アルツハイマー型認知症の自然経過、中核症状、周辺症状、薬物療法効果

アルツハイマー型認知症(AD)の自然経過、治療の三大特徴、中核症状、周辺症状、医療機関受診のタイミング、治療方法、薬物療法について図・イラスト入りで解説します。
15年くらい前までは、脳血管性認知症のほうがアルツハイマー型認知症よりも有病者が多いというデータがありましたが、現在はアルツハイマー型認知症の有病者は増加しています。これは単にアルツハイマー型認知症を発症した人が増えたというよりは、認知症教育・啓発活動などでアルツハイマー型認知症の存在が一般的になり、医療機関を受診することが増えてきたことも一因かと思います。認知症は「物忘れ」ですが、正常老化とは異なる病気です。これに対して、どのような状態なのかをしっかりと見極めて対処していくことで症状を遅らせたり、場合によって症状が良化することもあります。
三大所見、中核症状、周辺症状、医療機関受診、治療、薬物療法について紹介します。
なお、日本の認知症の人の数は今後さらに増えると見込まれており、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になるとも推計されてきました。誰にとっても身近な病気になっています。
認知症全体の動向については日本の認知症 脳トレや認知症ケアはどうなる?もあわせてご覧ください。
アルツハイマー型認知症(AD、アルツハイマー病)の自然経過

アルツハイマー型認知症では、発症から近時記憶の低下・鬱っぽい・イライラしている・物盗られ・攻撃性などの症状がみられます。
それから時間・場所・人の見当がつかなくなり、それにより様々な日常生活の行為などの段取りが組めず、実行できなくなっていきます。
更に進行すると、失禁・歩行困難・会話困難・嚥下障害などを生じ、寝たきり状態になるという経過をたどることが多いと言われます。
この経過はゆっくりと年単位で進んでいくのが特徴で、急に進んだように見えるときは、脱水や感染症などをきっかけにしたせん妄が重なっている場合もあります。「急に認知症が進んだ」と感じたときほど、身体面に何か原因がないかを疑う視点も大切です。
認知症の前段階「軽度認知障害(MCI)」にも注目
この10年でとても注目されるようになったのが、軽度認知障害(MCI)という考え方です。MCIは、認知症とは言えないけれど、年齢相応のもの忘れよりは記憶などの機能が低下している、いわば認知症の一歩手前の段階です。
MCIが重要視されるようになった背景には、後で紹介する新しい治療薬が「ごく早期(MCI〜軽度)」を対象にしていることもあります。早く気づいて対処することの意味が、以前よりずっと大きくなってきました。
MCIについて詳しくは軽度認知障害とは?MCIという認知症の一歩手前が注目される理由で解説しています。
認知症で医療機関(外来)を受診するタイミング
認知症治療は、早ければ早い方が良いと言われますが、どのようなタイミングで受診かと言うと、物忘れが目立ったころかと思います。
理想はやはり、家族や関わっている人が「あれ?なんかおかしいな」と気づいた時かと思います。
以下で治療薬の紹介をしていますが、アリセプトなどの薬品の登場で、伝達がうまくいかなくなった神経の伝達を助けるような治療ができてきました。さらに近年は、後述するように病気の原因そのものに働きかける薬も登場し、「早く受診すること」の意味がいっそう大きくなっています。
認知症の中核症状、周辺症状(BPSD)の捉え方

認知症の症状は様々なのですが、基本的には中核症状とその周辺症状で考える方法が一般的になってきました。
認知症の中核症状(記憶障害、実行機能障害、失行、失認、失語など)
アルツハイマー型認知症の根本原因は、神経病理所見の三大特徴にあるような「老人斑」「神経原線維変化」「神経細胞死」に代表される脳神経の劣化です。
神経細胞同士の連絡と神経細胞自体の不具合により、記憶障害、道具が使えない、言葉が出てこない、物がなんだか分からないなどの症状がでます。これが中核症状です。
この「老人斑」の正体が、脳にたまるアミロイドβ(ベータ)というタンパク質で、「神経原線維変化」にはタウというタンパク質が関わっています。発症のかなり前から、これらのタンパク質が少しずつ脳にたまっていくことが分かってきました。後で紹介する新しい薬は、まさにこのアミロイドβをターゲットにしたものです。
認知症の周辺症状(BPSD)
中核症状は、脳細胞の不具合に由来して発症者の多くにみられるものです。周辺症状(BPSD)というのは、その方の性格、環境、生活リズム、人との関わりなどによって現れたり、現れなかったりするものです。不安・抑うつ・興奮・徘徊・物盗られ妄想などがこれにあたります。
周辺症状は、ケアや環境を工夫することで和らげられることも多く、介護の力が発揮できる部分です。BPSDの種類や評価スケールについては認知症の行動心理周辺症状「BPSD」とは?で詳しく解説しています。
認知症の中核症状と周辺症状の考え方・接するときのポイント
例えば、教員だった人が認知症になると、はじめはイライラが強くなったり、情けない気持ちから鬱っぽくなったりします。その後、不安で夜寝れなくなったり、今でも仕事しているような気持ちで「学校に行く」などと言いだしたり・・・という感じです。
認知症の接し方では、相手の背景を知り、どのような理由で周辺症状が生じているのかを考察しながら接することが大切といわれています。
この「その人の背景から考える」という視点は、新しい薬が登場した今でもまったく色あせません。むしろ、薬で病気の進行を抑えられる時代になったからこそ、その人がその人らしく過ごせるように支えるケアの大切さは増していると思います。具体的な声かけの工夫は認知症の方への声掛け、暴言・暴力が見られるときの接し方は認知症の方の暴言や暴力に対しての接し方も参考にしてください。
認知症の簡易検査 HDS-R(長谷川式認知機能評価スケール)の方法、動画、テンプレート
認知機能の簡易検査としては、長谷川式(HDS-R)やMMSEがよく使われます。HDS-Rは9項目の設問で構成された簡易知能評価スケールで、30点満点中20点以下だと“認知症疑い”とされます。
なお、後述する新しい治療薬を使うかどうかの判断では、こうした認知機能検査に加えて、脳のMRIや、アミロイドβの蓄積を確認するアミロイドPET検査・脳脊髄液検査などが行われます。「認知症かどうか」だけでなく「アミロイドβがたまっているか」まで調べる時代になってきました。
認知症の周辺症状の評価指標 DBD13
認知症行動障害尺度 (Dementia Behavior Disturbance Scale)DBD13は、認知症の周辺症状(行動・心理症状)を簡潔に評価できる指標です。
アルツハイマー型認知症の薬物療法①
中核症状を抑える薬(アリセプト、レミニールなど)
従来からある認知症の薬は、症状の進行を緩やかにする「症状改善薬(対症療法)」です。中核症状には神経伝達物質の調整を行うコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニールなど)が処方されることが多いです。アルツハイマー型認知症では、アセチルコリンという神経細胞同士の連絡物質の活性が低いことが特徴とされており、その部分の濃度が上がる効果があると言われています。
コリンエステラーゼとは、コリンを分解する酵素です。神経から出されたお手紙を分解しちゃうようなイメージです。
神経細胞同士は、アセチルコリンを中心とした神経伝達物質を介して情報送信を送っているので、お手紙が途中で分解されちゃうと情報が届かないという事態が生じます。このためコリンエステラーゼ阻害薬が治療の選択肢になるそうです。
ちなみに、ドネペジル (商品名:アリセプト)は、2014年9月に「レビー小体型認知症」にも保険適応となりました。
このほか、中等度〜高度のアルツハイマー型認知症には、神経の過剰な興奮を抑えるタイプの薬であるメマンチン(商品名:メマリー)が使われることもあります。コリンエステラーゼ阻害薬とは作用の仕組みが違うため、併用されることもあります。
アルツハイマー型認知症の薬物療法②
原因に働きかける新しい薬「疾患修飾薬」(レカネマブ・ドナネマブ)
この記事を最初に書いた2016年から大きく変わった、いちばん大きなトピックがこれです。
これまでの薬が「症状を抑える」ものだったのに対し、病気の原因そのものに働きかけて進行を抑える「疾患修飾薬」が登場しました。
レカネマブ(商品名:レケンビ)
2023年12月、日本で初めて保険適用となった抗アミロイドβ抗体薬がレカネマブ(商品名:レケンビ)です。エーザイが開発した薬で、先ほど中核症状のところで触れた、脳にたまる原因タンパク質「アミロイドβ」に直接くっついて取り除くという、まったく新しい仕組みの薬です。脳にたまったゴミ(アミロイドβ)を掃除するようなイメージですね。2週間に1回、点滴で投与します。
ドナネマブ(商品名:ケサンラ)
2024年には、国内で2剤目となる抗アミロイドβ抗体薬ドナネマブ(商品名:ケサンラ)も保険収載されました。こちらも同じくアミロイドβを取り除くタイプの疾患修飾薬です。
期待は大きいが、知っておきたい注意点
画期的な薬ですが、現場で関わる者として、過度な期待を持ちすぎないために知っておきたい点もあります。
正直なところ、効果が劇的とまでは言えず、副作用や費用とのバランスをどう考えるかは、専門家の間でも議論があります。ただ、「原因に働きかける薬がついに実用化された」というのは、認知症医療にとって大きな一歩であることは間違いありません。今後さらに研究が進み、より良い治療につながっていくことが期待されます。
薬だけに頼らない、その人らしさを支えるケアを
新しい薬の登場で認知症医療は確実に前進していますが、薬がすべてを解決してくれるわけではありません。むしろ、その人の背景を知り、周辺症状の理由を考えながら関わるという、この記事で最初から述べてきたケアの基本は、これからも変わらず大切です。
認知症のある方は、保護される対象ではなく、その人生の主人公です。薬で進行を抑えながら、その人らしい暮らしをどう支えていくか。医療と介護が手を取り合って関わっていくことが、これからますます求められていくと思います。認知症との向き合い方については認知症の認識に変化を 高齢者は保護の対象ではなく人生の主人公もぜひ読んでみてください。
※この記事は一般的な情報をまとめたものです。治療薬の適応や副作用、検査の要否などについては、必ず医師にご相談ください。







