救急車への同乗は必須?ケアマネなど介護保険事業者に義務はない

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「利用者さんが急変して救急車を呼んだ。隊員に『ケアマネなのだから同乗してください』と言われたけど、これって断れるの?」
ケアマネジャーや介護サービス事業者なら、こうした場面に直面したことがある方も多いでしょう。独居の利用者が増え、家族がすぐに駆けつけられないケースが当たり前になった今、救急車への同乗を求められる機会はますます増えています。
結論から言えば、ケアマネジャーをはじめとする介護保険事業者に、救急車への同乗義務は法的に存在しません。同乗対応は、事業者・職員個人の善意と判断によって行われているのが現状です。
この記事では、なぜ同乗義務がないのか、では同乗した場合はどうなるのか、そして現実的にどう対応するべきかを、介護現場の実態とともに整理します。
救急車への同乗に法的義務はない
まず前提として確認したいのは、救急車への同乗を介護事業者に義務付ける法律・省令・通知は存在しないという点です。
介護保険の居宅介護支援(ケアマネジメント)の業務内容は、介護保険法・指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(厚生省令)によって定められています。
ケアマネジャーの業務としては、アセスメント・ケアプランの作成・担当者会議の開催・モニタリング・給付管理などが規定されており、「救急搬送時の同乗」は業務として定義されていません。
訪問看護・訪問介護・通所介護などのサービス事業者についても同様で、救急車への同乗は業務基準のどこにも記載がありません。つまり、現在の制度上、救急車への同乗という行為はそもそも想定されていないのです。
義務ではないにもかかわらず「仕方なく乗っている」実態が広く存在するのは、ケアマネや介護職員が断りきれない立場に置かれているから、ということに他なりません。

「義務はない」と断言できる根拠
ケアマネ協会や自治体などが、まずはケアマネジャーに相談して手伝ってもらいましょうというニュアンスでいろいろな雑務をケアマネに関連付けていますので、誤解が生じていますが、救急車に乗ることが「義務はない」とはっきり言える根拠を整理します。
① 介護保険の給付対象外の行為である
救急車への同乗は、介護保険の給付対象として位置づけられていません。居宅介護支援費・訪問介護費・通所介護費などの介護報酬は、それぞれ定められた業務に対して支払われるものです。救急搬送への付き添いに介護報酬は発生せず、無報酬の対応を事業者に強いることに法的根拠はありません。
厚生労働省の検討会(ケアマネジメントに係るルール等に関する検討会)では、書類作成の代行・郵便物の受け取り・救急車への同乗などを「保険外サービスとして対応し得る業務」として整理しています。裏を返せば、これらは介護保険内の義務的な業務ではない、と国自身が認めていることになります。
保険外サービスとして「対応し得る」とされたことで、有償化の議論は進みつつあります。しかし現時点では、多くの事業所が費用請求もせず、無償で対応しているのが実態です。
② 救急隊員に同乗を強制する権限はない
救急車への同乗を依頼・要請するのは救急隊員ですが、救急隊員には介護事業者に同乗を強制する法的権限はありません。「お願い」や「要請」の形を取っており、断ることは可能です。「乗らないといけない」と感じてしまうのは、現場の雰囲気や責任感からくるものであり、法的な強制力によるものではありません。
救急隊員はなぜ同乗者を求めるのか
救急隊員が同乗者を求める主な理由は「医療情報の収集」と「搬送先での手続き支援」の2点に集約されます。
救急隊員は傷病者を搬送しながら、搬送先の病院に対して患者の状態・既往歴・服薬内容・かかりつけ医などの情報を伝える義務があります。しかし見知らぬ高齢者の自宅に駆けつけた隊員が、短時間でこれらの情報を収集するのは容易ではありません。そこで「この方のことをよく知っている人」として、その場にいるケアマネやヘルパーに同乗を求めるわけです。
また、搬送先の病院では入院受付・同意書への署名・治療方針の確認などで「家族に相当する人」の存在が求められます。独居や身寄りのない高齢者の場合、病院側も「誰かそばにいてほしい」という現実的な事情があり、救急隊員がその橋渡し役として同乗者を確保しようとする面もあります。
要するに救急隊員の求めは「制度的な義務の要請」ではなく、「現場の切実な情報ニーズ」によるものです。だからこそ、同乗しない場合でも情報提供さえしっかり行えば、求めに応じることと実質的に大きな差はありません。
③ 同乗によるリスクは事業者・職員が個人で負う
救急車に同乗した際のリスクも見落とせません。搬送中や搬送直後に利用者が亡くなった場合、「同乗者がどんな情報を医療機関に提供したか」が問題になることがあります。医療行為に関する判断を求められる状況や、家族への説明責任が生じる可能性もあります。
また、病院から帰る際の交通費は自己負担になることも多く、長時間病院で待機しなければならないことも少なくありません。こうしたリスクや負担を無報酬で事業者・職員が引き受けることを制度が義務付けているわけではないのです。
ケアマネジャーに求められる業務範囲についての詳細は、こちらの記事も参考にしてください。
関連記事:悪いケアマネジャーって?やってはいけないこと・避けるべきこと
それでもケアマネが「乗ってしまう」現実
「義務がない」とわかっていても、実際には多くのケアマネが同乗対応をしています。その背景には、次のような構造的な問題があります。
独居・身寄りなし高齢者の増加
核家族化・未婚化・少子化の進展により、頼れる家族が近くにいない高齢者が急増しています。緊急時に「その場にいる人」として頼られるのがケアマネやヘルパーになるケースが多く、断ることに心理的な抵抗を感じる場面が生まれます。
断れない雰囲気・責任感
「担当ケアマネ」という立場への責任感から、「自分が対応しなければ」と感じてしまうケアマネは少なくありません。「乗らない」と判断することで、後から「あの時なぜ同乗しなかったのか」と問われることへの恐れもあります。
緊急対応方針が曖昧なまま運営している事業所が多い
事業所として「救急時の対応方針」を明文化し、利用者・家族に説明している事業所はまだ少数です。「そういう場合はどうするか」が決まっていないまま、担当者が現場で判断せざるを得ない状況が続いています。ここが、本来の意味での事業者の「責任」が問われる部分です。
利用者に提供できる業務の範囲については、こちらの記事も参照してください。
関連記事:居宅ケアマネが保険外サービスで対応しうる業務はどうすべき?
ケアマネ・介護事業者がやるべき緊急時対応の準備
「同乗義務はない」と言えるためには、事前の準備が不可欠です。何も整備せずに「乗りません」と言えば、利用者・家族や救急隊員からの信頼を失います。正しいのは「義務はないから拒否する」ではなく、「義務がないことを踏まえた上で、どう備えるかを準備しておく」ことです。
① 緊急時対応方針を重要事項説明書に明記する
救急搬送が発生した場合の対応(同乗するかしないか・連絡先の確認・情報提供の方法など)を、重要事項説明書や契約書に盛り込み、サービス開始前に利用者・家族に説明・同意を得ておきましょう。「何かあった時はケアマネが何でもやってくれる」という誤解を事前に解いておくことが大切です。
② 緊急連絡先・キーパーソンを複数確認しておく
緊急時に連絡が取れるよう、家族・親族のキーパーソンを複数確認しておきます。「連絡が取れなかった」という事態を減らすことが、ケアマネが最初に対処できる実務的な備えです。
③ 救急隊員への情報提供を優先する
同乗しないとしても、救急隊員には積極的に情報を提供します。既往歴・服薬内容・かかりつけ医・ADLの状況・直近の体調変化・家族の連絡先など、ケアマネが持っている情報は救急医療に直結します。同乗しない代わりに情報をしっかり伝えることが、ケアマネとしてできる最重要の対応です。
各自治体で、「救急搬送時情報連携シート」のようなものを作成していることが多いので、半年に一回くらい情報を更新してご利用者の自宅の冷蔵庫にでも入れておいて、詳しくはそれを見てくださいと言える状態にしておくだけでもケアマネの役割としては果たせていると思います。
後から病院に向かい、主治医や家族への情報連携を行うことも、ケアマネとして十分に貢献できている対応です。
④ サマリー・緊急情報シートを整備しておく
呼び方は地域によっていろいろですが、救急時にすぐ提供できる「緊急情報シート」や「救急搬送時情報連携シート」(氏名・生年月日・既往歴・服薬・かかりつけ医・家族連絡先などを1枚にまとめたもの)を利用者ごとに用意しておくと、現場での情報提供がスムーズになります。自宅の冷蔵庫や玄関に置いておくことを家族に勧めているケアマネも多くいます。
ケアマネが対応すべき業務とその境界線についてはこちらも参考にしてください。
同乗を「しない」ことへの罪悪感を持たなくていい
ここまで読んでいただいたケアマネの方の中には、「それでも利用者を一人にはできない」と感じている方もいると思います。その気持ちは十分に理解できます。利用者への関心と責任感があってこそのケアマネです。
ただ、制度として義務付けられていない対応を、無報酬・無保険・無制限に続けることが正しいかどうかは、冷静に考える必要があります。
ケアマネジャーは現在でも業務量過多と低報酬の問題を抱えており、人手不足も深刻です。「やってあげたい」という気持ちに頼り続ける現状が、ケアマネという職種の疲弊を招いている側面があります。
善意で対応することと、それを制度的に支える仕組みがないまま野放しにしておくことは、別の問題です。同乗対応を事業所として有償化するか、行政・地域包括支援センターを含めた役割分担を整備するか、そもそも緊急時の体制を家族や地域で設計し直すか。これらは地域全体で考えるべき課題です。
どうしても責任感が湧いてしまいますので、事業所内で予め重要事項説明書や覚書のような形で、対応しないことの例や自費で対応することの例などを明記しておき、お互いにケアマネがどこまで対応するのかの認識をすり合わせておくとよいですね。
居宅介護支援事業所の役割や業務範囲については、こちらの記事も参考にしてください。
例え休みの日でも担当ケアマネが必ず駆けつけて救急車に乗るべき!というような職場だとしたら、それが合わないならば転職を検討する方が良いと思ます。志や貢献の心が同じならばやっていけますが、ケアマネがそこまでするのはおかしいと感じている中でその勢いに付き合うのは厳しいと思います。
施設系サービスでの対応はどう考えるか
グループホームや特定施設、介護老人保健施設などの施設系サービスでも、利用者急変時に職員が救急車への同乗を求められることがあります。
施設の場合、在宅のケアマネとは異なり「その場にいる職員」として対応せざるを得ない状況が生まれやすいです。ただし、夜間など少人数で勤務している場合に1名が同乗してしまうと、残された他の利用者の安全が確保できなくなるという問題があります。
施設における救急時の同乗対応については、「業務規定として方針を明確化し、重要事項説明書に盛り込む」という整備が最低限必要です。
今は業務継続計画(BCP、ビー・シー・ピー)の作成・運用も求められるようになっているので、災害だけでなく、夜間や職員が手薄な時に救急対応が出たときにどうするかについても盛り込んで計画しておくのも大切ですね。できない時の条件を定め、大多数の業務を遂行するということでもよいので、あらかじめ決めておき、みんな共通認識が持てればそれでよいのです。
夜間の同乗は人員上難しいという説明を家族に対して事前にしておくことも、トラブル防止の観点から重要です。
救急車に一緒に乗ることは「義務はない」と知った上で、事前準備を整えよう
この記事の要点を整理します。
緊急時の対応を個人の善意に依存したまま放置してきた制度・事業所の側にも課題があります。「仕方なく乗る」から「備えた上で判断する」への転換が、ケアマネ一人ひとりの働く環境を守ることにもつながります。
ケアマネジャーの業務負担や働き方に課題を感じている方は、転職という選択肢も視野に入れてみてください。







