住宅型有料老人ホームのケアマネジメント有料化は、本当に「囲い込み対策」なのか
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介護保険部会ではここ数年、「ケアマネジメントに利用者負担を導入するか」が繰り返し議論されています。議事録を素直に読む限り、全体としては「ケアマネジメントは制度の根幹だから、利用者負担は導入すべきではない」という意見が多数派です。

それなのに、住宅型有料老人ホームや一部のサービス付き高齢者向け住宅の入居者だけは、ケアマネジメントの有料化(利用者負担導入)という方向で話が進んでいる。
「え、全体では反対多数なのに、ここだけは特別扱いで有料ですか?」と、思わず首をかしげたくなりますよね。

なぜそんなことになっているのか。厚労省資料が示しているロジックを一度きちんと並べてみたうえで、それが本当に「囲い込み対策」や「質の高いケアマネジメント」につながるのか見ていきます。

先にこの記事での概要を示しておきますと、筆者は、住宅型有料老人ホームのケアプラン有料化はこじつけであり、「均衡」という都合の良い言葉を使って、これから色々な調整や報酬削減をしていくための布石だと思いました。居宅介護支援事業では、すでに書類や調整業務、給付管理、モニタリング、そして「質」を過剰に求められたり、シャドーワークなどまで求められて非効率な形態ですが、さらに利用者負担が発生すると、利用者への請求まで発生するのです。国に9割国保連請求して、1割は利用者向けに請求書作って支払い管理や督促などまでしなくてはいけなくなるなんて、人材不足の今やるべきことじゃないですよね。

居宅ケアマネの居宅介護支援費は利用者負担がない

居宅介護支援事業所で、介護支援専門員がケアマネジメントを行うことで発生する居宅介護支援費は、利用者負担がなく、全額が給付されるサービスとなっています。

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ケアマネ有料化議論の全体像 ― 表向きは「反対多数」

まず大枠として押さえておきたいのは、ケアマネジメント全体の利用者負担については、

  • 相談控え
  • サービス利用の抑制
  • 重度化・入院リスクの増大

が懸念され、「導入すべきではない」という意見が明らかに多数だということです。

ケアマネジメントは、要介護認定を受けた人や家族にとって制度の入口であり、複雑な介護・医療・福祉の調整を担う「羅針盤」の役割があります。そこに自己負担を乗せると、制度の理念である「自立支援」と「尊厳の保持」などと言った基本は抜きに、利用者や家族としては「お金を払っているのだから、希望通りにケアプランを作って欲しい」というお客様意識が強くなり、さらに、お金を払っているのだからといわゆるシャドーワークを打診されることも増えることが予測されます。

にもかかわらず、住宅型有料の入居者についてだけ有料化が検討され、ほぼ決定になります。ここには、別の理屈と、もう少し政治的な都合が混ざっているように見えます。

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資料が持ち出す「住宅型有料の問題」と均衡論という便利なカード

厚労省資料は、住宅型有料老人ホーム等について、こんな問題点を列挙しています。

本来、住宅型有料は「利用者の住まい」であり、ケアマネジメントや介護サービスは別事業者から選択的に利用できる建て付けです。ところが現実には、同一・関連法人が運営する居宅介護支援事業所や訪問介護事業所が併設され、「入居(住まい)+ケアマネ+訪問サービス」がワンパッケージ化したような運営が少なくない

資料の表現では、「拠点運営、ケアプラン作成、介護サービス提供が一体的に実施されている」とされ、結果として事業者による「囲い込み」や過剰サービス提供が生じやすい構造がある、と問題提起しています。

ここまでは、正直その通りです。

「建て付けは在宅だけど、やっていることはほとんど施設と同じですよね」というツッコミは、多くの人が感じていたところでしょう。

そこで厚労省が取り出してくるのが、「施設サービスや特定施設入居者生活介護との均衡」という便利なカードです。

特養や特定施設では「建物+ケアマネ機能+サービス提供」が一体のパッケージで、利用者はその全体に対して1〜3割を負担している。

一方、住宅型有料の入居者は、実態としてかなり施設に近いパッケージを受けているのに、ケアマネジメント部分だけは「居宅介護支援」として十割給付(利用者負担なし)のまま。

この差を「均衡を欠いている」と捉え、「施設に近い中身なら、負担も施設並みにそろえるべきでは?」という方向に話を持っていくわけです。

紙の上で制度を並べて眺めている分には、それらしく聞こえるロジックです。ただ、ここで使われている「均衡」はあくまでサービス類型間の負担の均衡です。

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ケアマネ有料化は、囲い込み対策としては筋が悪くないか

では、そのロジックに乗って住宅型有料だけケアマネを有料化したとき、本当に「囲い込み対策」になるのか。ここがいちばん引っかかるところです。

住宅型有料の囲い込みの核心は、住まい・ケアマネ・訪問サービスを同じ(または関連)法人が持ち、入居相談・契約の流れのなかで、「うちのケアマネとうちのサービスをセットでどうぞ」と案内できてしまう構造にあります。

24時間その建物で暮らす以上、入居者にとっては「同じ建物にいる職員」で完結するほうが圧倒的にラクですし、他の居宅や訪問事業所を自分で探すのは現実的にはハードルが高い。ここで効いているのは、料金設定よりも「物理的・心理的な近さ」と「契約フロー」そのものです。

この構造は、ケアマネジメントに利用者負担を乗せても一切変わりません。変わるのは、「毎月、ケアマネ料としていくらか支払うようになる」というお金の流れだけです。

むしろ、

「せっかくお金を払っているんだから、ホームが勧めるサービスをしっかり使わないともったいない」
「ケアマネ料を払ってまで、わざわざ外部の事業所に変えるのは面倒だ」

という、別方向のインセンティブが働きかねません。
これで「囲い込み対策です」と言い切るのは、さすがに苦しいですよね。

資料の中では「囲い込みへの問題意識」と「施設との均衡」が綺麗に並べて書かれていますが、ケアマネ有料化と囲い込み抑制をつなぐ橋の部分は、ほぼ想像にお任せの世界です。「均衡」という言葉を出した瞬間に、「ああ、これは財政と制度上の辻褄合わせなんだな」と感じた方も多いのではないでしょうか。

そもそも論では、国・厚生労働省の方針としては、地域包括ケアシステムの中で、まるでサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームのようなモデルを理想のように語り、推し進めてきた経緯もあるのですが、いざ出来上がってみると囲い込みを問題視して報酬を下げたり運営しづらくする方向に舵を切るという梯子外しです。

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居宅ケアマネ全体との整合性と、現場に降りかかる説明コスト

次に、居宅介護支援全体との整合性という観点から見てみます。これまでの介護保険では、おおまかに言えば

在宅(居宅介護支援)のケアマネジメントは十割給付

施設サービスや特定施設の中に含まれるケアマネ機能は、サービスパッケージとして1〜3割負担

という整理でした。利用者にも現場にも比較的わかりやすい線引きです。

そこに

「住宅型有料・一部サ高住の入居者だけ、居宅ケアマネに利用者負担を導入」

というルールを差し込むとどうなるか。

同じ「居宅介護支援」という名称のサービスであっても、

自宅に住んでいればケアマネ無料(十割給付)

住宅型有料に住んでいればケアマネ有料

という、住所による負担のねじれが生じます。

現場レベルでは、同じ居宅介護支援事業所の同じケアマネが、

  • Aさん(自宅):利用者負担なし
  • Bさん(住宅型有料の入居者):利用者負担あり

というケースを同時に抱えることになります。

このとき必ず出てくるのが、

「なぜあの人はタダなのに、うちの母だけお金を取られるのか」

という素朴で、しかしもっともな疑問です。

それに対して「施設との類型間の均衡がですね……」と説明したところで、利用者・家族の納得が得られるかと言えば、かなり怪しいですよね。

しかも、こうした説明や同意取り付け、苦情対応に追われるのは、まさに「質の高いケアマネジメント」を求められている現場のケアマネ本人です。

囲い込み対策にもなりきれず、制度の整合性も崩し、現場の説明コストだけは確実に増やす――。

正直、「誰にとってのメリットを優先した制度変更なのか」と問い直したくなりますよね。

そしてもう一つ、現場が敏感に感じ取っているのは、

ここを突破口に、じわじわと他の居宅ケアマネにも自己負担を広げていくのでは?

という不信感です。十割給付だったところに一度例外を作ると、その例外がいつの間にか新しい標準に変わっていく。社会保障の歴史を見てきた人ほど、そういう変化には敏感になりますよね。

「均衡」という言葉は、流れを読めば住宅型のケアマネだけ居宅介護支援費に自己負担が導入されているのは不均衡なので、均衡を保つために例外なく全ての居宅介護支援費で自己負担を導入しようとなりますよね。

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本気で囲い込みと質向上を目指すなら、触るべきは「構造」の方では

では、「囲い込み対策」や「質の高いケアマネジメント」を本気で追求するなら、本来はどこに手を入れるべきなのか。ここは、逆にこちらから厚労省に問い返したいところです。

ひとつは、ケアマネジメントの独立性・中立性に真正面から向き合うことです。

同一・関連法人が「住まい・ケアマネ・訪問サービス」を一体で持つことに対して、一定の制限や追加ルールを設ける

同一法人の居宅ケアマネがホーム入居者のケアプランを立てる場合には、第三者チェックや外部評価を入れる

入居時の説明義務として、「外部の居宅介護支援事業所の選択肢」を具体的に提示させる

こうした措置は、利用者の自己負担を増やさなくても、囲い込みの構造そのものにアプローチできます。

住宅型有料老人ホームに併設された居宅介護支援だけ自己負担を導入したからと言って、囲い込み対策になるというのはほぼこじつけで本当に囲い込み対策になると思ってる人はおそらくいないですし、施設のケアマネ機能と不均衡といわれても、行う業務が違うのですから不均衡も何も別物なのにひどいこじつけなのです。

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「均衡」のもとに何が優先されているのか

住宅型有料老人ホーム等のケアマネジメント有料化は、「囲い込み対策」や「質の高いケアマネジメント」という美しい言葉をまといながら、実際には「施設に近い実態なのに負担が軽い領域に、施設並みの負担構造をかぶせる」という性格が色濃い制度変更です。

業務効率化や人材不足が課題になっている中で、住宅型有料老人ホームのような形を認めて残すのであれば、逆に施設並みに書類などの業務を軽くして、ケアマネが行うべき仕事も省略して施設ケアマネ同等でよいという方に均衡を保つ方が自然です。

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