アルツハイマー型認知症ステージ分類「FAST」とは?(Functional Assessment Staging)7段階の評価表と活用方法

アルツハイマー型認知症の進行度・重症度を評価するステージ分類「FAST(Functional Assessment Staging)」について、7段階の評価表と、看護・介護・ケアマネジメントの現場での活用方法を解説します。FASTは、認知症の「今」を把握するだけでなく、「これから」を見通して先回りのケアにつなげられる、現場でとても実用的なツールです。
FAST(Functional Assessment Staging)とは
FAST(Functional Assessment Staging)とは、アルツハイマー型認知症の進行度・重症度を、日常生活動作(ADL)や生活機能の障害の程度から7段階で分類する、観察式の評価尺度です。ニューヨーク大学のバリー・ライスバーグ(Barry Reisberg)博士らによって開発され、1984年に発表されました。世界的に広く使用されている評価尺度です。
FASTの最大の特徴は、記憶力のテストではなく、「生活の中で何ができて、何ができなくなってきたか」という生活機能の観点から進行度を捉えるところにあります。本人に質問して答えてもらう形式ではなく、日頃の様子を観察して判定する観察式なので、質問形式の検査が難しくなった進行期の方でも評価できます。
アルツハイマー型認知症は、おおむね10年程度の経過をたどる進行性の疾患で、進行とともに現れる症状が変わっていきます。FASTはこの進行の道筋をステージとして示しているため、今のステージが分かれば、次に現れやすい症状をある程度予測できるという点が、現場にとって大きな価値になります。アルツハイマー型認知症そのものの経過や症状についてはアルツハイマー型認知症の自然経過、中核症状、周辺症状、薬物療法効果で詳しく解説しています。
FASTの7段階の評価表
FASTの7つのステージの概要を表にまとめます。ステージ1が正常で、数字が大きくなるほど重症度が増し、ステージ7が高度のアルツハイマー型認知症です。
| ステージ | 臨床診断の目安 | 生活機能の特徴(例) |
|---|---|---|
| 1 | 正常 | 主観的にも客観的にも機能低下は認められない。 |
| 2 | 年齢相応 | 物の置き忘れや、言葉が出てきにくい(喚語困難)ことを自覚するが、生活や仕事に支障はない。 |
| 3 | 境界状態 (MCI:軽度認知障害に相当) | 職業上の複雑な仕事ができなくなる。熟練を要する仕事の場面で、機能低下が同僚に気づかれる。初めての場所への旅行が難しくなる。 |
| 4 | 軽度 | 買い物、金銭管理、来客の接待や食事会の計画など、日常生活の中の複雑な作業ができなくなる。 |
| 5 | 中等度 | 季節や場面(TPO)に合った服を自分で選べなくなり、介助や声かけが必要になる。入浴を嫌がり、説得が必要なこともある。 |
| 6 | やや高度 | 着衣・入浴・トイレ動作(水を流す、後始末など)に介助が必要になる。尿失禁・便失禁が見られるようになる。 |
| 7 | 高度 | 話せる言葉が数語に限られ、やがて失われる。歩行能力、座位保持、笑う能力が失われ、最終的には意識レベルの低下(昏迷・昏睡)に至る。 |
※ Reisberg B, et al. Functional staging of dementia of the Alzheimer type. Ann N Y Acad Sci. 1984; 435: 481-483. をもとに作成。
ステージ6・7は、原著ではさらに細かい下位段階(6a〜6e、7a〜7fなど)に分かれており、着衣→入浴→トイレ→尿失禁→便失禁、言語→歩行→座位→笑顔→頭部保持といった順に機能が失われていくとされています。
機能低下は「発達の逆順」で進む

FASTの背景には、興味深い考え方があります。アルツハイマー型認知症の機能低下は、子どもが成長して獲得していく機能の、ちょうど逆の順番で失われていくというものです(逆行性の発達、retrogenesisと呼ばれます)。
子どもは、首がすわり、笑い、座り、歩き、話し、トイレが自立し、服が着られるようになり、やがて買い物や仕事ができるようになります。アルツハイマー型認知症では、この獲得の順番と逆に、仕事→買い物・金銭管理→着衣→入浴→トイレ→排泄コントロール→言葉→歩行→座位→笑顔、という順で機能が失われていく傾向があるのです。この視点を知っておくと、FASTの7段階が単なる表の暗記ではなく、流れとして頭に入りやすくなると思います。
HDS-R・MMSEとの違い FASTは「生活」を見る
認知症の評価というと、HDS-R(長谷川式認知機能評価スケール)やMMSE(ミニメンタルステート検査)が有名です。これらとFASTの違いを整理しておきましょう。
| HDS-R/MMSE | FAST | |
|---|---|---|
| 評価方法 | 質問式(本人に答えてもらう) | 観察式(日頃の様子から判定) |
| 見るもの | 記憶・見当識などの認知機能 | ADL・生活機能の障害の程度 |
| 向いている場面 | スクリーニング、軽度〜中等度の評価 | 進行度の把握、重度でも評価可能、経過の見通し |
HDS-RやMMSEは優れた検査ですが、質問に答えられることが前提なので、進行期には天井ならぬ「床」にぶつかって差が見えなくなります。また、点数は分かっても「生活で何に困るのか」は直接は見えません。FASTは逆に、生活機能そのものを見るので、介護の現場で「今、何の支援が必要で、次に何が必要になるか」を考えるのに直結するという強みがあります。両者は競合するものではなく、組み合わせて使うものです。
FASTの活用方法 「次に来るもの」に先回りする
ここからは、FASTを現場でどう活かすかを、私なりの考え方も交えてお伝えします。
①予後予測として使い、先回りのケアにつなげる
FASTの一番の価値は、「今のステージ」から「次に現れる症状」を予測できることだと思っています。これはまさに予後予測の考え方です。
例えば、今がステージ5(服選びに介助が必要)なら、次はステージ6、つまり着衣・入浴・トイレの介助や失禁への対応が必要になってくる、と見通せます。であれば、失禁が始まってから慌てて対応するのではなく、トイレの場所を分かりやすくする、トイレ誘導の声かけを始める、リハビリパンツの情報を家族に伝えておく、住環境を整えておく…などと、問題が起きる前に手を打てるわけです。
問題が起きてから対応するのではなく、起きる前に調整する。この考え方は介護度進行予防の記事でもお伝えした、私が一番大切にしている視点です。

②家族への説明に使い、心の準備を支える
認知症のご家族が一番つらいのは、「この先どうなってしまうのか分からない」という不安です。FASTのステージ分類は、ご家族への説明にとても役立ちます。「今はこの段階で、この先はこういう変化が予想されます」と道筋を示せると、ご家族は心の準備ができ、漠然とした不安が少し軽くなります。
そしてこれは、単なる症状の説明にとどまりません。「言葉が話せるうちに、聞いておきたいことはありませんか」「動けるうちに、行きたい場所や会いたい人はいませんか」という、残された機能と時間をどう使うかという前向きな話し合いにつなげられます。本人の意思を確認できるうちに人生会議(ACP)を始めるきっかけとしても、FASTの見通しは活きてきます。認知症が進んでからでは、本人の本当の望みを聞くことがどんどん難しくなりますから、「まだ聞ける今」の価値に気づかせてくれる道具でもあるのです。
③ケアプラン・サービス調整の根拠にする
ケアマネジャーやサービス事業所にとっては、FASTはケアプランの根拠づくりにも使えます。「FASTでステージ6相当であり、入浴・トイレ動作に介助を要するため、訪問介護での身体介護を位置づける」というように、生活機能の段階を共通言語として使えば、多職種間での状態共有がスムーズになります。
ICFを活用したケアプランの考え方とも相性がよく、「心身機能の低下がどの生活行為に影響しているか」を整理する助けになります。
④終末期の見通しと、尊厳ある選択を支える
あまり語られませんが、大切なことなのでお伝えします。FASTのステージ7は、言葉が失われ、歩行や座位、やがて笑顔までも失われていく段階です。医療の分野では、FAST 7が進んだ状態は、アルツハイマー型認知症の終末期を判断する目安の一つとしても使われています。
ここで考えたいのは、この段階に至ったとき、本人にとって何が最善なのかということです。無理に機能訓練を続けることが本人の望みなのか。それとも、苦痛なく穏やかに過ごせることを優先するのか。
「不甲斐ない」「情けない」と感じながらのリハビリ・機能訓練は本当に必要かという記事でも書きましたが、弱っていく段階では、抗うことだけが正解ではありません。
FASTで先の見通しを持てるからこそ、元気なうちに本人・家族と「その時どうしたいか」を話し合っておける。看取りや延命治療への考え方も含めて、尊厳ある選択を支える材料としてFASTを使ってほしいと思います。
FASTを使うときの注意点
便利なFASTですが、使ううえでの注意点も押さえておきましょう。
アルツハイマー型認知症を想定した尺度である
FASTはアルツハイマー型の典型的な進行を前提にしています。レビー小体型や前頭側頭型、血管性認知症では進行のパターンが異なるため、そのまま当てはめることはできません。
順番どおりに進むとは限らない
典型的な順序を示したものであり、実際には個人差があります。体の病気や環境の変化(せん妄など)で急に悪く見えることもあるため、「急な変化」のときは認知症の進行と決めつけず、身体面の原因を疑うことが大切です。
ステージは「決めつけ」に使わない
「もうステージ6だから何もできない」ではなく、「ステージ6でも、できること・保たれている機能は何か」を見る姿勢が大切です。予後予測の記事でも書きましたが、予測は諦めるためではなく、残された機能と時間をどう活かすかを考えるために使うものです。
まとめ FASTで「見通し」を持ち、今できることに手を打つ
FAST(Functional Assessment Staging)は、アルツハイマー型認知症の進行度を生活機能から7段階で捉える評価尺度です。質問式の検査では見えない「生活の困りごと」を捉えられ、重度になっても評価でき、そして何より、次に来る変化を見通せるという強みがあります。
認知症のケアで一番もったいないのは、問題が起きてから場当たり的に対応することの繰り返しになってしまうことです。FASTで見通しを持てば、失禁が始まる前にトイレ誘導を、言葉が失われる前に本人の望みの確認を、と「その時」が来る前に、今できることへ手を打てます。評価表を覚えることが目的ではなく、目の前のその人の「これから」を一緒に考える道具として、FASTを活用していきたいですね。
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。FASTによる評価や認知症の診断・重症度判定は、医師などの専門職が総合的に行うものです。気になる症状がある場合は、かかりつけ医やもの忘れ外来、地域包括支援センターなどにご相談ください。




