国勢調査とは?目的や歴史、大変そうな国勢調査員の仕事と報酬
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国勢調査は、日本に住むすべての人と世帯(外国籍を含みます)を対象に、5年ごとに実施される我が国最大の統計調査です。人口・世帯の実態を把握し、福祉・介護だけでなく、医療、教育、雇用、産業、住まい、交通、防災、都市計画、政治の区割りや財政配分に至るまで、あらゆる分野の基礎資料として使われます。

この記事では目的や歴史、調査の仕組みを概説したうえで、国勢調査員という仕事の実際と報酬、そして「対面配布」中心の運用が現代に合っているのかという論点まで、少し辛口の視点も交えて整理します。

国勢調査とは?

国勢調査は、日本に住むすべての人と世帯(外国籍を含みます)を対象に、5年ごとに国が実施する最重要の統計調査です。人口や世帯構成、就業・居住の実態を把握し、社会保障や介護・福祉、防災、都市計画など幅広い施策の基礎資料として活用されます。

2025年(令和7年)の次回調査は第22回に当たり、10月1日現在で実施されます。

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国勢調査の目的

国勢調査の第一の目的は、人口と世帯の正確な把握です。国の基幹統計として、他の多くの統計や政策の「母集団」を規定し、推計やサンプリングの土台になります。回答は原則義務で、守秘義務により個人情報は厳格に保護されます。

主な利用例(分野別)

分野 代表的な活用 施策・制度の具体例
福祉・介護 高齢者人口、単身・高齢者のみ世帯、要支援層の地域分布 介護保険事業計画、地域包括ケア設計
医療・公衆衛生 年齢構成・外国籍住民の分布、人口密度 二次医療圏の病床配置、感染症対策
教育 就学年齢人口、共働き・世帯構造 学校の統廃合・学区再編、学童保育
労働・産業 就業状態、通勤地・通勤手段 産業集積・雇用対策、テレワーク政策
住宅・都市計画 住宅の種類・建て方、世帯規模 都市インフラ整備、空き家対策
交通・環境 通勤時間・手段の実態 交通計画、カーボンニュートラル移行
防災・減災 地区別人口・世帯構造 ハザード別避難計画、要配慮者支援
経済・財政 人口規模・構成の変化 地方交付税・補助金配分、需要予測
政治・選挙 人口を基にした区割り 衆院小選挙区の区割り基礎
学術・民間 社会科学研究、商圏分析 大学研究・企業の立地や店舗戦略

非回答だった数は公表されていない

国勢調査は回収期間中の回答状況(オンライン・郵送・調査員提出の回収率)は示されますが、未提出世帯や欠測項目については、近隣確認・行政記録の活用・統計的補完(不詳補完)などで整備し、最終公表表では「未回答者◯人」といった人数を掲げない運用です。国勢調査は最終結果で母集団推計の完全性を確保する設計になっており、収集段階の回収率資料や、欠測処理(不詳補完)に関する公開資料はありますが、そこから人ベースの未回答者数を特定することはできません。

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国勢調査の歴史とサイクル

日本の国勢調査は1920年に第1回が実施され、その後もおおむね5年ごとに継続してきました。西暦の末尾が0の年には調査項目数が多い大規模調査が、5の年には比較的簡素化された調査が行われるというサイクルが基本です。戦災や災害の影響を受けた時期もありましたが、国として人口・世帯の時系列を切れ目なく把握する努力が貫かれ、長期的なトレンド分析が可能な貴重な統計系列が維持されてきました。この長い連続性が、国や自治体の政策評価や将来推計の信頼性を支えています。

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国勢調査の調査項目とデータ活用

国勢調査で尋ねられる内容は、大きく個人に関する事項と世帯に関する事項に分かれます。個人については性別や年齢、配偶関係、就業の有無や職業、通勤地や通学状況、国籍など、社会構造の輪郭を描くための最小限かつ重要な属性が収集されます。

世帯については世帯員の続柄や世帯規模、住宅の建て方や居住関係などが把握され、地域の生活条件や住宅需要の見通しを立てる上での基礎になります。これらは単独で完結するのではなく、将来人口推計や労働力調査、家計調査、住宅・土地関連統計、産業連関表、社会保障・税の統計などと相互に参照され、国や自治体の事業計画から企業の立地判断、学術研究に至るまで、分析の前提として活用されます。福祉領域では、単身高齢者の地域分布に基づく見守り体制の設計や、要介護認定率の地域差分析の前提データとして、国勢調査がしばしば初期入力として用いられます。

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国勢調査の回答率

2020年(令和2年)の国勢調査では、調査期間終了時点までにオンライン回答が約37.9%、郵送回答が約42.3%で、両者を合わせると約80.2%の世帯が非対面方式で回答しています。

令和2年国勢調査
人口等基本集計
世帯数
インターネット回答 郵送で回答
55,830,154 21,157,565 23,389,478
37.9% 41.9%
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調査方法の変遷とデジタル化

方法面では、調査員による配布・回収を基本としながらも、時代の要請に応じて郵送提出やオンライン回答が整備されてきました。オンライン回答の普及によって、日中不在の世帯や在宅を望まない世帯でも、個人情報への配慮を高めつつ、回答負担を軽減できるようになりました。

感染症流行期には非接触の配布・回収方法が積極的に導入され、調査品質と安全性の両立に関する知見が蓄積されています。集計は段階的に公表され、速報段階で人口規模や大枠の動向が示されたのち、基本集計や詳細集計で年齢構造、就業状態、世帯形態、通勤・通学、住宅の状況などが順次明らかになります。

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国勢調査員とは何者か、身分・業務・守秘義務

国勢調査員は、市区町村の推薦を経て任命される非常勤の国家公務員です。

国勢調査員の仕事内容

応募資格
以下の全てに当てはまるかた

20歳以上
税務・警察・選挙に直接関係がないこと
暴力団員その他の反社会的勢力に該当しないこと
責任を持って調査事務を遂行できること
秘密を保持できること

引用:令和7年国勢調査 調査員の募集について、守谷市

任命期間中は公務災害補償の対象となり、厳格な守秘義務を負います。業務は研修への参加、担当地域の把握、調査書類やオンライン回答IDの配布、回答の督励、回収分の点検・提出といった一連の流れで構成されます。

居住者の行動様式や建物の出入り構造を踏まえた訪問計画、管理人や自治会との連携、外国籍住民や高齢者への丁寧な案内など、地域の実情に応じたきめ細かな対応が求められます。

国勢調査員の報酬

報酬は担当世帯数や事務作業量に応じて支払われる出来高的な体系が一般的で、複数の調査区を担当すれば合計額が増える仕組みです。報酬額は担当する調査区数などにより異なりますが、多くの自治体で1調査区(約50~70世帯)で4万円~5万円程度で設定されています。

ただし、金額や内訳は自治体と年度によって差があり、単純比較はできません。実働は調査票の配布期と回収・点検期に負荷が集中するため、短期間で集中的に動けるかどうかが体力面・精神面の鍵になります。

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対面配布の負担と社会的誤解

調査員の仕事は社会的意義が非常に大きい一方で、現場では対面配布のハードルの高さがしばしば壁になります。共働きや単身世帯の増加により在宅時間が限られ、日中の訪問で応答が得られないことが珍しくありません。

訪問による詐欺や、変質者などによる犯罪や迷惑行為も多い中、見ず知らずの人が封筒や書類などを持って「国勢調査員です」と尋ねてきても、それを信用して受け入れる人ばかりではありませんよね。

都市部ではオートロックやセキュリティ体制が進み、管理人経由の連絡や事前調整が必要になる場面も増えています。身分証や腕章を提示しても、ときに不審者扱いを受ける心理的負担は軽視できず、再訪や説明に要する時間が報酬感覚と合致しないという感想も耳にします。さらに、回収後の票点検は細密な作業であり、記入漏れや整合性の確認に神経を使います。こうした積み重ねが、調査員の確保難や離職意向につながることが懸念されます。

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対面前提は時代に合うのか

国勢調査という仕組みそのものは、社会の羅針盤として絶対的に必要です。しかし、全戸への対面配布を当然視する運用は、費用対効果や安全性、人材確保の観点から再検討の余地が大きいと感じます。デジタル本人確認の普及、公的個人認証の利活用、オンライン回答の標準化が進めば、紙の配布を前提としない非接触中心の設計に移行できます。行政記録との制度的な連結をさらに洗練させれば、重複する届出や調査を減らし、住民と公務の双方の負担を軽くできます。

調査員は困難世帯や情報弱者、外国語対応など、人的支援が不可欠な領域にだけ対応するのが合目的でしょう。率直に言えば、非効率が次の予算確保や既存慣行の維持に結びつく構造がある限り、改革は鈍化しがちです。だからこそ、費用と効果の見える化、工程の標準化、データ連結を前提にした業務再設計を、制度として当たり前にしていく必要があります。

個人情報と近隣への聞き取りとか良いの…?法的根拠・許容範囲・実務上の配慮

国勢調査では、調査員が各戸に調査書類を配布し、居住の実態を確認したうえで回答を依頼します。長時間の不在や転居で世帯と接触できない場合には、調査の正確性を確保するため、限定的な事項に限って近隣の方や管理人等に状況を確認する運用が位置づけられています。

総務省の説明資料や有識者会議の配布資料では、近隣からの聞き取りは「氏名」「男女の別」「世帯員数」という最小限の3項目に限定して実施できるとされており、これをもとに不在世帯の調査票を作成する手順が示されています。これは国勢調査令に基づく調査員の職務の一部として整理されているもので、むやみに詳細な個人情報を収集する趣旨ではありません。

もっとも、近隣の方への聞き取りは、プライバシー感覚に照らして心理的な抵抗感を招きがちです。そのため、実務ではまず世帯への直接配布やインターホン越しの確認、ポスト投函・オンライン回答の促進といった非接触・簡素な確認手段が優先されます。自治体のQ&Aでも、インターホンで居住実態を確認のうえ投函する方法を認めるなど、接触機会や周辺への照会を最小化する運用が整理されています。

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よくある疑問Q&A

回答は本当に義務ですか?

国勢調査は基幹統計に位置づけられ、正確な統計作成のために回答義務があります。個票は厳重に保護され、統計以外の目的で用いられることはありません。

オンラインが苦手な世帯は?

紙での回答や郵送提出が可能です。調査員は必要に応じて記入方法の案内や多言語支援も行います。

調査員になりたい場合は?

居住地の市区町村が募集・推薦し、任命期間中は非常勤の国家公務員の身分となります。守秘義務や研修の受講が必須です。

国勢調査の協力をしないと罰金はありますか?

はい、あります。国勢調査は統計法に基づく「基幹統計調査」なので回答義務があり、正当な理由なく報告を拒否したり虚偽の報告をした場合は、統計法第61条により「50万円以下の罰金」が科され得ます。
実務上は、すぐに罰金というより、まず督促や説明が優先されますが、最終的に法令上の罰則の対象になり得ることは総務省統計局の案内や法令からも確認できます。なお、調査に従事する者が守秘義務に違反した場合にも別途、懲役または罰金の罰則が定められています。

まとめ

国勢調査は、福祉を含む社会の全領域に共通する原点データを提供する国家的事業です。長期にわたり蓄積された連続データは政策評価と将来推計の信頼性を支え、地域ごとの実情を可視化します。調査員の仕事は社会的意義が極めて大きい反面、対面配布中心の運用は現代のライフスタイルやセキュリティ環境にそぐわない負担を生みがちです。デジタル化と行政記録の連結を軸に、非接触・重点支援型への移行を進めることが、品質と効率の両立につながります。非効率の温存に流されず、費用対効果の評価とプロセスの透明化を前提に、より賢い国勢調査の姿を社会全体で模索していくべきだと考えます。

 

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