身体拘束とは 緊急時の3原則と具体例(厚生労働省提示)

 

介護現場において「身体拘束」は慎重に取り扱われるべき重要な課題です。身体拘束の定義やその具体例、行う際の条件や記録方法、さらにそれに伴う減算について理解することは、介護に携わるすべての人にとって不可欠です。本記事では、身体拘束の基本的な概念からその適正な実施方法までを詳しく解説します。

身体拘束とは

身体拘束とは衣類または綿入り帯等を使用して一時的に該当患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう』と定義されています。

ただし、この身体拘束の定義は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に関連する身体拘束の定義です。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第三十六条第三項の規定に基づき厚生労働大臣が定める行動の制限, 昭和63年4月8日, 厚生省告示, 第129号)

介護分野においては、身体拘束は高齢者虐待の身体的虐待や精神的虐待に当たるとして以下のような具体例を挙げて概念を示しています。

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身体拘束の具体例(厚生労働省提示)

2006年8月「身体拘束に対する考え方(厚生労働省)」によると、以下のような行為が身体拘束の具体例として示されています。

1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

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身体拘束は禁止?身体拘束を行う場合の条件と記録

身体拘束の具体例で紹介したようなことが身体的拘束に当たる行為の一部であり、原則禁止されています。

介護保険制度の中では、全てのサービス種別のそれぞれの運営基準(厚生労働省令)において、各サービスの提供にあたっては、当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者(利用者)の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない旨規定されています。

このように運営基準に身体的拘束等の原則禁止規定が置かれた上で、例外的に身体的拘束等を行う場合の要件が規定されています。
原則禁止である身体的拘束等をやむを得ず行う場合は、あくまで当該入所者(利用者)又は他の入所者(利用者)等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合に限られ、介護職員等の従業者の不足等、介護保険施設等の側の理由は排除されています。

介護保険制度において身体的拘束等が原則禁止されているの は、運営基準で禁止されているから、という理由だけではありません。
身体的拘束等は、利用者本人にとって身体的、精神的、社会的弊害をもたらし、利用者の自立を阻害する行為です。そしてそれは例外的に身体的拘束等を行う場合であっても、身体的拘束等を行う以上、それらの弊害が軽減されるわけではありません。行政機関は、特にこの点に留意し、身体的拘束等の廃止に関し、介護保険施設等の理解が深まるよう説明を尽くさなくてはなりません。

身体拘束を行う場合の記録のポイント
  • 当該入所者または他の入所者等の生命または身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
  • 指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。

引用:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)

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身体拘束を行うときの「緊急やむを得ない場合」に該当する3原則

身体拘束 3つの要件「切迫性」「非代替性」「一時性」

当該入所者または他の入所者等の生命または身体を保護するため、「緊急やむを得ない場合」のみ、身体拘束を行うことが認められます。

緊急やむを得ない場合とは、以下の3つの要件切迫性」「非代替性」「一時性」をすべて満たすことが必要です。

切迫性

緊急やむを得ない場合の条件の「切迫性」とは、利用者本人または他の利用者の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高い場合

非代替性

緊急やむを得ない場合の条件の「非代替性」とは、身体拘束以外に代替する介護方法がないこと

一時性

緊急やむを得ない場合の条件の「一時性」とは、身体拘束が一時的なものであること

緊急やむを得ない場合の判断と身体拘束実施時の留意点

・「緊急やむを得ない場合」の判断は、担当の職員個人又はチームで行うのではなく、施設全体で判断することが必要があります。
・身体拘束の内容、目的、時間、期間などを高齢者本人や家族に対して十分に説明し、理解を求めることが必要です。
・介護保険サービス提供者には、身体拘束に関する記録の作成が義務づけられています。

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運営指導で身体的拘束等を発見した場合

運営指導で身体的拘束等を発見した場合は、まずはその記録の提示を求め、内容を確認します。そしてその記録の内容から、発見した身体的拘束等が、下記の「例外的に身体的拘束等を行う場合の要件」(切迫性、非代替性、一時性の三つの要件を全て満たすこと)に該当することを事業所又は施設全体で極めて慎重に手続きを行ったどうかを確認します。

これはその要件(身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者等の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由等の記録のほか、サービス種別により身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会、身体的拘束等の適正化のための指針の整備、身体的拘束等の適正化のための研修の定期実施が運営基準上義務づけられている)への適合性を確認する前提として、そもそも例外的に身体的拘束等を行うべき事案であるかどうかが問題となるからです。

身体的拘束等の態様等の記録があれば、第一義的には身体的拘束等を行う手続に問題はありませんが、その記録の内容からしてそもそも緊急やむを得ない場合といえるのか判断するため管理者等に対してその状況に関する報告を求めます。

一方、身体的拘束等を行っているにもかかわらず記録がない場合についても上記と同様に、そもそも緊急やむを得ない場合の身体的拘束等といえるのか、管理者等からの状況報告等により判断しなくてはなりません。

以上のいずれの場合でも、もしも、下記の例外的に身体的拘束等を行う場合の要件に明らかに合致していないか又は合致していない疑いがある場合は、適切な手続きを経ていない身体的拘束等は高齢者虐待防止法に規定する身体的虐待に該当する可能性が高いことから、直ちに身体的拘束等を中止するよう指導するとともに、必要に応じて運営指導から監査(立入検査)に変更し、事実関係を確認します。

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身体的拘束等の適正化を図るための措置(形式的要件)

例外的に身体的拘束等を行う場合の要件として、その記録の他、対象サービスにおいては、当該運営基準に3つの形式的要件が定められており、これらの要件は全て満たす必要があります。

身体的拘束等の実施の有無にかかわらず全ての措置を講じていること

①身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その
他の従業者に周知徹底を図ること

②身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること

③介護職員その他の従業者に身体的拘束等の適正化のための研を定期的に実施すること

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介護保険施設・介護保険サービスで不適切な身体拘束等が発見された場合の介護報酬上の措置

緊急やむを得ない理由の記録の有無及び3つの形式的要件の有無にかかわらず、緊急やむを得ない理由に該当しない身体的拘束等を行っていた場合は、そもそも身体的拘束等を行ってはならない事案であるため、高齢者虐待防止法に規定する身体的虐待の可能性が高いことから、監査を実施し、事実を確認し、高齢者虐待の事実が確認できれば介護保険法に規定する行政処分の事由である人格尊重義務違反に該当します。

なお、虐待の発生又はその再発を防止するための措置(高齢者虐待防止対策検討委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者の配置)についても、全てのサービスにおいて義務付けとなっていることから、措置を講じた記録が確認できなければ、報酬請求上の措置として高齢者虐待防止措置未実施減算が適用されることになります。

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身体拘束廃止未実施減算及び高齢者虐待防止未実施減算

身体的拘束等を適切に行うためには必要な記録等の適正な手続きを行うことが必要であるとともに、上記対象サービスにおいては身体的拘束等の適正化を図るための全ての措置を講じることが必須となっています。当該記録がなければ当然のこととして、記録があったとしてもこれらを行っていなければ、報酬請求上の措置として身体拘束廃止未実施減算が適用されることになります。なお、その対象は身体拘束廃止未実施減算の対象施設等に限られます。

身体拘束廃止未実施減算の適用の考え方

身体拘束廃止未実施減算の適用

身体拘束等の状態を把握した場合は、速やかに「改善計画」を市町村長に提出するよう指導するとともに、「事実が生じた月」から3月後に改善計画に基づく結果の報告を提出するよう指導する。なお、「改善計画」が速やかに提出されない場合は、身体的拘束等を例外的に行う場合に必要な手続きを行うこと及び身体的拘束等の適正化を図るための措置を講じることが、身体拘束廃止未実施減算の解除の要件であることを理解させ、提出を促す。
※減算期間は最低3月となる。

改善状況の確認

「事実が生じた月」から3月後に、事業者からの「改善計画」に基づく報告に基づき、改善状況を確認する。
これにより改善が認められた場合は、改善が認められた日の属する月を「改善が認められた月」として、同月まで身体拘束廃止未実施減算を行う。
ただし、事業者からの「改善計画」に基づく報告がない、又は、改善状況が不十分である場合には、改善が認められないものとし、引き続き改善が認められるまで(改善が認められた月まで)身体拘束廃止未実施減算を行う。

身体拘束廃止未実施減算及び高齢者虐待防止措置未実施減算は、高齢者虐待の防止、身体的拘束の廃止又は適正な運用を確保するため、現時点で一定の条件に該当していない場合に、それが改善されるまでの間、将来に向かって報酬を減算するものです。つまり、この減算の仕組みは、他の減算の仕組みと違い、未来に向かって運用の改善を促すことが最大の目的です。

そのため運営指導において、過去における適切な手続きを経ていない身体的拘束の取り扱いや、高齢者虐待防止措置及び身体的拘束等の適正化のための措置の未実施が認められた場合であっても、運営指導で行政機関がそれを発見した日の属する月が「事実が生じた月」となります。

これにより過去に遡及して当該減算を適用することはできず、速やかに提出させることになる「改善計画」についても、あくまで今後の「計画」であることから、遡っての提出はできないことに注意が必要です。

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身体的拘束等の適正化の経緯(平成30年度介護報酬改定から)

身体拘束を減らすための取り組みは介護保険制度が創設された2000年(平成12年)、そして2001年(平成13年)に身体拘束ゼロ作戦が取り組まれ、重要視されてきました。さらに、2018年度(平成30年度)介護報酬改定で身体拘束を厳罰化する改定が行われ、以下の3点が追加されました

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の運営などの基準を定めている「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十九号)」(上記引用)では、身体拘束を行っていない場合でも、例えば介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の場合には、対策を検討する委員会を行わなければならないことになっています。

2018年度(平成30年度)介護報酬改定で追加された内容

① 身体的拘束などの適正化のための対策を検討する委員会を3か月に1回以上開催し、その結果について介護職員その他の従業者に周知徹底を図ることが必要

② 各施設で「身体的拘束等の適正化のための指針」を整備しておかなければなりません。

③ 介護職員その他の従業者に対しは、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること

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身体拘束がもたらす弊害

身体拘束は、体の自由を制限する行為であり、次のような身体的弊害をもたらすといわれています。これらは、本来のケアで追求されるべき高齢者の自立生活や機能回復という目標とは正反対の結果を招くおそれがあります。

このカラムは介護施設での身体拘束ゼロが推進され始めた平成13年作成された、「厚生労働省 身体拘束ゼロ作戦推進会議」資料を参考に書き出しています。

関節拘縮・褥瘡・身体機能の低下

体幹や四肢などの自由な動きを抑制してしまうため、関節の拘縮、筋力の低下といった身体機能の低下や、圧迫部位の褥瘡の発生などをもたらします。また、食欲の低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下などももたらします。

身体拘束により大事故を発生させる危険性

車いすやいすなどに拘束しているケースでは、無理な立ち上がりにより転倒事故、ベッドを柵(サイドレール)で囲んでいるケースでは、乗り越えによる転落事故、さらには抑制具による窒息等の大事故を発生させる危険性すらあります。

身体拘束により受ける精神的苦痛・認知機能低下・せん妄

身体拘束を行うことで、ご本人に不安や怒り、屈辱、あきらめといった大きな精神的苦痛を与え、そして人間としての尊厳を侵してしまいます。身体拘束によって、認知症がさらに進行し、せん妄の頻発をもたらすおそれもあります。

身体拘束により家族や親族が受ける精神的苦痛

身体拘束を行うということは本人だけでなく家族にも大きな精神的苦痛を与えます。自らの親や配偶者が拘束されている姿を見たとき、混乱し、後悔し、そして罪悪感にさいなまされる家族は多いと言われます。

看護・介護職員の士気の低下、介護施設への社会的な不信感

看護・介護職員も、自らが行うケアに対して誇りを持てなくなり、安易な拘束が士気の低下を招きます。身体拘束は、看護.介護スタッフ自身の士気の低下を招くばかりか、介護保険施設等に対する社会的な不信、偏見を引き起こす恐れがあると言われます。

施設のケアマネジメント、施設サービス計画書についての解説はこちら

身体拘束と合わせて、高齢者虐待の知識も

身体拘束と合わせて、高齢者介護の問題となる「高齢者虐待」。虐待の現状や、どんな手続きが必要かは以下の記事で詳しく紹介しています。

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