高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件・対象・単位・厚労省Q&A

 

2024年度介護報酬改定に伴い、高齢者虐待防止措置未実施減算が新たに導入されました。この記事では、減算の算定要件、対象となるサービス、適用される単位数、そして厚生労働省が提供するQ&Aについて詳しく解説します。介護サービス事業者は、虐待防止のための委員会設置、指針の整備、研修の実施、担当者の指定といった必須措置を講じていない場合に、報酬から1%減算されることになるという実質義務化です。居宅療養管理指導、特定福祉用具販売を除くすべての介護事業者が高齢者虐待防止措置を行っていないと減算対象となるため注意して対応しましょう。

このページの目次

2024年介護報酬改定で高齢者虐待防止措置未実施減算が新設された経緯

厚生労働省は、高齢者虐待防止を推進するため、全ての介護サービス事業者(居宅療養管理指導及び特定福祉用具販売を除く)に対して、虐待防止措置を講じていない場合に報酬を減算する新制度を導入しました。

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(通称:高齢者虐待防止法)」が2006年に施行され、高齢化が進む中で高齢者虐待の問題は2016年くらいからさらに注目されており、介護施設や介護保険サービス事業者にはその対策をするよう指導が行われてきました。

もともと令和3年度の介護報酬改定のポイントのひとつとして、「高齢者虐待防止の推進」が挙げられており、対策を行うための経過期間のような位置づけになっていました。

3年間の間に準備できただろうということで、虐待防止のための委員会開催、指針の整備、研修の実施、担当者の指定などが高齢者虐待防止措置として具体的に実施すべきこととして示され、実施していない場合には2024年4月から介護報酬上も減算というペナルティを課すという形になりました。また、福祉用具貸与についてはサービス提供の特性を考慮し、3年間の経過措置期間が設けられました。

さらに、高齢者虐待防止に関する施策の充実として、施設でのストレス対策を含む取り組み例を収集し、周知を図ること、国の補助を活用して都道府県がハラスメントやストレス対策の研修を実施すること、および高齢者本人やその家族だけでなく介護職員も利用できる相談窓口を設けることが進められています。これらの措置は、利用者の人権を守り、虐待の発生を防ぐためのものです。

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高齢者虐待防止措置未実施減算の対象

高齢者虐待防止措置未実施減算の対象の介護保険サービス

訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、通所リハビリテーション、療養通所介護、短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、福祉用具貸与、居宅介護支援、特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院

高齢者虐待防止措置未実施減算の対象ではない介護保険サービス

居宅療養管理指導、特定福祉用具販売

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高齢者虐待防止措置未実施減算の単位数

高齢者虐待防止措置未実施減算では、4つの高齢者虐待防止措置が未実施の場合、利用者全員について所定単位数から1%減算されることとなります。

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高齢者虐待防止措置未実施減算について基準上(解釈通知)の記載(例:訪問介護)

高齢者虐待防止措置未実施減算については、事業所において高齢者虐待が発生した場合ではなく、指定居宅サービス基準第 37 条の2(指定居宅サービス等基準第 39 条の3において準用する場合を含む。)に規定する措置を講じていない場合に、利用者全員について所定単位数から減算することとなる。

具体的には、高齢者虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催していない高齢者虐待防止のための指針を整備していない高齢者虐待防止のための年1回以上の研修を実施していない又は高齢者虐待防止措置を適正に実施するための担当者を置いていない事実が生じた場合、速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から3月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、利用者全員について所定単位数から減算することとする。

引用:指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(平成12年3月1日老企第36号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)

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高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件

高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件の全体像としては、4つのポイントがあります。

  • 「虐待の防止のための対策を検討する委員会」(テレビ電話装置等の活用可能)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
  • 「虐待の防止のための指針」を整備すること。
  • 従業者に対し「虐待の防止のための研修」を定期的(年1回以上)に実施すること。
  • 上記措置を適切に実施するための担当者を置くこと。

虐待の防止のための対策を検討する委員会、指針、研修の資料・動画教材

虐待の防止のための対策を検討する委員会、指針、研修はどうしたらよいか

社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センター「施設・事業所における高齢者虐待防止のための体制整備-令和 3 年度基準省令改正等に伴う体制整備の基本と参考例」令和 3 年度老人保健健康増進等事業 などを参考に整備することが厚生労働省から示されています。

「施設・事業所における高齢者虐待防止のための体制整備」のページには、委員会組織の設置と運営、指針の策定と活⽤、研修の企画と運営、研修の⽅法などが動画と資料でまとまっているので活用できるかと思います。

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高齢者虐待防止措置ができていない場合の対応

当然ながら、4つの高齢者虐待防止措置を行うことが必要なのですが、もしできていなかった場合、速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から3月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、利用者全員について所定単位数から減算することとなります。

厚生労働省のQ&Aでは、さかのぼってでもこの減算を適用するのかという問いに対して、過去に遡及して当該減算を適用することはできず、発見した日の属する月が「事実が生じた月」となるという回答を示しています。また、改善計画の提出の有無に関わらず減算の措置を行って差し支えないとも示されています。

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運営規定への明記

運営規程の記載例
第○○条 事業所は利用者の権利擁護、虐待の発生を防止するための次のような措置を講じるものとする。
(1)虐待防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催とともに、その結果について従業者に周知徹底を図る。
(2)虐待防止及び身体拘束のための指針の整備
(3)虐待を防止するため及び身体拘束等の適正化のための定期的な研修の実施
(4)苦情解決体制の整備
(5)虐待防止及び身体拘束のための担当責任者の設置
2 サービス提供中に虐待を受けたと思われる利用者を発見したときは、速やかに市町村に通報するものとする。

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介護サービス情報公表システムに登録すべき事項に虐待防止に関する取組状況を追加する

令和6年度中に介護サービス情報公表システムに登録すべき事項に虐待防止に関する取組状況を追加することも示されています。

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高齢者虐待防止措置未実施減算についての厚生労働省Q&A

問 167 高齢者虐待が発生していない場合においても、虐待の発生又はその再発を防止するための全ての措置(委員会の開催、指針の整備、研修の定期的な実施、担当者を置くこと)がなされていなければ減算の適用となるのか。

・ 減算の適用となる。
・ なお、全ての措置の一つでも講じられていなければ減算となることに留意すること。

「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15 日)

問 168 運営指導等で行政機関が把握した高齢者虐待防止措置が講じられていない事実が、発見した日の属する月より過去の場合、遡及して当該減算を適用するのか。

過去に遡及して当該減算を適用することはできず、発見した日の属する月が「事実が生じた月」となる。

「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15 日)

問 169 高齢者虐待防止措置未実施減算については、虐待の発生又はその再発を防止するための全ての措置(委員会の開催、指針の整備、研修の定期的な実施、担当者を置くこと)がなされていない事実が生じた場合、「速やかに改善計画を都道府県知事に提出した後、事実が生じた月から三月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間について、入居者全員について所定単位数から減算することとする。」こととされているが、施設・事業所から改善計画が提出されない限り、減算の措置を行うことはできないのか。

改善計画の提出の有無に関わらず、事実が生じた月の翌月から減算の措置を行って差し支えない。当該減算は、施設・事業所から改善計画が提出され、事実が生じた月から3か月以降に当該計画に基づく改善が認められた月まで継続する。

問 170 居宅療養管理指導や居宅介護支援などの小規模な事業者では、実質的に従業者が1名だけということがあり得る。このような事業所でも虐待防止委員会の開催や研修を定期的にしなければならないのか。

虐待はあってはならないことであり、高齢者の尊厳を守るため、関係機関との連携を密にして、規模の大小に関わりなく虐待防止委員会及び研修を定期的に実施していただきたい。小規模事業所においては他者・他機関によるチェック機能が得られにくい環境にあることが考えられることから、積極的に外部機関等を活用されたい。

・ 例えば、小規模事業所における虐待防止委員会の開催にあたっては、法人内の複数事業所による合同開催、感染症対策委員会等他委員会との合同開催、関係機関等の協力を得て開催することが考えられる。

・ 研修の定期的実施にあたっては、虐待防止委員会同様法人内の複数事業所や他委員会との合同開催、都道府県や市町村等が実施する研修会への参加、複数の小規模事業所による外部講師を活用した合同開催等が考えられる。

・ なお、委員会や研修を合同で開催する場合は、参加した各事業所の従事者と実施したことの内容等が記録で確認できるようにしておくことに留意すること。

・また、小規模事業所等における委員会組織の設置と運営や、指針の策定、研修の企画と運営に関しては、以下の資料の参考例(※)を参考にされたい。

(※)社会福祉法人東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センター「施設・事業所における高齢者虐待防止のための体制整備-令和 3 年度基準省令改正等に伴う体制整備の基本と参考例」令和 3 年度老人保健健康増進等事業、令和 4 年 3 月。

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まとめ

高齢者虐待防止は、介護分野では特に注意しなければならないことです。今後は、介護サービス情報公表システムに登録すべき事項に虐待防止に関する取組状況を追加することも示されており、施設の運営規定の整備、利用者への情報開示、虐待の防止のための対策を検討する委員会、指針、研修、実際に発生しないようにするための対策、介護サービス情報公表システムでの公表など、厳重に管理されていくことになります。

 

2024年4月・6月介護報酬改定の情報

 令和6年(2024年)障害福祉サービス報酬改定情報はこちら

令和6年~8年 地域区分(介護)区市町村の等級一覧(2024年4月~)

介護保険区分支給限度基準額一覧(要支援・要介護)

2024年介護報酬改定後の介護保険サービスごとの介護報酬・単位数

令和6年度介護報酬改定では、4月に変更となる内容と、6月に変更になる内容があります。例えば、訪問介護費の場合、基本報酬部分は4月から、処遇改善加算等は6月から変更という2段階での変更が生じることがあります。詳細は各記事に添付している厚生労働省のサイトからご確認ください。

 介護保険の居宅サービス介護給付費単位数(対象:要介護)

地域密着型サービスの単位数改定内容

介護予防サービス(対象・要支援)

介護予防・日常生活支援総合事業費(要支援・事業対象者)の改定内容

施設サービス等介護給付費単位数の改定内容

      2024年(令和6年)介護報酬改定で特徴的な加算・制度

      利用者負担軽減の仕組みの改定

      補足給付(負担限度額認定)に関わる見直しは、以下のとおりです。

      令和6年8月1日施行 基準費用額の見直し

      令和7年8月1日施行  多床室の室料負担

       

       

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