介護支援専門員(ケアマネジャー)の更新研修は現場の負担が大きいにもかかわらず、資格維持のためには必須とされています。更新研修は国が定めた法定研修で、その運営は多くの都道府県で介護支援専門員協会が担っています。この協会は研修収入に依存しているため、法定研修の廃止や見直しには消極的です。しかし、実務で必要なスキルの多くは研修に含まれておらず、現場からは更新研修不要論も上がっています。
今回は、ケアマネの職能団体である日本介護支援専門員協会と法定研修の関係は切っても切れないものであり、日本介護支援専門員協会としてはケアマネの更新研修を廃止するという発議は期待できないであろうということについて考えてみたいと思います。
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ケアマネジャー(介護支援専門員)資格と更新研修
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護保険制度において要介護者やその家族の相談に応じ、適切な介護サービスの計画(ケアプラン)を作成・管理する専門職です。資格取得には、介護支援専門員実務研修受講試験に合格し、その後、実務研修を修了する必要があります。
更新研修制度の仕組みと負担
資格取得後も、5年ごとに更新研修を受講しなければ、資格の更新ができません。この更新研修は、都道府県によって費用が異なりますが、一般的に2万円~5万円程度かかります。また、実務経験があったとしても56時間の研修時間が必要で、指定された日程での受講が求められ、遅刻・早退・欠席は許されません。このため、現職のケアマネジャーにとって大きな負担となっています。
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日本介護支援専門員協会とは
一般社団法人日本介護支援専門員協会は、2005年に設立され、公正・中立なケアマネジメントの確立、全国の介護支援専門員のネットワークを構築し、資質の向上と地位の確立を図ること、国民の健康と福祉の向上を目的としています。令和3年時点での会員数は3万人強で、組織率は5%未満となっている状態です。
日本介護支援専門員協会の主な活動内容
一般社団法人日本介護支援専門員協会は、介護支援専門員の倫理綱領や行動規範の策定、研修の実施、情報提供や書籍の販売、職能団体としての調査や関係省庁などへの発言などを通じて、介護支援専門員の意見を伝えることや専門性向上に努めているとされています。各都道府県の介護支援専門員協会は日本介護支援専門員協会の都道府県支部の役割を担っているという関係性になっています。
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介護支援専門員更新研修の現状と課題
更新研修の時間数と厳しい参加要件
更新研修は実務を経験している人でも56時間に及び、指定された日程での受講が必須です。遅刻・早退・欠席が認められないため、業務との両立が難しく、多くのケアマネジャーが負担を感じています。利用者の権利擁護を強調する研修でありながら、仕事を行いながら研修に参加している介護支援専門員の権利が著しく制限されるような条件であることも大きな問題として声が挙がっています。
費用面での負担と都道府県ごとの差異
研修費用は都道府県によって異なりますが、2万円~5万円程度と高額です。この費用負担も、ケアマネジャーにとって大きな課題となっています。
介護支援専門員の法定研修の時間や費用に対する効果が不透明
介護支援専門員が実際に実務についた場合、ケアマネジメントの「質」も大切ではありますが、それよりも実際に働いている中では介護保険サービスの適正な利用や適切な介護報酬の給付管理を他の事業所と連携してできるかにあります。介護支援専門員の多くが居宅介護支援の業務につくことを想定しているにもかかわらず、法定研修ではほとんど教育されません。
実際、居宅介護支援の業務としては保険者である市区町村が指導を行うところであり、保険者が運営指導や集団指導を通じて公務員として最新の事例や介護保険制度などの教育や指導を行ってくれれば、介護支援専門員の実務的な意味での法定研修の意義は大変低いです。
更新研修不要論が高まる背景
これらの負担から、更新研修の必要性に疑問を持つ声が増えています。厳しい条件で高額な研修費用、実務的な研修になっていないなど、いろいろな要因が重なり介護支援専門員の間で不満の声が多くみられます。実際に更新研修を受けることができずに、介護支援専門員としての有効期限が過ぎてしまい実務ができなくなってしまったという人もいます。業界としてはケアマネ不足が大きな問題となっていますが、更新研修という仕組みが原因でケアマネを続けていけなくなっている人もいるのが現実です。
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法定研修の収益依存と介護支援専門員協会の財政構造
介護支援専門員協会の収益構造と法定研修依存
介護支援専門員協会の収益の大部分は、法定研修の実施による収入に依存しています。そのため、研修事業が協会の財政基盤を支えている状況です。1つの例として、公益社団法人大阪介護支援専門員協会は会計報告をインターネット上で公開しているのでみてみましょう。
大阪介護支援専門員協会の令和6年度の予算額を見てみると、事業収益の合計が1億5638万円であるのに対し、介護支援専門員研修事業収入が1億5014万円となっています。令和5年の会計実績値も構造としては似ています。
会計報告から見える協会にとっての法定研修の重要性
協会の会計報告を見ると、法定研修からの収入が主要な収益源であることは明らかです。大阪の場合は公益社団法人の法人格となっているので、公益目的事業としての活動での黒字は制限されているので仕方がない部分はありますし、もちろん職能団体として調査研究や、法定研修とは別の研修会・活動支援なども行っていますが、法定の研修で強制的に介護支援専門員から集めた研修収入に依存せざる得ない状況です。
そのため、法定研修の廃止は協会の存続に直接影響を及ぼす可能性があるため、協会が自ら研修を廃止の議論をすることは考えにくいのです。
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介護支援専門員協会の会員メリットの欠如と組織率の低迷
介護支援専門員協会の組織率と会員数の現状
日本介護支援専門員協会の資料によると、令和3年時点で、協会の会員数は約3万人で、組織率は5%未満と低迷しています。
これは、ケアマネジャー全体の中での日本介護支援専門員協会の魅力と影響力の低さを示しています。日本介護支援専門員協会としては組織力の低さを問題視しているようですが、組織力を高めるための具体的な対策はしていないように思います。制度設計や目指していることについても、現場で普通に介護支援専門員として働く人の考えとはズレているという声も多いです。
会員募集と実際のメリットの乏しさ
日本介護支援専門員協会は会員募集を行っていますが、会員となるメリットが明確でないとの声が多く、また、協会も自ら協会には活動費が足りないことや、会員からの会費が足りないから関係省庁との交渉や連携ができないと訴えています。会員になることにより政治的な発信力や影響力が高まるというメリットがあるのでそのために入会する必要があると日本介護支援専門員協会は強調していますが、現状の協会からの発信は具体性も乏しく、現場で働いている介護支援専門員の声を反映してくれるという期待感も低い状態のため、入会者が増えない要因となっています。
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介護支援専門員協会が法定研修を担っている限り、法定研修は廃止されない
日本介護支援専門員協会の主要な収入源である法定研修事業は、協会の財政基盤を支える重要な柱であり、存在意義となっています。そのため、たくさんの介護支援専門員が法定研修の廃止を求めていますが、協会の存続や活動に直接的な影響を及ぼすため、廃止するという発議も協会にはできない可能性が高いです。おそらくこのような背景から「研修をなくしたら質が保てない」という発言や「まずは研修の見直し」という表現を行っており、ケアマネ更新研修廃止の発議をしたら、今まで我慢してきた介護支援専門員たちが一気に廃止に賛成する行動をしてムーブメントが起きてしまうことを恐れているのかもしれません。
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新たな組織の必要性と全国介護支援専門員協会の登場
現場視点の団結力ある新たな職能団体の必要性
現場で働く介護支援専門員の声を反映し、より実践的な支援を提供する新たな職能団体として、「全国介護支援専門員協会」が立ち上がっています。名前が似ていますが、全国介護支援専門員協会は、介護支援専門員が求めている更新研修の廃止を目指して、実際に国会議員や地方議員などに働きかけを行うなど、日本介護支援専門員協会とは異なるベクトルで成果を出しています。
全国介護支援専門員協会による受け皿の可能性
全国介護支援専門員協会は、既存の協会に代わる新たな受け皿として、介護支援専門員の団結力を高め、社会的な発言力を強化する可能性を秘めています。今後の活動次第では、歴史のある日本介護支援専門員協会よりも介護支援専門員の職能団体としての役割を担うことができるのではないかと期待されます。
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結論:法定研修廃止への道のりと今後の展望
日本介護支援専門員協会から法定研修の事業を切り離さないと、法定研修をなくすという発議は日本介護支援専門員協会からは生まれないです。会員であることのメリットはほとんどないということを公言して、法定研修を主の収入源・存在意義としている状況では、介護支援専門員の資格者や現場で働く人たちが求める研修の廃止をしようとは言い出せないです。
解決策としては、日本介護支援専門員協会よりも団結力のある職能団体を作り、ケアマネの社会的な発言力を失わなずに、弱体化した日本介護支援専門員協会から卒業していくことが有力ではないかと考えます。受け皿として、実際に居宅介護支援の現場で働いている人たちで組織されている全国介護支援専門員協会という団体も立ち上がっており、実際にケアマネの生の声を政治の場に届けて成果を出しているので、職能団体として本来あるべき機能はこちらの団体にシフトしていくことも大いにありそうです。
ケアマネジャーの転職は、ケアマネ専門の転職サイトを利用しよう
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