認知症の行動心理周辺症状「BPSD」とは?BPSD評価指標・スケール

 

認知症は、記憶障害、判断力の低下、言語能力の衰えなど、多岐にわたる認知機能の障害を特徴とする病態です。これらの中核症状に加えて、認知症患者さんが示すさまざまな行動心理症状(BPSD)は、患者さん自身の苦痛、家族や介護者の負担増大、そして介護施設や病院でのケアの難易度を高める原因となります。

アルツハイマー型認知症の基本的な内容については以下の記事で紹介しています。

BPSDとは?

BPSDとは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症の行動心理周辺症状」のことです。

BPSDには、不安、抑うつ、幻覚、妄想、攻撃性、徘徊など、多様な症状が含まれます。これらの症状は、患者さんの精神的な苦痛を反映しているだけでなく、物理的な健康問題や環境的な要因によっても引き起こされることがあります。したがって、BPSDの適切な評価と管理は、認知症患者さんの生活の質を向上させ、介護者の負担を軽減するために不可欠です。

介護看護従事者にとって、BPSDの理解と評価は、日々のケアにおいて極めて重要です。適切な評価ツールを用いることで、BPSDの症状を正確に把握し、個々の患者さんに合わせたケアプランを立てることが可能になります。

認知症のBPSD症状

 

この記事では、BPSDの基本的な理解から始め、介護現場で活用できる評価スケールの詳細、そしてそれらを実際に適用する際のポイントについて解説していきます。

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BPSDの理解

認知症患者さんが示す行動心理症状、すなわちBPSDは、患者さん自身だけでなく、家族や介護者にとっても大きな負担となります。BPSDには、不安、抑うつ、幻覚、妄想、攻撃性、徘徊といった多様な症状が含まれ、これらは患者さんの精神的苦痛や身体的な健康問題、さらには環境的な変化によって引き起こされることがあります。

一般的なBPSDの代表的な症状

症状 説明
不安 患者さんが環境の変化や身体的な不快感に対して不安や恐怖を感じることがあります。
抑うつ 気分が沈んで活動意欲が低下することがあります。
幻覚・妄想 実際には存在しないものを見たり、現実とは異なる信念を持ったりすることがあります。
攻撃性 言葉や身体を使った攻撃的な行動を示すことがあり、介護者にとって大きな課題となります。
徘徊 無目的に歩き回る行動で、患者さんが迷子になるリスクがあります。

BPSD発症の背景にある要因

要因 説明
生物学的要因 脳の損傷や神経伝達物質の不均衡が、BPSDの症状を引き起こすことがあります。
心理的要因 患者さんが自己の状況や能力の変化に対して感じるストレスや不安が、BPSDを引き起こすことがあります。
環境的要因 環境の変化や不適切な介護方法が、患者さんのストレスを増大させ、BPSDを引き起こすことがあります。

BPSDの適切な評価と管理は、患者さんの生活の質を向上させる上で極めて重要です。BPSDの症状を正確に理解し、それぞれの患者さんに合わせた適切な対応を行うことで、患者さんの苦痛を軽減し、介護者の負担を減らすことが可能になります。

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認知症のBPSD評価指標・評価スケール

認知症患者さんのBPSDを正確に評価することは、適切な介護計画を立て、患者さんの生活の質を向上させるために不可欠です。介護現場で広く利用されているBPSD評価指標・評価スケールについて紹介します。

神経精神症状目録(NPI)

NPI(Neuropsychiatric Inventory)は、認知症患者さんのBPSDを評価するためのゴールドスタンダードとされるツールです。NPIは、患者さんの行動や心理症状を広範囲にわたって評価することができ、特に医療機関や介護施設での使用に適しています。

評価項目

NPIは12の領域(幻覚、妄想、興奮/攻撃性、抑うつ/気分の落ち込み、不安、易怒性/怒り、無気力/無関心、社会的撤退、睡眠/夜間行動の問題、食欲/摂食障害など)をカバーしています。

使用方法

NPIは、介護者や家族が患者さんの行動や心理症状について報告する形式で行われます。各項目は、症状の頻度と重症度に基づいて評価されます。

BPSD+Q/BPSD25Q

BPSD+Q(BPSD Questionnaire)およびその短縮版であるBPSD25Qは、認知症患者さんの行動心理症状を評価するために開発された比較的新しいツールです。これらの質問票は、介護者が患者さんのBPSDの症状を簡単に追跡し、評価するのに役立ちます。

BPSD+QBPSD25Q

 

評価項目

BPSD+Q/BPSD25Qは、25項目のBPSD症状とせん妄の2項目を含んでいます。過去 1 週間について、下記の全質問 27 項目に答えていきます。これにより、患者さんの症状の全体像を把握することができます。主治医意見書に関連する評価項目にになっていることもBPSD+Q/BPSD25Qの特徴です。

  • 実際にないものが見えたり、聞こえたりする
  • 盗られたという、嫉妬する、別人という(選択して〇:盗害、嫉妬、誤認、他)
  • 他者を傷つけるような乱暴な言葉を発する
  • 他者に乱暴な行いをする
  • うろうろする、不安そうに動き回る
  • 家/施設から出たがる
  • 他者への性的に不適切な行為
  • こだわって同じ行為を何度も繰り返す
  • 我慢ができない、衝動的に行動する
  • 怒りっぽい
  • 忘れて同じことを何度も尋ねる
  • ものをためこむ
  • 大声・鳴声が続く、さけぶ
  • 悲観的で気分が落ち込んでいる
  • やる気がない、自分からは動かない
  • 声かけに反応がない、興味を示さない
  • 心配ばかりする
  • 日中うとうとする
  • 部屋・家から出たがらない
  • 夜間寝ないで活動する
  • 異食や過食、拒絶
  • 介護されることを拒否する(選択して○:更衣、整容、入浴、食事、他)
  • 尿や便で汚す、何日も入浴しない(選択して○:風呂、異所排尿、弄便、他)
  • タバコ、ガスコンロ等の火元不適切管理
  • 隠す、別な場所に置く、探し回る
  • 幻覚妄想を伴い興奮状態が急激に出没
  • ボーッとして覚醒レベル低下が出没

使用方法

介護者は、患者さんの過去1週間の行動や心理症状に基づいて質問票を記入します。各項目は、症状の存在とその重症度に基づいて評価されます。

認知症の行動・心理症状質問票(BPSD+Q/BPSD25Q)の評価シート(PDF)

認知症の行動・心理症状質問票(BPSD+Q/BPSD25Q)(外部HP)

BPSD13Q

BPSD13Qは、BPSD+Qの13項目による短縮版であり、主要なBPSD症状のみを迅速に評価することを目的としています。このツールは、特に時間が限られている介護現場や、迅速なスクリーニングが必要な場合に有用です。

評価項目

主要なBPSD症状をカバーしており、介護者が患者さんの状態を素早く評価するのに役立ちます。

使用方法

介護者は、患者さんの行動や心理症状について簡単な質問に答えることで、BPSDの症状を評価します。

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BPSDの評価方法・評価の実施の例

認知症患者さんのBPSDを評価する際、介護看護従事者が直面する最大の課題の一つは、どの評価ツールを選び、どのようにしてそのツールを最も効果的に活用するかを決定することです。このセクションでは、実際のケア設定でのBPSDスケールの実施に焦点を当て、具体的なアプローチを紹介します。

たとえば、大阪にある介護施設「なごみホーム」では、神経精神症状目録(NPI)を定期的に使用しています。施設の看護師である田中さんは、新しく入居した認知症の患者さん、佐藤さんのBPSDの症状を評価するためにNPIを活用しました。佐藤さんは時折、幻覚を見たり、夜間に徘徊する傾向があると家族から聞いていました。田中さんは、佐藤さんの行動や心理状態についての情報を収集するために、佐藤さんを観察し、家族にも話を聞きました。

評価を実施する際、田中さんは佐藤さんがリラックスできる静かな部屋を選び、家族の同席も許可しました。このような環境設定により、佐藤さんは安心して評価に臨むことができました。NPIの結果から、佐藤さんが特に夜間に不安を感じやすいこと、そして幻覚がその不安をさらに悪化させていることが明らかになりました。

評価結果を受けて、田中さんとケアチームは、佐藤さんの夜間の不安を軽減するための介入計画を立てました。具体的には、夜間の照明を調整し、安心できる音楽を流すこと、そして日中の活動を増やして夜間の睡眠を促進することなどが含まれていました。また、佐藤さんの幻覚に対処するために、定期的に精神科医の診察を受けることも計画に盛り込まれました。

このように、「なごみホーム」では、NPIを用いたBPSDの評価が、佐藤さんに対する個別化されたケアプランの策定に直接貢献しました。田中さんとケアチームの取り組みにより、佐藤さんの生活の質は明らかに向上し、夜間の徘徊行動も減少しました。

BPSD評価スケールの実施は、単に患者さんの症状を記録するだけではなく、その情報を基にした具体的な介入計画を立て、患者さん一人ひとりに合わせたケアを提供するための出発点となります。介護看護従事者は、このような評価ツールを活用することで、認知症患者さんのBPSDによる苦痛を軽減し、彼らの生活の質を向上させることができるのです。

2024年の介護報酬改定では認知症チームケア推進加算でBPSDの評価指標を用いることが推進される

今回は、一つの例としてこのようなものを取り上げましたが、2024年の介護報酬改定では認知症チームケア推進加算でこのようにBPSDの評価指標を用いて定期的に評価してチームで取り組んでいくことが評価される加算が整備され推進されています。

 

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まとめ

認知症患者さんが示す行動心理症状、すなわちBPSDは、患者さん自身、家族、そして介護看護従事者にとって大きな課題です。BPSDには不安、抑うつ、幻覚、妄想、攻撃性、徘徊など、多様な症状が含まれ、これらは患者さんの精神的苦痛や身体的な健康問題、さらには環境的な変化によって引き起こされることがあります。このような症状の適切な評価と管理は、認知症患者さんの生活の質を向上させるために不可欠です。

BPSDとは何かを理解し、その重要性を学ぶことは、認知症ケアにおいて極めて重要です。BPSDの症状を正確に把握し、それぞれの患者さんに合わせた適切な対応を行うことで、患者さんの苦痛を軽減し、介護者の負担を減らすことが可能になります。また、BPSDの理解は、患者さんとその家族に対する支援を提供する上でも重要な役割を果たします。

BPSDの評価指標やスケールには、神経精神症状目録(NPI)、BPSD+Q/BPSD25Q、BPSD13Qなど、様々な種類があります。これらのツールを活用することにより、介護看護従事者は認知症患者さんのBPSDの症状を正確に把握し、適切な介護計画を立てることができます。評価スケールの選択から実施、結果の解釈に至るまで、患者さんの個性や生活背景を考慮することが、より良いケアを提供する上での鍵となります。

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