高齢者に対して運動や機能訓練を指導する時には、若い人が筋トレをしたり負荷の高い運動をしたりする時とは少し違っています。高齢者に対してどのような運動を、何分ぐらい、どれぐらい負荷をかけて、週に何回ぐらい行うと良いかについて理学療法士の視点からまとめて紹介したいと思います。高齢者や介護予防分野で運動の指導を行う時に運動量や運動の種類・プログラムをどのように設定したらよいかの参考になれば幸いです。
このページの目次
高齢者の運動のポイント
高齢者に運動を指導する時には、重いものを持ち上げて疲労をするような運動も場合にあっては必要ですが、体を動かす時に必要で普段使っていない筋肉や神経を意識して指導していくことが大切です。高齢者・要介護・要支援などの状態になると、体の一部の機能が老化により弱ってきて、使い慣れた筋肉や神経を使って体を動かす習慣がついています。筋肉の量は加齢に伴い少なくなってしまうのですが、日頃から使っていない筋肉の繊維にもしっかりと刺激が入るという状態を作っていると筋肉量が減りにくいです。普段の生活の中でも色々な筋肉をまんべんなく使い体を動かすことで、必要な機能が維持されると言われています。
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高齢者の運動機能低下の特徴
人間の筋力は、20歳代から30歳代が最大で、その後60歳ぐらいまでの間に年間に2〜3%ずつ低下していき、さらに60歳を超えると15%、70歳を超えると30%と一気に筋力低下が進むと言われています。60代から80代の間に一気にガクッと筋力の低下が進むということが高齢者の運動機能低下の特徴なので、意識して活動性を保ったり若い頃と同じような生活習慣を続けたりしていないと体を動かすのが億劫になり活動量が減るという負のサイクルに入ることがあります。このような状態のことを「フレイル」と呼び、要介護状態になる前段階ということで適切な介入をすることが重要と言われています。
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高齢者に行う運動や機能訓練の効果とは
高齢になると体が弱りやすいということを紹介しましたが、適切な運動や機能訓練をしていくことは筋力が維持できるということだけでなく良いことがたくさんあります。体が弱ってしまうと気持ち的にもネガティブになりやすいですし、どこかに出かけたりするのも億劫になったりします。今まで継続していた趣味や人との関わりが減ったりすることもあります。
高齢者で筋力や身体機能が低下してしまうことで特に避けたいことは「転倒をして怪我をしてしまう」ということです。転倒して骨折をしてしまったりすると、しばらく安静にしなくてはいけなかったり、手術をして固定をしたり手術の際に筋肉を一部切ったりすることもあるので怪我をしなかった場合と比べても心身機能が衰えやすい状態になります。健康に生活できる期間(健康寿命)を長く伸ばすためにも転倒を避けるための取り組みを早めに開始することが重要です。
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高齢者の運動機能低下を予防するために効果的な運動の種類
高齢者になると筋力が低下するスピードが速くなってしまうということをご紹介しましたが、使われない神経や筋肉があったり、体が硬くなって筋肉を十分に使えていないことなども大きく日常生活での動きに影響します。そのため以下のような4つの運動の種類をバランスよく取り入れてトレーニングや機能訓練に取り組んでいくと良いと思います。
1筋肉や関節を柔らかくする「ストレッチ」
高齢者に限らず運動の時にはまず準備体操としてストレッチを行いますが、体がカチカチで筋肉や関節の柔軟性がない状態で筋力トレーニングなどを行っても、動かせる範囲(関節可動域)での筋力しか使わないため十分な効果を得られません。また、体の動きは筋肉が伸び縮みすることで行われているので、筋肉やその周りの組織が柔らかくなっていることも筋力向上トレーニングやバランストレーニングに影響を与えます。
2力をしっかりと出すための「筋力向上トレーニング」
高齢者の筋力トレーニングは加齢に伴い萎縮してくる筋肉の増強を目指します。特に抗重力筋と言われる、背中の脊柱起立筋や、お尻の臀筋(でんきん)、太ももの大腿四頭筋、ふくらはぎの下腿三頭筋などの部位を意識して行うとより効果的です。筋力を鍛えるという目的であれば、少ない回数で良いので高い負荷をかけて筋肉を使う運動が良いです。
高齢者の場合にはどちらかと言うと軽めの負荷でもいいのでゆっくりと行うことから始めて、少しずつ負荷量を高めつつも動きとしてはゆっくりと行うことが効果を高めるコツかと思います。
3素早く色々な筋肉を適切に使うための「バランス向上トレーニング」
若い人は体の中の細い筋肉なども使いながら高いパフォーマンスを発揮して動くことができますが、高齢になると体の中でも使いやすい大きな筋肉だけを使って動くようになります。細い筋肉や神経を上手に使えないと大雑把な動きになるので例えば片足で立つ時のような繊細な体の制御に対応ができなくなります。高齢になるとこのような背景があるので躓いたりしてちょっと体のバランスが崩れると転倒してしまいます。
筋力を鍛えるだけではなく、体の使い方もトレーニングの項目の中に取り入れていくと身体機能全体として効果が期待できます。
4体内の循環を良くする「持久力向上トレーニング」
持久力のトレーニングでは、ウォーキングや軽いランニングなど体の循環を良くして全身に栄養や酸素を届けたり、老廃物を代謝したりすることが期待できます。また筋肉の中には、酸素をもらい細胞の中のミトコンドリアという組織がエネルギー(ATP)の生成をして、筋肉の収縮に充てるというサイクルが存在しています。筋肉の組織が酸素を取り込んで力を発揮すると言うサイクルのスピードが落ちてしまっているとすぐに筋肉が疲労して動けなくなると言う状態になります。
血液循環の問題だけでなく、持久力向上トレーニングは筋肉が疲れにくい体を作ることと、普段使っている筋肉が疲れた時に普段使わない筋肉の方を動員して使うことができることなどの効果もあります。
持久力向上トレーニングは歩くことや走ることなど普段の生活に直結する動きをするトレーニングなので、歩く能力は走る能力そのものもレベルアップが期待でき、転倒予防や活動増加にもとても意義のあることです。
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高齢者のトレーニングのための過負荷の原則の重要性
過負荷の原則とは、体力や筋力を高めるためには、トレーニングの強度・運動量・頻度などが日常生活で行われている物を上回らなければ効果が望めないということです。その人の最大で出した時の筋力やパフォーマンスを把握して評価を行い、その人の限界値の20%以下の負荷量の場合には筋力向上の効果は期待できないと言われています。
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トレーニングの負荷量の漸増・漸進の重要性
漸増とは、「ぜんぞう」と読み、少しずつ増やすという意味です。
漸進とは、「ぜんしん」と読み、段階ごとに少しずつ進めていくという意味です。
高齢者に対してトレーニングを行うときには、維持することが重要と思われがちですが同じ条件でトレーニングを続けていると効果は頭打ちか徐々に薄れます。
運動により急変などが起きないためにリスク管理も必要ですが、トレーニングの効果を望むならば、運動の強度(負荷量)・運動量・頻度などを段階的に増やしていくことが大切です。
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高齢者向けの運動プログラムの例・時間配分
運動やトレーニングで効果を出すためには、日常生活でかけている負荷以上の負荷をかけて運動量を増やすことが大切であると紹介しました。日常生活での運動異常のことを行う場合には準備体操も必要ですのでウォームアップを必ず5分程度は行いましょう。
その次に、全身に酸素や栄養を行き渡させ、効果が出やすい体のコンディションを整えるために有酸素運動や体操を10分から15分ほどは行うとより良いです。
体が運動に慣れてきたら運動の種類の中で紹介した「筋力向上トレーニング」や「バランス向上トレーニング」を行います。
運動すると筋肉が縮み乳酸などの疲労物質も体に残るので、運動の後には整理体操やクールダウンを行い使った筋肉を伸ばして緩め、疲労物質も循環させてしっかりと食事をとり休んでもらうことが継続的に効果があげていくために大切です。
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運動や機能訓練の調整方法 実施時間や負荷量の設定方法
高齢者への運動は軽い負荷で行いがちですが、本人が自覚する運動の強さを確認しながらも、過負荷の原則にあるようにややきついくらいの運動負荷・時間行いましょう。
また運動する時間などについては、最大心拍数(脈拍)を計算して、最大心拍数の何パーセントの心拍数であるかというバイタルサインを目安に運動の強度や時間を設定していくという方法もあります。
最大心拍数の計算式
最大心拍数の計算式(公式)は「最大心拍数 = 208 - 0.7 × 年齢」で求めることができます。
公式版の方法が難しい時には、簡易的に最大心拍数を計算できる「最大心拍数 = 220 - 年齢」で求めることもできます。
最大心拍数と年齢ごとの目標心拍数の目安で調整
カルボーネン法という方法で求める目標心拍数の計算式(公式)は、「目標心拍数=(最大心拍数-安静時心拍数)× 運動強度 + 安静時心拍数」です。
安静時心拍数(安静時の脈拍)が70回/分の場合だと、目標心拍数は以下のようになります。
安静時心拍数(安静時の脈拍)が70回/分の場合の目標心拍数の早見表
脈拍を運動強度の目安にしてもらっている場合には、最大心拍数と目標心拍数の計算式に当てはめると、負荷量に合わせて以下のような心拍数の目安が導かれます。(下記表は小数点以下切り捨て)
脈拍を測定しながらこの脈拍を目安に運動を調整するという方法も良いと思います。
年齢 | 最大心拍数 | 40%負荷 | 60%負荷 |
70歳 | 159回/分 | 105回/分 | 123回/分 |
75歳 | 155回/分 | 104回/分 | 121回/分 |
80歳 | 152回/分 | 102回/分 | 119回/分 |
85歳 | 148回/分 | 101回/分 | 116回/分 |
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運動や機能訓練・トレーニングの中止基準
機能訓練指導員、高齢者などの運動・リハビリのための中止の基準には、一般的に「アンダーソン・土肥の基準」が用いられます。リハビリテーションや機能訓練で患者やご利用者に指導を行うに当たり、リスク管理は業務のひとつです。リスク管理を怠れば業務上の責任を問われることもあり、患者やご利用者に合わせたリスク管理方法を事前に主治医に確認したり、一般的な中止基準や運動負荷量などを学習しておくことが必要です。「アンダーソン・土肥の基準について」詳しくは以下の記事で紹介しています。
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高齢者の運動・トレーニングは定期的な頻度で継続が大切
高齢者に運動や機能訓練を提供する時には、この記事紹介したような適切な時間・負荷量で継続していくことが大切です。運動やトレーニングは毎日できることも重要かもしれませんが、無理なく続けていくために週に2、3回の頻度で適切な時間や負荷量で実施されていれば効果が期待できると言われています。
主観的にもちょうどいい運動になるように、この記事で紹介したような内容を参考にしながら運動や機能訓練の調整をしていってみてください。
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