平成30年度 介護報酬改定の方向性 自立支援の評価・共生・医療連携

 

平成30年度介護報酬改定のキーワードは「自立」の支援と評価

平成30年(2018年)の介護保険改定、介護報酬改定を控え、社会保障審議会介護給付費分科会などで意見交換が行われています。
介護保険施設、訪問サービス、居宅介護支援など、様々な介護保険サービスの中で議題に挙がっているのは「自立」についての考え方や支援方法と、自立支援の評価方法です。
介護保険の報酬の体系には従来から何種類かあり、人員や設備を揃えることにより算定できる報酬、指定されたアセスメントや書類作成等を行うことにより算定できる報酬、実際に指定されたサービスを提供することにより算定できる報酬、施設から在宅復帰させるなどの条件を満たして算定できる報酬など、結果だけでなく、プロセスなども評価する報酬があります。

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自立支援を推進するのに、要介護度が下がると報酬が下がる

平成30年(2018年)の介護報酬改定の改定で注目されているトピックの一つに「自立支援に向けた事業者へのインセンティブ付与」があります。
従来の介護保険の報酬体系のままだと、例えば要介護3の人に各種のリハビリテーション介入を行って次の認定で要介護1まで改善したとすると、利用料が2割ほど減少する仕組みになっています。
自立支援のために機能訓練指導員を配置したり、トレーニングマシンや生活機能訓練の道具などを揃えて事業者が頑張ると、自立度が向上し売り上げが減るという構図になっています。
機能訓練指導員を配置して機能訓練を提供することによる加算などはありますが、経営的にはサービスの質が評価されている感覚にはなれない制度です。
しかし、単に介護度が下がったらインセンティブという形だとこれはこれで不公平であり、になるだろうという意見もあります。

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第145回 社会保障審議会介護給付費分科会 平成29年8月23日(水)

介護サービスの質の評価、自立支援に向けた事業者へのインセンティブ

平成29年8月23日(水)の分科会の「介護サービスの質の評価・自立支援に向けた事業者へのインセンティブ要約」をさらに要約すると、自立の概念と評価についてどのように取り扱うかという問題を取り上げています。
自立支援と言っても、いろいろな自立があります。
介護報酬にアウトカム評価を導入する際の課題として、以下の点が述べられています。

・居宅サービスの利用者は、様々なサービスを組み合わせて利用している場合が多く、要介護度や自立度等の指標が改善したとしても、提供される介護サービスの中のどのサービスが効果的であったかの判断が困難であること
・事業者がアウトカムの改善が見込まれる高齢者を選別する等、いわゆるクリームスキミングが起こる可能性があること

引用:資料1 介護サービスの質の評価・自立支援に向けた事業者へのインセンティブ(PDF:139KB), 第145回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年8月23日

世界保健機関(WHO)の国際生活機能分類(ICF)は、生活機能と障害を「心身機能・身体構造」と「活動・参加」に分類しており、高齢者リハビリテーションや介護支援専門員の居宅介護サービス計画作成などのプロセスや評価においては、この考え方に基づき「自立」に向けたアプローチを行う方針となっています。しかし、ICFは対象者の生活課題や全体像の捉え方としては優れていますが、点数化する評価スケールではありません。
自立度や介助量を点数化するスケールもいろいろありますが、一律に決めたスケールで自立度が改善されたということを評価してインセンティブを付与することもできず、仮に改善が示せても複数のサービスを利用している場合はどの事業所がどの程度効果を出したのかという点を明らかにすることは難しいと主張されています。

介護人材確保

平成30年(2018年)介護保険改定での介護人材確保のための考え方としては、平成29年度介護報酬改定での介護職員処遇改善加算の検証と、介護ロボット導入を中心に進められています。

介護職員処遇改善加算の取得率については、平成29年5月審査分(4月サービス提供分)において、加算(Ⅰ)(※27,000+10,000円相当)が64.8%、加算(Ⅱ)(※27,000円相当)が13.8%、加算(Ⅲ) (※15,000円相当)が9.6%、加算(Ⅳ)(※Ⅲ×0.9)が0.8%、加算(Ⅴ)が(※Ⅲ×0.8)が0.8%となっている。
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また、月額1万円相当の処遇改善による実際の賃金改善効果を把握するため、本年10月に臨時に「介護従事者処遇状況等調査」を実施し、来年3月に結果を公表する予定である。
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これまでも、厚生労働省においては、経済産業省と連携し、重点的に開発等の支援を行う分野(①移乗介助、②移動支援、③排泄支援、④認知症の方の見守り、⑤入浴支援)を定め、介護ロボットの実用化・普及の促進に取り組んできた。
「ロボット介護機器開発・導入促進事業」(経済産業省)において、平成25年度から延べ133件の開発支援を行うとともに、「介護ロボット等導入支援特別事業」(厚生労働省)において、昨年度、約5,000の介護施設等に対して導入支援を行ってきた。

引用:資料2 介護人材確保対策(PDF:137KB), 第145回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年8月23日

事業者に対する介護報酬とは別の問題として、介護職員の処遇(給料)の問題が存在し、平成29年にも処遇改善加算の見直しがありました。
この処遇改善加算は、事業者が介護職員のキャリアアップや昇給などを明確化することなどを条件を満たすと、各段階加算分が支給され職員の給与に反映させることができる制度です。
資料によると、多くの施設が処遇改善加算を算定していることが示されていますが、賃金改善効果を把握するために今月中に介護従事者処遇状況等調査があるようです。来年3月に公表されるようですが、改定までに処遇改善加算の見直しも視野に入っているのかもしれません。

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第146回 社会保障審議会介護給付費分科会 平成29年9月6日(水)

公益社団法人日本理学療法士協会、一般社団法人日本作業療法士協会、一般社団法人日本言語聴覚士協会提出資料では、高齢者の自立支援について、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を活用しやすくするための提案がなされました。この中で、理学療法士等を配置すること、個別機能訓練、主治医との連携による自立支援マネジメントの実践、通所リハビリや老人保健施設などのような短期集中リハビリテーションの仕組みづくり、社会参加等へのアプローチの評価、介護度の改善による評価などを具体的に提案しています。2018年改定では、現状の機能訓練加算要件が細分化・多重化・一部包括化される可能性もあるのではないかと考えます。

通所介護(デイサービス)

高齢者の自立支援に資する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の活用

提案

通所介護事業所において理学療法士等を配置し、「自立支援の機能を強化」する目的で、以下の取り組みを実施した場合に、介護報酬上の評価をしていただきたい
通所介護事業所に配置された理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士が
① 個別に機能訓練を実施することを評価 (ストラクチャー評価)
② 主治医と連携し、自立支援マネジメントを実施することを評価 (プロセス評価)
③ 短期間集中的に個別機能訓練を実施することを評価 (アウトプット評価)
④ 利用者の社会参加等を支援することを評価 (アウトカム評価)
⑤ 通所介護費における要介護認定に改善がみられた場合の評価 (アウトカム評価)

現状

自立支援の機能を強化した通所介護事業所の評価に関する提案
〇 リハビリテーション特化型を標榜している通所介護事業所は約15%あるが、実際に理学療法士等を配置している事業所は3%程度である。
〇 理学療法士等が配置されていない事業所は、リハビリテーション特化型を標榜していても、日常生活自立度の改善は低い。

引用:資料3 公益社団法人日本理学療法士協会、一般社団法人日本作業療法士協会、一般社団法人日本言語聴覚士協会提出資料(PDF:2,262KB), 第146回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月6日(水)

通所リハビリテーション(デイケア)

ニーズに応じた効果的・効率的なサービス提供

・従来型(6-8時間)の利用者は、「要介護3-5」 「85歳以上」 「認知症を有する方」の割合が高く、中重度者の在宅生活を支える医療的ケアを求めています。
・1日を通して食事・排泄・入浴などの実践場面へリハ専門職が直接関わり、動作や介助の方法について助言を行うことで、居宅における介護や介助が楽になる効果があります。
・活動や参加に向けて、外出練習や居宅訪問など施設外の関わりが重要です。このような関わりには一連の動作を確認する時間が必要となります。

通所リハビリテーションに関する要望

通所リハは適切なアセスメントによるリハビリテーションマネジメントにより、利用者の能力向上に効果がありました。リハビリテーションマネジメントには、多職種協働や
多事業所間の連携が重要であり、充実したリハ専門職の配置が必要と考えます。
従来型(6-8時間)の利用者は、中重度者の在宅生活を支える医療的ケア、家族の身体的な介護負担の軽減などを求めています。このような多様なニーズに合わせ、短時間型のみでなく従来型(6-8時間)も必要であると考えます。

引用:資料4 公益社団法人日本リハビテーション医学会、一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会、一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会、一般社団法人全国デイ・ケア協会提出資料(PDF:3,054KB), 第146回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月6日(水)

訪問リハビリテーション

訪問リハビリテーションは事業所や提供数が急激に増大している事業形態です。この流れの中で、訪問リハビリテーションにおいては、ICFの概念と生活期リハビリテーション実践するために認定療法士を養成し、訪問リハビリテーションマネジメントによる質の評価を重点に取り組んできています。リハビリテーションマネジメント加算では、リハビリテーション会議の開催や、専門的な見地から、介護の工夫に関する指導及び日常生活上の留意点に関する助言を行うことなどを評価するものでした。
現状、医師の関わりが少ないことや、社会参加・家庭参加につながらないことが課題となっており、それらを促進するような体制づくりを提案しています。

リハマネジメントの実施において、医師の積極的な関与を望みたいところであり、実施率を向上させるための仕組み・リハマネジメント加算要件の変更などを含め総合的に、ご検討をお願いしたい。

引用:資料4 公益社団法人日本リハビテーション医学会、一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会、一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会、一般社団法人全国デイ・ケア協会提出資料(PDF:3,054KB), 第146回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月6日(水)

共生型のデイサービス

また、この会議では、富山赤十字病院の看護師が始めたデイケアハウス「赤ちゃんからお年よりまで障害児も障害者もみんないらっしゃいこのゆびとーまれ!」が共生型の例として取り上げられています。富山型地域共生福祉は注目されており、改定の話題中でも「共生」というキーワードがたびたび出てきます。
共生にはいくつか捉え方がありますが、年齢や障害に関係なく、高齢者・要介護者・障害者・障害児・学童・乳幼児など、地域密着でいつでもだれでも受け入れて、第二の家庭のような場所として機能するという形を指します。
このような取り組みはとても理想的であり、市町村主体で地域密着型の総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)を推進する中で、地域のニーズや有志の活動によって具現化されてくるかと思います。現状の事業の縦割りが緩和され、人員・定員・施設基準・提供スペースが柔軟になることが望まれます。

国への要望
・1つの事業所内で高齢者と障害者・児が一緒にケアができるようにして欲しい。
(同じ建物の中で、高齢者と障害者・児の部屋を分けたり、パーテーションで区切るような運用がなされないように)
・定員については、定員の範囲内であれば、1日あたりの利用者は柔軟にできるようにして欲しい。
(18名の事業所であれば、高齢者10名、障害者8名のように予め決めない)

引用:資料5 宅老所・グループホーム全国ネットワーク提出資料(PDF:1,385KB),  第146回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月6日(水)

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第147回社会保障審議会介護給付費分科会資料 平成29年9月13日(水)

グループホーム(認知症対応型共同生活介護)

グループホームでは、医療との連携に対する評価を要望しています。国の施策として早期退院を推進し、グループホームにも退院後間もない利用者が入所します。また、体調が悪くなれば医療機関に入院します。この時に医療機関に情報提供をしたり、情報提供を受けたりすることにより利用者にとって良い医療ケアが提供されます。この連携に対して、入院・退院時情報連携加算の新設を要望しています。
また、グループホームは地域の認知症ケアの中核となり、いろいろな企画を通して人材や場所等のリソースを割いている事業者も多くあります。地域の認知症ケア支援に対する評価を通して、見合った報酬を得て継続的な地域支援ができることが望まれます。
また、歯科医師又は歯科医師の指示を受けた歯科衛生士との連携(口腔衛生管理体制加算の新設、個別口腔衛生管理加算の新設)を要望として提出しています。これは、グループホームに入所している方の口腔状態について、歯科衛生士が介入した方が良い結果が出ている点を反映したい考えです。歯周病や虫歯の減少や咀嚼・嚥下機能の維持は、栄養状態や疾病予防に好影響があります。誤嚥性肺炎の予防も医療機関に入院することなく生活するためには欠かせません。これらの加算については、グループホーム以外の事業形態では口腔衛生について歯科衛生士との連携が評価されてきています。

福祉用具貸与(福祉用具レンタル)、介護ロボット・センサー

福祉用具貸与については、福祉用具貸与価格に上限が設定されることが決定しています。貸与価格の上限設定を「全国平均貸与価格+1標準偏差」として、施行日については平成 30 年 10 月となっています。また、貸与価格については定期的に見直される方向ですが、事業者がこれに左右されて、結果として低価格・低品質で利益率の良い製品に偏らないかが心配されています。
また、要望としては、福祉用具貸与・導入について「介護ロボット・センサー」の開発が進み、導入による効果も報告されてきているため、今後の普及活用を促進するため、介護報酬における適切な評価を希望しています。
参考1:資料7 日本福祉用具・生活支援用具協会提出資料(PDF:435KB),第147回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月13日(水)
参考2:資料8 日本福祉用具供給協会提出資料(PDF:1,357KB), 第147回社会保障審議会介護給付費分科会資料, 平成29年9月13日(水)

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平成30年度 2018年 介護報酬改定は自立・共生・医療連携の考え方を問われる

平成30年度 2018年 介護保険・介護報酬改定について話し合われる社会保障審議会介護給付費分科会で、様々な関連団体からヒアリングが行われています。
介護は、社会問題であり、多職種連携であり、地域との連携であり、ひとつの評価方法や考え方ではまとめられない難しさがあります。
ケアマネジャーのケアプランはICFを用いて、医療・介護・生活・活動参加・インフォーマルサービス・フォーマルサービスまで広げて考えるようになってきています。
介護に共通する考え方としてICFが定着していきましたが、考え方はこの方針だとしても、数値化できるスケールではないため報酬に反映させにくい部分です。

かといって、介護度が改善して自立に近づいたことを評価しようとしても、どの事業者を評価してよいのかを考えるのも難しい作業です。
自立のカタチとしても、何でもかんでも自分でできることが自立というわけではなく、頼りながらもうまいこと世渡りして生活することが自立であることもしばしばです。
国家としての立場で社会保障の費用を考えた場合、医療や介護サービスに依存されるといつまでも報酬が発生するため避けたい部分ですが、誰しもどこかに所属することで安心感と安定感を得ています。
要介護度の改善の評価のほかに、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)なども利用を促進されてきたため、自立度の改善等の評価の一つの指標として活用されるかもしれませんね。

また、レスパイトケアとしては、介護負担を評価する Zarit介護負担尺度日本語版 短縮版(J-ZBI_8)なども評価スケールとしては役立ちそうです。
医療の連携については、各市町村医師会などで推奨し、開業医などは診療時間外の昼などにケアマネタイムを作ったりして多職種連携しやすいようにしてくれている雰囲気も一部地域では出てきました。
エビデンスが求められる中で、どのように事業者の成果を示していけるかが今後の評価になります。
まだ意見のヒアリングですが、これらが反映される形で介護報酬改定が具体化されてくるため、今後も追っていきます。

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