バリアフリー法だけは全ての人が利用しやすい場所にはならない

 

日本では「バリアフリー法」に基づいて、建築物や公共施設の利用環境が整備されつつあります。しかし、法律をクリアしただけでは、高齢者や障害者が直面するすべての課題を解決できているとは言えません。本記事では、高齢者や障害者が外出時に直面する具体的な問題を取り上げ、解決策を探りながら、誰もが安心して利用できる社会づくりの可能性を考えます。

バリアの意味とは?

「バリア」という言葉は、もともと「障壁」や「防壁」という意味を持っています。日本ではバリアフリーという言葉が広く普及し、高齢者や障害者が直面する「障害」を取り除くことを指すようになりました。バリアフリー法や関連政策では、段差をなくす、車椅子が通れるスペースを確保するなど、物理的な障壁の解消が主な取り組みとされています。

しかし、実際の外出や利用体験においては、物理的な障壁だけでなく、情報の不足や心理的なプレッシャー、社会的な視点の欠如といったさまざまな「バリア」が存在します。これらのバリアが積み重なることで、障害者や高齢者が外出を諦めざるを得ない状況が生じています。

手すりのついたトイレ

バリアフリーとユニバーサルデザインの定義

バリアフリーとは、障害のある人が社会生活をしていく上で障壁(バリア)となるものを除去する考え方です。

ユニバーサルデザインは、障害の有無、年齢、性別、人種などにかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方です。

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高齢者の外出を阻む具体的な障害の例

外出が困難になる原因には、物理的な障害だけでなく、心理的や社会的な要因も大きく関わっています。以下では、それぞれの具体例を紹介します。

建築物としての物理的な障害

車椅子で外出する場合、段差や狭いスペースが大きな壁になります。また、入り口や通路についても古い作りだと幅が狭くて車椅子では移動できないということもあります。日本工業規格(JIS)では、手動車椅子は630mm以下、電動車椅子は700mm以下です。その幅の車椅子が通れない場合は、バリアになってしまいます。

スロープが設置されていない店舗や、あっても傾斜が急すぎて使えない場合があります。土地の問題などもあるので、どこでも緩やかな勾配のスロープを設置できるというわけではないと思います。バリアフリーに配慮した対策では、しばしば スロープをつければそれで OK という風潮がありますが、スロープがなくても事前にそこに何 CM ぐらいの段差があるのか 把握しておき、誰かがスムーズに介助できるならば特段大きな障害というわけではないのです。

また、車椅子対応トイレがない、あるいは狭すぎて使いにくいといった問題も頻繁に報告されています。

さらに、専用駐車場が不足している、または建物の入り口から遠い場所にあることで、利用者は移動時に疲れや不便を感じざるを得ません。

バリアフリーに対する具体的な情報の不足

事前に車椅子で利用できるかどうかを確認したくても、公式サイトやSNSで明確な情報が提供されていない店舗が多くあります。

また、メニューの詳細や写真がなく、食事制限がある人が事前に選べるかどうか分からないため、外出そのものをためらう要因となっています。

チェーン店やバリアフリーを全面に押し出しているようなホームページを持っている店舗でも、どんなトイレになっているか写真がなかったり、座席は車椅子対応となっていても何センチまでの車椅子だったら座席に入ることができるのかの寸法の目安などが書かれていなかったりすると「やっぱり車椅子だと難しいのかな」と感じてためらってしまいます。

心理的な障害

店舗や施設を利用する際、障害者対応に慣れていないスタッフに対応されることで、利用者が気まずさを感じることがあります。また、周囲の目が気になり、自由に行動できない心理的負担が大きくなるケースも少なくありません。

高齢であったり障害があったりすると、例えば飲食店の場合、一生懸命綺麗に食べようとしても食べられない場合もあり、周りのお客さんに不快な思いをさせないかなどという気持ちが湧きやすいです。お客さん同士の目線が合わないように座席と座席の間のついたてを配置するなど配慮することでかなり解決できます。もしホームページやSNS などを持っているとしたら、この辺りにも配慮してることを写真も含めて配信していくとかなり効果的なのではないでしょうか。

社会的な障害

地域内で車椅子対応の店舗が限られているため、選択肢が少なく、外出の楽しみが減る状況もあります。また、介護施設での外出レクリエーションを計画しても、利用可能な施設が少ないことで断念せざるを得ない場合があります。

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すべての人が利用しやすい環境を目指すために必要なこと

これらの課題を解決するためには、物理的、情報的、心理的、そして社会的な観点からの取り組みが必要です。

物理的なバリアを解消する

まず、すべての建物に段差のない入り口を設置し、スロープやエレベーターの利用をさらに推進することなどはバリアフリー法でも触れられている部分なので、王道のバリアフリー対策です。加えて、車椅子利用者にとって十分な広さと使いやすさを持つトイレを整備する必要があります。駐車場についても、建物入り口に近い場所に専用スペースを設け、広さを確保することが求められます。

単純にバリアフリーに配慮しているから段差を全てなくしてスロープにしなくてはいけないというわけではありません。

10cm ぐらいの段差であれば無理にスロープにしなくても、ちょっと前輪を浮かせて押してあげるような介助をすればお互いに安心して移動できます。逆に中途半端に急な勾配のスロープを設置してしまうとかえって介助がしにくくなって逆効果だったりもします。

写真と寸法でわかりやすい情報提供を充実させる

店舗や施設は、バリアフリー対応状況を公式サイトやSNS、チラシなどで明確に示すべきです。せっかくバリアフリー対応をしていても、ホームページには「バリアフリー対応」と表記しているだけで、何も情報がないことが本当に多いです。せっかくバリアフリーの投資をしているのですから、お客さんが安心して利用できるようにどんな点をバリアフリーに対応しているのか、できればトイレや通路などの画像や寸法も含めて掲載しておく方が良いのではないかと思います。

トイレや通路などの画像

車椅子の方や障害のある方にとって、食事をとったりする場所も重要ですが、トイレや通路でできるだけ他の人に迷惑をかけずに過ごせるということもかなり重要です。

車椅子での利用可否やトイレの有無、スロープの状況、店内の写真、そして食事メニューや価格など、詳細な情報を提供することで、利用者が安心して計画を立てられるようになります。また、介護施設との連携事例などを紹介することで、外出に対するハードルを下げる効果も期待できます。

心理的なバリアを取り除く

店舗スタッフには、障害者や高齢者への対応方法を学ぶ研修を実施し、気軽に相談できる環境を整えることが求められます。また、他の利用者にも配慮を促し、差別や偏見のない空間を提供することで、利用者が感じる心理的負担を軽減できます。

社会的なバリアを解消する

商店街や地域全体での取り組みが重要です。例えば、商業施設や飲食店が連携し、障害者や高齢者が利用しやすい街づくりを推進することで、地域全体が活性化します。また、利用者が支払いしやすい料金設定や、セットメニューの導入など、具体的な工夫が必要です。

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捉え方としてはバリアではなく、ハードルに近い

「バリア」という言葉には「越えられない壁」という印象がありますが、外出や利用の際の困難は「ハードル」として捉える方が実態に近いと言えます。ハードルとは、事前にその存在が分かっていれば、準備や対策を講じることで乗り越えられるものです。

たとえば、事前に店舗や施設の情報が十分に提供されていれば、車椅子を利用する人がスロープの有無を確認し、対応策を考えることができます。もしも入り口の段差だけが問題なのであれば、スロープを自分で持っていくことだってできます。

車椅子を利用する人がスロープの有無を確認し、対応策を考えることができる

また、飲食店のメニューが写真付きで公開されていれば、食事制限がある人でも安心して選択できるでしょう。このように、困難の内容を明確にし、必要な情報を共有することで、多くのハードルは解消可能なのです。また、元々ハードルがあることがわかっていれば無理にハードルを超えようと思わず避ければいいんです。

私たちは事前に障害者にとってのハードルがどんなものであるかを知り、ハードルを避けるための情報提供をしっかりすることが大切なのです。

バリアフリー環境の整備はもちろん重要ですが、それと同時に、利用者が状況を把握しやすくするための「情報提供」と「配慮」も必要です。これにより、ハードルは乗り越えられる課題として扱うことができ、高齢者や障害者が安心して社会参加できる環境が整います。

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バリアフリーはビジネスチャンス

バリアフリー環境を整備することは、高齢者や障害者を取り込むビジネスとしても非常に有益です。たとえば、「車椅子でもあのお店なら行ける」と思ってもらえるようになれば、利用者はその店舗のリピーターになる可能性が高まります。

さらに、以下のような効果が期待できます。

口コミ効果の向上

バリアフリー対応の良さは、SNSや口コミで広がりやすく、新規顧客の獲得につながります。人は自分が満足することもそうですが、例えばおじいちゃんやおばあちゃんを車椅子でお店に連れてってあげて、とても快適に過ごせておじいちゃんおばあちゃんが喜んでくれたらさらに嬉しいです。お客さんは口コミで伝えたくなるでしょう。実際お店を選ぶ時には、Google マップや 食べログなどで口コミを見て判断する人が増えてます。

これからは高齢社会なので、必然的に高齢者を対象にしたサービス展開をすることが増えます。一人で行動できるアクティブシニアの人と、誰かの付き添いが必要なシニアの人、どちらも快適に過ごせるようにして、バリアフリーやユニバーサルデザインの観点を取り入れて口コミをアップさせましょう。

地域の評判向上

地域全体で高齢者や障害者への配慮が進むことで、住みやすさが向上し、評判が高まります。地域に根ざしたビジネスをしている場合には、「あそこのお店は車椅子でも行けたよ」などの地域の評判は大切です。誰でも年をとって動けなくなる時が来ます。外出したくてもなかなかできない人たちにとって、快適に行き来できる場所というのは本当に重要です。今は地域のつながりが薄れているとはいえ、店舗などの場所を持ってサービスを提供しているならば地域でも好評な場所にしていきたいですね。

新規顧客層の獲得

バリアフリーが充実しているということは、高齢者本人だけでなく、その家族や介護者も新たな顧客層として取り込める可能性があります。今の時代、みんながスマホやパソコンを持っているので、事前にその地域で車椅子で行けそうなお店を調べて候補を絞っていくというのが当たり前です。車椅子で外出する時に値段が高いか安いかというよりも、まず車椅子で行けるのかの方が結構重要です。スタスタ歩いて行ける人と比べれば車椅子の人の外出頻度はどうしても少なくなってしまうので、数百円のメニューの値段の違いを気にするよりも、車椅子でも安心して過ごせるのかという方が重視されます。

顧客の意見や体験を反映させられる

ホームページや SNS などに写真を載せることは無料で簡単にできるので、これでもかというぐらいに車椅子でも食事ができる、トイレなども安心してもらえるという情報を公開していく方がよいです。逆に公開することのデメリットは少ないです。もしデメリットがあるとしたら、自分たちはバリアフリーがしっかりできていると考えていても、要介護者や障害者の当事者からすると訪問は難しいと判断されてしまうような状態だということです。SNS では双方のやり取りもできるので、口コミやご意見などのフィードバックをしっかり受け入れながらより良い店舗運営に生かしていくということもできます。

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すべての人が楽しめる社会を目指して

バリアフリー法は基盤として重要ですが、実際に利用する人々の視点に立った細やかな配慮が欠かせません。物理的、情報的、心理的、社会的な障害を解消することで、高齢者や障害者が外出する楽しみを増やし、地域やビジネスにとっても大きなメリットが生まれます。

高齢者や障害者が気軽に外出できる社会を実現するために、私たち一人ひとりが取り組みを進めていくことが大切です。

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