介護保険のカジノ特化型デイサービスの規制、論点は保険か否か
 

カジノ型デイサービス規制について、2020年頃までに介護度の軽い利用者の生活援助等は自費、重度者対応を強化へに舵を切ってきているなか、娯楽と外出機会の境目や線引きが難しいところではあります。カジノ特化型デイサービスの論点は介護保険施設で介護と娯楽の割合はどこまでにするかという点であり、ケアマネジャーのケアマネジメントで適正な目的達成に寄与するかをよく検討すべきという印象です。

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カジノ特化型デイサービスに賛成できない理由

カジノ型デイサービスが出現する前から、私は「特化型デイサービス」という業態に歯止めをかけるべきだという意見を発信してきました。

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特化型という業態が当たり前になると、中重度の方などに入浴や食事などの身の回りの世話を原則提供することになっているデイサービスの縛りから社会的に誤解を招き、ちゃんとサービス提供を行っている施設が運営しにくくなるためです。

営業上、特化型デイサービスという形はご利用者やケアマネジメントの浅いケアマネジャーには刺さりやすく、ケアマネジャー的にも過去にパチンコや賭け事などが趣味だったというご利用者がいたらそれだけでカジノ型デイサービス紹介しようという流れができてしまいます。これはカジノ型デイサービスを運営する側だけでなく、ケアマネジャーのマネジメントにも課題があります。

 

2015年8月13日に「模擬カジノ型デイサービス規制へ、神戸市が全国初」という記事を掲載しました。この記事でも取り上げておりますが、疑似通貨を使うという発想は、作業療法士の藤原茂先生が開設した「夢のみずうみ村」が発端だと言われます。

アミューズメント型デイサービスについて夢のみずうみ村 公式見解 の抜粋

模擬カジノ型デイサービス規制のニュースは、デイサービス業界に大きなインパクトが有りました。夢のみずうみ村からも2015年10月4日に 介護保険事業のアミューズメント型デイサービス 規制に関する 夢のみずうみ村 公式見解 が発表されております。

介護保険事業のアミューズメント型デイサービス 規制に関する 夢のみずうみ村 公式見解 2015年9月20日

カジノは数あるプログラムの一部であり、参加者は一部希望者に限定されて実施しています。
施設内での一日のプログラムを、すべて、自己選択自己決定方式で、ご自分が選択されて行います。
そのプログラムの一つにカジノもあります。
(4) 具体的なプログラムボードの一部を、以下に掲載します。
「脳の活性化、手先を鍛えませんか」 「身体を鍛えませんか」「身体を癒しませんか」の 3 種類のグループがあり、カジノは「脳の活性化、 手先を鍛えませんか」のグループに含まれています
施設内通貨を導入する目的は、開設以来、以下の 6 点を、利用者さんにお話ししてきました。
*お金が必要なことに気付く (注意力 理解力)
*代金いくらを払うかわかる (理解力 数字・桁の認知力)
*財布からお金を取り出せる (つまみ・握る・お金の認知・理解力・認知力)
*払う<所定の支払い箱にお金を入れる> (場所の認知・手指、上肢の運動能力)
*手持ち金が足りるかどうか心配できる (推測力・予測力・理解力・計算能力)
*足りなければ補充しようと考える (計画性・企画力・行動力決断力)
夢のみずうみ村の取り組みによって、要介護度が改善する実績を長年重ねてきました。夢のみずうみ村の方式を学びに、多くの施設関係者、新規事業展開設希望者が、研修、見学に来られ、それぞれの現場に導入され、応用されております。 「夢のみずうみ村方式」を活用されることは、代表、藤原茂が各講演会の冒頭において「何を盗まれてもよし、パクってもいい。ただし、夢のみずうみ村から学んだ、まねたという必要は全くない」と宣告して参りました。今回指摘されておりますアミューズメントデイサービスは、介護保険 対象施設でなければ全く問題がない素敵な施設であると考えますが、通所介護施設としては、全く夢のみずうみ村とは異なるものであることを確認宣言させていただきます。
2015 年 9 月 20 日 夢みずうみ村 代表 藤原 茂

カジノ型デイサービスの規制に関しては賛否両論有るかと思いますが、筆者も夢のみずうみ村と同様に自立支援やリハビリテーションをベースとした考えのため『介護保険サービスの大半を、賭博を想起させる遊技にあてているアミューズメントデイサービスと呼ばれる施設の運営は不適切』なので規制する」動きに対し、介護健康福祉のお役立ち通信も同意見でこの記事を書きます。

介護保険事業者のお客様は1割が利用者、9割は国(自治体)、支払いはみんなの税金

カジノ型デイサービスの営業のように、介護を全面に出さず、カジノで集客してカジノのおまけに介護という形だと、介護保険適応としては問題があると思います。○○のおまけに介護という形が世間的に認められてしまうと、根拠と信念を持ってしっかりとした介護を行っている介護職員や事業者が気の毒です。
この例のように、介護でカジノというイメージが世間に浸透すると、全く関係ない事業者が「うちも介護保険適応されるようにしちゃおう」という風潮になりかねません。
介護の質、在宅における介護負担軽減を一生懸命に取り組んでいる事業者が営業で不利になり、営業上優位で分かりやすい展開をしている事業者がニッチながらも市場のシェアをつかみ始めます。
レクレーションもデイサービスのコンテンツとしては必要ですが、その選択肢は単に既存のゲームを行うのではなく、利用者の状態に合わせていろいろな機能や会話を引き出すような内容であることが望ましいのです。
実際にはカジノ型デイサービスでも最低限介護事業所として必要なことを行っていますが、営業のかけ方、コンセプトを大々的に公開してしまったのがまずかったのかと思います。

介護は自己負担が少ないのでうわべのお客様満足なら簡単に得られる、利用者および家族の日常生活を楽にするために通所介護に通っていることを理解した上で満足してもらうことが難しいところです。

デイサービスを運営する上で、お客様満足が過剰に追求されていることは問題になっています。たしかに満足をしてもらうというのは大切ですが、あくまでも介護を行っている場所です。
信頼関係のもと、介護保険事業の理念を分かってもらい、利用者および家族の日常生活を楽にするために通所介護に通っているという理解を持ってもらい、共通認識を持って介護サービスを展開することが難しいのです。
正直、満足や笑顔だけ追求するなら、高級レストラン風デイサービスでも、ゲームセンター型デイサービスでも、風俗型デイサービスでもなんでも思い浮かぶわけです。
しかし、高齢者の鼻の下を伸ばしたり、笑う姿を求めることを追求するなら、娯楽・風俗業でも営めばよいかと思います。

介護業界ではイベントや行事などいろいろな取り組みがありますが、アミューズメントより介護という部分にフォーカスしていましたし、アミューズメントなどの方を全面に出して介護保険施設として営業や集客することはタブーだと信じてきました。変な話、業界で働いていればこのようなことをすれば利用者が集まるということは想像できますが、これをしたら業界の革命がおきるというよりはやったらおかしな方向に行くという気持ちがごく普通にストッパーになっていたと感じます。

介護保険適応外でも高齢者向けカジノを展開するだけの価値はあるか

カジノ型デイサービスのフランチャイズ展開が進んでいますが、心からカジノが高齢者のためになると考えている人間はどのくらいいるでしょうか?
介護事業のジャンルでなく、娯楽のジャンルで会員制ゲームセンターとして運営したとしたら、おそらく月額2万円程度が相場でしょう。
果たしてカジノ遊戯が認知症予防や機能訓練に効果があると言われますが、デイサービスに通う目的にはなりますが、介護保険上のニーズとのつながりを考えていかなければなりません。

機能訓練などをして稼いだ疑似通貨でカジノができるという形でも、

「娯楽中心の介護施設」でなく、「介護サービスで多種多様な趣味活動支援」なら高評価されるべきサービス!

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介護事業者は、介護事業をストック型ビジネスとして捉えています。これは経営上仕方のないことですし、介護報酬の設計がそのような形になっています。
ストック型ビジネスは、電気料金、携帯電話、フィットネスクラブなど、仕組みを作って契約者を増やしていけばいくほどお金が入ってくる形のビジネスです。
介護保険の料金形態はストック型ビジネスのスキームと近いです。
しかし、従来の介護業界で提供するサービス内容は「介護サービスが主」が常識であり、『付加価値の部分を特化させて大々的に宣伝すること』はNGだという自覚と、介護に対する誇りがありました。
カジノ型デイサービスなどのアミューズメントを売りにして差別化すれば、一時的には市場から注目されるということを多くの介護業界の人間は分かっています。
しかし、それを大々的にセールスポイントとして「宣伝」しないのは、介護業界にも介護の専門家だというプライドがあるからです。

行き過ぎた特化型デイサービスの宣伝は、介護保険事業業界の品位を下げる被害を生む

お年寄りが楽しんでもらえる、勝負することで脳や感情が活性化されるなどという根拠のない宣伝をしています。
日本エルダリーケアサービスが運営する「ラスベガス」を特集した動画がYoutubeに公開されておりました。

【足立区】認知症予防にも効果的!?カジノができるデイサービス!

上記の動画など、カジノ型デイサービスのPRは盛んに行われています。
上記の動画では、ナレーションで「機能訓練をしに来ていると思っている利用者は一人もいません」と言ってしまっていますが、介護保険事業者としてはその解説をされるとアウトですね(笑)
全自動マージャン卓を使っていたら、ほとんど手なんて動かしませんしね…。元気な人に、しかもほとんどの人が週1回利用なら尚更税金を使って通ってもらう必要あるのでしょうか。
介護保険事業者は、どのように介護負担を減らせるか、自立支援とはどのようなものなのかを知ってもらえるように取り組むことが社会的責務として根底にあると考えられています。
介護および自立支援は、住み慣れた地域で、その人らしい生活を続けていけるようにという信念のもとで工夫を凝らしています。
確かに麻雀を趣味にしていた人もいますし、カジノやパチンコによく行っていた人も多くいるかと思います。それらを行い元気がでることは確かです。
ただ、こんな施設がフランチャイズで多店舗展開されて、それに介護保険(税金)がわんさか割かれてしまったらバカらしくてやってられないというのが本音です。
雀荘、パチンコ屋、ゲームセンター、フィットネスクラブが送迎して、食事も提供して、介助もサービスしているということなら、その企業努力は評価されると思います。

従来の介護施設にもパチンコ台やマージャンはあるがが、それに特化はNGだと考えて大々的には言いませんでした

実際、送迎・食事・排泄などの介助、おまけに入浴をしてくれれば最近増えている特化型デイサービスとほとんど変わりません。
それなのに「要介護」という認定が付き、ちょっと職員を整備するだけで、1日1万円単価のお客様に変わると考えるとちょっと驚きですよね。
この料金の8~9割は税金です。
高齢者になってもカジノしたいですよね、パチンコしたいですよね、自費なら何も言われません。
よろよろ歩いているお年を召した方が喫茶店などに毎日来店して、店員が声をかけたり、ちょっとしたお手伝いをしたりしている様子は見られるようになってきました。
私たちの日給が1万円くらいの現代に、お年寄りがカジノ中心に1日過ごすことに1万円税金が使われるなんて恐ろしい状態です。
高齢者はカジノをするなという話でなく、介護されにきていて、その中のコンテンツのひとつにカジノがあってもいいと思うのです。
ただ、「カジノしに来ている」「暇つぶしにきている」という認識を事業者も利用者も持っているなら、介護保険で賄う必要は全くないでしょうという意味で反対派は訴えています。
このような状態は事業者としては美味しくてたまりません。

カジノ型をはじめとする特化型デイサービスでなく、地域の介護の受け皿となる幅の広いサービスを

カジノ型デイサービスを運営する会社も最近は多少自粛して「介護の選択肢の一つにカジノ」という言い方に留め始めましたが、介護保険でカジノを中心にした施設があたかも介護のスタンダードなのだという方向で広められては困ります。
私も同業ですので、他事業者のパンフレットを目にしたり、当該事業所の職員とセッションすることもあります。
カジノ型デイサービスの利用者的には、やはりカジノができる程度のレベルの方が中心です。
上記の動画でもそうですが、ルールを理解できるくらいの認知機能なのですから、介護的には大した手のかからない方を中心に集まってしまいます。
カジノの道具を動かせる、体操ができる、手順や社交性が最低限保たれているという方を笑顔にするために保険支給が適応になるという構図は矛盾しているのです。
現在の介護保険の理念および機能訓練という言葉を使う上では、生活機能(生活行為力)全体に着目した支援が強調されています。
生活機能(生活行為)というのは、食事・排泄・入浴・更衣・家事・外出・買い物・コミュニケーションなどの日常の生活で必ず行われる行為です。
これらの全体に着目して、生活機能の向上という観点から数ある選択肢の中から提供内容を考えていくものです。

介護保険事業から、産業としての高齢者対応サービスに

保険支給なしで、自費によるサービスならば、各契約のものどんなサービスを提供しても文句は言われません。
今後は自費産業も必然的に伸びていく産業です。

2020年までに軽度者(要支援、要介護1・2)生活援助などの介護保険対象外方針に。

財務省の「財政制度分科会」などでも、要支援・要介護1・2に対するサービスについて地域支援事業への移行案を示し、通所介護、訪問介護の生活援助や福祉用具貸与・住宅改修については原則自己負担(一部補助)とすべきと提言が出てきています。
このころまでに、配食サービス、お掃除サービス、家事代行サービス、介護付き娯楽サービス、外出付き添いサービスなどが、産業として発展していくよう国としても舵を切っていくことと予測されます。

無形のサービスを提供する介護、職員の待遇・質の悪化を防ぐために今できること

「介護」は非常に奥が深く、難しい問題です。国家的ニーズでありながら、その運用は各自治体と各事業所に委ねられています。
事業としては公共事業のようなものですが、無形のサービスを提供する介護の質や内容の管理は自治体、ケアマネジャー、ワーカーという階層で成り立っています。
この記事で再三出現している「笑顔」というものですが、これは介護に限らずすべての産業で共通しています。
私たち介護業界は、加齢により身体的に下り坂になっている高齢者を、笑顔+生活の質向上で個別性を持って関わっていかなければなりません。

他の業界ではまねができない、高齢者を総合的にアセスメントして支援する能力を

現在介護業界でも「介護過程」という内容を大変重要視しています。
介護過程とは、介護におけるPDCAサイクルのことです。この能力はたくさんの高齢者と接する介護職員の専門性です。
他業種では、高齢者一人一人に合わせたサービスはできません。できたとしても、生活全体から高齢者の部分を見るという概念は持ち合わせていません。
これは本当に介護の長所なのです。喜んでもらう手段、介護を楽にする手段は、ネットで検索すればたくさんあります。

介護の研修は、「介護方法」よりも『介護アセスメント』と『介護過程』を重視した方がよい

介護の手段はたくさんありますが、それらをどう適応させるとよいかという観察とアセスメントは介護のプロにしか出来ません。
介護の研修などで、いきなり介護方法に入るような研修は実際には即戦力にはなりません。
根拠なしで仕事するというのは、辛いものです。根拠や目標を自分で見つけるからこそ、その仕事に自身やこだわりが持てるのです。
「これからは高齢者自身がサービスを選ぶ時代」と語る事業者は「個別性のある介護」でなく、「これでどうだ」と製品化したサービスを提供する事業者です。
ケアマネジャーは、利用者が選んだことだけをうのみにしてはいけません。ケアマネジャーもプロです。限度額が余っているからカジノでも行けば?などでは安易すぎます。
どうかこれから先、一生懸命に誇りを持って介護している介護職がしっかりと守られて評価されていくよう、介護健康福祉のお役立ち通信も啓発や広報をしていけたらと思います。
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また、このサイトをご覧いただいている方、事業者様で是非広めたい介護の取り組みなどがございましたらご連絡いただけますと幸いです。
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長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

藤原茂先生の著書 強くなくていい「弱くない生き方」をすればいい/藤原 茂

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