
介護業界は社会的な需要が高まり続けている一方で、待遇面に課題を抱えている職種の一つです。「人の役に立ちたい」「やりがいを感じる」という気持ちで働いている方も多いですが、実際の給与水準はどのようになっているのでしょうか。
公益財団法人 介護労働安定センターが公表した令和6年度 介護労働実態調査結果をもとに、2024年版として介護業界で働く人の平均月収を年齢層・職種・サービス種類・勤続年数・職位ごとに整理しました。現場で働く方や、これから介護職を目指す方が実情を理解する参考になるよう、コメントも交えながら解説していきます。
参考:公益財団法人 介護労働安定センター 令和6年度 介護労働実態調査結果
年齢層別の平均月収一覧
年齢層 | 平均月収 |
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20歳未満 | 185,456円 |
20歳以上25歳未満 | 211,452円 |
25歳以上30歳未満 | 239,350円 |
30歳以上35歳未満 | 243,120円 |
35歳以上40歳未満 | 253,239円 |
40歳以上45歳未満 | 254,797円 |
45歳以上50歳未満 | 253,194円 |
50歳以上55歳未満 | 255,107円 |
55歳以上60歳未満 | 253,531円 |
60歳以上65歳未満 | 243,053円 |
65歳以上70歳未満 | 233,899円 |
70歳以上75歳未満 | 216,713円 |
75歳以上 | 178,955円 |
年齢が上がるにつれて収入は一応上昇傾向にありますが、介護業界の特徴として上昇幅が極めて限定的です。
40代後半から50代前半でややピークを迎えるものの、その後はほとんど横ばいで推移し、定年に近づくと逆に減少していきます。これは「経験や勤続年数が給与に十分反映されていない」という業界構造を如実に表しています。一般的な産業であれば年齢とともに大きく賃金が上がるのに対し、介護職では若手とベテランの差が小さく、むしろ年齢が高くなると待遇に不利が生じる可能性が見えます。若い世代の離職防止にもつながらず、人材定着の阻害要因となっているのは明らかです。
勤続年数別の平均月収一覧
勤続年数 | 平均月収(円) |
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1年未満 | 239,044円 |
1年以上2年未満 | 244,922円 |
2年以上3年未満 | 246,948円 |
3年以上4年未満 | 242,709円 |
4年以上5年未満 | 246,344円 |
5年以上7年未満 | 245,375円 |
7年以上10年未満 | 248,056円 |
10年以上15年未満 | 248,848円 |
15年以上20年未満 | 258,205円 |
20年以上 | 269,969円 |
勤続年数が長くなっても、給与の伸びは極めて緩慢です。
1年未満で約24万円、20年以上でも27万円弱にしかならず、20年働いても3万円程度しか増えていません。
調査は一人の人の給料を追っていたわけではなく、その時点での集計した人の平均値なので中には勤続年数に合わせてもっと早いペースで昇給している例もあるとは思いますが、この調査結果を見ると勤続20年でも、1年目の時に比べ年収は40~50万くらいしか増えないことが示唆されます。20年前はまだ処遇改善加算などが整備されていなかったので、今の1年目と勤続20年の人の1年目は環境は違います。
普通の産業であれば昇給や昇格を通じて倍近い差がつくことも珍しくありませんが、介護業界では経験や年功がほとんど評価されていないと言わざるを得ません。これでは長期的に働き続けるインセンティブが弱く、むしろ離職や転職を選ぶ方が合理的な状況に見えます。人材不足が叫ばれる一方で、定着を促すための賃金制度設計が難しい状況ですが、これは事業者が悪いというわけではないと思います。制度的に定められた介護報酬が職員の給料の原資になるため、介護報酬がほとんど増えない中で、一時的な補助金や加算をもらったからといって、永続的に職員の固定給をアップさせるという判断に至れないのは当然のことです。
主な介護サービス種類別の平均月収一覧
介護サービス種類 | 平均月収(円) |
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訪問介護 | 244,756円 |
訪問入浴介護 | 254,807円 |
訪問看護 | 239,554円 |
訪問リハビリテーション | 298,921円 |
居宅療養管理指導 | 227,719円 |
通所介護 | 232,767円 |
通所リハビリテーション | 242,754円 |
短期入所生活介護 | 249,374円 |
短期入所療養介護 | 235,000円 |
特定施設入居者生活介護 | 248,591円 |
福祉用具貸与・販売 | 237,835円 |
居宅介護支援 | 254,573円 |
地域密着型通所介護 | 231,812円 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 268,093円 |
夜間対応型訪問介護 | (データなし) |
認知症対応型通所介護 | 218,573円 |
小規模多機能型居宅介護 | 270,730円 |
認知症対応型共同生活介護 | 236,323円 |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | 243,178円 |
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 | 241,539円 |
介護老人福祉施設 | 255,454円 |
介護老人保健施設 | 271,375円 |
介護医療院 | 283,610円 |
その他 | 250,250円 |
わからない | 225,925円 |
介護サービスの種類ごとに見ても、いずれも25万円前後に集中しており、業務内容や負担の重さの違いが給与に十分反映されていません。
訪問リハビリや訪問看護など、単位数が高く、固定費が少なくて済む業態の方が給料も高く設定できる傾向があると考えられますが、それでも30万円に満たない平均月収です。
訪問介護や通所介護といった利用者との直接接触が多く、身体的・精神的負担が大きい分野であっても、給与に大きな差が見られず、労働内容や責任と報酬の不均衡が改善されない限り、介護業界全体の魅力が増すことは難しいでしょう。
主な職種別の平均月収一覧
職種 | 平均月収 |
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訪問介護員 | 230,258円 |
介護職員 | 232,560円 |
サービス提供責任者 | 256,744円 |
生活相談員 | 245,342円 |
看護職員 | 290,093円 |
PT・OT・ST等 | 284,027円 |
介護支援専門員(ケアマネジャー) | 257,862円 |
その他 | 261,288円 |
職種別にみると、看護職員やリハビリ専門職(PT・OT・ST)は比較的高めですが、それでも一般病院勤務と比べれば見劣りする数字です。
介護職員や訪問介護員は230,000円程度と低く、責任の重さに対して報酬が十分とは言えません。サービス提供責任者やケアマネジャーといった管理系の職種ですら、平均で26万円前後にとどまっています。専門資格や豊富な知識を必要とするにも関わらず、給与面での評価が不足している現状は深刻です。職種による格差はあるものの、全体として「誰がやっても賃金水準が低い」という構造が根強く、人材不足の原因を自ら作り出している業界体質が浮き彫りになっています。
管理職・リーダー・一般職の平均月収一覧
職位 | 平均月収 |
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管理職 | 283,901円 |
主任・リーダー等 | 256,569円 |
一般職・担当職 | 230,794円 |
介護保険サービスの中で、役職や職務として上位となる管理職や主任、リーダークラスでも一般職との差が約5万円です。
管理職でも28万円程度にとどまり、一般職との差は約5万円しかありません。主任やリーダーも25万円台と、責任の重さに比べて待遇が低く抑えられています。つまり、昇進しても生活のゆとりが劇的に改善されるわけではなく、むしろ責任やストレスだけが増すという状況です。一般企業では管理職は35万円以上が当たり前であることを考えると、介護業界の「出世しても報われない」構造は深刻です。この乏しい昇給幅では優秀な人材が管理職を敬遠するのも当然であり、現場のマネジメント不足を招いている原因といえるでしょう。介護業界では役職についても給料があまり上がらないというのは致命的であり、キャリアアップするモチベーションが得にくいことも介護業界の閉塞感につながっています。実際、介護の現場の職員も不足していますが、介護事業所の管理者やマネージャーの人材も不足していることが近年指摘されています。
まとめ
今回のデータから明らかになったのは、介護業界における給与水準の低さと昇給幅の小ささです。年齢を重ねても大幅な昇給は見込めず、勤続年数が20年以上あっても月収は平均27万円程度にとどまっています。管理職や専門資格を持つ職種でさえ、責任に見合った水準とは言えない状況です。これは人材不足の要因ともなっており、長期的なキャリア形成を阻害する大きな壁です。今後は賃金体系や待遇改善を通じて「続けられる仕事」としての魅力を高めなければなりません。介護を維持するためにも、働く人が正当に評価される環境整備が急務であることが浮き彫りになりました。