介護事故防止対応マニュアルの観点 事故の種類と原因、対応事例
 

介護施設・介護保険サービスでの事故防止マニュアルを考えている方へ。7種類の事故(転倒事故・転落事故、誤飲・異食事故、誤嚥、誤薬、離設・徘徊・行方不明、感染症、送迎中の交通事故・急変)について、事故の原因や事故対応策の例をまとめて紹介します。

通所介護などの介護保険の居宅サービス各事業所でも介護事故などが起きることはありますが、事故発生の防止のための指針の作成が義務付けられていません。それでも、介護事故を未然に防いだり、事故が起きてしまった時には事故に対応することは当然必要になるので、事故防止対応マニュアルを作成し、職員に周知するなど、事故防止体制を作っておくことが重要です。

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事故防止対応マニュアルを作成し、あらかじめ事故発生時の利用者の生命・身体の保護の方法、職員の役割分担、緊急連絡網の整備等について定めておき、職員みんなに周知徹底しておくことが重要です。

事故防止対応マニュアルにはリスクマネジメントが重要

このページでは事故防止対応マニュアルの一般的な観点について紹介していますが、それぞれの介護施設・介護サービス、職場の環境や体制などにより状況は様々です。より現実的で実効性の高い介護事故の予防・対策にするために、リスクマネジメントが大切です。介護の仕事でのリスクマネジメントについて詳しくは以下のページで紹介しています。

事故発生時の初期対応〜連絡

もしも介護事故が発生した場合には、あらかじめ作成・シミュレーションしておいたマニュアルに従って、適切に対応することが必要です。

利用者の保護・初期対応

事故発生時は、現場での初期対応が非常に重要です。介護現場では、第一発見者になると事故報告書を書かなくてはいけないことや、責任重大であることなどから、第一発見者として初期対応することを控えてしまう事例などもあります。あらかじめマニュアルを作成して、実際の場面をシミュレーションや研修を行い、みんなが同じ対応をできるようにしておくことで、確実な初期対応につながります。

具体的には、事故の状況を把握し、利用者の傷害の程度を判断し、救急車の手配等を行うとともに、必要に応じて止血、人工呼吸、AEDの使用、心臓マッサージ等を行います。

救急の時には119番通報して救急車を呼びましょう。

救急車を呼ぶべきか、それとも病院に直接向かうべきか。多くの人がこのような緊急時の判断に迷った場合には、救急安心センターの電話相談サービス「#7119」を利用しましょう。

関係職員・責任者等への緊急連絡

事故が発生し、初期対応を行った後には、他のご利用者などの見守りや対応には配慮しつつ、関係職員や管理者・責任者等への連絡をとり、適切な指示を仰ぐことが必要です。このために、管理者・責任者が不在の場合などにどのように連絡を取るかなどのフローを整理しておくことが必要です。例としては、事業所の管理者への緊急連絡をまず行い、不通の場合にはその上司へ連絡しそれでも不通の場合には法人の管理部門や小規模な法人であれば代表へ連絡するなどの連絡手順をあらかじめ決めておき、職員がすぐわかる場所に連絡先と緊急連絡フローを掲示等しておくことも有効です。

緊急連絡フローと合わせて、利用者と事故の状況を適切に伝えるために、マニュアル作成だけでなく、5W1H(「When:いつ」「Where:どこで」「Who:だれが」「What:何を」「Why:なぜ」「How:どのように」)などで整理して伝える訓練や研修などもしておくとよいです。

関係機関への連絡

重大な事故等については、直ちに関係機関に連絡や報告を行う必要があります。自治体で定められているレベル以上の事故が発生した場合には、すみやかに自治体の事故報告先に指定されたフォーマットで事故の第一報を報告をすることが必要です。

また、死亡事故の場合は警察署に連絡し、食中毒の発生の場合は保健所に報告を行うなどの必要もあります。

利用者の家族などに対する連絡と説明

ご利用者の家族に対しても事故の内容に応じて判断する必要がありますが、早急に連絡を取り、事故の概要や利用者の状況について説明を行う必要があります。連絡が遅れると、利用者の家族は管理体制が不十分なのではないかと不審に思いますし、事故を隠蔽しようとしたのではないかなどの疑いの目を向けられてしまうこともあります。

家族には、事実や情報を分かりやすい形で提供し、理解と納得を得られるよう努めることが大切です。

介護サービスの利用者の事故の種類と対策

1転倒事故・転落事故

ご利用者の状態・転倒リスクの把握

高齢者は加齢に伴い視力や聴力、筋力は落ちてきますし、認知的機能の低下や様々な疾患も生じます。利用者の転倒・転落は、ご利用者の心身の状態や生活環境により、あらかじめ予測・事前対応できることもありますので、利用者のアセスメントを行い、転倒や転落のリスクを把握しましょう。

転倒・転落事故の発生状況の把握

転倒・転落事故の発生状況は、利用者の心身の状態や生活環境によって大きく異なりますので、事業所として、いつ、どこで、どのようにして事故が発生したのか正確に把握することが重要です。

転倒防止対策

転倒・転落を防止する上で最も重要なことは、利用者の心身の状態を維持・改善させることです。利用者の状態の把握で紹介したように、転倒リスクに関しても主観的・客観的に評価しリスクを確認した上で、心身機能の維持や改善をしつつ、その方の動作能力・移動能力・判断力などを考慮して、歩行器などの移動時の補助具や移動時の見守り・介助方法を定めておきます。

また、転倒や転落の事故では、ご利用者の能力などだけでなく、ご利用者の環境(外的要因)も事故の原因になりますので、手すりや照明の配置、床面の状態、段差、ベッドや椅子・手すりの配置などをご利用者の動線の再確認も有効です。

2誤飲・異食事故

誤飲とは、食べ物でないものを飲み込んでしまうことです。誤飲事故の例としては、洗剤や殺虫剤を飲んでしまうことなどを言います。

異食とは、普通ならば食物とされていないものを食べてしまうことです。異食事故の例としては、植木鉢の土や葉を食べてしまう、ティッシュペーパーや薬の包装紙を食べてしまうなどです。

介護施設や介護サービスでは、誤嚥(飲み込みが不十分で気管に飲み物などが入ってしまう)ことが注目されがちですが、認知症のご利用者がいらっしゃる場合には、誤飲・異食対策も重要です。

ご利用者の状態・誤飲・異食リスクの把握

高齢者は、視覚・味覚等の身体機能や判断力の低下、認知症等により、誤飲・異食のリスクが高まります。介護保険施設に入居している場合には施設内に認知症の方が入所している前提で色々環境面の対策をしていますが、通所介護や訪問介護などの居宅サービスなどで在宅生活をしている方でも認知機能が低下している方は多くいます。

施設や生活環境の誤飲・異食のリスク把握と対策

誤飲・異食の事故は、判断力の低下したご利用者が間違えることがないように物品をわかりやすくすることや、環境を整備することで防ぐことが可能なことが多いです。洗剤をペットボトルに入れた状態でテーブルに置いてある状態や、薬の袋が利用者の手の届くところにある状態などは非常に誤飲・異食リスクが高いので、事故防止マニュアルで点検表を盛り込んだりして見直していきましょう。

誤飲・異食事故が発生した場合の対処

万が一、誤飲・異食事故が発生した場合は、直ちに利用者の状態や誤飲・異食したものとその量を確認し、必要に応じて医療機関を受診しましょう。また、嘔吐物が気管に入ってしまうことや、吐かせることで症状が悪化するものもありますので、むやみに吐かせず、医師等の指示に従って実施しましょう。

3誤嚥

誤嚥とは、食道から胃に入るべき飲み物や食べ物、あるいは唾液が、正しく嚥下されずに気管に入ってしまうことです。

嚥下障害とは、正しく嚥下できないことです。

誤嚥の原因

嚥下障害がある人は、誤嚥する可能性が高く、誤嚥には、「誤嚥性肺炎」と「窒息」の2つのリスクがあります。

誤嚥と誤嚥性肺炎の対策

誤嚥防止に対する食事介助の注意点として、食べにくい食品(パサパサしているパン、お餅のように粘膜にくっつきやすいもの、サラサラした汁物など)がありますが、食べにくい食品でも適切な形状、柔らかさ、粘度などに調整することで食べやすくなります。また、むせやすいお茶、味噌汁、ジュース類は、増粘剤(トロミなど)を利用して、とろみをつけましょう。

嚥下しやすい姿勢で食べることも重要で、座位姿勢で顎が上がらないようにしましょう。

口の中に食物が残っていて、食後にそれを誤嚥する場合もあるので、食事の終了時には水分補給や口腔ケアを行い、残渣が残らないようにします。また、食後は、胃液の逆流にも気を付ける必要がありますので、しばらく座位の姿勢で安静にするとともに、利用者の様子の観察をしましょう。食後に横になるときは、ギャッチアップをしたり、頭部を高くするなどして逆流を防ぐようにしましょう。ギャッチアップしすぎて腹圧が上がってしまうことも逆効果になりますので、ご本人がリラックスできる程度の軽いギャッチアップが望ましいです。

窒息時の対応

窒息は、嚥下障害のある人に起こりやすい病態ですが、嚥下障害の自覚がない高齢者でも窒息することはあります。窒息しやすい食品の代表は、餅ですが、その他にもパン、肉、ご飯、海苔など多彩な食品が原因で窒息を生じることがあります。

利用者の窒息に気が付いた場合は、①口からかき出すことを試み、②すぐに続いてもっと奥の気道に入った食物を取る努力(背中を叩く、ハイムリック法を行う)をしましょう。

ハイムリック法は、腹圧を急激に上げて呼気を促し、異物が出ることを期待するもので、救急手技の基本です。職員同士で練習して習得しておきましょう。

4誤薬

誤薬とは、利用者が薬の種類や量、薬を飲む時間や方法を誤って飲むことです。

誤薬の発生要因

誤薬は、職員のミス(ヒューマンエラー)により発生することが多い事故です。薬を取り扱う際には、複数回のチェックを行うことをルール化し、どの職員が見ても誤りがないことを確認できる状態にすることが重要です。誤薬の

誤薬の事故対策

誤薬の事故は薬の確認不足により発生するため、ルール化と職員間の共通認識が重要です。

例としては、「配薬ボックスにセットするとき」「配薬ボックスから取り出すときに、これから薬を持っていくご利用者の名前と薬袋の氏名が合っているか職員同士でチェックする」「ご利用者の前で薬袋を開けるときに名前を読み上げる」「薬が口腔内に残っていないか職員が目視でチェックする」「薬を飲み終えた空袋を確認する」などをルール化しておくことでミスを減らすことができます。

5離設・徘徊(利用者の行方不明)

離設とは、介護業界独特な用語ですが、職員が気づかないうちにご利用者が無断で施設から出て行ってしまうことです。

施設には施錠をしたりして対策をしているとは思いますが、思わぬ場所・タイミングで認知症の方などが施設から出て行ってしまい気付けないこともあり、これらの事故を離設と呼んでいます。

離設・徘徊(利用者の行方不明)の原因と対策

離設の原因は、施錠の確認不足などがありますが、中には窓から出てしまった事例や、厨房やゴミ捨て場の通路などから出てしまうなどの事例もあります。限られた職員で見守りすることは難しいので、施設の施錠を強化したり、窓や通路など目が届きにくい場所の扉などの開閉を制限するなどの対策が有効です。また、来客が多い施設の場合には、来客で施錠を解除した一瞬の間にご利用者がドアから出て行ってしまっていたという事例もありますので、施錠を解除した際には最新の注意を払うことが大切です。

離設・徘徊(利用者の行方不明)の時の対応方法

離設・徘徊(利用者の行方不明)の時の対応としては、最優先すべきはご利用者の保護です。施設から知らないうちに出て行って離設したご利用者が転落事故を起こして亡くなってしまった事例などもありますので、ご利用者が施設の職員で見つけられるだろうと構えず、警察へ通報して捜索の協力を依頼して安全確保することが重要です。また、地域の住民の方などとの関係性も大切で、SOSのときに協力しあえるよう日頃から交流しておくことも有効です。最寄りの警察や地域の方などへの連絡先もまとめておくとよいでしょう。

警察や地域の方などにご利用者の捜索の協力を依頼するときには、ご利用者の容姿や特徴、服装などの情報が必要になるので、離設リスクのある方はご家族などにも相談し、すぐに写真など用意できるようにしておくことや、靴等にGPSをつけておいてもらうなども大切です。

6感染症

感染とは、ウイルス、細菌、寄生虫などの病原微生物が体内に侵入し、増殖することです。

感染症とは、感染によって引き起こされた疾患(発熱、下痢、腹痛など)のことです。

転倒や誤飲などの介護事故とは性質はやや異なりますが、例えば冬場に流行するノロウイルス感染症などは、感染者の嘔吐物や排泄物が感染源となり感染が広がる可能性があります。嘔吐があった場合の対応や処理方法などを確認しておきましょう。

施設内感染などを未然に防ぐことは重要であり、もしも施設内での集団感染などが疑われる場合には保健所等への連絡や対応が求められることなので感染症についても事故防止対応マニュアルなどで感染予防や発生時の対応についてまとめておくと有効です。

主な感染経路(感染ルート)

感染経路 特徴
接触感染 皮膚、粘膜の接触により感染する。介助と介助の間の手洗いや手袋の交換が行われなかった場合に起こりやすい。
飛沫感染 咳やくしゃみなどの飛まつに混入した細菌やウイルスを吸い込むことにより感染する。マスクは有効な予防策である。
空気感染 飛まつの水分が蒸発してできた飛まつ核に付着した病原体が空気中を長時間浮遊し、その核を吸い込むことにより感染する。
経口感染 病原微生物に汚染された水や食物を口にすることにより感染する。
血液媒介型感染 病原微生物を含む血液に傷のある手で触れた場合や病原菌に汚染された注射針による刺し事故により感染する。日常の家庭生活や食器などからの感染はない。

標準感染予防策(スタンダードプリコーション)の実施

感染症が発生した場合には、おう吐物の処理等が必要になりますが、感染症ごとに対応策が異なるため、ここでは標準感染予防策について記載します。ご利用者の血液・体液・分泌液・排泄物は、全て感染源となり得ます。

感染経路で最も多いのは、接触感染です。感染源に触れることで感染します。施設の設備や医療機器が感染源になることもありますが、ほとんどの場合には、施設内で働く人の手により感染が広がっていきます。

このように、血液・体液・分泌液・排泄物は、全て感染源となり得えるという考え方のもとで日頃から対策すべき行動のことをスタンダードプリコーションといいまとめられています。詳しくは以下の記事で紹介しいています。

保健所への情報提供

感染症が発生した場合は、利用者及び職員全員の健康状態を把握し、速やかに保健所に連絡しましょう。
また、事業者は、利用者だけでなく、職員が感染症にり患した場合に備えて、あらかじめ「事業継続計画(BCP)」を作成しておきましょう。

7送迎中や施設外での交通事故・急変など

送迎の多い、通所介護やショートステイなどの介護サービス事業所では、送迎中の事故や急変についてもあらかじめマニュアルを作成しておき、対応方法を職員間で共有し研修しておくことが重要です。通常だと、業務として人を乗せて輸送する場合には第二種免許が必要ですが、通所介護やショートステイなどの送迎は無料であれば道路交通法上も自家輸送として第一種免許(普通免許)で可能となっています。そのため、介護職員が送迎を兼務したり、第一種免許を持つシニアの送迎ドライバーが送迎を担当するなど多様な送迎の担い手になっていることが多いです。

送迎中の事故や違反の対策

送迎に使用する車両は、車椅子対応になっているなど、福祉車両を用いることが多いです。ワゴン車で車椅子リフトがついているタイプの車両や、軽自動車でスロープがついていて車椅子を載せることができる車両などがあり、それぞれ正しい使い方を行わないと車椅子の固定などが行えません。介護の送迎であるため、ご利用者の特性を知り移動や乗降の介助方法を共有することはもちろんですが、車椅子についての知識も必要です。

福祉車両については初めての業務だとわからないことが多いので正しい使い方をしっかりと習得する必要があります。施設内で使い方を共有することもよいですが、可能ならば「福祉送迎運転者講習会」や「福祉有償運送」の研修を受講するなどして、福祉輸送に関する知識や技術を総合的に学ぶことも有効です。また、近年は運転者に過失が無くてもあおり運転やもらい事故などもあるので、ドライブレコーダーをつけておくことも自分たちを守る対策としては有効です。

送迎中の急変の対応

送迎中にご利用者の状態が急激に悪化して意識が消失したりすることもあり得ます。万が一の時の対応については二次的な事故が起きないよう落ち着いて安全確認したうえでご利用者の対応ができるよう事前にポイントや連絡先を整理しておき、フローチャートなどで車両の中のすぐ見れる場所に置いておくなどすると焦ってしまったときにも対応できるかと思います。

日本医師会が作成した心肺蘇生法の手順の資料もわかりやすいのでご参照をお勧めします。

心肺蘇生法の手順(日本医師会)

送迎中の交通事故の対応

送迎中の交通事故の場合には、対人事故や怪我人がいる場合には救急車の手配、安全な場所に車両を移動し、警察への連絡が必要です。保険会社に連絡しないといけないと思われがちですが、警察が事故証明を行うので通常は保険会社への連絡は後でも問題になりません。事故が起きた時の保険会社への連絡のタイミングも事前に保険会社などに確認しておくと良いでしょう。事故の状況や被害を後から説明する必要は必ず出てくるために落ち着いたら事故の状況をスマホのカメラなどで撮影しておくことや、保存が必要なドライブレコーダーの場合には適切なタイミングで保存をするようにしましょう。

介護での事故防止対応マニュアルは大切

今回は、介護施設や介護保険サービスであり得る7種類の事故について、どんな観点で事故防止・対応マニュアルを作成していくと良いかを紹介しました。

介護の仕事はマニュアル化が難しい部分もありますが、事故についてはあらかじめ想定してどのような場合に、どんな対応をするかをマニュアル化して、職員みんなで共有し、定期的に見直ししていくことが大切です。

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