技能実習と特定技能の違いとは?介護で知っておくべき制度
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近年、介護施設では、外国人の職員を見かけることが珍しくなくなりました。その多くは「技能実習」または「特定技能」の在留資格で働いています。しかし、両者の違いや仕組みを正確に理解している人は少なく、「実習生」と「労働者」の違いが曖昧なままになっていることもあります。

この記事では、介護分野で外国人が働く二つの制度「技能実習」と「特定技能」の違い、移行(切り替え)の流れ、費用面の比較などを詳しく解説します。

技能実習制度は、「学ぶために働く」制度

技能実習制度は、本来「日本で働くことを目的とする制度」ではなく、「開発途上国の人材が日本の技術を学び、帰国後に自国の発展に活かす」ことを目的として創設されました

制度の正式名称は「外国人技能実習制度」であり、法的根拠は技能実習法(平成29年施行)にあります。

介護分野では2017年から技能実習の対象職種に「介護」が追加され、技能実習1号・2号・3号の段階を経て、最長5年間の在留が可能です。技能実習生は「実習生」として受け入れられ、監理団体の指導のもとで、事業所が実習計画に沿って教育・訓練を行う必要があります。

雇用契約を結んで給与が支払われますが、制度の趣旨上「労働力の確保」ではなく「人材育成」が目的とされています。

技能実習1号・2号・3号の違い

区分 在留期間 実習の段階(目的) 主な要件
技能実習1号 最長1年 日本での技能実習の基礎段階。基礎技能の習得を目的とする。 入国後に講習を受け、基礎的な作業を行う。
技能実習2号 最長2年(1号と合わせ最長3年) 実習で身につけた技能を実践し、一定の熟練度を身につける段階。 技能実習1号を修了し、技能検定3級などの試験に合格していること。
技能実習3号 最長2年(通算最長5年) 技能の応用・高度な技能の習得を目指す上級段階。 技能実習2号を修了し、技能検定2級などに合格。優良な監理団体・受入企業のみ受け入れ可能。
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特定技能制度は、「働くために学ぶ」制度

特定技能制度は、2019年4月に新設された在留資格制度で、日本の人手不足を補うために設けられたものです。

法的には「特定技能1号」と「特定技能2号」があり、介護分野で認められているのは「特定技能1号」のみです。

特定技能1号では、技能実習2号と同等以上の技能と日本語能力(介護日本語評価試験など)を持つことが求められます。介護施設では、特定技能外国人は「即戦力の労働者」として雇用契約を結び、日本人と同等の条件で働きます。

技能実習と異なり、監理団体は介在せず、受け入れ機関(介護施設など)が直接雇用・管理を行います。制度目的が「人材育成」から「労働力確保」に変化している点が最も大きな違いです。

特定技能1号と特定技能2号の違い

特定技能1号は、人手不足分野で「一定の技能」と「日本語能力」を持つ外国人が就労できる在留資格で、在留は更新しながら最長5年までです。家族の帯同は原則できません。介護分野で認められているのは、この1号のみです。

特定技能2号は、より高度で熟練した技能を持つ外国人が対象で、在留期間に上限がなく、家族帯同も可能です。制度上は永住につながる道も開けています。ただし、介護分野は現時点で特定技能2号の対象外であり、取得できません。

まとめると、

1号=一定技能・上限5年・家族帯同不可
2号=熟練技能・期間無制限・家族帯同可(介護では不可)

という違いがあります。

特定技能1号・特定技能2号の就労分野一覧

在留資格 就労できる分野 備考
特定技能1号 12分野(介護、外食、宿泊、ビルクリーニング、農業、漁業、飲食料品製造、産業機械製造、電気・電子情報関連、建設、自動車整備、航空業) 介護分野は特定技能1号のみ対象。
最長5年の在留。
特定技能2号 2分野(建設、造船・舶用工業) 在留期間の上限なし・家族帯同可。
介護分野は対象外。
今後分野拡大の議論あり。

特定技能制度の試験の内容はどのようなもの?

特定技能制度の試験内容は「技能試験」と「日本語試験」の2つです。

技能試験(分野別試験)

就労分野ごとに必要とされる実務能力を確認する試験で、介護なら「介護技能評価試験」、外食なら「外食業技能測定試験」などがあります。実技・知識の両方を評価します。

日本語試験

日本語でのコミュニケーション能力を確認する試験で、主に「日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT N4以上)」が求められます。

介護分野はこれに加えて「介護日本語評価試験」の合格が必要です。

まとめると、特定技能の試験は「仕事の技能を測る試験」と「日本語能力を測る試験」の2種類に合格する必要がある制度です。

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技能実習と特定技能の主な違い(比較表)

項目 技能実習 特定技能
制度目的 技能の習得・人材育成 即戦力の労働力確保
在留資格名 技能実習1号・2号・3号 特定技能1号・2号
在留期間 最大5年 最大5年(更新可)
雇用関係 実習生(教育的立場) 労働者(対等な雇用関係)
管理体制 監理団体が関与 受け入れ機関が直接管理
日本語・技能要件 基本的な日本語能力 一定の試験合格が必要
帰国義務 原則あり 条件を満たせば継続可
介護分野での位置づけ 介護技能の習得 実務労働力として就労

このように、技能実習は「教育・訓練を通じた人材育成」であるのに対し、特定技能は「労働力としての受け入れ」である点に大きな違いがありますが、介護現場側としては上層部の人事を担当する人などは制度を理解しているかもしれませんが、現場ではどのような制度で働いているかは分からなく、個人情報の関係などもあり理解がなかなか進まないところです。

技能実習制度と特定技能制度で日本に在留できる期間

技能実習制度では、技能実習1号・2号・3号を通して最長5年間日本に在留できます。制度の目的が「技能の習得」であるため、原則として5年を超えて滞在することはできません。

特定技能制度(特定技能1号)では、1年・6か月・4か月ごとの更新で、通算5年まで在留可能です。介護分野は特定技能2号に移行できないため、最長5年が上限となります。

まとめると、介護分野においては、技能実習も特定技能も最長5年間の在留が上限となります。

技能実習制度と特定技能制度の後に日本に帰化することはできる?

技能実習・特定技能の後でも、日本に帰化することは仕組み上可能ではありますが、在留資格の種類そのものよりも、「日本での居住年数・素行・生計・日本語能力」などの条件を満たせるかが重要で、実際にはハードルは高めです。

もし帰化するとしたら、就労ビザや永住権取得などに切り替えてということになりますが、日本人の配偶者を作り配偶者ビザから永住権を得て帰化という方法もあり、帰化したいがためにそのようなルートで帰化をすることも一部問題視されています。

どこの国の人でも技能実習や特定技能として日本で働けるのか

技能実習制度も特定技能制度も、制度に参加している国・二国間協定を結んでいる国を中心に受け入れが行われます。

特に技能実習制度は、日本と送り出し国の二国間取り決め(MOC)を結んでいる国に限定されており、現在はベトナム・フィリピン・インドネシア・中国・カンボジアなどが中心です。

特定技能制度は、技能実習よりも国籍の制限が緩いものの、実際には試験が実施されている国や送り出し体制が整った国からの来日が多く、結果として特定の国籍に偏る傾向があります。

つまり、制度上は広い国から受け入れ可能でも、実際に働いているのは協定国・試験実施国に限られるというのが実態です。

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技能実習から特定技能への移行・切り替えの流れ

介護分野では、技能実習2号を修了した人が「特定技能1号」へ移行するケースが多く見られます。この切り替えの流れは、介護の現場にとっても重要です。

技能実習2号を修了した人は、原則として特定技能1号の技能水準・日本語水準を満たしているとみなされるため、追加の試験を受けずに移行が可能です。ただし、在留資格の変更申請や雇用契約の締結、受け入れ機関登録などの事務手続きが必要になります。

移行により、特定技能外国人としてより長期的に働くことができ、本人の生活の安定と施設側の人材定着の両立が期待されています。

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費用面の違い ― 監理団体費用と直接雇用の差

技能実習制度では、受け入れにあたり監理団体(組合など)への費用が発生します。これは監査や生活支援、通訳などの管理業務の対価として毎月支払われるものです。

一方で特定技能制度では、監理団体が介在しないため、これらの費用は基本的に不要です。ただし、登録支援機関を利用する場合には、生活サポートや手続き代行の費用が発生します。

総合的には、特定技能の方が受け入れコストは抑えられる傾向にありますが、登録支援機関の選定や支援体制の整備には注意が必要です。

国や自治体から補助金や生活支援金は給付される?

技能実習も特定技能も「外国人に特別な補助金が給付される制度」ではなく、生活を保証する仕組みや特権的な金銭給付は基本的になさそうです。受け入れる企業側が、社員寮を用意したり、家賃補助を出したりしているケースはあるようです。

技能実習生も特定技能制度を利用した労働者も、どちらも日本の在留資格が認められているので、日本に在留し日本に住民登録をしていれば各種社会保障が適用になります。よく、貧困の状態の外国人が生活保護を受給しているのではないかという話もありますが、外国人の生活保護については、国の制度としては外国人は保護の対象としないとされていますが、地方自治体の裁量で実務上は準用する形で受給してる外国人もいます。

技能実習も特定技能の制度ではこのようになっていますが、日本の大学などへの外国人留学生の場合は、条件に合致した場合には奨学金や学費の補助といった仕組みもあります

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介護現場でも制度理解が進んだ方がよい

技能実習生と特定技能外国人は、いずれも介護現場を支える貴重な人材です。しかし、制度目的や法的立場が異なるため、受け入れる施設側がその違いを理解し、適切に対応することが求められます。

「技能実習=教育の場」「特定技能=労働の場」という基本構造を理解することで、雇用契約や教育方針、労働時間管理などの実務上の判断も明確になります。

また、技能実習から特定技能への移行は、外国人職員のキャリアアップの道でもあり、長期的な定着につながります。介護事業者はこれらの制度を正しく活用し、安心して働ける環境を整えることが大切です。

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まとめ

技能実習と特定技能は、目的・仕組み・雇用関係のあり方が根本的に異なります。介護施設としては、「どの制度で受け入れているのか」「どのような手続き・費用が必要か」「将来的に特定技能へ移行できるか」を整理しておくことが重要です。
外国人職員の力を正しく理解し、制度を活用することで、介護現場における多様性と安定した人材確保が実現します。

 

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