保育所に理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を配置できる特例とは?令和8年4月改正の内容と現場への影響

令和8年(2026年)4月1日、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準等の一部を改正する内閣府令」が施行されました。この改正により、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)などのリハビリテーション専門職を、一定の条件のもとで保育士1人とみなして配置数に算入できる特例が新設されました。
制度の骨格だけ見れば「専門職が保育に参加しやすくなる」という前向きな改正です。ただ、保育士不足が深刻な現在、この特例の本当の狙いと、今後起きることを考えると、保育士は療法士にとってプラスにはならない可能性がみえてきます。
この記事では制度の詳細とともに、現場と国の思惑の両面から整理します。
保育所の職員配置「保育士とみなす」、令和8年4月から何が変わったのか
引用:保育政策関係資料集令和8年4月(こども家庭庁)
従来から、保健師・看護師・准看護師(以下「看護師等」)については、1人に限り保育士とみなして配置数に算入することが認められていました。今回の改正は、この「みなし」の枠組みをリハビリテーション専門職等にも拡大するものです。文脈としては障害児・医療的ケア児の受け入れ、保育所などでの専門的支援やインクルージョンの推進ということになっています。
根拠通知は、「こ成保第329号・8文科初第177号(令和8年4月8日付、こども家庭庁成育局長・文部科学省初等中等教育局長の連名通知)」です。対象施設は保育所に加えて、小規模保育事業所(A型・B型)、事業所内保育事業所、認定こども園も含まれます。
「特定理学療法士等」とは誰のことか
今回の特例で保育士とみなすことができる職種は、以下のいずれかに該当し、かつ「子育てに関する知識及び経験を有する者」であることが条件です。
法令上の正式な呼称は「特定理学療法士等」で、これはPTだけを指すわけではなく、上記の専門職全体の総称です。
「子育てに関する知識及び経験を有する」条件について
この条件は、単に資格を持っているだけでは満たされません。具体的には以下のいずれかが必要です。
つまり、PT・OT・STの資格を持っているからといって、すぐに保育士みなしとして算入できるわけではありません。3年以上の勤務実績か、所定の研修修了が求められます。
配置する場合の体制要件
特定理学療法士等が保育を行う場合は、以下の体制を確保しなければなりません。
要するに、「PT・OTを放り込んで保育士数を1人減らす」ような使い方は想定されておらず、必ず経験ある保育士が同室でフォローに入る体制が必須です。
看護師等のみなし特例との組み合わせ
従来の看護師等(保健師・看護師・准看護師)のみなし特例と、今回の特定理学療法士等のみなし特例は、両方を同時に活用することが可能です。つまり、理論上は看護師1人+PT1人の計2人を保育士とみなして算入できます。
ただし条件があります。看護師等の支援を担う保育士と、特定理学療法士等の支援を担う保育士は、別々の者でなければならないということです。1人の保育士が両方を同時に支援することはできません。
どんな保育所が活用できるか
ケース① すでに看護師等が在籍している保育所
すでに看護師等のみなし特例を使っている保育所にとっては、さらに特定理学療法士等を1人追加算入できる可能性が生まれます。発達特性のある子どもへの対応や、療育的な関わりを保育に組み込みたいと考えている施設にとっては、PT・OT・STの専門性を活用しやすくなるという側面があります。
ケース② 保育士のみ・幼稚園教諭のみで回している保育所
保育士の確保に苦労している保育所にとっては、PT・OT・STを採用することで配置基準上の「1人分」を確保できるという選択肢ができます。ただし支援を担う経験ある常勤保育士が別途必要ですから、保育士を1人削減できるという単純な話ではありません。むしろ「発達支援の専門職と保育士がチームを組む」という体制整備のための規制緩和と見るべきです。
ケース③ PT・OT・STを新たに採用する場合
児童発達支援や放課後等デイサービスの分野でキャリアを積んできたPT・OT・STが保育所に転職・兼務するルートが整備されたことになります。障害児支援と保育の「つながり」を制度上つくろうという意図は読み取れます。
保育士不足対策という現実
ここで少し踏み込んだ見方をします。
この特例の背景には、保育士不足という慢性的な問題があります。保育士の有効求人倍率は長年にわたって高止まりしており、定員を満たせない保育所が各地に存在します。保育士の資格取得者数は多いにもかかわらず、給与水準の低さや業務の過酷さから「保育士有資格者の潜在化」が深刻な問題とされてきました。
国がこの特例を設けた背景には、保育士の絶対数が足りない中で、配置基準を満たすための「人数の穴埋め」にリハビリ専門職を使うという発想が少なからず含まれているように見えます。
PT・OT・STの給与水準は、医療・介護分野でも決して高くありません。特に療育・児童支援の分野で働くセラピストの賃金は、医療機関勤務と比べて低い傾向があります。保育士よりは高いケースが多いとはいえ、「賃金が低めで供給が一定数ある専門職を保育の人手不足に転用する」という構造に見えてしまう部分もあります。
また、近年は、発達・発育や療育についての関心が高い中で、保育の中でこのような分野の相談や支援を受けることができることも、子どもや親御さんにとってメリットとしてはあるのだと感じます。保育士として勤務してる専門職に相談できるということならば、保育士としての配置を満たしつつ、病院や専門機関に行くことなく身近な専門職に特段の追加料金なく相談できるということなので、利用する側からしたら良いことですよね。
保育士の処遇改善にはなるのか
率直に言えば、おそらくこの特例は保育士の処遇改善や地位向上には直結しません。
保育士が慢性的に不足している根本原因は、仕事の重さに対して賃金が低すぎるという一点に尽きます。0〜2歳の子どもの命を預かり、発達支援も行い、保護者対応もこなし、記録・書類業務もある。それで月給が20万円前後という実態が長年続いています。
この問題に対して、今回の特例がやっていることは何かというと、「保育士以外の職種を保育士代わりに使えるようにする」ことです。保育士の給与を上げるのではなく、保育士でない人を保育士枠に入れることで配置基準上の数を合わせる。これは問題の本質を解決しているのではなく、不足した数を別の場所から調達することで見かけ上の帳尻を合わせているに過ぎません。
コンビニや宿泊業、介護などもそうですが、日本では色々な分野で、報酬や賃金をあげるわけではなく、その場しのぎの補助金が与えたり、外国人など低い賃金に働く人を誘導したりして、低い報酬を維持する方向の政策ばかりを行ってきています。
また、通知には「特定理学療法士等以外の職員に業務の負担が過剰に偏ることがないよう配慮すること」と明記されています。これは裏を返せば、「配慮しないと既存の保育士に負担が集中する」という現実を国自身が認めているということでもあります。これは当たり前のことで、保育士として頑張ってる人の中に医療や心理系の専門職が入ったら、その人は立場的にも他の保育士さんと違った先生っぽくふるまうことになり、他の保育士と同じ業務をすることにはおそらくならないのです。
特定理学療法士等の「保育に関する研修・資質向上」を保育所長が支えなければならないコストも、実際には経験ある保育士が担います。
リハビリ専門職の視点から見た活用の可能性と本質
一方で、制度の批判だけで終わるのも公平ではありません。保育所に子どもの発達を専門的に見られるセラピストが常駐することには、実質的なメリットがあります。
発達障害の早期気づきや保護者への適切なフィードバック、集団保育の中での個別配慮、就学に向けた支援計画の作成など、PT・OT・STが保育の現場にいることで拾える子どものサインは確かにあります。
課題は、そのセラピストが「保育士の代替として配置数の穴埋めに使われる」のか、「保育の専門性を補完するために加配的に機能する」のか、という使われ方の問題です。制度設計上は「補完」を意図していますが、人手不足の現場では「穴埋め」として機能するリスクは否定できません。
おそらくリハビリ専門職の職能団体などからしたら、「職域が拡大した!」「活躍の場が広がるぞ!」というポジティブな解釈をしていると思います。しかし冷静に見れば、安く賃金で知見を提供してやりがいがある働き口が増えたというだけの話です。療法士自身の待遇はむしろ下がり、対価という経済的な付加価値をつけることなく知見を提供する場が新たに増えたことになります。料金がかからないで提供される場が増えれば増えるほど、給料や報酬の原資になる「相談や技術提供の対価」を得にくい構造がますますできていくのです。やりがいと引き換えに、専門職全体の経済的な地位を少しずつ切り崩していく構造です。
価値を高める職域拡大と価値を下げる職域拡大
職域拡大には2種類あります。専門性に対して適切な対価が支払われる場が増える拡大と、対価を得にくい場に専門性を提供する場が増える拡大です。前者は専門職の経済的地位を底上げし、後者は少しずつ切り崩します。
今回の特例が後者に近い理由は、保育所という場の賃金構造にあります。保育士の給与水準が低いまま据え置かれている以上、そこに「みなし保育士」として入るリハビリ専門職の処遇も、その水準に引っ張られる可能性があります。医療機関や介護施設で技術の対価として得ていた報酬より低い水準で、同等かそれ以上の専門的な関わりを求められるとすれば、職域の拡大は実質的な価値の希薄化です。
「子どもの発達支援に関わりたい」という療法士は多くいます。今回の制度改正の背景には、おそらく理学療法士協会や作業療法士協会など職能団体からの働きかけもあったと思われます。保育・療育領域への参入を求める声が制度化につながったとすれば、それ自体は職能団体の活動として自然なことです。
ただ問題は、待遇・処遇の改善が伴わない職域拡大を自ら求めたという構造です。保育所の賃金水準が低いままであることは、制度設計の段階から見えていたはずです。それでも職域拡大を推進した結果、低い処遇で専門知識を提供する場が広がったとなれば、後から「療法士の賃金が低い」と主張しても説得力を持ちにくい。自分たちで間口を広げておいて、その間口から入ってくる処遇の低さに異議を唱えるのは、戦略として一貫性がありません。
職域を広げることと、経済的な価値を守ることは、本来セットで議論されるべきです。対価の設計なき職域拡大を繰り返すほど、療法士という資格の経済的な地位は少しずつ、しかし確実に下がっていきます。
まとめ
令和8年4月施行の改正で新設された「特定理学療法士等の保育士みなし特例」のポイントを整理します。
制度として一定の合理性はあります。発達支援の専門職と保育士が連携する体制は、子どもの育ちにとってプラスになりえます。ただし、この特例が「保育士不足の構造的解決」ではなく「配置基準の人数合わせ」として機能するリスクに目を向けることも必要です。
保育の質を本当に高めるためには、保育士自身の処遇改善・賃金引き上げ・業務負担の軽減が不可欠です。特定理学療法士等の活用はその補完策として意味を持ちますが、本質の代替にはなりません。
引用・参考資料
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