不穏とは?意味と医療・介護・看護記録での使い方|せん妄との違い・言い換え

「不穏(ふおん)」という言葉は、病棟での看護師の申し送りや、介護施設などでの申し送り・記録などで、たびたび登場する言葉です。「不穏時はリスペリドン内服」などと医師から指示が出ていることもあります。とても便利で現場に浸透した言葉ですが、その一方で、不穏という状態を客観的に評価するのはなかなか難しく、看護師や介護職員によって、不穏や不穏状態の捉え方はさまざまです。
この記事では、不穏の意味を整理しつつ、どんなときに不穏という表現が適切で、どう記録すれば伝わりやすいのかを、現場の視点から考えていきます。
不穏とは?意味
不穏とは、文字どおり「穏やかでない」状態のことで、医療・介護の現場では、落ち着きがなくソワソワしている、興奮している、機嫌が悪く荒れている、といった様子を指して使われる言葉です。
「不穏状態」という言い方もよく使われますが、意味は同じです。穏やかでない心身の状態が続いていることを表しています。医学的な厳密な診断名というより、現場で「落ち着かない様子がある」ことをざっくり共有するための、実用的な言葉だと考えるとよいです。
実際の介護の現場では、落ち着かない状態や、機嫌が悪そうな様子のときに「不穏」という言葉を使うことが多いように思います。また、普段から暴力や暴言が出やすい方が、実際に暴力的・暴言的な言動を見せているときに、「不穏が見られています」という形で、その状態を端的に伝えるために使われることもあります。
不穏とせん妄の違い
不穏と混同されやすいのが「せん妄」です。この2つは関連していますが、意味する範囲が異なります。
つまり、不穏はあくまで「見た目の状態」を表す言葉で、せん妄はその背景にある「病態」を指す言葉です。
昨日まで普通だったのに急におかしくなった、など『急激な変化』がある場合はせん妄を疑うサインです。不穏はせん妄の症状の一つとして現れることもありますが、不穏=せん妄ではありません。痛み、不安、便秘、空腹、不快感など、せん妄以外のさまざまな原因でも不穏は生じます。
逆に言えば、不穏という様子の裏に、せん妄という見逃してはいけない病態が隠れていることもあります。「落ち着かないな」で済ませず、その背景に意識障害(せん妄)がないか、発熱や脱水などの身体的な原因がないかを考える視点が大切です。せん妄について詳しくはせん妄とは?原因・症状・種類と認知症との違いで解説しています。
「不穏」という言葉は便利だが、大雑把すぎる
ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。不穏という言葉はとても便利ですが、どんな状態なのかを伝えるには大雑把すぎるのです。
看護サマリーや介護記録に「たびたび不穏な状態が見られました」というコメントが入っていることがありますが、これを受け取る側は「不穏な状態って、どんな状態のことを言っているのだろう……」と、想像力を膨らませて考えなくてはいけなくなります。場合によっては、実際の様子よりも必要以上に身構えてしまったり、逆に軽く捉えてしまったりすることもあります。
「不穏」の一言では、それが「夜眠れずソワソワ歩き回っていた」のか、「職員に大声で怒鳴って手が出そうになった」のか、「ブツブツ独り言を言って表情が硬かった」のか、まったく分かりません。穏やかでなかったのは事実でも、その中身は人によって、場面によってまったく違います。
だからこそ、申し送りや記録では、「不穏」という言葉で終わらせず、具体的にどういう言動が見られたのかを書き添えておくことが、後々の分かりやすさにつながります。
研究でも「不穏」の捉え方は人によってバラバラだと分かっている
「不穏の捉え方は人によって違う」というのは、現場感覚だけの話ではなく、実際に研究でも示されています。
井上千穂氏らによる「我が国の看護師が用いる用語としての『不穏』の概念分析」という研究では、看護師は「患者が過活動の状態にあって、その行動が理解できないとき」や「自分(看護師)の意図が患者に伝わっていないと感じたとき」に、患者を『不穏』と判断していることが明らかにされています。
つまり、「不穏」は厳密な定義というより、看護師が経験の中で操作的・主観的に使っている言葉だということです。さらに、全国の看護師への質問紙調査では、不穏の捉え方が看護師の経験年数や配属部署によって多少の傾向はあるものの、全体として大きくばらついていたことも報告されています。やはり、感じ方は人それぞれなのです。
曖昧な「不穏」が、過剰な投薬や身体抑制につながる危険
この研究で特に注目したいのは、曖昧で多義的な「不穏」という言葉が、ただの記録にとどまらず、薬剤の使用や身体抑制の判断にまで影響してしまうという指摘です。「指示が伝わらない=危険かもしれない」という看護師の不安が、過剰な鎮静薬の使用や、不必要な身体抑制につながっている現状もうかがえた、とされています。
そもそも、医師が事前指示で想定している「不穏」と、現場の看護師・介護職員がイメージする「不穏」がずれている可能性もあります。「不穏時にはリスペリドン」という指示があったとして、その「不穏」がどの程度の状態を指すのか、医師と現場で認識が食い違っていれば、本来は薬が不要な場面で薬が使われてしまうことにもなりかねません。
「不穏」という言葉のあいまいさが、結果として患者・利用者の不利益につながりうるのです。これは、私が不穏の内容を「具体的に書こう」と言う理由そのものでもあります。
客観的な指標で評価する RASS(リッチモンド興奮鎮静スケール)
では、どうすればばらつきを減らせるのか。
この研究が提案しているのが、RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale/リッチモンド興奮鎮静スケール)のような客観的な指標を使って、評価を標準化することです。
RASSは、もともと集中治療室(ICU)などで、患者の興奮(不穏)から鎮静までの状態を点数で評価するために使われているスケールです。おおまかには、落ち着いた状態を0として、興奮する方向にプラス(+1〜+4)、眠っている・鎮静が深い方向にマイナス(−1〜−5)で表します。
| スコア | 状態の目安 |
|---|---|
| +4 | 好戦的(スタッフに差し迫った危険があるほど暴力的) |
| +3 | 非常に興奮(チューブ類やカテーテルを引き抜く) |
| +2 | 興奮(頻繁に目的のない動きがある) |
| +1 | 落ち着きがない(不安そうだが動きは攻撃的でない) |
| 0 | 意識清明で落ち着いている |
| −1〜−5 | 傾眠〜深い鎮静・昏睡(呼びかけや刺激への反応で評価) |
「不穏あり」とだけ書くよりも、「RASS +2」と記録したり、それに具体的な言動を添えたりすることで、誰が見ても同じ程度の状態をイメージできるようになります。介護施設でICUのようにRASSを厳密に使う場面は多くないかもしれませんが、「主観的な印象」ではなく「観察できる事実」で状態を表すという考え方は、日々の記録にもそのまま活かせます。
意識レベルそのものの評価方法(JCS・GCS)については意識障害とは 症状と意識レベルの評価方法も参考になります。
不穏の言い換え 具体的な記録・申し送りの書き方
では、「不穏」をどう言い換えれば伝わりやすくなるのでしょうか。
ポイントは、評価や解釈ではなく、実際に見えた事実(観察した言動)をそのまま書くことです。
「不穏」を具体的な言動に置き換える例
| 大雑把な表現 | 具体的な言い換えの例 |
|---|---|
| 不穏あり | 夜間、廊下を何度も行き来し、「家に帰る」と繰り返し訴えていた |
| 不穏あり | 職員の声かけに「うるさい」と大声で返し、テーブルを叩く動作があった |
| 不穏あり | 落ち着かず立ち座りを繰り返し、点滴のチューブを触ろうとしていた |
| 不穏あり | 表情が硬く、独り言が多く、声かけに返答が少なかった |
| 不穏あり | 同室者に対して「あの人が物を盗った」と訴え、興奮していた |
このように具体的に書くと、受け取った側がその場の様子をイメージしやすく、対応も考えやすくなります。さらに、いつ(時間帯)、どんな状況で(食事中・夜間・面会後など)、どのくらい続いたのか、何がきっかけだったのかを添えると、もっと役立つ記録になります。
記録の書き方としては、見たままの事実(主観的情報・客観的情報)と、それに対する判断を分けて書くSOAP形式も役立ちます。
記録の考え方は「SOAP」を使った看護・介護記録の書き方や主観的情報とは 看護介護でのSOAP記録法を参考にしてみてください。「不穏」のような評価の言葉も、その根拠となった具体的な事実とセットで残しておくことが大切です。
なお、「傾眠」など、不穏と同じように現場で多用されるけれど受け取り方に幅が出やすい言葉もあります。記録での使い方の考え方は「傾眠」とは?意味や原因、介護・看護記録での使い方でも触れています。
「不穏」という表現が適切な場合・不適切な場合
不穏という言葉を使うこと自体が悪いわけではありません。場面によって、適切な使い方と、避けたほうがよい使い方があります。
「不穏」を使ってもよい場面
口頭での申し送りなどで、まず全体像をざっくり共有する場面では、「昨夜は少し不穏な様子がありました」と切り出すのは自然です。そのあとに具体的な内容を補足できるなら、つかみとして「不穏」を使うのは実用的です。また、医師の指示が「不穏時 リスペリドン」となっている場合のように、すでに共通の枠組みとして使われている文脈では、不穏という言葉で通じます。
「不穏」だけで終わらせると不適切な場面
一方、記録や看護サマリーなど、後から別の人が読んで状況を把握する必要がある文書で、「不穏あり」だけで済ませてしまうのは不適切です。読む人によって解釈がぶれてしまい、情報として役に立ちにくいからです。とくに、暴力・暴言など対応に注意が必要な言動があった場合は、「不穏」とまとめず、何があったのかを具体的に残しておくべきです。暴言・暴力への対応の考え方は認知症の方の暴言や暴力に対して介護職員の接し方や対処法を参考にしてください。
また、「不穏」という言葉でひとくくりにしてしまうと、その方の言動を「困った行動」として片づけてしまいがちです。本来は、なぜ穏やかでなかったのか、その背景に何があるのかを考えることが大切です。認知症のある方の落ち着かない様子の多くは、BPSD(行動・心理症状)として理解でき、痛みや不快、不安、環境などの原因が隠れていることがほとんどです。
不穏時に使われる薬 リスペリドン(リスパダール)
不穏時の指示薬としてよく登場するのが、リスペリドンです。先発品の商品名はリスパダールで、ジェネリック医薬品では一般名のリスペリドンとして処方されます。
リスペリドンは抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に分類される薬で、もともとは統合失調症などに使われますが、高齢者の興奮や攻撃性、幻覚・妄想などに対して、医師の判断で少量が処方されることがあります。錠剤のほか、水なしで飲める口腔内崩壊錠(OD錠)や、内用液(液剤)もあり、内用液は飲み込みが難しい方や、興奮していて錠剤を飲んでもらいにくい場面でも使いやすいという特徴があります。
使用にあたっての注意点
ここは介護職員・看護職員として知っておきたいところです。抗精神病薬は効果がある一方で、高齢者では過鎮静(効きすぎてぼんやりする・眠りすぎる)、ふらつきによる転倒、嚥下機能の低下による誤嚥などのリスクがあると言われています。薬が効きすぎると、ぼんやりするだけでなく、体がこわばって動きにくくなったり、手が震えたりすること(パーキンソン症状)があり、それが転倒や誤嚥につながります。
「不穏だから薬で落ち着かせる」という発想に頼りすぎると、こうした副作用で別の問題を招くこともあります。
認知症のある高齢者への抗精神病薬の使用については、慎重であるべきとされています。薬を使う前に、まず「なぜ不穏になっているのか」を探り、痛み・便秘・空腹・不安・環境の不快などの原因を取り除くケアを優先するのが基本です。そうした対応をしてもなお本人や周囲の安全が保てない場合の選択肢の一つとして、処方される傾向となっています。
なお、薬の投与は医師の指示・処方に基づいて行うものであり、介護職員が自己判断で増減することはできません。「不穏時」の指示薬を使った際は、いつ・どんな様子で使い、その後どう変化したかを必ず記録に残しましょう。内服時の記録についても、「不穏だったため」だけだと、処方している医師としても状態が見えにくいですし、タイミングとして適切だったのかを後から検証したりする事態になったときにはその職員さんの立場が悪くなってしまいます。
服薬に関わる事故防止については誤薬事故とは 誤薬発生の原因、確認方法、事故防止の対策もあわせてご確認ください。
まとめ 「不穏」の一言で終わらせない
不穏とは、穏やかでない状態を表す、現場でとても便利な言葉です。しかし便利だからこそ、「不穏あり」の一言で終わらせてしまうと、本当に伝えたい情報が抜け落ちてしまいます。
大切なのは、どんなふうに穏やかでなかったのかを具体的に書くことです。「夜間に何度も起きて家に帰ると訴えた」「声かけに大声で返し手が出そうになった」——こうした具体的な記述があれば、受け取る側が無駄に身構えたり、逆に見落としたりすることなく、適切な対応につなげられます。
そして、不穏の背景には必ず理由があります。せん妄かもしれないし、痛みや不安、環境の問題かもしれません。「不穏」とラベルを貼って終わりにせず、その人が何を訴えているのかを考える姿勢こそが、よいケアと正確な記録の出発点になると思います。
※本記事は介護・看護の現場での一般的な情報をまとめたものです。薬剤の使用や、不穏の背景にある疾患の判断については、必ず医師・薬剤師・看護師にご相談ください。



