「トータルケアマネジメント」とは?日本介護支援専門員協会の理想論が現場を苦しめる理由

「トータルケアマネジメント」とは?日本介護支援専門員協会の理想論が現場を苦しめる理由
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この記事は、介護現場の実務を知る一人の立場からの、個人的な意見・問題提起です。

日本介護支援専門員協会が近年強く打ち出している「トータルケアマネジメント」という概念について、率直な疑問と批判を述べます。協会の理念そのものを頭ごなしに否定したいわけではありませんが、この概念の進め方や、介護支援専門員として働く人たちの気持ちを軽視して理想を推し進める姿勢が目立つため、現場のケアマネを苦しめる本末転倒があると感じています。

トータルケアマネジメントとは

まず、トータルケアマネジメントとは何か。

日本介護支援専門員協会の意見書によれば、介護保険制度の枠にとどまらず、日常生活全般にわたる多様な相談を受け、居住環境や家族関係、地域社会での活動状況まで広範囲に課題を分析し、介護保険の枠を超えた多様な支援につなげる仲介・調整を行うケアマネジメントのこととされています。

そして協会は、この意見書の中で「当協会は覚悟をもってトータルケアマネジメントを進める取り組みを推進していく」と、力強く宣言しています。厚生労働省の検討会にもこうした意見書が提出され、各自治体レベルでも「ケアマネはトータルケアマネジメントを実践すべき」という趣旨の資料が多数出てくるようになりました。

言葉の響きはとても立派です。高齢者一人ひとりの「その人らしい生活」を、制度の壁を越えて丸ごと支える。理想として聞けば、反対する人はいないでしょう。しかし、実際に居宅介護支援などの現場で汗をかいているケアマネからすると、この「立派な理想」には、看過できない問題が潜んでいます。

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そもそも、介護保険外の支援まで担うことは法律に書かれているのか

協会は「覚悟をもって推進する」と言いますが、その前にまず確認しておきたいことがあります。

介護支援専門員が、介護保険外のサービスにまで責任を持って関わっていくべきだと、法律上どこかに明記されているのでしょうか。結論から言うと、そのような義務は法令上明記されていません。

ケアマネの業務範囲を定めているのは、主に「指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準」(いわゆる運営基準)です。協会の意見書も、この基準の第1条や第13条を根拠として挙げています。ですが、その条文を実際に読んでみると、書かれている内容は協会の主張とは少し方向が違います。

基準第1条の2(基本方針)が求めていること

運営基準の第1条の2は、居宅介護支援の「基本方針」を定めた条文です。

(基本方針)
第一条の二 指定居宅介護支援の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮して行われるものでなければならない。
2 指定居宅介護支援の事業は、利用者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、利用者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われるものでなければならない。
3 指定居宅介護支援事業者(法第四十六条第一項に規定する指定居宅介護支援事業者をいう。以下同じ。)は、指定居宅介護支援の提供に当たっては、利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って、利用者に提供される指定居宅サービス等(法第八条第二十四項に規定する指定居宅サービス等をいう。以下同じ。)が特定の種類又は特定の指定居宅サービス事業者(法第四十一条第一項に規定する指定居宅サービス事業者をいう。以下同じ。)等に不当に偏することのないよう、公正中立に行われなければならない。
4 指定居宅介護支援事業者は、事業の運営に当たっては、市町村、法第百十五条の四十六第一項に規定する地域包括支援センター(以下「地域包括支援センター」という。)、老人福祉法(昭和三十八年法律第百三十三号)第二十条の七の二に規定する老人介護支援センター、他の指定居宅介護支援事業者、指定介護予防支援事業者(法第五十八条第一項に規定する指定介護予防支援事業者をいう。以下同じ。)、介護保険施設、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)第五十一条の十七第一項第一号に規定する指定特定相談支援事業者等との連携に努めなければならない。
5 指定居宅介護支援事業者は、利用者の人権の擁護、虐待の防止等のため、必要な体制の整備を行うとともに、その従業者に対し、研修を実施する等の措置を講じなければならない。
6 指定居宅介護支援事業者は、指定居宅介護支援を提供するに当たっては、法第百十八条の二第一項に規定する介護保険等関連情報その他必要な情報を活用し、適切かつ有効に行うよう努めなければならない。

引用:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準

ここでは、利用者の心身の状況や置かれている環境に応じて、利用者の選択に基づき、適切な保健医療サービス・福祉サービスが多様な事業者から総合的・効率的に提供されるよう配慮して行う、という趣旨が示されています。

たしかに「利用者の環境に応じて」「総合的に」という言葉はあります。しかし、これはケアプランに位置づける介護保険サービス等を、利用者本位で適切に組み立てなさい、という趣旨であって、介護保険の枠を超えた保険外サービスやインフォーマルな支援の創設・提供にまでケアマネが責任を負え、と命じているわけではありません。あくまで、居宅サービス計画(ケアプラン)を適切に作るための方針です。

基準第13条が列挙しているのは「ケアプラン作成の一連の業務」

次に、具体的な業務を定めた第13条(指定居宅介護支援の具体的取扱方針)です。

(指定居宅介護支援の具体的取扱方針)
第十三条 指定居宅介護支援の方針は、第一条の二に規定する基本方針及び前条に規定する基本取扱方針に基づき、次に掲げるところによるものとする。
一 指定居宅介護支援事業所の管理者は、介護支援専門員に居宅サービス計画の作成に関する業務を担当させるものとする。
二 指定居宅介護支援の提供に当たっては、懇切丁寧に行うことを旨とし、利用者又はその家族に対し、サービスの提供方法等について、理解しやすいように説明を行う。
二の二 指定居宅介護支援の提供に当たっては、当該利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
二の三 前号の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
三 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成に当たっては、利用者の自立した日常生活の支援を効果的に行うため、利用者の心身又は家族の状況等に応じ、継続的かつ計画的に指定居宅サービス等の利用が行われるようにしなければならない。
四 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成に当たっては、利用者の日常生活全般を支援する観点から、介護給付等対象サービス(法第二十四条第二項に規定する介護給付等対象サービスをいう。以下同じ。)以外の保健医療サービス又は福祉サービス、当該地域の住民による自発的な活動によるサービス等の利用も含めて居宅サービス計画上に位置付けるよう努めなければならない。
五 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成の開始に当たっては、利用者によるサービスの選択に資するよう、当該地域における指定居宅サービス事業者等に関するサービスの内容、利用料等の情報を適正に利用者又はその家族に対して提供するものとする。
六 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成に当たっては、適切な方法により、利用者について、その有する能力、既に提供を受けている指定居宅サービス等のその置かれている環境等の評価を通じて利用者が現に抱える問題点を明らかにし、利用者が自立した日常生活を営むことができるように支援する上で解決すべき課題を把握しなければならない。
七 介護支援専門員は、前号に規定する解決すべき課題の把握(以下「アセスメント」という。)に当たっては、利用者の居宅を訪問し、利用者及びその家族に面接して行わなければならない。この場合において、介護支援専門員は、面接の趣旨を利用者及びその家族に対して十分に説明し、理解を得なければならない。
八 介護支援専門員は、利用者の希望及び利用者についてのアセスメントの結果に基づき、利用者の家族の希望及び当該地域における指定居宅サービス等が提供される体制を勘案して、当該アセスメントにより把握された解決すべき課題に対応するための最も適切なサービスの組合せについて検討し、利用者及びその家族の生活に対する意向、総合的な援助の方針、生活全般の解決すべき課題、提供されるサービスの目標及びその達成時期、サービスの種類、内容及び利用料並びにサービスを提供する上での留意事項等を記載した居宅サービス計画の原案を作成しなければならない。
九 介護支援専門員は、サービス担当者会議(介護支援専門員が居宅サービス計画の作成のために、利用者及びその家族の参加を基本としつつ、居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等の担当者(以下この条において「担当者」という。)を招集して行う会議(テレビ電話装置その他の情報通信機器(以下「テレビ電話装置等」という。)を活用して行うことができるものとする。ただし、利用者又はその家族(以下この号において「利用者等」という。)が参加する場合にあっては、テレビ電話装置等の活用について当該利用者等の同意を得なければならない。)をいう。以下同じ。)の開催により、利用者の状況等に関する情報を担当者と共有するとともに、当該居宅サービス計画の原案の内容について、担当者から、専門的な見地からの意見を求めるものとする。ただし、利用者(末期の悪性腫瘍の患者に限る。)の心身の状況等により、主治の医師又は歯科医師(以下この条において「主治の医師等」という。)の意見を勘案して必要と認める場合その他のやむを得ない理由がある場合については、担当者に対する照会等により意見を求めることができるものとする。
十 介護支援専門員は、居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等について、保険給付の対象となるかどうかを区分した上で、当該居宅サービス計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得なければならない。
十一 介護支援専門員は、居宅サービス計画を作成した際には、当該居宅サービス計画を利用者及び担当者に交付しなければならない。
十二 介護支援専門員は、居宅サービス計画に位置付けた指定居宅サービス事業者等に対して、訪問介護計画(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成十一年厚生省令第三十七号。以下「指定居宅サービス等基準」という。)第二十四条第一項に規定する訪問介護計画をいう。)等指定居宅サービス等基準において位置付けられている計画の提出を求めるものとする。
十三 介護支援専門員は、居宅サービス計画の作成後、居宅サービス計画の実施状況の把握(利用者についての継続的なアセスメントを含む。)を行い、必要に応じて居宅サービス計画の変更、指定居宅サービス事業者等との連絡調整その他の便宜の提供を行うものとする。
十三の二 介護支援専門員は、指定居宅サービス事業者等から利用者に係る情報の提供を受けたときその他必要と認めるときは、利用者の服薬状況、口腔くう機能その他の利用者の心身又は生活の状況に係る情報のうち必要と認めるものを、利用者の同意を得て主治の医師等又は薬剤師に提供するものとする。

引用:指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準

協会が具体化してきたと述べる第13条の各号を見ると、そこに列挙されているのは、課題分析(アセスメント)、サービス担当者会議の開催、居宅サービス計画原案の作成、モニタリング(月1回以上の利用者宅訪問と記録)、サービス事業者との連絡調整といった、いずれも「居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、実施状況を管理する」ための一連の業務です。

厚生労働省の解釈通知でも、これらの業務は「基本方針を達成するために必要となる業務を列記したもの」と説明されています。つまり、第13条はケアマネの業務を無限に広げる規定ではなく、むしろケアプランのマネジメントという枠組みの中で、やるべきことを具体的に列挙して限定している条文なのです。

ここに「介護保険外のサービスまで自ら創設し、責任を負うこと」という趣旨は含まれていません。

ケアマネの必須業務の全体像はケアマネジャー(居宅介護支援事業所)の7つの必須業務と介護報酬で整理しています。

協会自身が「給付の対象にならない」と認めている

そして決定的なのは、協会の意見書自身が、こう認めている点です。

「医療サービスや福祉サービス、インフォーマルサポートのみで構成されたケアマネジメントを実施した場合は、居宅介護支援費の給付の対象とはならない」、つまり、介護保険サービスを含まない、保険外だけの支援は、そもそも居宅介護支援費という報酬の対象外だと、協会自身が分かっているのです。

報酬の対象外だということは、裏を返せば、それが法令上ケアマネに義務づけられた業務ではない、ということの何よりの証拠です。だからこそ協会は、意見書の中で「介護保険サービスの枠にとらわれないで支援をマネジメントできる環境が必要」「財源も介護給付費の枠にとどまらず検討すべき」と述べ、これから制度や財源を新たに作ってほしい、と要望しているわけです。

要望しているということは、現時点ではその法的根拠も財源も存在しない、という自白にほかなりません。

整理すると、こうなります。介護保険外のサービスにまでケアマネが責任を持って関わるべきだという法的義務は、現行法令のどこにも明記されていない。協会の言う「トータルケアマネジメント」は、既存の条文の解釈を職能団体が独自に押し広げたものであって、法律で定められたケアマネの責務ではないのです。

この前提を踏まえたうえで、以下、なぜその進め方が問題なのかを述べていきます。

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理想論としては分かる。でも、それを「業務」にされると話は別

誤解のないように言っておくと、ボランティア精神として「困っている高齢者を制度の枠を超えて助けたい」という気持ちは、私にもよく分かります。現場のケアマネの多くは、目の前の利用者が困っていれば、制度上は自分の仕事でなくても、つい手を差し伸べてしまう優しい人たちです。

問題は、その「善意でやってしまっていること」を、職能団体が自ら業務範囲として拡大解釈し、あたかも資格を持つ全員の総意であるかのように発信し、政治的に認めさせようと働きかけている点です。

協会の意見書自体、実は矛盾を抱えています。一方で「介護支援専門員の魅力が薄らいでいく危機感を持っている」と言いながら、もう一方で、そのケアマネたちが本来の業務範囲の外側まで責任を負わされ、ますます働きにくくなるような状況を、自ら作り出そうとしているのです。魅力が薄れていると言うなら、まずやるべきは業務範囲を明確にして負担を軽くすることのはずです。やっていることが真逆ではないでしょうか。

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「トータル」の名のもとに、シャドーワークが広がっていく

ケアマネの世界には「シャドーワーク」という言葉があります。制度上の業務でも報酬の対象でもないのに、現場のケアマネが善意や成り行きで担わされている、見えない労働のことです。安否確認のついでの買い物、家族の相談ごと、行政手続きの手伝い、身寄りのない利用者の入院時の保証人的な対応——数え上げればきりがありません。

興味深いことに、協会の副会長自身が講演の場で「ケアマネがすでに多くのシャドーワークを担っている」と認めています。にもかかわらず、その解決策が「シャドーワークを減らす」ではなく「トータルケアマネジメントとして、むしろ制度の枠を超えた支援を推進する」方向に向かっている。これでは、シャドーワークに立派な名前を付けて正当化し、際限なく広げているだけではないでしょうか。

「トータルケアマネジメント」という概念を協会が身勝手に進めている限り、ケアマネの仕事の範囲はどんどん曖昧になり、シャドーワークは広がるばかりです。業務範囲の明確化を求める現場の声とは、まったく逆の方向です。ケアマネのシャドーワークや保険外業務の問題については居宅ケアマネが保険外サービスで対応しうる業務はどうすべき?でも触れています。

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「覚悟」を決めたのは誰か 会員不在の総意

ここが、私が最も問題だと感じる点です。協会は「覚悟をもってトータルケアマネジメントを推進していく」と言います。しかし、その「覚悟」を実際に決めさせられ、現場で背負わされるのは、意見書を書いた上層部ではなく、日々担当利用者を抱えて走り回っている一般のケアマネたちです。

2026年6月1日、埼玉県川口市の住宅で、訪問していたケアマネジャーの女性(63歳)が、利用者である高齢女性の同居家族の男性(60歳)に刃物で刺され、亡くなる事件が起きました。報道によれば、男性は犯行後に自らも首を刺し、搬送先で死亡したとされています。利用者は認知症でほぼ寝たきりの高齢の母親で、亡くなったケアマネジャーはその母親を担当していたと報じられています。動機はまだ捜査中で、詳しい経緯は明らかになっていません。

この事件を受けて、日本介護支援専門員協会は令和8年6月2日付で会長名の声明を出しました。声明では、深い哀悼の意を表し、捜査中のため憶測に基づくコメントは差し控えるとしたうえで、次のように述べています。

このような事件はいかなる事情があるとしても、断固として許されるものではありません。国民の福祉の増進のために尽力している専門職として、その善意を踏みにじる行為と言わざるを得ません。私たちは、このような事件に屈することなく、これからも高齢者およびその家族の生活の安寧のために邁進してまいることを、ここに宣言いたします。

引用:埼玉県におけるケアマネジャーの殺害事件への声明(令和8年6月2日)[PDF]

もちろん、この声明には、亡くなった方への哀悼や、不安を抱える全国のケアマネへの訪問時の安全確保の支援強化なども併せて記されており、その点は理解できます。ただ、私が引っかかったのは「このような事件に屈することなく邁進する」という一節です。

これからも切れ目なくケアマネが仕事を続けていく決意を示したいのだと思いますが、身内であるケアマネの命が奪われるという事態に対してすら、まず前面に出てくるのが「屈することなく邁進する」という言葉であることに、私は違和感を覚えました。

本来まず必要なのは、訪問という働き方そのものに潜む危険(単独訪問のリスクなど)に正面から向き合い、安全を確保する具体策を最優先で打ち出すことのはずです。理想を掲げて「前へ進む」ことばかりが先に立ち、現場の安全や実態への手当てが後回しに見えてしまう。協会の姿勢には、そうした理想先行で現場の実態から離れていく傾向を感じることが増えました。

「覚悟をもってトータルケアマネジメントを推進していく」の話に戻りますが、この方針に心から賛同している会員が、いったいどれだけいるのでしょうか。私が見聞きする限り、賛同しているケアマネはごく少数です。多くは「また仕事が増える」「勝手に決めないでほしい」と感じているのが実情です。よく問題になっている介護支援専門員の実務研修や更新研修でもこの傾向は非常に強く、本来の仕事に必須として求められていることではない理想的な部分をひたすら研修するという状況からも見られます。

保険外に踏み込むほど、ケアマネの責任とトラブルのリスクは増える

トータルケアマネジメントの問題は、単に「仕事が増える」だけではありません。介護保険の枠を超えて動くということは、ケアマネが背負う責任そのものが重くなり、トラブルに巻き込まれるリスクが確実に高まるということでもあります。

介護保険サービスであれば、指定を受けた事業者が、公的なルールと基準のもとでサービスを提供します。ケアマネはその中から利用者に合ったものを選び、ケアプランに位置づけます。何か問題が起きても、事業者・保険者・ケアマネの役割分担が制度上ある程度整理されています。

ところが、トータルケアマネジメントとして介護保険外の事業者やサービスまで一緒に選び、調整するとなると、話はまったく変わってきます。保険外サービスは、質も料金も事業者によってバラバラで、公的なチェックが働きにくいものも少なくありません。そこにケアマネが「この事業者がいいですよ」と関与すれば、当然ながら、その選定や紹介に対する責任がケアマネ側に生じてしまいます。

しかも、保険外サービスには実費の自己負担が発生します。お金が絡めば、トラブルの火種は一気に増えます。例えば、次のような場面が容易に想像できます。

  • ケアマネが紹介した保険外事業者のサービスの質が悪かった、料金が思ったより高かった、として利用者・家族から苦情が来る
  • 「あのケアマネさんが勧めたから契約したのに」と、事業者と利用者の間のトラブルにケアマネが巻き込まれる
  • 実費負担をめぐる金銭トラブルや、支払い・解約をめぐる行き違いの板挟みになる
  • 特定の保険外事業者を紹介することで、公正中立性(特定の事業者に不当に偏らないこと)を疑われる

介護保険サービスであれば公正中立が制度で担保されていますが、保険外の世界に踏み込むほど、この「中立性」の線引きも曖昧になっていきます。良かれと思って紹介した保険外サービスが、結果的にケアマネの信用を損なったり、責任問題に発展したりする——そういうリスクを、トータルケアマネジメントは構造的に抱えているのです。

報酬は増えないのに、責任だけが重くなり、トラブルのリスクだけが積み上がっていく。これでは、ただでさえ手一杯の現場のケアマネが、ますます割に合わない立場に追い込まれるだけです。「困っている人を助けたい」という善意につけ込む形で、本来は制度や事業者が負うべき責任まで、ケアマネ個人に背負わせてしまう

ここにも、トータルケアマネジメントを安易に旗印として掲げることの危うさがあります。

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組織の名前で思想の強い主張をする近年の傾向

組織の名前で、その上層部だけで決めた内容を、あたかも会員全員の総意であるかのように掲げて政治的に働きかけるというこのやり方は、本当に注意が必要です。

日弁連(日本弁護士連合会)などでも、組織名で政治的思想の強い発言をし、それが必ずしも全会員の意思と一致していないという批判が起きることがあります。それと同じ構図です。

良かれと思って上層部が勝手に「覚悟」を決めても、末端の会員はまったく納得していない。こういうことは、組織にはよくあります。

私は以前から、この協会の姿勢に疑問を呈してきました。

ケアマネの多くが望む更新研修の廃止に対して、協会は研修事業という収入構造を抱えるがゆえに踏み込めずにいます。この問題については日本介護支援専門員協会の存在意義 更新研修廃止はできる?ケアマネ更新研修で搾取、介護支援専門員の法定研修不要論もで詳しく書いています。会員の願いと逆行する動きという意味で、トータルケアマネジメントの件は、根っこが同じだと感じています。

独自の概念だから、教えられるのは提唱者だけ

しかも、トータルケアマネジメントという概念は法的根拠が薄いということを考えると、その独自の思想・解釈のもとに成り立っているトータルケアマネジメントというものを基本として、介護支援専門員の研修で伝えていくということになります。

法的根拠がある業務を教えるだけならば、テキストも標準化できますし、何なら自治体が行なっている集団指導などで充分カバーできているのですが、トータルケアマネジメントは協会の独自解釈なので、その正解を定義できるのは提唱した協会だけになります。独自の新しいものなので、提唱している協会にしか研修はできないですし、たくさんの研修が必要ですよねということになります。

会員が望んでいるのは研修を減らすことなのに、逆に研修のタネを増やしていることになり、非常にたちが悪いと思います。

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政治家と自治体に「使われる」意見書の危うさ

職能団体が資格者の代表として意見を出すと、その主張が自分たちに都合がいいと考える政治家や行政は、それを利用します。「資格者の団体がこう言っているのだから」という一言は、政策を進める側にとって非常に便利な後ろ盾になるからです。

現に、市区町村レベルでは「協会がこういう意見書を出しているのだから、ケアマネにいろいろお願いできる」と誤認している状況が生まれています

各自治体からも、協会が提言する「トータルケアマネジメント」のようなことをケアマネが実践すべきだ、という趣旨の資料が多数確認されています。会員の総意でもない理想論が、協会の名前を経由することで、いつのまにか「ケアマネの当然の役割」として一人歩きしていく。これは本当に危うい構図です。

ただでさえケアマネ不足が深刻な中で、業務範囲を曖昧にして負担を増やす方向の提言が、現場の頭ごしに政策の後ろ盾として使われていく。これでケアマネの成り手が増えるはずがありません。

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身寄りのない高齢者の問題は、ケアマネ個人に背負わせる話ではない

誤解しないでいただきたいのですが、私は「困っている高齢者を見捨てろ」と言っているのではありません。核家族化が進み、少子化も進む今の社会で、特に身寄りのない高齢者が、その人らしい生活を送るうえである程度の制限を受けてしまうのは、つらいけれど現実として起きていることです。この課題自体は、社会全体で考えなければなりません。

しかし、その社会全体で担うべき課題を、「トータルケアマネジメント」という美しい言葉でくるんで、ケアマネという一資格者に背負わせようとするのは筋が違うのです。介護保険外の社会資源が足りないのなら、本来やるべきは、その社会資源そのものを国や自治体が創設・整備することです。それを、既存のケアマネの善意と労働力で穴埋めさせようとするから、話がおかしくなります。

協会の意見書も、財源について「介護給付費の枠にとどまらず幅広い観点から検討していく」と述べてはいます。

ならばなおさら、財源と仕組みの整備が先であって、「覚悟をもって推進」とケアマネに号令をかけるのは順序が逆です。

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「望む生活」を叶える手段が、ケアマネの「望まない働き方」で成り立つ矛盾

ケアマネの実務研修などでは、耳にタコができるほど「利用者の望む生活の実現」という言葉が繰り返されます。その理念自体は、私も大切だと思います。

しかし、利用者の「望む生活」を実現するための手段が、それを支えるケアマネ自身の「望まない働き方」の上に成り立っているとしたら、それは深刻な矛盾です。支える側が疲弊し、望まない業務に押しつぶされ、辞めていく。そうやってケアマネがいなくなれば、結局、利用者の「望む生活」を支える人すらいなくなります。

会員たちの大多数の気持ちや望む働き方をないがしろにして、上層部の理想論を政治の場に持ち込んで推し進める。この協会のやり方は、まさにケアマネ自身の「望む生活・望む働き方」に逆行しています。利用者には「望む生活を」と説きながら、足元の会員の望みは無視する。この二枚舌に、私は強い違和感を覚えるのです。

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まとめ 立派な理念ほど、進め方と主語を問い直すべき

トータルケアマネジメントという概念そのものは、理想として否定されるものではありません。制度の枠を超えて高齢者の生活を丸ごと支えたいという思いは尊いものです。問題は、その進め方と「主語」です。

本来、それを担う社会資源や財源を整えるのは国・自治体の役割であり、ケアマネ個人の善意と無償労働で穴埋めさせるものではありません。そして、それを「ケアマネ全員の覚悟」であるかのように掲げる前に、協会はまず、足元の会員が本当にそれを望んでいるのかを問うべきです。

立派な理念ほど、それが誰の負担で、誰の意思で進められているのかを、冷静に問い直す必要があります。

「トータルケアマネジメント」という言葉に酔う前に、その言葉の下で疲弊していく現場のケアマネの姿を、協会にはしっかり見てほしいと思います。ケアマネという仕事の魅力を本当に守りたいのであれば、やるべきことは業務範囲を無限に広げることではなく、明確にすることのはずです。

ケアマネ不足の根本原因については深刻なケアマネ不足、厚生労働省や協会にも原因、根本対応を解説もあわせてお読みいただければと思います。

※本記事は、筆者個人の意見・問題提起です。特定の団体や個人を誹謗中傷する意図はなく、公表されている意見書・報道等をもとに、制度と現場のあり方について論じたものです。

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