見当識障害とは?時間・場所・人がわからなくなる仕組みと介護現場での向き合い方

見当識障害とは?時間・場所・人がわからなくなる仕組みと介護現場での向き合い方
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「今日は何月何日ですか」「ここはどこだかわかりますか」

介護現場でこうした質問を投げかける場面は多いと思います。これは雑談ではなく、「見当識」という、その人が今どういう状況にいるのかを把握する力を確認するための観察にもなります。

見当識障害は認知症の症状として広く知られていますが、実際の現場では「時間がわからない」「場所がわからない」「人がわからない」という3つの側面が、必ずしも同時に同じ程度で進むわけではありません。

理学療法士として介護施設で多くの方と関わってきた経験から、それぞれの見当識がどのように失われていくのか、現場での向き合い方も含めて解説します。

見当識とは何か

見当識とは何か

見当識とは、今がいつで、自分がどこにいて、自分が誰と一緒にいるのかを認識する能力のことです。

専門的には「時間」「場所」「人物」の3つの側面(時間の見当識・場所の見当識・人物の見当識)に分けて評価されます。

見当識障害(見当識の障害)とは、この3つのうちいずれか、あるいは複数が低下し、自分が置かれている状況を正しく認識できなくなる状態を指します。

意識障害の評価(JCS・GCS)とは異なり、見当識障害は意識ははっきりしているにもかかわらず、状況認識だけが障害されている状態である点が特徴です。

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見当識障害の主な原因

見当識障害を引き起こす主な原因には以下のようなものがあります。

  • 認知症(アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症など) 記憶障害と並んで中核症状の一つとされています
  • せん妄 入院・手術後・発熱・脱水などで急性に生じる意識障害の一種で、見当識障害を伴うことが多い
  • 高次脳機能障害 脳卒中や頭部外傷の後遺症として生じることがある
  • 環境要因 長期入院・長期入所により、カレンダーや時計、外の景色などの情報に触れる機会が減ることで生じる場合もある

高次脳機能障害については高次脳機能障害とは 注意障害・失行・失語・認知症もご参照ください。

アルツハイマー型認知症における見当識障害の位置づけについてはアルツハイマー型認知症の自然経過、中核症状、周辺症状で詳しく解説しています。

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場所の見当識障害 最初に強く出やすく、帰宅願望につながりやすい

介護施設で生活していると「今日が何月何日かわからない」「ここがどこかわからない」ということがよく見られますが、私の経験では、場所の見当識障害は認知症の症状が強い方では比較的早い段階から出やすいという印象があります。出やすいというよりも、気付くきっかけになりやすいといった方が適切かもしれません。

場所がわからなくなると、「ここは自分の家ではないけど、どこかわからない!」という感覚が強く出てきます。これが、いわゆる帰宅願望夕暮れ症候群として表れることが多いです。「家に帰りたい」と繰り返し訴える、荷物をまとめて出口に向かう、職員に「家まで送ってほしい」と頼む、といった行動につながります。

場所の見当識障害が強い方の中には、「ここに監禁されている」「知らない人に連れてこられた」という認識になり、「警察に電話したい」「家族に何も言わずにここにきてしまったから連絡を取りたい」と言い出すケースもあります。これは本人にとっては「自分は今、見知らぬ場所に不当にいる」という現実の認識そのものなので、本人の中では非常に合理的な行動です。

帰宅願望への対応については認知症の方への声掛け コミュニケーションや話題選びの事例もご参照ください。

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時間の見当識障害 軽度の方でも長期入所で進んでいく

時間の見当識は、場所の見当識とは少し違う進み方をすることがあります。

認知症の症状が比較的軽い方でも、長期間施設で生活していると、だんだんと「何月何日か」「今日が何曜日か」を意識すること自体がなくなっていくことがあります。

これは、日常生活の中で「今日は何日だから何をする」という判断をする機会自体が、施設での生活では減ってしまうことが背景にあると考えています。在宅では「ゴミの日だから出さなければ」「孫が来る日だから準備しなければ」といった形で、日付や曜日を意識する場面が日常的にありますが、施設での生活はルーティン化されているため、日付・曜日を意識する必要性そのものが薄れていくのです。

さらに進むと、午前か午後かさえもわからなくなってくることがあります。これは脳の機能というだけでなく、生活環境の中で「時間を意識する手がかり」がどれだけあるかにも影響される側面があると感じています。

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人物の見当識障害 軽度では保たれやすいが、進行とともに記憶と混在してくる

人物の見当識、つまり「この人が誰か」という認識については、認知症が中等度・重度になると、初めから相手の名前を覚えることが難しくなります。一方で、軽度の方の場合は、比較的長く名前か顔を覚えていてくださり、コミュニケーションも問題なく取れることが多いです。

しかし、軽度の方でも見当識障害や記憶障害が少しずつ進んでいくと、人物そのものの認識は保たれていても、「誰が何を言ったか」「いつ言ったか」という時間軸・人物軸の記憶が混在してくるという現象が見られます。

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記憶の混在から生まれる「作話」とどう向き合うか

見当識障害と記憶障害が進むと、「ありもしない出来事を、本当にあったことのように話す」という、いわゆる作話が見られることがあります。

私自身の経験で言うと、例えば、利用者の方は私のことを「秋山さん」だと認識してくださっています。しかし、別の利用者や職員が話していた内容と、私が話していた内容が混ざってしまい、さらに時間関係も入れ替わってしまうことがあります。ずっと前に話したことが「昨日話したこと」として変換されてしまい、「昨日自分でそう言ってたじゃないですか、もう忘れたんですか」と、私の方が物忘れをしていると本気で思って話してくる、というようなことが起こります。

ここで重要なのは、本人は嘘をついているわけでも、ふざけているわけでもないということです。本人の頭の中には確かにそういう記憶の断片があり、無意識のうちにそれらをつなぎ合わせて、本人にとっては「正しく記憶されたもの」として話しているのです。だからこそ、本人は真剣です。

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作話への対応で気をつけていること

それまであまり辻褄の合わない話をしなかった方が、こうした話をするようになると、聞いている側としては少しドキッとする瞬間があります。私が現場で気をつけているのは以下のような点です。

  • 頭ごなしに否定しない 「そんなこと言っていません」と強く否定すると、本人は自分の記憶を否定された、あるいは自分がおかしいと言われたと感じてしまい、不安や不信感につながることがあります
  • その話題を深く掘り下げすぎない 「いつ言ったんですか」「誰から聞いたんですか」と詳細を追及していくと、本人がさらに記憶を組み合わせて話を補強してしまい、こちらも本人も混乱が深まることがあります
  • 軽く受け止めて、別の話題に移す 「そうでしたか」と受け止めつつ、自然に別の話題に切り替えることで、その場の雰囲気を保ちながら本人の自尊心も守ることができます
  • ふざけているのか、本当に混在しているのかを見極める 時々、利用者の方が冗談やからかいでこうした話をすることもあります。普段のその方の様子や会話のトーンから、これが見当識・記憶の問題によるものか、コミュニケーションの一環なのかを見極めることも必要です

BPSD(行動・心理症状)としての見当識障害・作話の評価については認知症の行動心理周辺症状「BPSD」とは認知症行動障害尺度DBD13とはもご参照ください。

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見当識の確認方法

介護・医療の現場で見当識を確認する方法には以下のようなものがあります。

日常的な観察による確認

「今日は何月何日ですか」「ここは何という施設ですか」「私の名前を覚えていますか」といった質問を、自然な会話の中で行うことで、時間・場所・人物それぞれの見当識の状態を把握できます。毎回同じ質問をするのではなく、会話の流れの中で確認することで、本人に「テストされている」という不快感を与えずに評価できます。

標準化された評価尺度を用いる方法

より客観的に評価する場合は、MMSE(Mini-Mental State Examination)などの認知機能評価尺度が使われます。MMSEには「今日の年月日・曜日・季節」「今いる場所」を問う項目が含まれており、見当識の状態を点数化して評価できます。MCI(軽度認知障害)の評価にも用いられます。詳しくは軽度認知障害(MCI)とはもご参照ください。

認知症高齢者の日常生活自立度との関係

見当識障害の程度は、認知症高齢者の日常生活自立度の判定にも関わってきます。見当識障害がどの場面で、どの程度の支援が必要な形で現れているかを観察し、記録することが、適切な支援計画につながります。

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環境からのアプローチ リアリティ・オリエンテーションの視点

見当識障害そのものを治療で完全に元に戻すことは難しい場合が多いですが、環境を整えることで見当識の維持・改善を支援するアプローチがあります。これを「リアリティ・オリエンテーション」と呼びます。

  • 大きく見やすいカレンダー・時計を生活空間に置く
  • 季節を感じられる装飾(七夕・お正月など)を取り入れる
  • 朝の挨拶で「今日は何月何日、〇曜日です」と自然に伝える機会を作る
  • 名前を呼びながら話しかけることで、人物の見当識を支える
  • 窓から外の景色(明るさ・天気)が見える環境を確保する

こうした環境調整は、見当識障害そのものをなくすものではありませんが、本人が「今の自分の状況」を少しでも認識しやすくする手助けになります。場所の見当識障害から来る帰宅願望についても、施設の中に「自分の居場所」と感じられる空間(使い慣れた家具・写真など)を作ることで、不安が和らぐ場合があります。

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まとめ

見当識障害は「時間」「場所」「人物」という3つの側面でそれぞれ異なる進み方をします。場所の見当識障害は認知症の症状が強い方で早期から出やすく、帰宅願望や「警察に電話したい」という訴えにつながりやすい傾向があります。時間の見当識は、軽度の方でも長期入所の中で徐々に失われていくことがあります。人物の見当識は軽度では保たれやすい一方、進行とともに記憶の混在から作話が見られることがあります。

作話に対しては、否定せず、深追いせず、自然に話題を切り替えるという対応が、本人の自尊心を守りながら関係性を維持するために重要です。見当識障害は本人にとっての「現実」であるという視点を持つことが、介護現場での向き合い方の土台になると感じています。

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