介護事業者の監査、指定取消などの行政処分の基準・種類・事例
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介護事業所に対する監査は、単なるチェックではなく、法令違反や不正請求、虐待などの重大な問題に直結する重要な制度です。

運営指導との違い、監査がどのように行われるのか、その結果として下される行政処分の種類や基準、さらには実際に起きた事例までを把握しておくことは、介護従事者や管理者にとって欠かせません。

この記事では、厚生労働省の監査マニュアルをもとに、介護事業所の監査と行政処分の全体像を具体的に解説します。日常業務に直結するポイントを押さえ、リスク管理と法令遵守の実践に役立ててください。

介護事業所の監査とは何か

介護事業所に対する監査は、介護保険制度を適正に運用するために不可欠な手続きです。人員基準違反、運営基準違反、不正請求、不正の手段による指定、高齢者虐待などが認められる場合、あるいはその疑いがある場合に、指定権者(都道府県や市町村)が実施します。監査では、帳簿や記録の確認、立入検査、職員や関係者への聞き取りを通じて事実を的確に把握し、その結果に応じて行政処分を行うことが目的とされています。

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運営指導(実施指導)と監査の違い

運営指導(実施指導)は、介護保険法第23条・24条に基づき、施設の運営状況を確認し改善を促す「支援的」な性格を持ちます。これに対し、監査は法令違反や不正の疑いがある場合に実施される「調査・処分」前提の厳格な手続きです。監査は行政処分につながる可能性があるため、より強い法的権限(立入検査・出頭要求など)が認められています。

項目 運営指導(実施指導) 監査
目的 適正な運営を確保し、改善点を指導・助言するため 法令違反や不正の疑いを調査し、必要に応じて行政処分につなげるため
根拠法令 介護保険法 第23条・第24条 介護保険法 第76条
実施契機 定期的に計画的に実施(原則3年に1回程度) 法令違反・不正請求・虐待等の疑いが生じた場合
実施方法 事前通知あり。面談、書類確認、助言指導中心 立入検査・書類提出命令・関係者への質問など強制力あり
性格 「支援的」な性格。改善を促す 「強制的」な性格。処分前提の調査
結果 指摘事項に基づき改善報告書を提出 違反認定があれば行政処分(勧告・命令・効力停止・取消)に直結
公示の有無 公示なし(内部改善対応) 処分の場合は必ず公示される
対象となる違反 軽微な人員基準違反、記録不備など 不正請求、重大な虐待、悪質な基準違反など

運営指導

運営指導は、介護保険法第23条・24条に基づき、施設の適正運営を支援するための「改善指導」です。通常は事前に通知され、施設長や管理者と面談し、帳簿やサービス記録を確認しながら、改善すべき点を指摘します。

監査

一方、監査は法令違反や不正の疑いがあるときに行われる強制的な調査で、立入検査を伴い、最終的に行政処分に結びつく可能性があります。運営指導が「指導助言」であるのに対し、監査は「処分前提の調査」という位置付けです。

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監査の流れ

高齢者虐待が疑われる場合

利用者への暴言や身体的拘束といった高齢者虐待は、介護保険法における人格尊重義務違反に当たります。虐待防止法に基づき市町村への通報が義務付けられており、監査の対象となります。2016年の4月からは、虐待が疑われる場合には、事前通告なしに監査することも可能となっています

高齢者虐待による監査の事例

ある特別養護老人ホームで、夜勤職員が利用者を叩いた疑いがあり、同僚が通報しました。市町村と指定権者が連携し監査を行った結果、虐待行為が確認され、施設は指定取消処分を受けました。結果として、利用者は他施設に移行し、加害職員は資格停止処分となりました。

不正請求が疑われる場合

不正請求とは、実施していないサービスの架空請求、人員基準を満たさない加算の虚偽請求、サービス時間の水増しなどです。監査の結果、不正請求が認定されれば返還命令と行政処分が下されます。

不正請求の監査の事例

訪問介護事業所が「実際には30分しか訪問していないのに60分のサービスとして請求」していたことが、利用者家族の苦情で判明。監査により不正請求と認定され、返還金と40%の加算金徴収、さらに指定取消に至りました。

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過誤調整と返還金の消滅時効

過誤調整は、事業所の単純な請求誤りを訂正する手続きです。例えば、算定単位を誤った場合などが対象です。民法703条の規定に基づく不当利得の返還請求権は5年で時効消滅します。

一方、不正請求は「不正利得」として扱われ、介護保険法22条3項に基づき返還請求権の時効は2年と短いですが、督促により更新されます。

監査の結果介護報酬の返還を求められる場合の根拠は2種類あるので、介護保険法に基づくものなのか民法に基づくものなのかにより時効も2年と5年で異なります。

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事業者による行政処分逃れ防止の対策

監査の過程で、事業者が処分を避けるために廃止届を提出するケースがあります。介護保険法では廃止届は1か月前の事前届出が義務付けられており、この期間中に処分を行うことが可能です。

例えば、監査中の事業所が突然廃止届を提出した場合、1か月間は事業所が法的に存続しているため、その間に指定取消処分が下され、法人代表者は欠格事由に該当し、他の自治体での再指定もできなくなるなどです。

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行政処分の種類

処分の種類 内容 主な対象となる違反 公示の有無
行政指導 口頭注意や改善報告書の提出依頼など、軽度の改善指導 軽微な人員基準違反、記録不備など なし
勧告 文書で改善を求め、一定期間内の是正を要求 人員配置基準違反、運営基準違反(継続) なし
命令 勧告に従わない場合に強制的に改善を命じる 勧告無視、重大な基準違反 あり
効力の一部停止 サービスの一部を一定期間停止、新規利用者受入停止、加算請求停止など 特定加算の虚偽請求、不正の一部が確認された場合 あり
効力の全部停止 事業全体を一定期間停止 虐待や広範囲の不正請求、重大な運営基準違反 あり
指定取消 介護保険事業者の指定を取り消す最も重い処分。必ず聴聞手続が必要 悪質・重大な不正請求、虐待、欠格事由該当 あり

行政処分の事例

人員基準違反で改善命令を受けた事業所が従わなかった結果、効力の一部停止となり、新規利用者を受け入れられなくなりました。その後も改善が見られず、最終的に指定取消に至りました。

行政処分の具体的な事例については、命令以上の行政処分に関しては公示されるため、各自治体のホームページなどに掲載されています。気になる行政処分がないかGoogleなどで「○○加算 行政処分」などのキーワードを入れて検索すると、ヒットすると思います。

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行政処分に伴う公示

処分が下された場合、事業所名・処分内容・期間が公示されます。これにより事業所の信用は大きく損なわれ、利用者の信頼回復は困難になります。

行政処分の理由になる不正の定義(故意、過失)

故意 結果を認識しながら敢えて行為を実施した場合。
重過失 通常の注意をすれば容易に防げる違反を漫然と見過ごした場合。故意と同等に扱われる。
軽過失 一般的な不注意。

例えば、ある事業所は加算要件を満たしていないことを知りながら請求を続けていたため「故意」と認定され、指定取消となり、別の事業所では単純な事務処理ミスによる軽過失と判断され、過誤調整で済むなど、不正の程度により行政処分のレベルも変わってきます。

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行政処分の程度の考え方

処分の軽重は、違反の性質、影響範囲、再発防止策の有無などで決定されます。重過失以上であれば取消も検討され、軽過失であれば行政指導にとどまる場合もあります。

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指定取り消しなどを受けた場合の処分後の流れ

指定取消後は、利用者のサービス継続を確保するため、他事業所への移行支援が行われます。また、処分を受けた事業者や管理者は欠格事由に該当し、一定期間は再参入できません。不正請求の場合は刑事告発され、詐欺罪に問われる可能性もあります。

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介護事業者の監査と強制処分のまとめ

介護事業所に対する監査は、利用者保護と制度の公正性を守るための重要な仕組みです。運営指導と違い、監査は強制力を持ち、行政処分に直結します。監査を忌避すれば罰金や指定取消となり、廃止届による逃れも認められません。

日々の運営において法令遵守を徹底し、記録や帳簿を正確に管理することが、監査や行政処分を防ぐ最大の対策です。従業員一人ひとりがこの仕組みを理解することで、組織全体としてのリスク管理が可能になります。

 

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