CAT-R・CASとは?(改訂版標準注意検査法・標準意欲評価法)注意障害と意欲低下の評価

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CAT-R(改訂版標準注意検査法)・CAS(標準意欲評価法)は、脳損傷後にみられる注意障害や意欲・自発性の低下を、標準化された方法で定量的に評価するための神経心理学的検査です。
日本高次脳機能障害学会(旧 日本失語症学会)Brain Function Test委員会が開発し、2022年9月に改訂版が発行されました。高次脳機能障害のリハビリテーション現場で作業療法士・言語聴覚士・理学療法士を中心に広く用いられており、診療報酬上の点数も付与されています。
この記事では、CAT-R・CASの概要・目的・サブテストの内容・実施方法・結果の解釈・他の検査との違いなどについて解説します。
CAT-R・CASとは?
CAT-R(改訂版標準注意検査法)・CAS(標準意欲評価法)は、脳損傷後にみられる注意障害や意欲・自発性の低下を標準化された方法で定量的に評価するための神経心理学的検査です。
日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test委員会が開発し、2022年9月に改訂版が発行されました。CAT-Rは持続性・選択性・配分性といった注意機能の複数の下位機能を個別に評価できる点が特徴で、結果をプロフィールとして可視化することで、どの注意機能がどの程度障害されているかを把握できます。CASは意欲・自発性の低下を面接・質問紙・行動観察・臨床的総合評価という複数の方法を組み合わせて多角的に評価します。
脳血管障害や外傷性脳損傷後のリハビリテーション現場で作業療法士・言語聴覚士を中心に広く活用されており、診療報酬上はD285-3(450点)が算定できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 改訂版 標準注意検査法・標準意欲評価法 |
| 略称 | CAT-R・CAS |
| CAT-Rの英語名 | Clinical Assessment for Attention-Revised |
| CASの英語名 | Clinical Assessment for Spontaneity |
| 開発 | 日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test委員会 |
| 最新版発行 | 2022年9月(改訂版) |
| 診療報酬 | D285-3「認知機能検査その他の心理検査(操作と処理が極めて複雑なもの)」450点 |
| 対象 | 脳損傷後の成人(脳血管障害・外傷性脳損傷など) |
| 実施者 | 作業療法士・言語聴覚士・理学療法士など |
検査の入手は新興医学出版社または各医学書販売所を通じて行います。
検査セット(マニュアル・CPT2用CD-ROM・PASAT用CD・視覚性スパン用図版)と、別売の評価用紙・記入用紙(各20部入り、税込6,600円)が必要です。
参考:新興医学出版社「改訂版 標準注意検査法・標準意欲評価法(CAT-R・CAS)」
CAT-R・CASの著作権と使用方法著作権について
CAT-R・CASは一般社団法人日本高次脳機能障害学会が著作権を保有しています。臨床・研究目的での利用を含めて、複製や無断転載・転用は著作権法上で固く禁じられています。インターネット上で検査用紙の画像を見かけることがあっても、無断でダウンロード・印刷して使用することは著作権侵害にあたります。
使用するには、出版元である新興医学出版社または千葉テストセンター・明杏書などの販売代理店から正規の検査セット・用紙を購入する必要があります。
購入できる対象者・機関の制限
心理検査類の販売は医療・教育・福祉等の専門機関以外には販売しておらず、使用は心理学の知識と専門的訓練・経験を持った方に限られます。また、検査問題の漏洩防止・プライバシー保護のため、使用される機関へ直接配送しており、一般家庭への配送は行っていません。
注意障害・意欲低下とはどのような状態か
CAT-R・CASで評価する「注意障害」と「意欲低下(アパシー)」は、脳損傷後に最もよくみられる高次脳機能障害のひとつです。
注意障害とはどのような状態か

注意障害とは、注意を適切に向けたり、維持したり、切り替えたりする機能が損なわれた状態です。日常生活では、たとえば以下のような症状として現れます。
注意障害は記憶障害や言語障害などほかの高次脳機能障害と合併することも多く、リハビリテーションの効果にも大きく影響するため、早期に評価・把握することが重要とされています。
CAT-R(改訂版標準注意検査法)の目的と構成
CAT-Rは、注意機能の「どの側面がどの程度障害されているか」を多面的に評価することを目的としています。注意機能を一つの概念としてではなく、持続性・選択性・転換性・配分性といった複数の下位機能に分けて個別に評価できることが特徴です。
CAT-R(改訂版)は5つのサブテストで構成されており、旧版(CAT)で採用されていたSDMT(Symbol Digit Modalities Test)とPosition Stroop Test(上中下検査)は、今改訂で正式に除外されました。
| サブテスト | 評価する注意機能 |
|---|---|
| ①Span(スパン) | 注意の範囲・強度、短期記憶・ワーキングメモリ |
| ②抹消・検出検査 | 持続性注意・選択性注意 |
| ③記憶更新検査(Memory Updating) | 配分性注意・ワーキングメモリ |
| ④PASAT | 配分性注意・処理速度・情報更新 |
| ⑤CPT2(持続性注意検査2) | 持続性注意・反応抑制 |
CAT-Rの5つのサブテストの内容
① Span(スパン)
スパン課題は、注意の範囲や強度を調べるとともに、短期記憶・ワーキングメモリの基礎的な評価として位置づけられます。
数唱(Digit Span)は、検査者が1秒に1桁のペースで読み上げる数字を、被験者が同じ順序(順唱)または逆の順序(逆唱)で繰り返す課題です。2桁から9桁まで段階的に増加し、被験者が正答できる最長桁数(スパン幅)を記録します。
視覚性スパン(Tapping Span)は、専用の図版上に配置された9つのブロックを、検査者が指で一定の順序でタップし、被験者が同じ順序(または逆の順序)でタップする課題です。聴覚ではなく視覚・空間的な記憶範囲を評価します。
② 抹消・検出検査(Cancellation and Detection Test)
この課題は持続性注意と選択性注意を評価します。干渉刺激の中からターゲットを素早く、見落とさずに見つけることが求められます。
視覚性抹消課題は、用紙上に並べられた図形・数字・平仮名などの中から、指定されたターゲットにのみ印をつけていく検査です。所要時間・正答数・誤答数・正答率・的中率などを求め、処理の速さと正確さの両面から評価します。
聴覚性検出課題は、CDから流れる5種類の語音のうち、指定されたターゲット音声に対してのみ机をタッピングするなどの反応をする課題です。聴覚的な注意の持続・選択を評価します。
③ 記憶更新検査(Memory Updating Test)
一定数の数字を聴覚的に呈示し、直前の数字に置き換えながら常に「最新の情報」を保持し続けることを求める課題です。配分性注意やワーキングメモリの中でも特に「情報を更新しながら保持する能力」を評価します。
④ PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
PASATは、CDから一定の速度で流れる数字を聞き、直前の数字と今呈示された数字の合計を答え続ける課題です。「前の数字を記憶しながら同時に計算する」という二重課題であり、配分性注意・処理速度・情報更新能力を高負荷で評価します。
呈示速度は2.4秒と1.6秒の2条件で実施され、速い条件になるほど注意と処理への要求が高まります。
⑤ CPT2(持続性注意検査2:Continuous Performance Test 2)
CPT2はパソコンを使用して実施するコンピューター課題です。画面上に次々と現れる刺激(文字や図形)の中で、特定のターゲットが出現したときのみスペースキーを押す「ターゲット検出課題」と、特定の組み合わせが出現したときに反応する「AX課題」などで構成されます。
持続的に注意を維持する能力(サステインド・アテンション)と、不要な反応を抑制する能力(抑制機能)を定量的に評価します。反応時間と誤反応率が主な指標となります。旧版CATのCPTからバージョンアップされており、CPT2が改訂版CAT-Rの主な変更点のひとつです。
CAS(標準意欲評価法)の目的と構成
CAS(Clinical Assessment for Spontaneity)は、意欲・自発性の低下を多角的な側面から評価する検査です。意欲の状態を定量化し、リハビリテーションや日常生活支援の計画に活かすことを目的としています。
「意欲」は主観的な体験であり数値化が難しいテーマですが、CASは面接・質問紙・行動観察・臨床的判断という複数の方法を組み合わせて評価することで、多面的かつ信頼性の高い評価を実現しています。
| サブテスト | 内容 |
|---|---|
| ①面接による意欲評価スケール | 検査者が面接形式で被験者に直接質問して評価 |
| ②質問紙法による意欲評価スケール | 被験者が自己記入式の質問紙に回答 |
| ③日常生活行動の意欲評価スケール | 日常生活の行動を項目別に観察して評価 |
| ④自由時間の日常行動観察 | 構造化されていない自由時間での行動を観察 |
| ⑤臨床的総合評価 | 各評価を踏まえた検査者による総合的な評価 |
CASの5つのサブテスト詳細
① 面接による意欲評価スケール
検査者が被験者に直接面接を行い、日常生活への関心・行動の自発性・感情・エネルギーなどについて質問します。被験者の回答内容と様子を観察し、評価します。
② 質問紙法による意欲評価スケール
被験者が自分で回答する自記式の質問紙です。興味・意欲の有無、自主性、自身の感情・行動に関連する合計33項目で構成されており、過去数週間または数日間の自分の考えや気持ち・行動に照らし合わせて回答します。
③ 日常生活行動の意欲評価スケール
被験者の意欲の状態を、日常生活の行動項目別に観察して評価するスケールです。観察期間は原則として7日間程度とされており、その間の平均的な様子を記録します。病院や施設のスタッフが、病棟生活や日課への参加状況などを観察して記載します。
④ 自由時間の日常行動観察
構造化されていない自由時間において、被験者が自発的にどのような行動をとるかを観察する項目です。何かを自分から始めるか、受動的に座っているだけかなど、自発性の有無を記録します。
⑤ 臨床的総合評価
①〜④の評価を総合した上で、検査者が臨床的な判断によって意欲・自発性の程度を総合評価します。
検査の実施方法と所要時間
実施に必要な環境・道具
検査は、音・景色・物などの刺激が少ない個室で行うことが望ましいとされています。必要な道具は以下のとおりです。
所要時間
CATのCPT2のみで約50分、その他のサブテストでさらに約50分かかります。合計で約100分程度となりますが、被験者の状態に応じて複数日に分けて実施することも認められています(ただし通常は数日以内に完了することが望ましいとされています)。
CASについては、行動観察を7日間程度かけて実施するため、一概に所要時間を言うことができません。
部分実施について
すべてのサブテストを一律に実施する必要はなく、被験者の状態や検査の目的によって実施するサブテストを選択することができます。たとえば、失語症の患者に対して視覚性抹消課題のみを実施するといった使い方も可能です。
結果の見方、カットオフ値とプロフィール
年齢別カットオフ値との比較
CAT-Rは20代から70代の年代別に標準化データが整備されており、各サブテストの結果を年齢別のカットオフ値と比較することで、注意障害の有無・程度を客観的に判断できます。
カットオフ値は、健常者データの分布から設定されており、一般的にはカットオフ値を下回った場合に「注意機能の低下あり」と判定します。
プロフィール評価
CAT-Rの大きな特徴は、複数のサブテストの結果をプロフィール(グラフ)として可視化できる点です。たとえば持続性注意は低下しているが選択性注意は保たれているといった注意機能のパターンを把握することができます。
日本高次脳機能障害学会の公式ウェブサイトから、プロフィールを電子的に表記するためのソフトウェアを無料でダウンロードして活用することができます。
個体内差の評価
各サブテスト間のスコアにばらつきがある場合(個体内差が大きい場合)は、特定の注意下位機能が選択的に障害されている可能性を示唆します。単一のカットオフ超過だけでなく、こうしたプロフィールのパターンを読み取ることが、臨床的な評価においては重要です。
リハビリテーションへの活かし方
CAT-R・CASの結果は「評価して終わり」ではなく、リハビリテーション計画の立案や効果判定に直結するものです。
リハビリテーション計画への活用
注意機能のどの側面が低下しているかを把握することで、優先的に取り組むべき訓練を特定できます。たとえば持続性注意の低下が著しければ、長時間の集中を要する課題よりも短時間・高頻度の訓練からアプローチする方が効果的です。
また、CASで意欲・自発性の低下が確認された場合は、通常のリハビリテーションプログラムに加えて、動機づけを高める関わりや環境調整が必要となります。
効果判定への活用
リハビリテーション開始時と一定期間後に同じ検査を実施し、スコアの変化を比較することで、訓練の効果を定量的に評価できます。これは患者・家族への説明やチームカンファレンスでの共有にも役立ちます。
多職種との情報共有
検査結果のプロフィールは、医師・介護職員・ケアマネジャーなど他職種と共有することで、日常生活支援の方針統一に役立ちます。とりわけ意欲低下(CASの結果)は、介護現場での声かけや活動参加の促し方に直結する情報です。
他の神経心理学的検査との違い・使い分け
注意機能や認知機能を評価する検査は複数あります。CAT-R・CASとよく比較される検査との違いを整理します。
CAT-R vs TMT(Trail Making Test)
| CAT-R | TMT | |
|---|---|---|
| 評価の幅 | 注意の複数の下位機能を包括的に評価 | 視覚的注意・処理速度・認知的柔軟性を中心に評価 |
| 所要時間 | 約100分(複数日に分けて実施可) | 約15分 |
| 使用場面 | 詳細な注意機能プロフィールの把握 | スクリーニングや処理速度・遂行機能の簡便な評価 |
| 標準化 | 日本の年齢別データで標準化 | 日本版(TMT-J)で標準化 |
TMTは短時間で実施できるスクリーニングとして有用で、CAT-Rは詳細な注意機能のプロフィール把握に向いています。初期評価でTMTを用い、詳細評価でCAT-Rを実施するという使い分けも一般的です。
CAT-R vs HDS-R・MMSE
| CAT-R | HDS-R・MMSE | |
|---|---|---|
| 目的 | 注意機能の下位機能を詳細評価 | 認知症スクリーニング・認知機能の全般的評価 |
| 所要時間 | 約100分 | 5〜15分程度 |
| 使用場面 | 注意障害の詳細把握・リハビリ計画立案 | 認知症の有無・程度の把握 |
HDS-RやMMSEは認知症スクリーニングに用いられますが、注意機能の下位機能を個別に評価する用途には向いていません。脳損傷後の注意障害を詳細に把握する場合はCAT-Rが適しています。
よくある質問(Q&A)
検査セットの購入にあたっては、検査者の氏名と所属を示すことが求められています(医療・リハビリテーション分野の専門職を想定)。臨床現場では主に作業療法士・言語聴覚士が実施することが多いですが、理学療法士や医師・心理士なども実施します。
実施が困難と判断される検査については検査者の判断で中止することができます。また、検査の目的によって一部の項目のみ実施することも認められています。
最大の変更点はCPTがCPT2にバージョンアップされた点と、SDMT(Symbol Digit Modalities Test)とPosition Stroop Test(上中下検査)が下位テストから除外された点です。旧版CATのマニュアルセットが手元にある場合は、CPT2用CD-ROMと改訂版の評価用紙を別途入手することで引き続き検査を実施できます。
旧版の用紙(CAT・CAS用紙)は2022年11月に販売終了しています。改訂版(CAT-R・CAS)の評価用紙に移行する必要があります。
日本高次脳機能障害学会の公式ウェブサイトから、プロフィールを電子的に表記・印刷するためのソフトウェアを無料でダウンロードして利用することができます。
失語症がある場合は、言語的な応答を要するサブテストについて実施が難しいケースがあります。視覚性抹消課題のように言語応答を必要としない課題のみを実施するなど、被験者の状態に応じて判断します。
まとめ
CAT-R・CASのポイントをまとめます。




