス等報酬改定の概要と変更点まとめ
2026年(令和8年)介護報酬改定の全体像についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
介護報酬改定2026年(令和8年度)まとめ|いつから・変更点・対象サービスをわかりやすく解説
令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)
介護保険区分支給限度基準額一覧(要支援・要介護)
New! 令和8年(2026年)介護報酬改定
- 令和8年度介護報酬改定 介護職員の給与を最大月1.9万円賃上げの内容
- 令和8年度版「介護職員等処遇改善加算」算定要件・配分ルール・計算方法
- 国保中央会運用「LIFE」2026年5月11日〜7月31日に移行作業しないと加算の継続算定できない
- 介護情報基盤とは?事業所がやるべき準備と期限・助成金・電子証明書【2026年】
New!令和8年(2026年)介護報酬改定介護報酬改定後の介護保険サービスごとの介護報酬・単位数
介護保険の居宅サービス介護給付費単位数(対象:要介護)
- 居宅介護支援費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問介護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問看護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 訪問リハビリテーション費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 通所介護費(デイサービス) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 通所リハビリテーション費(デイケア) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 短期入所生活介護費(ショートステイ) 2026年6月からからの介護報酬・単位数一覧
- 居宅療養管理指導費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 福祉用具貸与費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
地域密着型サービスの単位数改定内容
- 地域密着型通所介護費(小規模デイサービス) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 認知症対応型共同生活介護費(認知症グループホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 小規模多機能型居宅介護費(認知症グループホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
介護予防サービス(対象・要支援)
- 介護予防支援費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防訪問看護費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防居宅療養管理指導費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防短期入所生活介護費(要支援のショートステイ) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防訪問リハビリテーション費 2024年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護予防通所リハビリテーション費 2024年6月からの介護報酬・単位数一覧
介護予防・日常生活支援総合事業費(要支援・事業対象者)の改定内容
施設サービス等介護給付費単位数の改定内容
- 介護福祉施設サービス費(特別養護老人ホーム) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護保健施設サービス費(介護老人保健施設:老健) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 介護医療院費 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
- 特定施設入居者生活介護費(介護付き有料老人ホームなど) 2026年6月からの介護報酬・単位数一覧
2026年(令和8年度)・2024年 介護報酬改定で特徴的な加算・制度
- 介護事業所の「人員基準欠如減算」とは?介護給付費原則3割減算の内容・届出・猶予期間
- 介護施設の協力医療機関とは?【2027年4月に義務化】
- 協力医療機関連携加算とは?単位数・算定要件・厚労省Q&A
- 高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件・対象・単位・厚労省Q&A
- 居宅介護支援の「特定事業所加算」算定要件
- 生産性向上推進体制加算の算定要件
- 見守り機器等のテクノロジーとは?生産性向上推進体制加算
- 【2026年版】科学的介護情報システム「LIFE」とは データ提出・利用方法を解説!
- 科学的介護情報システム(LIFE)2024年-2026年厚生労働省Q&Aまとめ
- 個別機能訓練加算(Ⅰ)サービス種別ごとの単位数・算定要件【2024/2025年】
- 認知症チームケア推進加算の算定要件 必要資格や研修を解説!
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利用者負担軽減の仕組みの改定
補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。
令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し
令和7年8月1日施行 多床室の室料負担
令和8年8月1日施行 食費基準費用額の1,445円→1,545円、低所得者の食費負担限度額の段階別変更



