介護職員がT字カミソリで髭剃り介助を行うリスクと課題

介護職員がT字カミソリで髭剃り介助を行うリスクと課題
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介護職員がT字カミソリを使って利用者の髭剃りをしてよいのか、長年にわたって解釈が揺れ続けてきた問題です。

結論からいうと、厚生労働省や各自治体の現在の見解としては、介護サービスの一環としてカミソリを使った髭剃りを行うことは、現在は介護職員に認められています。ただし「安全に行うように」という条件付きであり、筆者としてはリスクを考えると基本的にはできるだけ電気シェーバーで行うことをすすめます。

この記事では、なぜこれが問題になってきたのかという経緯から、各機関の見解、現場でのリスク管理、電気シェーバーの選び方まで一通りまとめています。

この問題の始まりは「美容師に顔剃りをやらせてほしい」という要望から

そもそもなぜ介護職員の髭剃りが問題になったのか。きっかけは美容師からの規制緩和要望でした。

NPO法人 日本理美容福祉協会 札幌センターが中心となり、「介護福祉施設で訪問美容したときに、美容師にも顔剃りをやらせてほしい」という要望を国に働きかけました。そのやりとりの中で、「介護職員は髭剃りをいつもしているじゃないか」と指摘したところ、「介護従事者にもカミソリでの顔剃りは認めていない」という回答が国から返ってきたのです。

つまり介護現場では当たり前にやっていた髭剃りが、実は法的にグレーゾーンだったということが、この一件ではっきり表面化したわけです。

顔そり等は理容行為に該当し、理容に関する専門的知識・技術を有しているとして免許を与えられている理容師のみがこれを業として行うことが可能なものとなっており、また、身体が不自由などの理由により理容所に来ることができない方は、法令上出張理容の対象として位置付けられ、出張理容サービスを受けることができることとなっている。そのため、美容師が顔そり等を行うことを認めることは困難である。なお、介護従事者であっても、かみそりによる顔そり等は認めていない。

顔剃り・髭剃りの規制緩和 09 厚生労働省 非予算(特区・地域再生最終回答)

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理容師法との関係をどう解釈するか

理容師法では、「頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えること」を理容と定義し、これを業として行えるのは理容師に限るとされています(理容師法第1条の2、第2条、第3条、第6条)。

問題は「業として」という部分です。介護サービスの一環として行う髭剃りが、理容を「業として」行うことに当たるかどうかが議論の核心でした。

各自治体から色々な解釈が出てきましたが、現在の解釈としては、介護サービスの中で行う髭剃りは理容の業には該当しないという立場が各自治体から示されています。

利用者の日常生活の支援として行うものであり、理容師が商売として不特定多数に対して行う「業」とは性質が異なるという考え方です。

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医療行為に当たるのではないかという問題も

カミソリは刃物なので、人の体を傷つける可能性があります。そのため「医療行為の一部ではないか」という懸念もありました。

この点については、介護の中で行う髭剃りは基本的には医療行為には当たらないという見解が示されています。ただし、血が出たり皮膚を傷つけたりした場合の取り扱いは別の問題になります。

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現在の厚生労働省・各自治体の見解

現在の公式な見解を整理すると、以下のようになります。

訪問介護に関する新潟県のQ&Aでは以下のように示されています。

Q23 訪問介護員等が髭剃りを行うことは可能か。

A23 利用者に対し、「カミソリ(T字カミソリ含む。)を使用しての髭剃り」は、必要な知識及び技能をもって行う「理容」であり、理容師法に抵触するおそれがあるため、訪問介護員等が行うことはできない。また、「理容」は訪問介護サービスの内容に含まれないため、理容師免許を持ったヘルパーが理容を行った場合でも介護保険給付の対象とならない。なお、「電気カミソリを使用しての髭剃り」は、一般的に専門的な知識及び技能が不要であり、「理容」には当たらないと考えられることから、訪問介護員等が行って差し支えないものと考える。ただし、電気カミソリを使用する場合は、1つの電気カミソリを複数人で使用することは避け、利用者本人の電気カミソリを使用することを原則とするなど感染症予防に十分注意すること。

引用:訪問介護に関する新潟県版Q&A 令和元年9月 改訂版 新潟県福祉保健部高齢福祉保健課

神奈川県大和市の介護保険課からの通知は以下です。

 また、理容師法における「理容」とは「頭髪の刈込、顔剃り等の方法により、容姿を整えること」とされていることから、介護施設において入所者に業として顔剃り(髭剃り)を行う場合は理容師でなくてはならないと解釈されます。

 一方、介護職員が介護の業務において髭そり(利用者本人が日常的に使用しているT字カミソリ、電気シェーバーによるもののいずれも含む。)を行おうとする場合、特定の利用者について整容を目的として髭剃りを行うこととなりますが、利用者本人が髭剃りを行うことを「見守り・介助すること」が趣旨であり、理容を業としているわけではないと解釈されます。
 そのため、介護職員が介護の業務において髭そりを行うことについては、理容師法の適用を受けるものではなく、髭剃り(T字カミソリ、電気シェーバーを含む)は可能であると解釈することを通知させていただきます。

引用:介護職員による髭剃り行為の可否について(通知)、令和元年12月11日、事務連絡、大和市健康福祉部介護保険課長

また、福岡県の通知では以下のように示されています。

電気シェーバーやT字カミソリといった入所者等本人の持ち物で、介護保険施設等の職員が髭剃りの介助を行うことは、介護サービスの一環で行うものであり、理容師法における理容の業には該当しないこととされています。しかしながら、介護保険施設等において入所者等の髭剃りを行う際には、剃り傷などの事故の発生防止の観点から、T字カミソリの使用はできるだけ避けてください。また、髭剃りに使用する用具については、必ず入所者等本人のものを使用するとともに、洗浄、消毒等により清潔を十分に保つようにしてください。

引用:介護保険施設の入所者等に対する髭剃り行為について(通知)、福岡県保健医療介護部介護保険課長・保健衛生課長、28介 第6125号 平成29年3月13日

まとめると、「カミソリを使うこと自体は理容の業には当たらず可能だが、事故防止の観点からT字カミソリはできるだけ避けるように」というのが現在の公式な立場です。

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筆者の考え 基本は電気シェーバーで安全第一

制度上は可能でも、現場の実態として問題が残ります。

カミソリで髭を剃ると、慣れた人でも簡単に血が出ます。高齢者は皮膚が薄くたるんでいるため、カミソリを横に動かしただけで皮膚が切れてしまうことがあります。高齢者に限らず若い人でもカミソリ負けしてしまう人も多くいます。

介護職員の中にはカミソリをほとんど使ったことがない人も多く、正しい使い方を知らないまま行えば事故になりかねません。介護中であれば、かすり傷でもヒヤリハットや事故報告を書いている職場も多いと思いますが、刃が隠れている電気シェーバーと比べると、傷を作るリスクは高い行為になります。

場合によっては「顔を傷つけられた」として損害賠償を請求されるリスクも現実にあります。訴えられた場合、電気シェーバーを通常の使い方で介助していたということであれば誰がやっても避けられなかったということになりますが、ご利用者や家族の十分な理解を得ていない状態でカミソリを使っていた場合、その職員がどんな知識や技術をもって介助したのかの責任追及をされる可能性も出てきます。

基本的にはカミソリも髭剃りも個人の私物になると思いますが、感染管理の観点からも、血液が付着する可能性があるカミソリは使い回しができず、管理が複雑です。理容師は衛生管理を含めて国家資格を取得しており、紫外線消毒設備なども用意して対応していますが、介護施設で同等の管理体制を整えるのは現実的ではありません。

これらのリスクを総合すると、基本的には電気シェーバーで安全に行うことが筆者の考えです。

制度上「できる」ということと、「やるべきか」は別の話です。厚生労働省や自治体は、整容を目的としているので制度上「できる」と示しただけで、当然ながら、何かあったときに擁護するとは言っていないです。

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電気シェーバーがない場合のリスク管理も必要

一方で、電気シェーバーさえあれば解決という話でもありません。

電気シェーバーが壊れてしまっていたり、家族が旅行用の簡易シェーバーを持ってきたりするケースがあります。簡易タイプでは高齢者の剃りにくい髭をきれいに処理することは難しく、時間がかかる割にうまく剃れないという状況が生まれます。

かといって、髭を伸ばしっぱなしにして整容をしないのも、QOLや尊厳の観点から問題です。髭剃りはバーセルインデックスの整容評価にも含まれており、男性にとって毎日の大切な身だしなみです。顔の印象が大きく変わりますし、本人のQOLにも関わります。

適切な道具がない場合の対策として、以下のような方向性を考えておくことが必要です。

  • 入所・利用開始時に、日常生活の一環として髭剃りを行うため、適切な電気シェーバーを用意してもらうよう家族に説明しておく
  • 壊れた際の連絡体制と買い替えのタイミングを決めておく
  • どうしても難しい場合は訪問理容サービスにつなぐことも選択肢に入れる
  • ご本人が自分で剃れる場合は見守りで自立支援を優先する

道具がないからできないで終わらせず、別方向のリスク管理として施設全体で対策を考えておくことが大切です。

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女性の無駄毛処理についても同じ考え方

カミソリによる髭剃り介助の話と同様に、女性へのわき毛・すね毛・腕毛などの無駄毛処理を介護職員が全介助で行う場合も、もし行わねばならないならばカミソリではなくレディースシェーバーを使用するする方が無難です。

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介護施設では電気シェーバーの用意を入所時にお願いする

介護施設への入所・入居の際には、電気シェーバーを必ず用意して持参していただくよう、入所時の説明の中で伝えておきましょう。簡易タイプや旅行用は避けてください。介護場面では毎日使い続けるものですし、加齢でたるんだ皮膚や伸びた癖のある髭には、しっかりしたシェーバーでないと対応できません。

電気シェーバーも消耗品ですので、定期的な買い替えが必要なことも家族に伝えておくと後々のトラブルが減ります。

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介護現場でおすすめの電気シェーバーの条件

介護場面で使いやすい電気シェーバーに必要な機能は以下の3つです。

  • 防水設計で水洗い可能 清潔管理がしやすく衛生的に保てる
  • キワゾリ刃付き たるんだ皮膚の髭や癖のある部分の処理に必須
  • 充電スタンド付き 充電切れを防げる

キワゾリ刃(シャープトリマー)とは

介護施設の髭剃りで活躍するキワゾリ刃

キワゾリ刃(シャープトリマー・トリミング用の刃)とは、バリカンのような形をしたシェーバーの付属部分です。モミアゲのきわの仕上げや、あごの癖髭の処理など、通常のヘッドでは剃りにくい部分を処理するときに役立ちます。

介護施設で働いていれば男性の髭がすぐ伸びてしまうことは日々感じると思います。数ミリに伸びてしまった髭を、電気シェーバーの普通のヘッドで剃ろうとしても、剃れないのです。

「密着、剃り残しなし」「3Dのヘッド」のような機能であたかも何でも剃れるようなキャッチコピーのシェーバーもありますが、数ミリ伸びてしまった髭は剃れません。

電気シェーバーの機能として、キワゾリ刃は必須であると強く伝えてください。介護の髭剃りでは特に重宝する機能です。

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介護場面での髭剃り介助のコツ

高齢者は皮膚がたるんでいるため、ヘッドを当てるだけでは剃れない部分が多くあります。首のあたりに生えた髭や縮れた毛は特に時間がかかります。何度もこすりつけると皮膚を傷めるため、キワゾリ刃を使いながらたるんだ皮膚を手で引っ張って伸ばした状態でサクサク剃るのがコツです。

キワゾリ刃も強く押し付けると表皮を傷つけてしまいますので、説明と同意、安全管理には十分気をつけてください。

ご本人がまだ自分で剃れる場合は、見守りで自立支援を優先するのが基本です。安全に剃れているか確認しながら、難しくなってきた場合は家族やケアマネジャーと電気シェーバーへの切り替えを相談する流れが理想的です。

本格的な髭剃りや散髪は、訪問理美容サービスや床屋さんへの外出を通じて理容師にお願いするのが一番です。さっぱりすることが気分転換や意欲につながることもありますので、積極的に活用を検討しましょう。

おすすめの電気シェーバー

大手のメーカーから無名のメーカーまで、色々なメーカーが髭剃り用の電気シェーバーを出していますが、介護施設で色々な電気シェーバーを使い比べている中で私がおすすめするのはパナソニックのシェーバーです。男性の髭剃りと言えばブラウンが有名で、家電量販店などでも販売促進が強く行われていますが、剃ってみるとパナソニックが一番安定して剃れている印象です。

アルコールなどで自動で洗ってくれる機能が付いているものはありますが、これらも消耗品なのでマメに面会に来て取り替えてくださるのであれば重宝しますが、どれかの機能を優先するとしたら前にもお伝えしたキワゾリ刃がついているものを強くおすすめします。キワゾリ刃がついている電気シェーバーを使っていると、介護職員からもきっと喜ばれます。介護職員だってせっかく介助をするからには、髭をきれいに剃り上げたいのですが、持参している電気シェーバーが簡易的なもので頑張ってもそれなかったりすると、お互いに相当イライラしてしまいます。道具で解決できる部分なのでこちらはご家族やご本人にも協力いただいてお互いに気持ちよく日常生活の介護ができるようにしていただく方が良いです。

パナソニック ラムダッシュ メンズシェーバー

パナソニックのラムダッシュシリーズは、多くが日本製で、キワゾリ刃(シャープトリマー・トリミング用の刃)が付いているモデルが多いです。高いモデルだからキワゾリ刃の機能がついているというわけでもないので、買う時にはご注意ください。以下がおすすめのシェーバーです!



ブラウン シリーズ7 メンズシェーバー

男性の中には髭剃りはブラウンに決めているという人もいるのでその場合にはこちらのモデルなどいかがでしょうか。ブラウンのシェーバーは種類が非常に多いので、購入する際には型番や機能を十分確認の上購入検討することをおすすめします。(似たような型番でも機能が違うものも多々あります。)


ご利用者にも介護スタッフにもストレスの少ない道具を

髭剃りは男性にとって毎日の整容行為であり、顔の印象を大きく変えます。髭を剃らなくても死にはしませんが、容姿のことは誰でも気になるためQOLに関わる問題です。介護は髭剃りを含めて、ご本人・ご家族・介護職員の共同作業です。みんなが気持ちよく関われるよう、道具と環境の面も整えていきたいですね。

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