家事支援サービス複数等級の国家資格(技能検定)2027年秋頃開始か

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2026年4月22日、政府は「日本成長戦略会議」(議長・高市早苗首相)において、家事支援サービスに従事する人材を対象とした新たな国家資格(技能検定)を創設する方針を打ち出しました。厚生労働省と経済産業省を中心に制度設計を進め、2027年秋頃に第1回の国家資格試験の実施を目指すとされています。
「介護離職を防ぐ」「品質の担保されたサービスを普及させる」という表向きの説明は、一見すると前向きな政策に聞こえます。しかし今回の方針を丁寧に読み込むと、複数の省庁が異なる思惑を持ちながら同じ「家事支援」という言葉の下に集まってきていることが見えてきます。そして介護保険の訪問介護が縮小されていく先に、何が起きようとしているのかも。
今回の方針の概要
政府の日本成長戦略会議(2026年4月22日)が公表した資料「分野横断的課題への対応の方向性」(内閣官房)の「6.家事等の負担軽減」の章に、今回の施策が整理されています。
方針の骨格は以下のとおりです。
技能検定の合格者は「技能士」を名乗ることができます(名称独占)。
現行の技能検定には133職種があり、法改正は不要で厚生労働省令の改正で新職種を追加できます。
政府は、すでに民間の「家政士検定試験」(日本看護家政紹介事業協会が実施)を参考に制度設計する方向を検討しています。
なお、経済産業省によれば、家事代行会社は全国に約190社、市場規模は約800億円です。政府はこの市場を拡大させる方向で動いています。
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3省庁それぞれが向いている方向
今回の施策は「家事支援」という1つのテーマを、厚生労働省・経済産業省・こども家庭庁がそれぞれ別の角度から取り組む構造になっています。
厚生労働省と経済産業省が狙う市場化と労働力確保
厚労省と経産省の関心は、家事支援サービスを「介護保険の外の自費市場」として育てることにあります。出産・育児による離職者は年間約15万人、家族の介護・看護による離職者は年間約11万人。これらの離職を防ぐための「労働力確保策」として家事支援サービスの普及を位置付けているのが、今回の方針の本質です。
介護保険制度の対象にならない「周辺の自費サービス」の担い手を国家資格で育成するという枠組みは、介護保険財政の圧迫を避けながら、実質的に介護に近いサービスを保険外で賄う市場を作ることでもあります。
こども家庭庁が進めるベビーシッターの品質管理強化
こども家庭庁は、ベビーシッター事業の普及に向けてガイドラインの整備と指導監督基準の適合状況の強化を施策の柱として打ち出しています。マッチングサイトに関するガイドラインはすでに策定されており、事業者への周知と遵守確認が進められています。
こども家庭庁ベビーシッター券(1日最大4,600円×2枚の補助)の発行枚数も拡大が続いており、令和6年度は前年度比1.8倍の約70万枚を発行する方針でした。補助金を通じてベビーシッター利用を促進するという政策の方向は明確です。
3省庁の目的はそれぞれ微妙に違う
厚労省・経産省が「介護離職を防ぐ生産年齢人口の確保」という経済・労働の観点から動いているのに対し、こども家庭庁は「子育て支援・安全確保」の観点から動いています。目的が少し違う3省庁が、「家事支援」「ベビーシッター」という同じ言葉の下に集まっているのが現状です。
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「多様な人材の確保」とは誰のことか
今回の方針には「多様な人材の確保に向けた検討を進める」という表現が登場します。この「多様な人材」が誰を指すのかについて、明確な説明はされていません。
表向きには、育児や介護で時間的制約があり就業が難しかった人、シニア層、短時間就労を希望する人などを想定しているとも読めます。しかし近年の政策の流れを見ると、もう一つの候補が浮かび上がります。
技能実習制度の廃止と「育成就労制度」への移行、特定技能の対象職種の拡大という流れの中で、介護分野にはすでに外国人材が参入しています。家事支援サービスの国家資格化は、「資格取得を条件として外国人材に家事支援・育児支援の領域を開放する」ための地ならしになり得ます。
多様な人材という表現だけなので、まだわかりませんが、国家資格という「基準」を作ることで、その基準を満たせば外国人材も参入できるという建付けの可能性もあります。近年は多様性やダイバーシティという言葉で今までタブーだったことが壊されてグローバル化してきています。
介護福祉士の国家資格が外国人材の受け入れ拡大の「条件整備」として機能して、さらに資格の部分合格なども認めてきた経緯と、構造は同じに思えてなりません。
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訪問介護の生活援助との関係はどうなっているのか
「今回の家事支援国家資格化は、介護保険の訪問介護から生活援助を切り離したい国の思惑だ」という見方が介護・福祉関係者の間で広がっています。この読み方の方向性は正しいと思うのですが、正確を期すためにもう少し丁寧に整理しておきます。
今回の日本成長戦略会議の方針を見る限り、厚生労働省は家事支援サービスの国家資格化と訪問介護の生活援助を介護保険から切り離すことを、同じ場で明示的に連動させて議論しているわけではありません。今回の方針の文脈はあくまで「介護離職・育児離職の防止」と「生産年齢人口の確保」という経済・成長戦略であり、対象として想定しているのは主に元気な高齢者の同居家族や育児中の家庭を支援する保険外の自費サービスです。
一方、訪問介護の生活援助をめぐる議論は別のルートで、財務省主導で10年以上にわたって独立して続いています。財務省は財政制度等審議会において、掃除・洗濯・調理などを行う生活援助について「必ずしも自立支援につながっていない」として介護給付から除外すべきと繰り返し主張してきました。
要支援だけでなく、要介護1・2への訪問介護・通所介護を市町村が運営する総合事業に移行し、生活援助型サービスをはじめとして全国一律の基準ではなく多様な人材・多様な資源を活用したサービス提供を可能にすべきという方向です。
ただしこの要介護1・2への訪問介護・通所介護を総合事業に移行するということは何度も先送りされており、2026年4月時点でも要介護1・2の訪問介護を総合事業に移行するという正式決定はされていません。第10期介護保険事業計画期間(2027〜2029年)の開始までの検討課題として積み残されている状態です。「訪問介護を身体介護だけにする」という方向性も、正式な方針として出てきているわけではありません。
では、今回の家事支援国家資格化が訪問介護の生活援助と無関係かといえば、そうとも言えません。財務省はずっと「生活援助を保険から外しても代替サービスがある」という論理を使いたがっています。家事支援の国家資格サービスが普及し、税制優遇まで付けば「保険外でも品質が担保されたサービスがある」という状況が整います。直接連動しているわけではないが、財務省が長年進めたい方向への議論を通りやすくする環境が整っていく、という構造です。別々に動いている議論が、結果として同じ方向に力を加えている、というのがより正確な見立てです。
あまり知られていませんが、すでに現在の制度として介護職員初任者研修の下の入門資格として「生活援助従事者研修」ができており、生活援助従事者の59時間研修を終えて資格を取ると、介護保険の訪問介護で提供しているサービスの中で、掃除、 洗濯、調理、買い物代行などの生活援助サービスだけは提供できます。生活援助に関する資格を最近作ったわけなので、介護保険の訪問介護から生活援助を外すということを完全に外す可能性は一旦は低いと考えてます。
実際問題としては、家事援助を介護保険の一環としてわずかな自己負担で提供していること、限られた介護人材で過剰なサービスを行っている側面もあり、これからもずっと介護保険の訪問介護で同じようなことを継続していくことは困難です。訪問介護でご利用者本位な買い物を、ヘルパーが行ってくれるからネットスーパーや生協などの利用が進まないですし、配食サービスで済むケースでもヘルパーが利用者の家の台所で手作り料理をふるまうということが訪問介護の現場では続いています。
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訪問介護の家事援助が縮小した先に何があるか
家事支援サービスの市場が国の補助を受けながら拡大し、そこに資格化を条件として外国人材が流入した場合、起きることは単に「介護保険の家事援助が縮小する」だけではありません。
まず、日本人の賃金水準がさらに上がりにくくなります。外国人材が参入することで労働供給が増え、家事支援・育児支援の市場賃金が低い水準で固定されていきます。これは当該分野だけの問題ではなく、隣接する保育・介護・訪問看護などの関連領域にも波及します。
次に、日本の家庭や子育ての現場に、異なる価値観・文化的背景が入ってくるということです。外国人材が悪いというのではありません。しかし家事は「生活そのもの」であり、ベビーシッターは子どもの育ちに直接関わる存在です。そこに国の思惑で誘導される形で特定の人材が流入する場合、家庭の自律的な選択ではなく、制度設計による強制的な変化として機能します。
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補助金の構造が生む分断
今回の方針で注目すべき点の一つが、新設国家資格の保有者によるサービス利用への税制措置の検討です。これは家事支援サービスを利用することで税負担が軽くなる、あるいは補助が受けられる仕組みを作るということです。医療費控除のような形になるのかもしれません。
これまでの介護・保育分野での補助金の使われ方を見ると、以下のパターンが繰り返されています。
この構造が家事支援・ベビーシッター分野にも適用されると、働かない人の方が安い費用で至れり尽くせりの家事支援・育児支援を受けられる一方で、普通に働いて税金を払っている人は補助の対象外となる、あるいは自費で高い費用を払うという逆転現象が生まれます。
介護保険でも、要介護認定を受けた高齢者には1〜3割負担で手厚いサービスが提供される一方、要介護非該当の元気な高齢者が自費でサービスを利用しようとすると全額負担になるという分断がすでに存在します。家事支援サービスの拡大がこの構造を別の層にも広げていくとすれば、日本社会の分断はさらに深まります。
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「成長戦略」の文脈で家事が語られることの意味
今回の方針が「介護保険部会」でも「障害者部会」でもなく、「日本成長戦略会議」という経済政策の文脈で打ち出されたことは、非常に象徴的です。
家事支援サービスの拡大は、育児・介護による離職を防ぐことで「生産年齢人口を労働市場にとどめる」ための経済政策です。家事や育児、介護を「労働市場への参加を阻む負担」として捉え、それをアウトソーシングで解消するという発想が根底にあります。
家事や育児が、家族が直接関わることで生まれる価値や文化的な継承の場であるという視点は、成長戦略の文書には出てきません。市場化・効率化の対象として整理されています。
これは単なる制度の話ではなく、日本の家庭と社会の設計をどこに向けるかという問題です。家事代行市場を800億円から何兆円かに育てることが「成長」なのだとすれば、その成長の果実は誰のもとに届くのかも、同時に問わなければなりません。
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政策説明の先にあるもの
今回の家事支援サービス国家資格化の方針を整理します。
政府の説明は「介護離職・育児離職を防ぎ、品質の高いサービスを普及させる」という前向きなものです。しかしその先には、介護保険の家事援助の縮小、「多様な人材」という言葉で包まれた外国人材の参入ルート整備、補助金構造が生み出す所得層間の分断、家事・育児の市場化と日本人賃金の低迷固定化という連鎖が見えます。
「介護保険から家事を切り離したい」という読み方で止まるのではなく、この制度が日本の家庭・賃金・文化・社会構造にどう影響するかを、今のうちに問い続けることが必要です。





