せん妄とは?原因・症状・種類と認知症との違い|看護・介護

せん妄(譫妄/せんもう)とは何か、その原因・症状・種類、認知症との違い、なりやすい人、不穏との違い、がんの終末期で死期が近いときに現れるせん妄まで、看護・介護の現場での事例を交えながら解説します。
介護や看護の仕事をしていると必ず出会う状態ですが、認知症と混同されやすく、対応に悩むことの多いテーマです。
せん妄とは

せん妄とは、何らかの身体的な原因によって急激に起こる、一時的な意識障害を伴う精神症状のことです。
注意力が低下し、話のつじつまが合わなくなったり、時間や場所が分からなくなったり、実際にはないものが見えたり(幻視)といった症状が、比較的短時間のうちに現れます。
せん妄の本質は「意識障害」です。意識がはっきりせず、ぼんやりしていたり、注意が定まらなかったりする状態が土台にあって、その上に幻覚や興奮などの症状が乗ってくるイメージです。意識レベルの評価方法(JCS・GCS)については意識障害とは 症状と意識レベルの評価方法で詳しく解説しています。
現場でよくあるのが、入院や施設入所をきっかけに、それまで穏やかだった方が急に夜中に騒ぎ出したり、点滴を抜こうとしたり、ありもしないことを言い出したりするケースです。「急に認知症が進んだのでは」と驚かれることが多いのですが、これは認知症ではなく、せん妄であることがとても多いのです。
せん妄の症状
せん妄の症状は多彩ですが、代表的なものは以下のとおりです。
せん妄の大きな特徴は、症状が1日の中で変動すること、そして夜間に悪化しやすいことです。日中は比較的落ち着いていて受け答えもできるのに、夕方から夜にかけて急にそわそわし出し、夜中にピークを迎える。これを「夜間せん妄」と呼ぶこともあります。夜勤で対応した経験のある看護師・介護職員は多いと思います。
せん妄の種類 過活動型・低活動型・混合型
せん妄は、現れ方によって大きく3つの種類に分けられます。この分類を知っておくことは、現場で見落としを防ぐうえでとても重要です。
過活動型せん妄
興奮、不穏、大声、徘徊、点滴やチューブの自己抜去など、活発で目立つ症状が出るタイプです。一般に「せん妄」と聞いてイメージするのはこのタイプでしょう。周囲も気づきやすく、対応に追われることになります。
低活動型せん妄
こちらは逆に、ぼんやりして反応が鈍くなり、元気がなく、ウトウトしているように見えるタイプです。
静かなので見過ごされやすく、「最近元気がないな」「うつかな」「認知症が進んだかな」と誤解されてしまうことが非常に多いのが怖いところです。実は低活動型のほうが予後が悪いとも言われており、見逃さない目が大切です。
「やけにおとなしい」「反応が薄い」と感じたら、低活動型せん妄を疑ってみる視点を持っておきたいですね。
混合型せん妄
過活動型と低活動型が入り混じる、あるいは時間帯によって入れ替わるタイプです。実際の現場では、この混合型が最も多いとされています。昼間はぼんやりしているのに夜は興奮する、というのも混合型の現れ方の一つです。
せん妄の原因
せん妄は「結果」であって、必ずその裏に「原因」があります。原因は大きく3つのグループに分けて考えると整理しやすいです。
①準備因子(なりやすさの土台)
もともとせん妄を起こしやすい背景です。高齢であること、認知症があること、過去にせん妄を起こしたことがあることなどが該当します。これらは変えられない土台の部分です。
②直接因子(引き金そのもの)
せん妄を直接引き起こす身体的な原因です。代表的なものを挙げます。
③促進因子(悪化させる環境)
せん妄を引き起こしやすくしたり、悪化させたりする環境要因です。入院・入所による環境の変化、不慣れな場所、騒音、昼夜のリズムの乱れ、痛み、身体拘束、視力・聴力の低下などが該当します。入院をきっかけにせん妄が出るのは、まさにこの促進因子が一気に重なるからです。
ここが看護・介護の腕の見せどころで、直接因子(脱水・感染・薬など)を治療で取り除きつつ、促進因子(環境)をケアで整えていくことが、せん妄対応の基本になります。眼鏡や補聴器を使ってもらう、日中に光を浴びてもらう、なじみの物を置く、こまめに声をかけて見当識を保つ、といった地道なケアが効いてきます。
せん妄と認知症の違い
これが現場で最も混同される部分です。せん妄と認知症は、症状が似ていることもありますが、まったく別のものです。決定的な違いを表で整理します。
| せん妄 | 認知症 | |
|---|---|---|
| 発症の仕方 | 急激(数時間〜数日) | 緩やか(数か月〜数年) |
| 意識 | 障害される(ぼんやりする) | 清明(はっきりしている) |
| 経過 | 1日の中で変動、夜間に悪化 | 比較的安定、ゆっくり進行 |
| 原因 | 身体疾患・薬剤など(特定できる) | 脳の変性・血管障害など |
| 可逆性 | 原因を取り除けば改善することが多い | 基本的に元には戻らない |
最大のポイントは、せん妄は「急に」起こり、「原因を取り除けば治る可能性がある」ということです。認知症はゆっくり進行し、基本的に元には戻りません。だからこそ、「急に認知症が進んだ」ように見えたときこそ、せん妄を疑う必要があります。認知症だと思って放置すると、背景にある肺炎や脱水を見逃してしまうことになりかねません。
ややこしいのは、認知症のある方はせん妄も起こしやすいという点です。認知症という土台(準備因子)の上に、脱水や感染がきっかけ(直接因子)となってせん妄が重なる。この「認知症+せん妄」のパターンは現場で本当によくあります。普段その方を見ている介護職員が「いつもと様子が違う」と気づけるかどうかが、早期発見の鍵になります。認知症そのものについてはアルツハイマー型認知症の自然経過、中核症状、周辺症状や認知症の行動心理周辺症状「BPSD」とは?もあわせてご覧ください。

せん妄と不穏の違い
「不穏(ふおん)」という言葉も現場でよく使いますが、せん妄とは少し意味が違います。
不穏とは、落ち着かずソワソワしている、興奮している、といった「状態」を表す言葉です。
一方、せん妄は意識障害を伴う「病態」です。
つまり、不穏はせん妄の症状の一つとして現れることもありますが、不穏=せん妄ではありません。痛みや不快感、不安、便秘などでも不穏になりますし、せん妄でなくても落ち着かないことはあります。記録に「不穏あり」と書くだけで終わらせず、その不穏の背景に意識障害(せん妄)があるのか、それとも痛みや不安など別の原因があるのかを見極めることが大切です。「なぜ落ち着かないのか」を考える姿勢が、よいケアにつながります。

せん妄になりやすい人・なりやすい性格
「せん妄になりやすい性格」という言葉で調べる方もいますが、正確に言うと、せん妄は性格そのものというより、身体的・環境的な条件によって起こるものです。ただ、結果としてせん妄を起こしやすい傾向のある方には、いくつかの共通点があります。
性格の面で言えば、几帳面で環境の変化に敏感な方、不安を感じやすい方は、入院や入所といった環境変化のストレスからせん妄につながりやすい面はあるかもしれません。ただ、これはあくまで傾向の話で、「この性格だからせん妄になる」と決めつけるものではありません。大事なのは、リスクの高い方をあらかじめ把握して、環境を整えるなどの予防的な関わりをしておくことです。
がんの終末期・死期が近いときのせん妄(終末期せん妄)
せん妄は、がんの終末期など、死期が近づいたときにも高い頻度で現れます。これを終末期せん妄(死前せん妄)と呼ぶことがあります。亡くなる前の数日から数週間のうちに、多くの方に何らかのせん妄が見られるとされています。
終末期のせん妄は、これまで述べてきたせん妄とは少し意味合いが異なります。原因が複数重なり、全身の状態が低下していく中で起こるため、原因を取り除いて回復させることが難しい場合が多いのです。この場合の対応は、無理に症状をなくそうとするより、本人ができるだけ穏やかに過ごせること、苦痛を和らげることが目標になります。
現場では、亡くなる前に「もう家に帰る」と言って立ち上がろうとされたり、すでに亡くなった家族の名前を呼んだり、見えないものに向かって話しかけたりする姿に立ち会うことがあります。ご家族はその様子に動揺されることも多いのですが、これは終末期のせん妄としてよく見られるものであり、本人が苦しんでいるとは限りません。ご家族に「これは自然な経過の一つです」とお伝えして、穏やかに見守れるよう支えることも、私たちの大切な役割だと思います。
看取りの考え方については看取りとは 死と看取り介護の課題と厚労省ガイドライン、緩和ケアやホスピスについてはホスピスとは?緩和ケアとの違いもご参照ください。
看護・介護でのせん妄への対応
最後に、看護・介護の現場でせん妄にどう対応するか、ポイントを整理します。
まず「いつもと違う」に気づく
せん妄対応のスタートは、早期発見です。普段その方に接している介護職員だからこそ気づける「いつもと様子が違う」という感覚が、何より大切です。急にぼんやりした、夜だけ騒ぐ、つじつまが合わない、やけにおとなしい——こうしたサインを見逃さず、看護師や医師に「いつもと違います」と伝えることが第一歩です。
原因を探す(バイタル・水分・薬・排泄)
せん妄には必ず原因があります。発熱はないか、脱水はないか、新しく始まった薬はないか、便秘や尿が出ていないか。こうした身体面のチェックが欠かせません。バイタルサインの確認や、水分摂取量の把握は、せん妄の原因探しの基本です。
環境を整え、安心してもらう
興奮している方を無理に抑えつけたり、強い口調で否定したりするのは逆効果です。否定せず、穏やかに、安心できる声かけを心がけます。眼鏡や補聴器を使ってもらう、時計やカレンダーを見えるところに置く、日中は活動して夜は休めるようリズムを整える、なじみの物を近くに置く。こうした環境調整がせん妄を和らげます。声かけの工夫は認知症の方への声掛けの考え方も参考になります。
せん妄は、対応する側も振り回されて疲弊しやすい状態です。しかし「困った人」ではなく「身体のどこかに原因を抱えてサインを出している人」と捉え直すと、関わり方が変わってきます。急な変化に気づき、原因を探し、環境を整える。この基本を押さえておくことで、せん妄に出会ったときに落ち着いて対応できるようになります。
この記事は介護・看護の現場での一般的な情報をまとめたものです。実際のせん妄が疑われる場合は、背景に重大な身体疾患が隠れていることもあるため、自己判断せず、必ず医師・看護師に相談し、適切な診断・治療につなげてください。



