
介護現場では、ご利用者が車椅子に座った状態で姿勢が崩れ、ずり落ちてしまうという問題が頻繁に発生します。この問題は単なる姿勢の乱れだけではなく、転倒のリスクや床ずれ(褥瘡)の発生、さらに呼吸や嚥下機能にも影響を与えるため、安全で快適な座位姿勢を保つことが重要です。
しかし、なぜご利用者は車椅子に座っているうちにずり落ちてしまうのでしょうか? 本記事では、その主な原因を解明し、実際の介護現場で役立つ考え方、対策方法、リクライニング車椅子を使うかの判断について詳しく解説します。
車椅子からずり落ちる主な原因
仙骨座り(スライディング座位)の影響
車椅子からずり落ちる大きな要因の一つが「仙骨座り」です。通常、正しい座位姿勢は骨盤を立てて座ることで保たれますが、骨盤が後ろに倒れる「後傾」の状態になると、背中が丸くなり、お尻が前へ滑ってしまいます。この状態を「仙骨座り」と呼びます。
仙骨座りが発生する背景には、さまざまな要因があります。例えば、脊柱の変形が大きく背中が出っ張った円背姿勢の方の場合には、普通の車椅子だと背中のでっぱりのせいでお尻が前にいきがちです。車椅子のシートの張りを調整したりして背中にフィットさせないと体型的に仙骨座りが生じます。
ご利用者の筋力が低下している場合、体幹をしっかりと支えることができず、自然と姿勢が崩れてしまいます。また、車椅子の座面が深すぎたり、クッションが柔らかすぎたりすると、適切な姿勢を保つことができず、結果としてずり落ちてしまいます。さらに、長時間同じ姿勢で座っていると疲労が蓄積し、楽な姿勢を取ろうとすることで仙骨座りが助長されることもあります。
足の位置が不安定で姿勢が崩れる
車椅子に座っている際に、足の位置が安定していないと、姿勢の崩れにつながります。特にフットレストの高さが適切でない場合、膝が伸びすぎたり、逆に持ち上がりすぎたりすることで、骨盤の後傾を引き起こしやすくなります。
また、足が床やフットレストにしっかりと着いていないと、姿勢を支える力が働かず、お尻が前へ滑りやすくなります。適切な座位姿勢を維持するためには、膝を90度程度に曲げ、足底が安定するようなポジションを取ることが重要です。
認知機能の低下や感覚の低下などで姿勢が崩れている認識が本人にない
座位姿勢が崩れている原因として、円背になっていることや体幹の筋力低下などに注目が行きがちですが、仮に筋力があったとしても、本人に姿勢が崩れているという認識がない場合には姿勢を直そうと思えません。認知症の方や座位姿勢の崩れがわからない方などに対しては、「お尻がずってきちゃいましたね」と声をかけたり、鏡で自分の姿勢は見えるようにしたりすることで自分で改善できることもあります。
車椅子のサイズや調整の問題
車椅子のサイズがご利用者の体格に合っていない場合、姿勢の安定性が損なわれ、ずり落ちやすくなります。例えば、座面が広すぎると、骨盤が固定されず、前滑りしやすくなります。また、逆に狭すぎると圧迫感が生じ、不快感から姿勢を崩す要因となります。
さらに、背もたれの角度や背張りが適切でない場合も問題です。過度に後傾していると、重力の影響で自然と姿勢が崩れ、前へ滑りやすくなります。適切な座位姿勢を保つためには、ご利用者の体型に合わせた座面の調整や、適切なシートの角度設定が必要です。
長時間座ることで姿勢が崩れる
一般的に、人は長時間同じ姿勢で座り続けると疲労がたまり、姿勢が崩れやすくなります。研究によると、健康な成人でも30分から1時間座り続けると姿勢が乱れ始めると言われています。要介護の方の場合は、さらに筋力が低下しているため、より短時間でも姿勢が崩れやすくなります。そのため、定期的に体位を変えたり、短時間でも立ち上がる機会を作ることが、適切な姿勢を維持するために重要です。どんな人でも何時間も同じ姿勢で座っていたら辛いですし、それが高齢者や自分で体を動かしにくい方ならばなおさら辛いです。
車椅子からずり落ちた施設になってしまう原因がありますが、離床している目的や体力などの状態に合わせて時間を調整することも大切であり、もし長時間で姿勢が崩れてしまい辛そうならば、ずっと座っていていただくことが適切なのか、ケアの方針から見直すことも視野に入れていきましょう。
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ずり落ちを防ぐための対策方法
正しい座位姿勢を保つ工夫
適切な座位姿勢を維持するためには、まず「骨盤をしっかりと立てること」が大切です。そのためには、骨盤の後傾を防ぐようなクッションを活用したり、座面の調整を行うことが有効です。さらに、足が安定するようにフットレストの高さを適切に調整し、膝が90度に曲がるようにすることで、姿勢の崩れを防ぐことができます。
座っている理由づくり、姿勢の崩れを直そうと思う刺激がある状態を作る
人間何もやることがなくたら座っているだけだったら、ボケーっとしてダラダラと姿勢が崩れてしまうものです。しかし、例えば何か座って作業をしていたり、姿勢を正してピシッとしなくちゃいけない場面だったりすれば、自ずと姿勢を正そうと思うものです。自分で姿勢の崩れを認識できない場合や、認知機能が低下して注意が散漫になっていたり、反応が乏しくなっていたりするとだんだんにずり落ちてしまうというケースもありますので、そのような場合には何か刺激があるような作業を行っていたりするとそれだけで姿勢が崩れにくくなったりすることもあります。また、姿勢が崩れていることを視覚的に認識できるように鏡を設置したり、職員が無言で姿勢を直してしまうだけでなく、「落っこちそうですので一回立って伸びでもしてから座りなおしましょうか」と声をかけたりして少し動くだけでもその後の崩れ方は違ってきます。
お尻や背中の痛み、圧を抜けるように立ち上がる時間を設ける
ずっと座りっぱなしになっていてお尻や背中が痛い状態でただ座り直しだけしてもまた痛いのですぐお尻の位置をずらしてしまいます。健常な人でもデスクワークをずっとやっていたりすれば何十分かに1回は立ち上がって体操でもしたくなると思います。何時間も車椅子で座っていればお尻が痛くなったり、血流が悪くなって体調が悪くなってきたりしますので、姿勢を直してすぐまたずり落ちてくるからもう対策方法はないと短絡的に考えず、一度立ってもらったりしてお尻の背中の圧や、関節に負担がかかってしまっているところなどのつらさを抜いてからまた良い姿勢で座ってもらうようにしましょう。
このように一度立つだけでも、その後にまた姿勢が崩れてくるまでの時間が改善されることも多いです。1時間ぐらい座っていてお尻の位置がずれてくるのはどんな人でも当たり前のことなので、臥床中の褥瘡予防と同じような感じでお尻の圧を抜く時間を作るということを行ってみましょう。
車椅子の適切な調整を行う
座面の幅や奥行きが適切であることはもちろん、背もたれの角度も重要なポイントです。座面が滑りにくい素材であるか、骨盤を支えるサポートがあるかどうかも確認し、ご利用者に適した調整を行いましょう。
適切な離床時間を確保する
長時間の座位を避けるためには、定期的に立ち上がったり、リクライニング車椅子を利用して体圧を分散させることが効果的です。研究では、要介護者は1日4〜6時間の離床が筋力維持に有効であるとされています。無理のない範囲で、適切な離床時間を確保することが大切です。
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離床の重要性と、離床時間が短いことで起こるリスク
離床とは、ベッド上での生活を減らし、車椅子や椅子に座る、立ち上がる、歩行するなどの活動を指します。適切な離床は、筋力の維持、関節の拘縮予防、血流促進、消化機能の向上 などに貢献し、ご利用者の生活の質(QOL)の向上につながります。特に、長時間寝たきりの状態では、筋肉の萎縮が進みやすく、わずか数週間で歩行や座位の維持が困難になることもあります。
一方で、離床時間が短いと褥瘡(床ずれ)、肺炎、静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)、便秘 などのリスクが高まります。ベッド上で過ごす時間が長いと、血流が滞り、肺の換気機能も低下しやすくなり、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。また、活動量が減ることで食欲が低下し、栄養状態が悪化することもあります。
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リクライニング車椅子のメリットとデメリット
リクライニング車椅子のメリット
リクライニング車椅子は、体幹保持が困難な方でも安定した姿勢を取ることができる点が最大の利点です。特に、長時間座る際の疲労軽減や、褥瘡(床ずれ)予防に効果的です。また、角度を調整できるため、嚥下障害のある方の誤嚥リスクを減らすほか、リラックスした姿勢を取ることで呼吸を楽にすることもできます。
リクライニング車椅子のデメリット
一方で、長時間の使用は体幹や下肢の筋力低下を招き、座位保持能力の低下につながる可能性があります。また、通常の車椅子よりも大型で操作がしにくく、介護者の負担が増えることもあります。適切な姿勢調整を怠ると、逆に姿勢の崩れやずり落ちのリスクが高まるため、使用時間や調整には注意が必要です。
リクライニング車椅子の適用チェックリスト
リクライニング車椅子を使用するかどうかを判断する際には、以下のような観点で評価をしてみてください。通常の車椅子での座位が可能な場合は、リクライニング車椅子を使わずに済むことが多いですが、該当する項目が多い場合はリクライニング車椅子の利用が適している可能性があります。また、車椅子の用途は原則として移動するためのものであり、長時間過ごすためには座り心地の良い椅子を使うなどの選択肢もありますので、必ずしも車椅子を使うべきという先入観から抜けて考えることも必要です。
チェック項目 | 該当する場合の対応 |
---|---|
① 体幹の保持が困難で、通常の座位を維持できない | 体幹保持が難しく、長時間座ると姿勢が崩れる場合はリクライニング車椅子の利用を検討する。 |
② 仙骨座りになりやすく、頻繁にずり落ちる | クッションや座位調整を試みても改善しない場合は、リクライニングで体圧を分散する。 |
③ フットレストの調整や姿勢の補助をしても、足の位置が安定しない | フットレストの調整で対応できない場合、リクライニング機能で足の負担を軽減する。 |
④ 脊柱の変形(側弯症や円背)があり、通常の座位が困難 | 角度調整が可能なリクライニング車椅子の方が適している。 |
⑤ 長時間の座位で極端な疲労や痛みを訴える | 疲労や痛みが強く、短時間でも通常の車椅子での座位が難しい場合は、リクライニング車椅子の使用を考える。 |
⑥ 嚥下障害があり、食事時以外はやや後傾姿勢の方が安全 | 食事時は適切な角度に調整し、それ以外の時間はリクライニング機能を活用する。 |
⑦ 体圧分散が必要で、褥瘡リスクが高い | 体圧を分散しやすいリクライニング車椅子の方が安全性が高い。 |
⑧ 通常の車椅子では苦痛が強く、落ち着いて過ごせない | 介護者の負担やご利用者の快適さを考慮し、必要に応じてリクライニング車椅子を選択する。 |
⑨ 本人や家族が体力が落ちるリスクや認知症リスクなどを認識した上で、離床を希望しているか | 座っているのがつらい、お尻が痛いから座っていたくないなど、本人の希望や意向を無視して一方的に辛いことを押し付けるのは避ける。ただし、リスクなどは関係者に把握していただく。 |
上記の項目にほとんど該当しない場合 → 通常の車椅子を適切に調整し、座位姿勢の改善を図る。
いくつかの項目に該当する場合 → クッションや車椅子の調整を試し、改善が見られない場合はリクライニング車椅子を検討する。
多くの項目に該当する場合 → 長時間の座位維持が困難なため、リクライニング車椅子を活用する。
リクライニング車椅子は「仕方なく使うもの」ではなく、ご利用者の快適性や安全性を確保するための選択肢の一つです。ただし、長時間の使用が筋力低下を招くリスクもあるため、適切な座位時間の管理が重要です。
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まとめ
車椅子からずり落ちる問題は、単に「姿勢が崩れる」というだけでなく、ご利用者の健康や安全に大きな影響を及ぼします。その原因としては、仙骨座り、筋力低下、車椅子の調整不足、長時間の座位などが挙げられますが、適切な座位調整やクッションの活用、定期的な姿勢変更によって改善が可能です。
また、長時間の座位はどんな人にとっても負担となるため、1時間ごとに姿勢を確認し、ご利用者の状態に応じてこまめに体位変換を行うことが重要です。適切な車椅子の選定や調整を行いながら、ご利用者が快適で安全に座位を維持できる環境を整えていきましょう。
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