認知症介護実践者研修は、認知症患者さんへの質の高いケアを提供するために設計された、実践的な研修プログラムで、この研修は、認知症介護の基礎知識を既に持つ介護従事者を対象にしています。認知症介護実践者研修では認知症のご利用者の生活の質の向上を目指し、BPSDの予防と対応方法を学びます。しかし、研修には約8日間の講義演習+4週間の職場での実習が含まれており、その難しさ、厳しさも指摘されている研修の一つです。本記事では、研修の対象者、研修内容、研修を受けることで算定できる加算、そして実習の難しさに焦点を当て、認知症介護実践者研修を解説します。
このページの目次
認知症介護実践者研修とは?
認知症介護実践者研修は、認知症に関する深い理解に基づき、患者本人を中心とした介護を実施し、その生活の質を高めることを目指します。この研修では、認知症介護の基本理念や必要な知識・技術を学び、認知症患者さんの行動心理症状(BPSD)の予防にも焦点を当てます。さらに、地域全体の認知症ケアの質を向上させることにも貢献することを目標としています。
研修の対象者は、基本的には認知症介護基礎研修を修了した方や、それに相当する知識・技術を持つ方で、おおむね2年程度の実務経験を有する方です。研修は、講義や演習、実習を通じて行われ、標準的な研修時間とカリキュラムに従って進められます。認知症介護研究・研修センターが作成した「認知症介護実践者研修シラバス」が参考資料として推奨されています。
研修を全て受講し、適切と認められた参加者には修了証書が交付されます。この修了証書は、一部の地域密着型サービス事業者や介護予防サービス事業者において受講が義務付けられている場合があり、受講によって指定基準を満たすことができます。事業者は、市町村の長に対して推薦された者の受講が適切であると認められた場合、研修の実施主体に申し込むことができます。そして、研修の実施主体は、これらの手続きを経た申込者に対して特別な配慮を行うことになっています。
この研修を通じて、参加者は認知症患者さんに対するより良いケアを提供するための深い理解と実践的なスキルを身につけることができます。
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認知症介護実践者研修受講の対象者
基本的な認知症介護実践者研修の対象者
- 身体介護に関する基本的知識・技術を習得しており、身体介護の実務経験が2年以上の人
- 認知症介護基礎研修を修了している人(認知症介護基礎研修は研修を免除となる資格等があります)
認知症介護実践者研修を受講していていないと、以下の研修の受講ができないので、認知症介護実践者研修は施設の人員や開設者の条件としても重要な位置づけの研修となっています。
認知症対応型サービス事業管理者研修を受講する人
以下のサービスの管理者となるための「認知症対応型サービス事業管理者研修」を受講するためには認知症介護実践者研修を修了している必要があります。
- 認知症対応型通所介護事業所
- 小規模多機能型居宅介護事業所
- 認知症対応型共同生活介護事業所
- 看護小規模多機能型居宅介護事業所
- 介護予防認知症対応型通所介護事業所
- 介護予防小規模多機能型居宅介護事業所
小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修を受講する人
小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修を受講するためには、認知症介護実践者研修を修了している必要があります。
- 指定小規模多機能型居宅介護事業所
- 指定看護小規模多機能型居宅介護事業所
- 指定介護予防小規模多機能型居宅介護事業所
認知症介護実践研修(実践リーダー研修)を受講する人
認知症介護実践研修(実践リーダー研修)を受講するためには、認知症介護実践者研修を修了後1年以上経過していることが必要です。
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認知症介護実践研修には「実践者研修」と「実践リーダー研修」がある
認知症介護実践研修には、「認知症介護実践者研修」及び「認知症介護実践リーダー研修」があります。(認知症に特化した施設や開設者向けの研修は、後述する「認知症介護研修の種類・違い」で紹介しています。)
研修名 | 研修対象者 |
認知症介護実践者研修 | おおむね2年程度の実務経験を有する方。
介護保険施設・事業所等に従事する介護職員等であって、一定の知識、技術及び経験を有する者とする。 |
認知症介護実践リーダー研修 | 介護業務に概ね5年以上従事した経験を有している者であり、かつ、ケアチームのリーダー又はリーダーになることが予定される者であって、認知症介護実践者研修を修了し1年以上経過している者
介護保険施設・事業所等に従事する介護職員等であって、一定以上の期間の実務経験を有し、かつ、認知症介護実践者研修の修了後一定の期間を経過している者とする。 |
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認知症介護実践者研修の修了者を配置することが要件の加算
介護報酬の中で、認知症の利用者の受け入れや認知症の専門的なケアを推進する観点から、認知症の利用者の割合が一定以上で認知症介護実践者研修を修了した職員を配置していることなどが算定要件となっている加算に「認知症加算」があります。
※ 似た名前ですが、「認知症専門ケア加算」は認知症介護実践リーダー研修以上の研修修了者の配置が条件となっています。
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認知症介護実践者研修の受講費用
認知症介護実践者研修の費用は、研修を実施する自治体によって違いますが、無料から3万円程度が多いです。
受講費用については、勤務先の自治体のホームページで確認できます。
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認知症介護実践者研修の申し込み方法
認知症介護基礎研修はほとんどの自治体で随時申込しeラーニングで受講できる形になっていますが、認知症介護実践者研修に関しては申し込み期間に申し込みして定員に達し次第受付終了となることが多いようです。
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認知症介護実践者研修の内容・カリキュラム
認知症介護実践者研修は、講義・演習24時間(1,440分) 、実習の課題設定240分、職場実習4週間、実習のまとめ180分となっています。
全日程としては、約8日間の講義演習+4週間の職場での実習となっており、働きながら研修を修了させることはなかなか難しいものとなっています。
認知症介護実践者研修の講義・演習内容
認知症ケアの理念・倫理と意思決定支援 180分
認知症の人が望む生活を実現するため、認知症ケアの歴史的変遷や認知症ケアの理念、認知症の原因疾患、中核症状、行動・心理症状(BPSD)の発症要因、認知症ケアの倫理や原則、認知症の人の意思決定支援のあり方について理解を深める。
- 認知症ケアの理念と我が国の認知症施策
- 認知症に関する基本的知識
- 認知症ケアの倫理
- 認知症の人の意思決定支援
- 自己課題の設定
生活支援のためのケアの演習1 300分
食事・入浴・排泄等の基本的な生活場面において、中核症状の影響を理解した上で、認知症の人の有する能力に応じたケアとしての生活環境づくりやコミュニケーションを理解する。
- 生活支援のためのケア
- 認知症の生活障害
- 認知症の人の生活環境づくり
- 中核症状の理解に基づくコミュニケーション
- 生活場面ごとの生活障害の理解とケア
QOLを高める活動と評価の観点 60分
認知症の人の心理的安定やQOL(生活・人生の質)向上を目指す活動に関する基本的知識、展開例、評価の観点と方法について理解を深める。
- アクティビティの基礎的知識と展開
- 心理療法やアクティビティの評価方法
家族介護者の理解と支援方法 90分
在宅で介護する家族支援を実践する上で、その家族の置かれている状況や心理、介護負担の要因を理解し、必要な支援方法が展開できる。
- 家族介護者の理解
- 家族介護者の心理
- 家族介護者の支援方法
権利擁護の視点に基づく支援 90分
権利擁護の観点から、認知症の人にとって適切なケアを理解し、自分自身の現状のケアを見直すとともに、身体拘束や高齢者虐待の防止の意識を深める。
- 権利擁護の基本的知識
- 権利侵害行為としての高齢者虐待と身体拘束
- 権利擁護のための具体的な取組み
地域資源の理解とケアへの活用 120分
関係職種、団体との連携による地域づくりやネットワークづくり等を通じて、既存の地域資源の活用や認知症の人が地域で自分らしく暮らし続けるための地域資源の開発の提案ができる。
- 認知症の人にとっての地域資源と実践者の役割
- インフォーマルな地域資源活用
- フォーマルな地域資源活用
- 地域資源としての介護保険施設・事業所等
認知症の人への具体的支援のためのアセスメントとケアの実践
学習成果の実践展開と共有 60分
認知症介護実践者研修におけるこれまでの学習成果を踏まえ、自施設・事業所での自らの認知症ケアを実践することにより、研修で得た知識を実践において展開する際に生じる気づきや疑問・課題を明らかにする。
それらの自分自身の認知症ケア実践の課題や取り組みの方向性を検討し、他の受講者と共有することにより、知識の活用に関する幅広い視点を得る。
- 認知症の人本人の声を聴く(自施設・事業所における実践)
- 事例収集(自施設・事業所における実践)
- 中間課題の発表と共有
生活支援のためのケアの演習2(行動・心理症状) 240分
認知症の行動・心理症状(BPSD)が生じている認知症の人に対して、行動の背景を理解した上で生活の質が高められるようチームで支援できる。
- 行動・心理症状(BPSD)の基本的理解
- 行動・心理症状(BPSD)の発症要因とケアの検討(事例演習)
- 行動・心理症状(BPSD)の評価
- 生活の質の評価
アセスメントとケアの実践の基本 300分
認知症の人の身体要因、心理要因、認知症の中核症状のアセスメントを行い、具体的なニーズを導くことができるようアセスメントの基本的視点を理解する。アセスメントを踏まえた目標の設定と、目標を実現するためのケアの実践計画の作成 ・立案・評価ができる。
- 認知症の人のアセスメントの基礎的知識
- 観察の方法とポイント
- アセスメントの実際(事例演習)
- 実践計画作成の基礎的知識
- 実践計画作成の展開(事例演習)
- 実践計画の評価とカンファレンス
認知症介護実践者研修の4週間の期間の実習内容・時間数
職場実習の課題設定 240分
認知症の人が望む生活の実現に向けて、適切にアセスメントを行い、課題と目標を明確にした上で、ケアの実践に関する計画を作成することができる。
- 職場実習のねらい
- 対象者選定
- 課題設定
- 4週間の行動計画の作成
職場実習(アセスメントとケアの実践) 4週間
研修で学んだ内容を生かして、認知症の人や家族のニーズを明らかにするためのアセスメントができる。アセスメントの内容をもとに、認知症の人の生活支援に関する目標設定、ケア実践計画及びケアの実践を展開できる。
- 実習の準備
- 実習の開始
- 報告準備
職場実習評価 180分
アセスメントやケア実践計画の実施結果を整理した上で、客観的に評価、分析し職場および自己の認知症ケアの今後の課題を明確にすることができる。
- 職場実習報告
- ケア実践計画の評価
- 職場への報告と展開
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認知症介護研修の種類・違い
令和2年度老人保健健康増進等事業 「認知症介護指導者養成研修等のアウトカム評価に関する調査研究事業」,認知症介護研究・研修センター,令和3年3月
認知症介護に関する研修・資格には、認知症介護基礎研修、認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症対応型サービス事業管理者研修、小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修、認知症対応型サービス事業開設者研修、認知症介護指導者養成研修があります。
研修名 | 対象者・主な受講要件 |
---|---|
認知症介護基礎研修 | 介護保険施設・事業所等において、介護に直接携わる職員のうち医療・福祉関係の資格を有さない者等 |
認知症介護実践者研修 | 介護保険施設・事業所に従事する介護職員で、以下の要件を全て満たす者
介護報酬の「認知症加算」の人員として必要要件 |
認知症介護実践リーダー研修 | 介護保険施設・事業所に従事する介護職員で、以下の要件を全て満たす者
介護報酬の認知症専門ケア加算(Ⅰ)の要件 |
認知症対応型サービス事業管理者研修 | 認知症対応型サービス事業所の管理者 |
小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修 | 小規模多機能型居宅介護事業所及び看護小規模多機能型居宅介護事業所の計画作成担当者 |
認知症対応型サービス事業開設者研修 | 認知症対応型サービス事業所(認知症対応型通所介護を除く)の代表者 |
認知症介護指導者養成研修 | 以下の要件を全て満たす者
介護報酬の認知症専門ケア加算(Ⅱ)の要件 |
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認知症介護実践者研修は意味ないのか?
認知症介護実践者研修を受講して修了していると、認知症加算の算定要件である人員となれるだけでなく、認知症専門ケア加算に必要な上位資格にチャレンジできることや、認知症対応型サービス事業所の管理者研修などを受講できる権利を有するなど、キャリアアップにとても有利です。研修は1か月以上にも及ぶもので、研修のタイミング限られているので、そう簡単に受講できるものではなく、修了者は貴重な存在です。
介護の仕事をしていくのであれば大変意味のある資格なので、もし勤務先で認知症介護実践者研修を受けさせてもらえるならば受講して修了しておくことを推奨します。
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まとめ
認知症介護基礎研修が義務化になり、そちらの対応に追われている介護事業者は多いですが、認知症加算の算定や、認知症の方へのケアを組織的に強化していきたい事業所などでは実践者研修の受講も進めていると思います。
しかし、認知症介護実践者研修は「約8日間の講義演習+4週間の職場での実習」となっており、さらに各自治体で研修を行うタイミングが年に数回程度なので、計画的に受講していくことが必要です。
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