TMT検査とは?(Trail Making Test)注意機能と処理速度を評価

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TMT(Trail Making Test)は、視覚的注意や情報処理速度、遂行機能といった認知機能を評価するための神経心理学的な検査です。紙とペンがあれば実施でき、短時間で評価が完了する手軽さから臨床現場やリハビリテーション、認知機能スクリーニングで幅広く使われています。
日本でも標準化された日本版TMT(TMT-J)があり、高次脳機能障害や軽度認知障害、前頭葉機能評価などさまざまな場面で活用されています。
なお、TMTは著作権のある評価尺度です。インターネット上には検査用紙や画像が無料でダウンロードできるサイトもありますが、無断で配布・利用することは著作権侵害につながる可能性があるため注意が必要です。検査用紙や実施マニュアルは正式な出版物や販売元から入手するようにしてください。
TMT-J Trail Making Test日本版は、一般社団法人 日本高次脳機能障害学会・Brain Function Test 委員会が著者となっており、マニュアル1部、検査用紙・記録用紙(計40回分)のセットで5,500円で販売されています。
参考:TMT-J Trail Making Test日本版(千葉テストセンター心理検査専門所)
TMT検査とは?
Trail Making Test(TMT)は、注意機能や処理速度を中心に、遂行機能まで含めて評価できる国際的に広く用いられている神経心理学的検査です。
紙と鉛筆で実施でき、所要時間はおおよそ15分程度と比較的短時間で完了します。その簡便さと汎用性から、医療・リハビリテーション・高次脳機能評価の現場で長く活用されてきました。
日本では、一般社団法人日本高次脳機能障害学会(Brain Function Test委員会)が編集・著作を担い、2019年に標準化された日本版TMT(TMT-J)が発行されています。
TMT-Jは、20歳から89歳までの健常者を対象に標準化が行われており、従来のTMTの課題として、国内データ不足がありましたが、それを補い、日本における年齢別基準に基づいた評価が可能になってきました。
TMTは、外傷性脳損傷による高次脳機能障害、軽度認知障害(MCI)、比較的軽度の認知症、さらに前頭前野損傷に代表される遂行機能障害の評価など、幅広い臨床場面で用いられています。
近年では、自動車運転の適性評価に関する神経心理学的検査の一つとしても注目されており、社会的機能との関連性という観点からも重要性が高まっています。
なお、TMT-Jは正式な出版物として発行されている検査であり、検査用紙や実施マニュアルは正規の販売元から入手する必要があります。無断複製やインターネット上の非公式データの利用は、著作権侵害の可能性があるため避けるべきです。
参考:TMT-J Trail Making Test日本版(千葉テストセンター心理検査専門所)
TMTが評価する認知機能
TMTは、単なる「線引き」の速さを測るだけでなく、複数の認知プロセスが統合された「脳の働き方」を評価します。TMTの構成要素を大きく分けると、以下の3点と言われています。
視覚的探索と持続的注意
TMTで評価する視覚的探索と持続的注意は、バラバラに配置された標的(数字や文字)を素早く見つけ出し、最後まで集中を切らさずに追い続ける能力です。
処理速度
TMTで評価する処理速度は、「目で捉える(入力)→脳で判断する(処理)→ペンを動かす(出力)」という一連の回路の効率性を反映します。これは加齢や脳損傷の影響を最も受けやすい指標です。
認知的柔軟性(セットシフト)
TMTで評価する認知的柔軟性(セットシフト)は、特にPart Bで重要となる能力です。
「数字→文字→数字」と交互にルールを切り替える際に、前のルールを引きずらず(保続の抑制)、次のターゲットへスムーズに移行する「遂行機能」が問われます。
TMTの構成(Part A と Part B)
TMTは大きく2つのパートに分かれています。それぞれ評価する認知機能の側面が異なりますが、どちらも「できるだけ早く、正確に」線をつなぐことが求められます。
Part A
Part Aでは、紙上に配置された番号(数字)を1から順に結んでいきます。
この課題では、番号の探索や注意の持続、処理速度といった基本的な認知処理を評価できます。
Part B
Part Bでは、数字と文字(英語版ではアルファベット、日本語版では五十音)を交互に結んでいく課題です。
数字、文字、数字、文字…というように注意を切り替えながら進める必要があり、認知的な柔軟性や遂行機能、ワーキングメモリがより強く問われます。
パートBはPart Aよりも一般に時間がかかり、認知的負荷が大きくなります。両者の所要時間を比較することで、単に処理速度が遅いだけなのか、注意の切り替えや計画・制御といった高度な認知機能に問題があるのかを捉えることができます。
TMT検査の実施方法と注意点
TMTは単純な作業に見えますが、それゆえに実施方法を統一すること大切です。
本番前に必ず練習用サンプルを行い、ルールを完全に理解したことを確認します。特に高齢者の場合、五十音の順序自体に不安があるケースもあるため、事前の確認が不可欠です。
途中で線を結び間違えた場合、検査者はその場ですぐに指摘し、直前の正しい地点から引き直してもらいます。この際、ストップウォッチは止めないのが鉄則です。「間違いに気づき、修正して再開するまでの時間」も含めて評価の対象となります。
視覚的な探索が重要なため、適切な照明、眼鏡の着用、麻痺がある場合は紙が動かないよう固定するなどの配慮が必要です。
TMT検査の結果の見方
TMTの結果は、課題を完了するまでに要した時間(秒数)で評価します。
時間が長いほど、注意機能や処理速度、遂行機能に低下がある可能性が示唆されます。比較的健康な成人の場合、Part AとPart Bの完了時間は短く、年齢や教育歴によって基準値が変わることが知られています。
Part Aは基本的な処理速度と視覚探索を評価し、Part Bは数字と文字を交互に結ぶ必要があるため、遂行機能や認知的柔軟性が反映されやすいとされています。Part Bの時間が特に長くなる場合は、注意の切り替えや計画・制御といった高次の認知機能の評価につなげることが考えられます。
Part AとPart Bの時間比(B/A比)も臨床的な指標として使われることがあり、比が大きい場合は注意の配分や切り替えに特異的な困難がある可能性を示唆します。
評価指標、かかった時間の解釈と「B-A」
結果は「完了までの秒数」で算出しますが、単なる早遅だけでなく、以下の視点で分析することで病態がより明確になります。
| 指標 | 意味すること |
| Part A の時間 | 基本的な視覚的探索能力と処理速度。 |
| Part B の時間 | 処理速度に加えて、注意の切り替え(遂行機能)の負荷。 |
| B-A(差分) | 全体の処理速度の影響を除いた、純粋な「切り替え能力」の低下度合い。 |
| B / A(比率) | 注意配分の効率性。比が著しく大きい場合は遂行機能障害が疑われる。 |
どのような場面で使われるか
TMTは、高次脳機能障害や軽度認知障害、認知症、あるいは脳卒中後の遂行機能評価など多くの場面で用いられます。例えば、注意が散漫で物事に集中できない、同時に複数の情報を扱うのが苦手である、視覚的な探索や処理に時間がかかるといった兆候がある場合に、この検査を用いることで機能の状態を客観的に把握します。
近年では自動車運転の適性評価の一環としてTMTの結果を利用するケースもあり、注意や処理速度の低下が安全運転能力に与える影響を検討する目的でも活用されています。
半側空間無視には「線分抹消テスト」も
線分抹消テストは「注意が向いているか・見落としがないか」を見る検査、TMTは「注意を使いながら、どれだけ効率よく処理し、切り替えられるか」を見る検査という関係にあります。
線分抹消テストは、紙面上に多数配置された線分の中から、指定された線分を見落とさずに消していく検査で、視覚的探索能力や注意の持続、半側空間無視の有無を把握する目的で用いられます。脳血管障害後の評価や、高次脳機能障害のスクリーニングとして現場でよく使われます。
一方、TMT検査は、数字や文字を順序どおりに結んでいく課題を通じて、視覚探索に加えて処理速度、注意の切り替え、遂行機能まで含めて評価します。特にTMT-Bでは「数字と文字を交互につなぐ」必要があるため、単なる注意だけでなく、前頭葉機能の影響が強く反映されます。
TMT検査とHDS-RやMMSEとの違い
TMT検査と、HDS-R、MMSEはいずれも認知機能を評価する検査ですが、評価している機能領域と役割には明確な違いがあります。
HDS-RやMMSEは、見当識、記憶、計算、言語理解などを中心に評価するスクリーニング検査であり、主に認知症の「有無」や「重症度の目安」を把握する目的で用いられます。点数化されているため結果が分かりやすく、短時間で実施できる点が特徴です。
一方、TMT検査は注意機能、処理速度、視覚的探索能力、注意の切り替えといった前頭葉機能や遂行機能を中心に評価します。記憶障害が目立たない軽度認知障害や、前頭前野の機能低下が疑われるケースでは、HDS-RやMMSEが正常範囲でもTMTで異常が表れることがあります。
そのため、HDS-RやMMSEは認知機能全体の概略把握、TMTはより実務や生活機能に直結する注意・遂行機能の評価に適しており、両者は代替ではなく補完的に用いることが重要です。
HDS-RやMMSEとの使い分け
HDS-Rが満点に近い(30点中28点など)方でも、TMTに著しい時間がかかる場合があります。これは、知識はあっても「複数のことを同時にこなす」「状況に合わせて判断を変える」といった日常生活や運転に必要な遂行機能が低下しているサインです。
TMT検査のカットオフ値とTMT結果の活かし方
TMTのスコアは年齢や教育歴に大きく左右されますが、一般的にはPart Aで90秒、Part Bで180秒から240秒が、注意機能や遂行機能の低下を疑う一つの目安(カットオフ値)とされています。
特に日本版(TMT-J)では、20代から80代までの年齢別平均値が示されているため、単なる秒数だけでなく「同年代と比較してどうか」という視点で評価することが、臨床的な判断の精度を高めるポイントとなります。
カットオフを超えた場合の臨床的な意味
カットオフ値を超える、あるいは年齢基準から大きく外れるということは、日常生活において「情報の見落とし」や「判断の遅れ」が生じやすい状態を意味します。特にPart Bの遅延は、複数の情報を整理しながら処理する能力(認知的柔軟性)の低下を示しており、複雑な家事、仕事でのマルチタスク、さらには咄嗟の判断が求められる自動車運転などにおいて、ミスや事故のリスクが高まっているサインとして捉える必要があります。
リハビリテーションや日常生活への活かし方
リハビリテーションにおいては、まず「正確性」を重視した環境設定から進めます。日常生活では「一度に一つの事しかしない」というシングルタスクを徹底し、タイマーの活用やメモによる手順の視覚化など、注意機能を補う工夫を取り入れます。
また、この客観的な数値は、本人や家族が「なぜミスが起きるのか」を正しく理解するための重要な根拠となります。数値をもとに、運転免許の返納や復職に向けた業務内容の調整など、生活の安全を守るための具体的な環境調整や代償手段の検討に繋げていくことが、この検査の真の目的といえます。
よくある質問
TMTは、ペンで書いていくテストなので、純粋な認知機能だけでなく、運動機能(手の動き)の影響を強く受けます。手が震える、あるいは利き手ではない手で書く必要がある場合は、時間がかかるのは当然です。そのため、単なる完了秒数だけでなく、「Part AとPart Bの時間比」や「B-Aの差分」に注目します。
運動機能の影響を差し引いたうえで、どれだけ注意の切り替えに負担がかかっているかを分析することが重要です。
日本版(TMT-J)のPart Bでは五十音を用いますが、加齢により「『な』の次は『に』だっけ?」と配列を想起すること自体に時間がかかる方がいます。これは遂行機能の低下だけでなく、教育歴や記憶の要素も含まれます。検査前に練習用サンプルで五十音の配列に不安がないか確認し、あまりに困難な場合は、無理に実施せず他の注意機能検査(CATなど)への切り替えを検討することもあります。
間違いに気づかず進んでしまう場合は、その場ですぐに指摘して正しい地点まで戻ってもらうのが標準的なルールです。その間もストップウォッチは止めません。「間違いを指摘され、修正して再開する」というプロセスにかかる時間も含めて、その方の情報処理能力として評価します。
HDS-R(長谷川式)は主に記憶や見当識を測る検査であり、TMTが測る「注意の切り替え」や「処理の速さ」とは別の脳機能を見ているからです。いわゆる「高次脳機能障害」や「軽度認知障害(MCI)」の初期段階では、記憶は保たれていても、前頭葉が司る複雑な処理能力から先に低下することがあります。そのため、両方の検査を組み合わせて総合的に判断することが推奨されます。
まとめ
Trail Making Test(TMT)は、注意機能、処理速度、遂行機能など複数の認知機能を短時間で評価できる検査です。Part AとPart Bを通じて、それぞれ注意の基本的な側面や認知的柔軟性を捉えることができます。
実施にあたっては、正式な検査用紙を利用し、手順や記録方法を統一することで評価の信頼性を高めることが重要です。検査結果は単独ではなく他の臨床情報と合わせて解釈することで、より総合的な認知機能評価につなげていきましょう。



